やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
noside
喫茶アストレイの店内で始まったクリスマス会は、身内のみで行われると言う慎ましいモノだったが、集った者達の表情は等しく笑顔に満ちていた。
気心知れた間柄だからこそ、心を許せる相手同士だからこそ出来る雰囲気に、彼等の心が癒されている瞬間でもあるのだろう。
「美味い・・・、流石沙希の作ったケーキだ。」
そんな中、コートニーや宗吾と談笑しながらも斬り分けられたケーキを食していた八幡が、感嘆の呟きを漏らしていた。
スポンジに塗ったクリームの感じと言い、盛り付けや味付けに至るまで、どれも八幡の胃袋を掴んで離さない物だった。
八幡とて、それなりには調理は出来るし、軽く甘味を作った事があり、ケーキ作りにしても楽な物ではないかと高をくくっていた事もあった。
だが、そんな傲慢は、沙希が八幡の為に作ってくれた数々の手料理や、このケーキの出来栄えの前では霞んで消えていった。
「流石は沙希ちゃんだ、下手したら玲奈を超えてるぜこれ。」
「玲奈は昔からこういうの苦手だったな。」
同じくケーキを食していた宗吾とコートニーは、菓子作りがあまり得意では無い玲奈を引合いにだしつつも舌鼓を打っていた。
そこには身内弄りと言う、ある意味で気心知れた間柄だからこそできる、ある意味での無遠慮が有った。
「はいはい、どーせアタシはつまみしか作れませんよーだ。」
「そんなにむくれないでよ。」
少し拗ねた玲奈に、リーカが苦笑しながらも宥めに入っていた。
その様子は、拗ねた妹を慰める姉のようにも見えたが、それは誰にも突っ込めない事だったに違いない。
「あそこのコンビは何時まで経っても変わらないね。」
「ですわね。」
そんな様子を見ながらも、シャルロットとセシリアは紅茶を啜っていた。
我関せずとまでは言わないが、はいはいと言わんばかりにドライな部分も見せていた。
まぁ、相変わらずだなと呆れている部分も多々あるのだろう事は窺い知れたが・・・。
「これおいしい!」
そんな大人たちの雰囲気などどこ吹く風か、京華はハネジローと共に並べられた料理から幾つか取って貰った料理を頬張り、満面の笑みを浮かべていた。
子供が好むフライドポテトやから揚げなどが用意されていたのが功を奏したのか、京華の表情はただただ嬉しそうだった。
「京華ちゃん、オレンジジュースあるよ?」
「あんまり急いで食べたら咽詰めるから気を付けてね。」
そんな京華の傍では、大和と南がニコニコと微笑みながらも立っており、京華の様子を微笑ましく眺めていた。
この二人、兄弟姉妹がいない分、沙希の妹である京華を気に入り、何かと世話を焼いている様だった。
「アンタら、京華にちょっかい出すんじゃないよ?」
自分の可愛い妹が自分以上に懐いている事に少々複雑な想いを抱いた沙希が、ちょっと釘を刺すがそれも暖簾に腕押しだった。
だが、それでもいいかとある意味納得したのだろう、自分は八幡の傍にそっと寄って行っていた。
「八幡、美味しい?」
「んぉっ、あぁ、最高だよ。」
自分が作ったケーキの味を尋ねると、八幡は満面の笑みを浮かべながら美味いと即答する。
そこにあるのは、ただ純粋な想いのみ。
「よかった、口にあったみたいで。」
「沙希の作るモンは俺好みの味付けだからな、心配なんてして無かったよ。」
微笑む沙希に、八幡は満面の笑みを浮かべて親指を立てる。
自分好みの味付けで料理を作ってくれる沙希に感謝していると同時に、そんな彼女と相思相愛な事が嬉しいと言わんばかりの様子だった。
「もう・・・、あ、クリームついてるよ。」
それに照れていた沙希だったが、八幡の口元にクリームがついている事に気付き、それを取ろうと彼に身体を寄せた。
「んぉっ・・・!?」
その行動に一番驚いたのは、当の八幡本人だった。
いきなり沙希が身体を寄せてきた事もそうだが、何よりも彼女の豊かな胸が押し付けられる格好になった事だった。
「ん、取れたよ。」
そんな彼を尻目に、沙希は指でついていたクリームを拭い、まるで見せ付ける様に舐めとった。
「っ・・・!あ、ありがと・・・。」
先程の胸の感触と、その一連の行動の艶かしさを直視できなかった八幡は、顔を朱色に染めて逸らしていた。
それを見ていた一夏は、慣れっこだろその程度と言いたげな表情をしていたが、当の八幡本人には些か刺激的すぎたのだろう。
まぁ、常日頃から八幡と沙希の関係見ている大和や南に謂わせてみれば、それ以上のイチャ甘な様子を見せ付けてるくせにと言いたくなるモノだったが・・・。
それはさて置き・・・。
「さぁて、それではそろそろメインのイベントに参ると致しましょうか。」
そんな空気を察したか、セシリアが注目を集める為に手を叩いて声をあげる。
どうやら、このクリスマス会最大のイベントを執り行うつもりなのだろう。
「皆様には、それぞれ思い思いのプレゼントを持ち寄っていただきました、それを、この場で交換いたしましょう。」
このクリスマス会を行うにあたり、参加する者は皆、プレゼントとなるモノを持ち寄っていた。
中身は、その当人たちの考えた者であり、家族である比企谷兄妹、川崎姉弟間という間柄でも無い限り誰も知らないと言う徹底ぶりであり、如何にも祭り好きなアストレイメンバーの性格を表していた。
「プレゼント!?ほしい!」
プレゼントと言う単語に反応した京華は、その純粋な瞳をキラキラと輝かせていた。
この年頃の子供にとっては、クリスマスプレゼントとは特別な意味を持っているに違いない。
「京華ちゃん、ちょっと待ってよーね、きっと良いプレゼントがもらえるから。」
「はーい!」
そんな京華を、南は慈愛の笑みを浮かべながらも宥めていた。
姉の友人である南のいう事を素直に聞いている辺り、姉がもう一人増えたという感覚なのだろうか。
「それでは、皆様、この箱の中に入っている紙に書かれた番号の箱を取って下さいね。」
そんなやり取りを微笑ましく見ながらも、セシリアは何時の間にか用意していたブラックボックスを取り出し、参加者が持ち寄ったプレゼントの包みを指しながらも宣った。
プレゼントにはそれぞれ番号が振られており、誰がどの番号のプレゼントを受け取るのかは分からない様になっていた。
「それじゃあ、まずは、京華さん、この箱に手を入れて引いてくださいね。」
「はーい!」
セシリアに呼ばれた京華はハネジローと共にとてとてと駆け寄り、勢いよく箱に手を突っ込む。
「ど~れ~にしようかな~?」
『パム~?』
京華の声に合わせて、ハネジローも可愛らしく首を傾げる動作を見せていた。
その様子に、アストレイの面々は癒されたような表情を浮かべており、何処か孫娘を見る祖父母の様でもあった。
「これにするーっ!」
勢いよく掴んだ紙を引っ張り出し、京華はセシリアに読んでもらおうと手渡そうとしていた。
「はい、京華さんが引いたのは・・・、こちらですね。」
京華が引いた番号が割り振られたプレゼント取り出し、中身を見てみろと言わんばかりに手渡した。
「んーと、あーっ!可愛いぬいぐるみーっ!」
京華が取り出したプレゼントは、大きな熊のぬいぐるみだった。
特に何の変哲もないが、それが逆に良かったのだろう、彼女は手放しで喜んでいた。
「喜んでもらえて良かったよ、僕が選んだんだ。」
それを見て、シャルロットは満足げに頷いていた。
どうやら、彼女が望んだ相手に渡った事に安堵しているのだろう。
「お姉ちゃんありがとー!」
「どういたしまして♪」
姉扱いに満足しつつ、シャルロットは京華の頭を撫でていた。
「じゃあ次は僕が引きます。」
そんな空気を尻目に、立候補した彩加が箱に手を突っ込んだ。
暫く箱の中を漁りつつ、彩加もまた同じように紙を引いて、それをセシリアに手渡していた。
「彩加さんは・・・、これですわね。」
彩加が引いた番号に割り振られたプレゼントは、そこまで大きくは無いが、花柄の可愛らしい包みだった。
それを受け取った彩加が包みを開けると、そこには手編みと思しきマフラーと手袋が入っていた。
「わっ!凄く暖かそう!」
「あ、それアタシが編んだやつね、大事にしてよ~?」
「はいっ!」
玲奈が編んだ物だと分かると、彩加は驚いた様な表情になるも、それでも師からの贈り物となると嬉しさも一入だった。
その表情には笑みが咲いていた。
「んじゃ、次は俺が引いても良いですか?」
自分も何が来るか気になったのだろう、八幡も手を挙げ、箱に入っている紙を引くべく漁り始めた。
前の二人とは異なり、悩む事無く一番最初に手が触れた紙を掴み、それをセシリアに手渡した。
「八幡さんの引いたのは・・・、あら、これですわね♪」
セシリアが意味深な笑みを浮かべ、彼に宛がわれた番号のプレゼントを手渡した。
「中身は・・・、えっ・・・?」
包みを開けた八幡は、驚いた様に声をあげた。
そこに入っていたのは、ネックレスの様なものだった。
エメラルドの様に淡いグリーンに輝く鉱石がはめ込まれているそれは、どちらかと言えば男物のデザインがしていた。
「おや、八幡君に渡るとはね。」
「これ、先生のなんですか?」
一夏からのプレゼントだった事にも驚いたが、それ以上に驚いたのが、一夏がこういった飾り気を出しているとは思えなかったのだ。
「古い知り合いに貰ったモノだ、俺は使わないから、八幡君が使ってくれたまえ。」
自分なんかが貰って良いモノかと困惑する八幡を尻目に、一夏は笑みを浮かべながらも彼に近付き、ネックレスを受け取った。
「君になら似合うと信じている、俺が保証してやるよ。」
彼の首にそれを着けつつ、一夏は微笑んだ。
お前ならきっと大丈夫。
それは、一夏の心からの言葉だったに違いない。
「ありがとうございます、俺、似合うような男になります。」
「期待しているよ。」
彼に振り向きつつ、八幡は強く頷いた。
その信に応えると。
何時か、一夏を超えてみせると。
それが、彼等の間にある信頼の一つだった。
その雰囲気を見て、周囲もまたプレゼント配りに戻って行く。
そこに燈った灯りを慈しむ様に。
それを妬む様に見詰める、瞳の存在に気付かずに・・・。
sideout
noside
そこは、無の闇が支配する空間だった。
上も無ければ下も無い、左右の感覚さえ曖昧な空間だった。
その闇の中で、その邪悪は蠢いていた。
『フハッハッハッハ!!十分なデータは揃った!いよいよこの世界を支配する時が来たのだ!』
その邪悪、ヤプールは哄笑をあげ、まるで勝ち誇る様に宣言していた。
この世界を支配出来る時が来た。
天敵であるウルトラマンが何人もいるにも関わらず、それが出来ると確信しているのだ。
『行くぞ、我が最終兵器よ!その力で、ウルトラマン共を血祭りに上げるのだ!!』
命ずるヤプール背後で、鋼鉄の機兵は唸りをあげて動き始める。
全てのウルトラマンを滅ぼし、この世にヤプールを君臨させるために。
その使命を全うせんがために・・・。
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次回予告
世界の終りが始まる日、それは今、まさにこの瞬間から始まってしまうのだろうか。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
戸塚彩加は目撃する
お楽しみに