やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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戸塚彩加は目撃する

noside

 

歳の瀬が迫るある日の事だった。

 

何時ものように、八幡達は人目に付かない河川敷上流でトレーニングに励んでいた。

 

だが、何時もと同じメンバーという訳では無く、そこには新たな顔ぶれが有った。

 

「うぉぉぉ!!」

 

新たに加わった顔、ウルトラマンゼノンに選ばれた少年、戸部翔は拳を振り上げながらも目の前の少年に向かって行く。

 

「振りが大きい!もっと肩の力を抜け!」

 

それを受け止めつつ、八幡は翔の脚を払って地に倒す。

そこに一切の澱みは見られず、鍛え抜かれた技が光っていた。

 

「うぉっ!?いってぇっ・・・!?」

 

「立てよ、お前から頼んできた事だろうが!」

 

背中から倒れ込み、呻く翔を叱咤激励しつつ、八幡は追撃の手を緩める事は無かった。

 

立ち上がらせ、容赦のないストレートパンチを喰らわせた。

 

その重い一撃は衝撃となって翔の身体を突き抜け、その身体を大きく吹き飛ばした。

 

「がはっ・・・!て、手加減なしかよぉぉ!」

 

「相変わらず先生譲りなトコ有るよね、八幡のやり方。」

 

勘弁してくれと言わんばかりに呻く翔を哀れに思いつつ、沙希はそれを見つつ小町と模造刀を用いたスパーリングを続けていた。

 

まぁ、彼女のやり方も大概スパルタな所はあるが、それでも一夏の要素を強く受け継いでいる八幡程ではないと考えている所ではある。

 

「沙希さんも手加減してくださいよぉ・・・、小町、まだまだ勝てません~!」

 

「なら、勝てるように頑張りな!」

 

借りて来た模造刀を器用に捌きつつ、衝撃を逃がしにくい手元を狙って刀を振るう。

 

それは小町の手に握られていた刀を大きく弾き飛ばし、その胴をがら空きにした。

 

「そらっ!」

 

「きゃぁっ!?」

 

返す一閃で振り抜かれた刃はがら空きになった胴を薙ぎ、小町の身体を大きく吹っ飛ばした。

 

「うへぇ・・・、姉ちゃんも容赦ねぇ・・・。」

 

「ホント、似た者同士だねぇ。」

 

それを違う場所で見ていた大志と彩加は、沙希の攻撃の苛烈さに苦笑しながらも、お互いの攻撃を避けつつ反撃に転じようとし合っていた。

 

今の二人からは、目の前の相手から意識を逸らす事無く、周囲の気配を探れる程には己を鍛えられている事が窺えた。

 

彩加の手刀を受けつつ、大志は身体を捻って彩加の身体を投げようとするが、やられてたまるかと腕を払う。

 

その攻防は一瞬であり、それだけ瞬時の判断を要するものだった。

 

「流石彩加さん、一筋縄じゃいかないっすね。」

 

「大志君こそ、また腕を上げたね。」

 

バディを組む事が多い彩加と大志は、お互いの技に感心しながらも、再びスパーリングを始めた。

 

互いの拳をぶつけ合い、目にもとまらぬ速さで蹴りを叩き込む。

しかし、肉弾戦での実力が拮抗しているからか、中々クリーンヒットとなる攻撃は出なかった。

 

「おう、そこら辺でいったん休憩しろ、根を詰め過ぎては身体に障る。」

 

果てしなく続くと思われた打ち合いを終わらせたのは、今回の監督として帯同していた一夏だった。

 

何時の間にか現れた彼は、彩加の拳を右手で、大志のケリを左手で易々と受け止めて、それ以上進まない様にしていた。

 

「身体鍛えるための訓練で身体壊しちゃ世話ねぇからな、ほどほどにしておいた方が良い。」

 

「「わ、分かりました・・・!」」

 

これ以上進める様なら俺が相手をしてやると言わんばかりの雰囲気に、二人とも拳と蹴りを収める以外なかった。

 

「君達も終わりにしろ、小町君は少しアイシングを、嫁入り前の娘が生傷を晒すな。」

 

「は、はい!!」

 

彩加と大志から手を離し、小町に持って来ていたアイシング器具を投げ渡しつつ、彼は自分の身体の調子を確かめるように腕を回していた。

 

ここの所、自分が出張る必要が出てきている為、何時でも動けるようになっておきたいのだろう。

 

「八幡、君の腕の振りも僅かに大振りだ、後輩の指導に熱心になるのも良いが、自分の振りも見直せ。」

 

「はいっ!」

 

何やら拳法の様な構えと肩の動きをしながらも、八幡への指導も怠らなかった。

 

その言葉に、八幡もまた応じ、翔を起こして休憩に入った。

 

「いってぇ~!比企谷君容赦なさすぎだべ・・・。」

 

「先生程じゃない、ってか、感じは掴めたか?」

 

渡されたドリンクに口を付けながらも、翔は全身をさすりながら呻いた。

どうやら相当手酷くやられたのだろう、息も荒かった。

 

だが、八幡はその程度の事ならば数か月も前に経験済みであり、どうという事では無かった。

 

しかし、今肝心なのはそれでは無い。

翔には、ある目的が有ったのだ。

 

「あぁ、大体は掴めたよ、ゼノンは格闘戦しかないみたいだし?」

 

翔の今回の目的は、ゼノンに変身した状態でも通用する体術を身に着ける事だった。

 

ゼノンは武器を持たないウルトラマンであり、己の体術がモノを言う事となる。

故に、彼は戦い方のイロハを学ぶ事を目的とし、八幡に相手をしてもらったという訳なのだ。

 

「ま、武器は追々教えて貰えよ、じゃ、俺は・・・。」

 

だが、八幡はそれすら前座に過ぎないと言わんばかりに立ち上がり、自身の師である一夏に向けて構えを取る。

 

改めて、稽古を着けて貰う心積もりなのだろう。

 

「稽古、着けて下さい。」

 

「休めと言ったがな、まぁ良い、リハビリに付き合ってもらうには丁度良い。」

 

八幡の真剣そのものな瞳に感化されたか、一夏は苦笑しつつも構えを取る。

 

自身が鍛えた弟子が、今の自分のリハビリ相手には丁度良い、そう判断し、一夏は力を漲らせた。

 

「行きます!!」

 

先程までの、翔と手合せしていた時とは次元の違う速さと共に駆けだし、力の乗った正拳突きを、一夏の端整な顔目掛けて繰り出す。

 

だが、一夏は涼しい顔のままそれを受け止め、八幡のボディを狙って手刀を叩き込まんとする。

 

「くっ・・・!」

 

しかし、むざむざヤラれるほど八幡も鈍らでは無い。

すかさず防御態勢を取り、手刀を払って距離を取る。

 

「うぉぉぉっ!!」

 

それで終わるつもりなど毛頭ない、八幡は更に力を漲らせ、一夏に一撃を叩き込まんと再び向かって行く。

 

「(良い動きになって来たな、流石、俺が見込んだだけはある・・・。)」

 

八幡の連撃を往なしつつ、一夏は余裕の笑みを崩さない表情の裏で、言葉になさないまでも感心していた。

 

幾度も修羅場を潜り抜けて来た八幡の技のキレは、初めて手ほどきした時とは比べ物にならない程に鋭くなっており、今の一夏も気を抜けばクリーンヒットを許しかねない程にまで成長していたのだ

 

「(だが、彼があの力を持っていれば、俺は・・・。)」

 

だが、その反面、八幡に対して僅かながらの諦観を抱いていた。

 

八幡には一夏が望んだ戦士としての資質は十分すぎる程にある。

しかし、ギンガの力がダークルギエルと同じ力だと期待して近付いた彼が、本当に望むモノはそこに無かった。

 

故に、彼は八幡を戦士として育ててはいても、野望の為の鍵として使う事は諦めていた様だ。

 

最も、今はそれでも良いとさえ思えている。

 

今迄、仲間以外で自分をここまで慕ってくれる者がどれほどいただろうか。

 

全て失われた遠い過去となった今でも、その者達から受けられた想いは彼の胸に残り、今、彼に向けられる八幡の熱と共鳴している。

 

だから、今はそれでも良いと、野望とは切り離した所で、彼は八幡を鍛えてみたかった。

 

一夏達アストレイの敵と戦う八幡の姿を、自分を超える力を身に着けた弟子の姿を見てみたくなった。

 

それが、織斑一夏と言う、生まれながらにして戦士たる宿命を背負った者が見出した、次の代へ託すものだった。

 

「だが、まだまだ負けんよ、俺はっ!!」

 

繰り出される拳に合わせ、クロスカウンターを繰り出し、一夏の拳が八幡の左頬を捉えた。

 

「う、ぁぁぁっ・・・!」

 

あまりの威力に、八幡は受け身を取る事さえままならず吹っ飛び、地面を転がった。

 

「すまん、つい力を出してしまった、見事な拳だったよ。」

 

八幡の拳が掠った右腕を擦りながらも、一夏は彼を讃えつつも手を差し伸べた。

 

「痛っ・・・、ありがとうございます・・・、でも、まだまだ届きませんか・・・。」

 

痛みを堪えつつ、八幡は悔し気に一夏の手を取る。

 

まだまだ未熟とはいえ、それなりに鍛えて来たのだ、師に一撃でも届かせてみたかったのだ。

 

「これでも長い間鍛えているからな、それに、負けず嫌いなんだ、俺は。」

 

バカ言ってんじゃないと言わんばかりに、一夏は八幡の額を小突く。

 

如何に力を失い、手負いの状態であるとは言え、何千年も戦い続けている彼と、修行を始めて半年そこらの八幡ではそもそもの地力が違い過ぎる。

 

それを理解して尚、負けん気を見せてくれる八幡の事を好ましく想える辺り、自分も大概だと苦笑せざるを得なかったが・・・。

 

「ま、何時か俺に土を着けてくれよ、君自身の力でね?」

 

それを見越して尚、一夏は八幡を煽る様に笑う。

自分を超えてみろと、強くなれと。

 

「勿論ですよ。」

 

その言葉に、八幡は絶対に負けないと返す。

 

何時か、尊敬する師を超えてみせると、その瞳には強い光が宿っていた。

 

それを見ていた沙希達の目にも、同じく強い意志があった。

 

一夏達アストレイを超える程強くなると。

それが、自分達に出来た目標であると言わんばかりに・・・。

 

『そこまで敗北が欲しければくれてやろうではないか!!』

 

「ッ!!」

 

その時だった、途轍もない負の感情が籠められた声が、彼等の頭の上より降り注ぐ。

 

翔を除く面々は、その圧の正体に勘付いて、各々の構えを取る。

翔もまた、異様なプレッシャーに反応し、身構えていた。

 

心臓を鷲掴みにする様な、それでいて拭いがたい不快感。

 

そんなものを与えてくるような存在がどれほどいようか・・・。

 

「性懲りもない奴め、ヤプール・・・!!」

 

ひび割れつつあった天に向かい、一夏は吠える様に叫んだ。

 

不愉快だと、そんな心からの苛立ちが現れている様だった。

 

『忌々しいウルトラマン共よ!今日こそ貴様等との因縁を終わらせてくれようではないか!』

 

「こっちのセリフだ!テメェをこの場で葬り去ってやる!!」

 

忌々しげに宣言するヤプールに対して、八幡もまた上等だと言わんばかりに叫び、ギンガスパークを懐から取り出し、変身プロセスに入った。

 

これまで何度も散々な目に合わされている相手が、決着を着けんと言わんばかりに出てきているのだ、相手にしなければ、些か厄介な事になるのは目に見えていた。

 

『フハッハッハ!ギンガよ!まずは貴様から血祭に上げてやろうではないか!行けぃ!』

 

光の柱と共に姿を現したギンガに対し、ヤプールは自信たっぷりに宣言した。

 

これから出す手が負ける事など無いと、ウルトラマンが勝てる相手ではないと確信している様でもあったのだ。

 

ヤプールの言葉に呼応するように、空が割れ、赤い血の池の様な空間から何かが飛び出してきた。

 

赤い身体に金色の鎧を纏ったその姿は、何処かウルトラマンの様に思えたが、纏う雰囲気のそれは、邪悪その物だった。

 

「あれは・・・。」

 

その姿に見覚えが有った一夏の眉が動く。

それは、彼自身が身に染みて分かっている相手のデータを基に創られた、彼が最も憎んで止まないモノだった。

 

「ドデカイ喧嘩を売ってくれるじゃないか、ヤプール?俺に出てこいと言っているのか?」

 

表情こそ穏やかだったが、その言葉には表現しきれぬプレッシャーが過分に含まれていた。

 

今、目の前にいるそれは、彼にとっては怒りの起爆剤にしかならない存在なのだから。

 

『そう思うなら出てくるがよい!貴様も纏めて冥土へ送ってくれるわ!!』

 

「なるほどな、その喧嘩、俺の弟子が買ってくれるさ。」

 

挑発だと感じ取ったか、一夏は暴れる怒りを理性で必死に抑え込み、ギンガへ視線を送る。

 

「八幡!ソイツはエースキラーとかいう、ウルトラマンの模造品に過ぎん、ウルトラマンを相手にする良い訓練相手だ、徹底的に壊してやれ!!」

 

『は、はい!』

 

だが、その言葉には怒りが現れていたため、八幡はおっかなびっくりに頷きながらも、鋼鉄の機人、エースキーラーと向かい合う。

 

敵はウルトラマンの力を模している、ならば、こちらも全力を出す必要があると感じたのだろう。

 

『先生はあぁ言ってるけど、俺も負けたくないからな、全力で行くぜ!!』

 

一夏が如何なる事情を持っていたとしても、今は目の前の敵を倒す。

それが正しいことだと信じて、八幡は目の前の敵に向かっていった。

 

第二の敵の視線が、それを捉えていることにも気づかぬままに・・・。

 

sideout




次回予告

光と闇、その狭間で生きてきた者達の力は、今を生きる光さえ苦しめてしまうのだろうか

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

比企谷八幡は目撃した

お楽しみに

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