やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
side八幡
「あー・・・、あぁー・・・。」
「何言ってんの?そんな気の抜けた声聞いた事ないよ。」
新学期早々、俺は教室にて机に突っ伏していた。
それを見た沙希が呆れながらも尋ねてくるが、返答する元気も無かった。
「仕方ないだろ~・・・、この冬休み、何処にも行けないで体力戻してただけだし・・・。」
そう、俺はあの戦闘から一週間以上が経つと言うのに、力が体力が万全とは言い難い状態が続いていた。
先生から謂われ続けていた通り、ウルトラダイナマイトとメビュームダイナマイトの掛け合わせは、まだウルトラマンと完全に同化していない俺には荷が重すぎた様で、身体に鉛がまかれている様な感覚がずっと拭えていないんだ・・・。
だけど、後で先生に聞いた処によると、どうやら俺は生きていた事が幸運なほどだったらしい。
マジかよ、とは思ったが、考えてみれば当然か・・・。
そう考えたら、俺は相当に運が良かったのではないかと、自分でさえそう思える程だった。
だが、相討ち覚悟でアレを決めておかなかったら、先生がヤプールを倒すきっかけも無かっただろうし、これで良いんだと思いたいね。
「あぁ・・・、沙希の振袖見たかった・・・。」
だがしかし、それとこれとは話が違うんだってばよ。
この冬休みと言えば年越しと正月、そこで見れる筈だった沙希の着物姿なんだよ・・・。
それを見れずして、終わって良いモノなのだろうか?
答えは否、なのだが、なぁ・・・。
「はいはい、来年も再来年も見れるんだから、終わった事でクヨクヨしない、元気だしなッ。」
そう言いつつ、沙希は俺のおでこに軽くくちづけをくれた。
「はいやる気出たー!バリバリやるぜ!!」
「現金だね・・・、全く、お昼ご飯の時、期待してて。」
俺のテンションに苦笑しつつ、ノートや教科書類を纏めていた。
今日は始業式と短いHRだけだから、そこまで気合を入れる必要もあるまい。
まぁ、この後は軽く書類を纏めたり、軽いスパーリングをして調整する事になるだろうな。
そう思っていた時だった。
「やぁ、比企谷君、川崎さん。」
俺達を呼び止める様な声が聞こえてくる。
「お前・・・。」
何時からか、教室内カーストトップだった事が嘘のように影を潜め、今では何処か昏い色さえ湛えた瞳が俺達を射抜いていた。
そこにあるのは、目の前のヤツがこれまで貼り付けていた何かとは明らかに違うそれは、そこに存在していた。
「明けましておめでとう、これからちょっと、良いかな?」
「「葉山・・・?」」
それは、クラスの王子様とまで言われていた葉山隼人には無かった、闇その物だった・・・。
sideout
noside
「で、なんの用だよ?」
SHRの後、八幡と沙希は屋上にて、彼等が最も忌避する相手、葉山隼人と対峙していた。
冬休み明け初日だからと言うべきか、校内にはほとんど人はおらず、部活に向かうか帰路に就くかのどちらかの様だった。
だが、当の彼等にそんな事は関係なかった。
何せ、八幡達が対峙する隼人の様子が、何処か変わっている事に気付いていたのだから。
「つれないな・・・、君達に話しかけちゃいけない理由でもあるのかい?」
だが、警戒心を顕わにする八幡を宥めるつもりか、隼人は軽口のように話す。
しかし、その様子も何処か芝居がかっており、違和感しか感じられ無い様な語り口だった。
「そんな理由で俺達を呼んだってのか?だったら時間の無駄だ、帰らせてもらうぞ。」
それを理解しつつも、彼と関わるだけ無駄だと分かっている八幡は、沙希の手を引いてその場を離れようとした。
関わってもメリットは無いどころか、余計な厄介事ばかり持ち込んでくる様な相手なのだ、可能な限り接触を減らす事が、お互いの為になると分かってすらいたのだから。
「そんなに邪険にしないでくれよ、光の巨人?」
「「ッ・・・!?」」
だが、その一言に、八幡と沙希の歩みは強制的に止められる事となる。
光の巨人、それは、ウルトラマンの事を指しているなど、彼等が一番よく分かっていることだったが・・・。
「やっぱりね、ずっと前からそうだと思っていたんだ。」
「・・・。」
どこか勝ち誇った様な、そう取れる表情を浮かべながらも、彼は歌う様に言葉を続けた。
それを、八幡達は愕然と、冷や汗を流しながらもただ聞く以外出来なかった・・・。
「一学期の始めは目立たなかった君達が、今じゃどうして大和や相模さん、戸部にまで慕われるようになったか・・・、正直、君達は俺に比べたら目立たない存在だったからね、初めは分からなかったよ、だけど・・・。」
そこで一つ息を吐き、彼は目を細めて嗤っていた。
まるで、秘密を見てしまったと、弱みを握ってやったと言わんばかりの表情だった。
「織斑先生が何かを護ろうとしている事に違和感を感じてね、ずっと君達の事を観察していたんだ、そこで気付いたのさ、君達が、何か大きな事に関わってるって、ね・・・?」
隼人の言葉に、八幡達は強張りを表に出さない様に努めていたが、動揺だけは悟られてしまっている様だった。
それを知って尚、隼人はまくし立てる様に言葉を続けた。
「この街で一番大きなコト、それは光の巨人と怪獣の事だ、それに関わっていると言えば、もう戦っている光の巨人本人としか思えないだろう?」
「何が言いたいワケ・・・?」
彼の推理に、沙希はやっと言葉を絞り出す。
とは言え、既に当たってしまっているし、悟られてすらいる。
隠し通すのは無理があるとしか言いようが無かった、
だが、彼等はまだ手を残してはいる。
それが発動するまでの間、粘るつもりではいる様だ。
「分かっているんじゃないか?俺の望みを、俺の願いを。」
浮かべていた勝ち誇った様な笑みを収め、彼は欲望をその顔に浮かべていた。
「この事を、何処かに言い触らされたくなかったら、雪乃ちゃんの為に奉仕部に従ってくれ、君にはそう出来るものがあるだろ?」
「なに・・・?」
その言葉に、八幡は訳が分からずに尋ね返す事しか出来なかった。
何故、自分達の秘密と引き換えに、奉仕部に従わねばならないのか。
その意味が、彼には判らなかったのだ。
「俺は、自分のせいで雪乃ちゃんを救えなかった・・・、ずっと、ずっと、それが悔しかった・・・、俺が助けられればと、何度思った事か・・・!」
語る隼人の言葉に熱が籠って行く。
自分が犯した間違いが、どれ程雪乃を傷付けたか、どれ程後悔したか。
そんな痛みが伝わってくる様であった。
「助けたいと思って、俺は周りに人を増やした!そこに雪乃ちゃんが入って、皆と仲良くなれば解決だと思っていた!だけど、周りなんて何の役にも立たなかった・・・!!」
八つ当たりするかのように、彼は地面を蹴り、苛立ちを露わにしていた。
使えない、思う様にならない周囲に苛立っているのだろう。
「今になっても、俺じゃあ雪乃ちゃんは救えない・・・!だからっ・・・!」
確かな熱量を持った声で、彼は八幡の胸倉を掴む。
いう事を聞けと、そう言わんばかりの様子だった。
「一度でも奉仕部になった君には、その責任が有る筈だ・・・!そして、人間を助けてくれる光の巨人の義務でもあるんだろ!?」
お前達の、いや、八幡の責任であり義務だと、隼人はまくし立てた。
その言葉からは、自分に無い力への渇望と嫉妬、そして、その力を持ちながらもそれを彼が思い描く様に使わない彼等に憤り、怒りを抱いていたのだ。
その話を、八幡と沙希はただ無味乾燥な心地で聞いていた。
なるほど、自分達には実感は無かったし、気にも留めてはいなかった。
だが、インターネットの掲示板を見てみれば、ウルトラマンを人類の救世主と、正義を執行する神と崇めるモノは決して少なくは無く、寧ろ多い位だった。
なるほど、人間には持ちえない力を信仰の対象とする、よくある事だと改めて感じてはいた。
師である一夏達ならば、鼻で笑って一蹴にしているだろう事は鮮明に想像できたが、それは一夏達の経験が基となっているからだろう。
「なのに、なんでだよ・・・。」
語気も荒く、肩を震わせながらも、隼人は睨みつける様に言葉を続けた。
何故なんだ、理解出来ない。
ただそれだけの感情が伝わってくる様だった。
「話はそれだけか?」
しかしだ、八幡達の答えはシンプルかつ、何処までも残酷なモノだ。
「何・・・?」
「話は分かった、アイツを助けたいって気持ちもな。」
困惑する隼人に対し、八幡は淡々と言葉を紡いでいく。
そこに感情を乗せる必要など無い。
ただ、事実を事実として並び立てている、そんな様子ですらあった。
「だけど、俺に頼むのは筋違いだ、俺にそんな権利も義務も責任も無いんだよ。」
「ッ・・・!」
八幡の言葉に、彼は驚愕に息を呑んだ。
まさか、そんな返答が帰って来るなど予想もしていなかったのだろう、その驚き様は尋常では無かった。
事実、八幡達は力を持っていると言うだけで、行使しないと言う権利も持っている。
持たざる者は皆、持つ者はその力を使って当然だと思いがちだがそうでは無い。
それを使うかどうかは、其の者次第だと言う事を。
「俺は協力してるに過ぎんよ、それに、雪ノ下はもうそんな助け、必要としてないぜ。」
それに加え、隼人は知らなさ過ぎたのだ。
嘗ての失敗にばかりに目を向け、今を見ていなかった。
故に、今の雪乃がどうなっているか、理解できていない様だった。
「それほど多くは無いだろうけど、それなりに馴染める相手もいるみたいだぜ、俺が手助けするまでも無かったさ。」
「そんな・・・!?じゃ、じゃあ、俺がしてきた事は何だったんだよ・・・!?」
自分が知らぬ事実に打ちひしがれたか、隼人は八幡に詰め寄る以外出来なかった。
様々な策を弄しても、それで救われるべき相手は救いを必要としていない。
それじゃあ何の為に、自分は偽りの仮面とも呼べるモノを被って生きて来たのだと、そう叫ばずにはいられなかっただろう。
「知るかよ、お前がやって来たことがどう思われてるか、聞いてみりゃいいだろ。」
隼人の手を払い、八幡はゆっくりとした足取りで屋上の入口を開け放つ。
「ッ・・・!!」
その先に待っていた光景に、、隼人はまたしても息を呑む。
そこにいたのは、嘗て彼のグループに居た大和や翔、姫菜と、そして、グループが存在していた時、優美子の姿があった。
皆口元を真一文字に結び、その眼には諦めと、確かな侮蔑の色が混ざっていた。
「み、皆・・・!?ぁ・・・・!!」
何故そこにいるかを考えた所で、彼は自分が嵌めた訳では無く、嵌められた事に思い至ったのだ。
「隼人君、分かってたけど、そりゃねーべ・・・。」
その驚愕を置き去りに、翔は諦めと共に言葉を発した。
それも致し方あるまい。
自分はただ利用されていただけなのだと。
二か月前の修学旅行で自分の想いを利用されていたと分かっていても、それでも心に来るものが有ったのだ。
「と、戸部・・・・!姫菜・・・!?」
「もう、黙ってよ・・・、私も悪かったけど、これはちょっと・・・。」
違うんだと言い訳しようとする彼の言葉を遮り、もう喋るなと顔を背けていた。
もう関わりたくない、そんな拒絶が見て取れた。
他人からの想いを拒絶する事に慣れてはいたが、拒絶の意思を向けられる事に慣れていなかったのだろう、隼人はよろめきながらも、優美子へと縋る様に近寄った。
「ち、違うんだ・・・、優美子・・・。」
縋ろうとするその手を、優美子は何も言わずに避けた。
「ゆ、優美子・・・?」
それに驚きながらも、彼は顔色を窺うように優美子を見た。
だが、そこには彼が求めているモノは無く、只々、冷たい、失望だけが有った。
「最低・・・。」
「ッ・・・!ち、違う・・・!俺はッ・・・!俺はぁぁっ・・・!!」
その一言は、隼人にとっては何よりも堪えた様だった。
彼は叫びながらも三人を押しのけ、屋上から逃げるように去って行った。
その背を追う者は無く、ただ、その場には沈鬱な空気が流れているだけだった。
それが、隼人が行おうとしていた、生贄を作る行為だと気付く事は、本人でさえ出来なかったのだ・・・。
sideout
次回予告
間違いとは何か、正しい手段とは何か。
理想と現実のジレンマは、時として闇を生むのだ。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
川崎沙希は思い返す
お楽しみに