やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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三浦優美子は目撃した

noside

 

「この気配・・・、もしや・・・?」

 

ランチタイムを終えつつあったアストレイの店内で、食器の片づけを行っていたセシリアは、唐突に発生した闇の気配に眉を顰め、自身の記憶からその正体を探ろうとしていた。

 

ただ出現した闇では無い、なにかに憑りついているかのような、おぞましい感覚だった。

 

その答えに行きついた彼女は、手早く、だが決して乱雑では無い動きで食器類を片付け、自身の変身アイテムを懐から取り出しつつも表に出た。

 

彼女の目に飛び込んで来たのは、街を進撃する鋼鉄の機兵の姿だった。

 

「あれは、グローカービショップ・・・?デラシオンの尖兵までもが・・・。」

 

記憶の片隅にあった、オリジナルのグローカービショップの脅威を知るセシリアは、何処か感心した様に呟いていた。

 

どんな強力な怪獣であろうとも支配し、隷属化させてしまえるルギエルの能力を、純粋に評価している様でもあった。

 

彼女自身、デラシオンと交戦した事は一度や二度では無いが、それでもそう易々と敵に回したくはないと言うのが本音だ。

 

それを支配してしまえるとなると、どうやら少々認識を変える必要がある、そう判断した様だ。

 

だがしかし、今は感心している場合などでは無い。

自分がすべき事、それを理解している彼女の決断は早かった。

 

「シャルさん、例のモノ、頂いてもよろしくて?」

 

「お好きにどーぞ、僕も行くよ。」

 

「そちらこそ、お好きになさって?」

 

何時の間にか背後に居たシャルロットと軽口を叩く様に言葉を交わしながらも、何かを受け取ったセシリアは、店番を放棄したシャルロットと共に走り始める。

 

自分達が此処に居なくとも、他のメンバーがいると分かっているから。

 

だから行くのだ。

自分達がすべき事を見据えて、弟子たちの未来を見届けると心に決めて・・・。

 

sideout

 

noside

 

『行くぞ!!』

 

住宅街を進撃するグローカービショップに対し、それぞれのウルトラマンに変身した八幡達は、その侵攻を食い止めようと、その巨体に掴みかかった。

 

ギンガとビクトリーが腕の様なアームを、ヒカリとゼノンが前方より侵攻を押し留めようとしていた。

 

だが、ウルトラマン4体がかりの制止を、少しずつ、その巨体は押し込んで行った。

 

機兵の名は、グローカービショップ、またの名を、スペースリセッターとも呼ばれるロボット兵器だった。

 

光の国とはまた異なった存在、宇宙正義≪デラシオン≫が、文明を消去する為に送り込む尖兵であった。

 

何処かロケットを思わせる様な出で立ちであり、威圧感に満ち満ちている様にさえ受け取れてしまう。

 

その巨体故に、パワーは並の怪獣やウルトラマンなど比では無く、防御力も並はずれた強度を誇っている程だった。

 

だが、このグローカービショップを脅威足らしめている理由は他に在った。

 

それは、両のアーム中央から放たれる破壊光線≪ジルザデスビーム≫。

純粋な破壊力は言うまでもないが、脅威たるは、その光線の当て方だった。

 

巨大なバーニアから得られる途轍もない加速力と共に敵に突っ込み、捕えた敵にゼロ距離でジルザデスビームを放つと言うモノだ。

言うなれば、嵌め技とも言うべき戦い方である事は明白だった。

 

だが、そんな事など知る由も無い八幡達は、押し込めようと必死に立ち向かっていた。

 

『やめろ・・・!こんな事して救えるモンなんて何もねぇぞ!!』

 

必死に呼びかけ続ける八幡だったが、その声が届く事は無く、その返答とばかりに無慈悲なタックルの様な攻撃がギンガの腹に突き刺さる。

 

『うぉぉっ・・・!?』

 

『比企谷君!!ぐあっ・・・!?』

 

ゼノンが吹っ飛ばされるギンガのフォローに入ろうとするが、それを許してくれるほど甘くは無い。

 

振り向き様に放たれる形となったアームの払いに、ゼノンもまた大きく吹き飛ばれた。

 

動きが素早いわけでは無いが、攻撃の一切合切が効いていない様な、そんな圧倒的な印象を受ける程に、それは強烈な雰囲気を纏っていたのだ。

 

『ちっ・・・!何て厄介な・・・!』

 

『ヒカリじゃパワーが足りないのか・・・!!なら、これでっ!!』

 

パワーが足りないと判断したヒカリは、天に向けて掌を掲げる。

それは、自身に力を纏わせる為の動作だった。

 

天から降り注いだ光が、ヒカリの身体を覆い、その姿を鎧の騎士、ハンターナイトツルギへと変えていった。

 

『ハンターナイトツルギなら!!』

 

鎧を纏ったツルギは、ナイトブレスより光の剣を展開し、グローカービショップを切りつける。

 

だが、その強固な装甲には傷一つ付く事は無く、漸く侵攻の脚を遅らせる程度だった。

 

『嘘、だろ・・・!?』

 

『どんだけ深い闇で強化されてんだい・・・!?』

 

その不気味さに、そして、囚われている隼人の闇がこれほどまでに深いとは思いもしなかった二人は、思いも寄らぬ展開に歯がみするばかりだった。

 

その怖れと躊躇いを感じ取ったか、グローカービショップはビクトリーとツルギに向けて侵攻を始めた。

 

どうやら、先に邪魔者となるモノを消す魂胆なのだろう。

 

『任務ノ障害ハ消去』

 

不気味な音声と共に、グローカービショップはバーニアの凄まじい推進力に物を言わせ、一気にビクトリーへと突っ込んで行った、

 

『ぐぁっ・・・!?』

 

『姉ちゃん!!』

 

突進を何とか受け止めようとしたが、ビクトリーはその質量を受け止めきれずに宙に浮き、大きく吹っ飛ばされていた。

 

それをカバーしようとヒカリが飛び掛るが、最早ウルトラマン一体の力では抑える事など不可能だった。

 

『いい加減にしやがれっ!!』

 

『止まってくれよ・・・!!』

 

彼に加勢すべく、戦線に復帰したギンガとゼノンが高高度から急降下しつつ放つ蹴り、流星キックを食らわせ、グローカービショップを後退させる事に成功した。

 

だが、二体のウルトラマンの全力の同時攻撃で漸く一歩引かせられる程度だとすれば、彼等にとっては頭の痛い事には変わりはないだろう。

 

『クソッ・・・!なんつー硬さだよ・・・!!』

 

その防御力の高さに、八幡は拳を握る力を強めながらも呻いていた。

 

無理も無い、ウルトラマン4人がかりで引かせられなかった敵は、これまで存在しえなかった。

自分達も、脅威に負けぬようにと修練を積んで来た身、易々と負ける訳がないと思っていたのだ。

 

だが、今の状況はどうだ。

経験は浅いとは言えど、それなりに修羅場を潜り抜けて来たウルトラマンが、足止めすら叶わないのだ。

 

これを呻かざるして何とするか。

 

『仕方ない・・・!これで止めてやる・・・・!!』

 

肉弾戦で叶わないならば、光線技で一気に決める心積りなのだろう、ギンガが前に出て、必殺光線の体勢に入った。

 

『オォォッ!ギンガクロスシュートッ!!』

 

L字に組まれた腕から光が迸り、グローカービショップ目掛けて突き進んで行く。

これまで強力な怪獣を屠って来た光線は、それこそ何時ものように炸裂するかに思われた。

 

だが・・・。

グローカービショップはそれを避けるでもなく、ただその装甲の強靭さを見せ付けるように前進、あっさりとギンガクロスシュートの奔流を受け止め、耐え切ってしまった。

 

『そんな・・・!バカな・・・!?』

 

自分が絶対の自信を持っていた技を、全く効いていないと悟った八幡の驚愕は語るに及ばずだった。

 

驚愕のあまり、次の行動にはいる事が出来ず、数瞬の間が空いてしまう。

 

その一瞬を見逃さず、グル―カービショップが動き、頭部から連続して光弾を放ってくる。

 

『ッ・・・!マズイ!!』

 

なんとか我に返った八幡が、バリアを展開し、その光弾から仲間を庇おうとする。

 

だが、その光弾があまりにも強力だったか、ギンガが展開したバリアは数発受け止めただけにも関わらずに罅が走った。

 

『ぐっ・・・!皆・・・!今の内に離れて攻撃してくれっ・・・!!』

 

『お、おう・・・!!』

 

それでも何とかこらえていた八幡の声に反応し、固まっていた翔達が動いた。

 

攻撃が当たらない様に側面に回り込みながらも、同時に光線を放とうとした。

 

『ビクトリウムシュートッ!!』

 

『ナイトシュート!!』

 

『ゼノニウムカノン!!』

 

仲間を救うべく光線を同時に放ったが、グローカービショップはそれに動じてすらいなかった。

 

強引に後部バーニアを吹かして急速に前進、三方向から迫る光線を回避してみせた。

 

『なんだって・・・!?』

 

『逃げて八幡!!』

 

避けられた事に驚く間も無く、その先にいる仲間に警告を飛ばす。

だが、それも遅かった。

 

グローカービショップは光弾を撃ち続けながらも、ギンガに向かって突進していく。

その動きに憎しみの色がわずかばかりながらも浮き出てるあたり、隼人の意識の中にある、八幡への憎しみがグローカービショップの力を跳ね上げているのだろう。

 

『う・・・!?おぉぉぉっ・・・!?』

 

強烈な突進にバリアが耐え切れずに叩き割れ、ギンガも大きく吹き飛ばされてしまう。

 

ギンガは吹っ飛ばされた先のビルに突っ込み、大きく倒れ伏した。

 

『ぐ、ぁぁぁ・・・!!』

 

あまりにも強烈な攻撃だったためか、大きなダメージの蓄積にギンガは立ち上がることさえ出来なかった。

 

カラータイマーが鳴り、最早継戦が危うくなっていたのだ。

 

『お兄さん!!』

 

『八幡!!』

 

『やらせねぇべ!』

 

それ以上の追撃を阻むべく、三体のウルトラマンがギンガを庇う様に立ちはだかり、グローカービショップを抑え込んでいた。

 

しかしそれも徒労とかすばかりに、グローカービショップは侵攻を続けようとし、ウルトラマン達を払い除けた。

 

最早誰にも止められない、そう思わせる程だった

だが・・・。

 

「隼人・・・!!いい加減にするし・・・っ!!」

 

姫菜に連れられて離れていた筈の優美子の叫びに反応し、その動きを止め、彼女の方を見た。

 

まるで、彼の意識が反応しているかのようだった。

 

「アンタ!そんな事する人じゃ無かったじゃん・・・!!いい加減に、目ぇ覚ましなっ・・・!!」

 

以前まで片思いしていた相手への、友人として止まる様に叫んだ、彼女らしい強さに満ちた目と言葉だった。

 

自分に何が出来るとは思っていない、だが、それでも何かしなければならないと思った、彼女らしい判断だった。

 

だが・・・。

 

『・・・、任務ノ障害ハ、消去』

 

その動きが止まったのもほんの一瞬だった。

グローカービショップは右腕の銃口を、優美子に向けてエネルギーの充填を開始した。

 

それは、ただ優美子に向けられた害意でしかなく、そこに葉山隼人としての情は一切なかった。

 

何も出来ない無力な自分を恨んでいるのか、それとも嘗ての彼を思い出していたのか。

彼女の表情は、ただ悔しさと痛みに歪んでいた・・・。

 

『まずいっ・・・!!』

 

本能的に危機を察知したツルギが、優美子とグローカービショップの間に飛び込むように割り込んだ。

 

その直後、グローカービショップのアームより致死の光線が放たれ、鎧を纏うツルギに突き刺さる。

 

『ぐぁァァァァッ・・・!!』

 

「きゃぁぁっ・・・!?」

 

鎧が砕けてもなお、その致死の光はヒカリの身体を苛み続けた。

そして、その光線が止んだ時、ヒカリの体力はそこを突きかけていた。

 

『た、大志・・・!!』

 

『大志君・・・!!』

 

仲間の危機に飛び出そうとしたが、ダメージに想う様に動かない身体ではそれさえ出来なかった。

 

ヒカリのカラータイマーは凄まじい勢いで点滅し、その身体を維持することさえ出来なくなっていた。

 

『ぐ、あぁ・・・!』

 

その光線が止んだ時、ヒカリの身体から力が抜け、その場に倒れ込みながらも光の粒子をとなって消えた。

 

それは、変身が解かれ、人間の姿がへと戻ったのだった・・・。

 

「う、あぁ・・・。」

 

「あ、アンタ・・・?あの時の・・・!?」

 

倒れ込んだ大志の姿を認めた優美子は、慌てて彼の身体を抱き起す。

そこで、彼が嘗て自分を助けてくれた少年だと悟った様だ。

 

「だ、大丈夫・・・!?しっかりするし・・・!」

 

「うっ・・・、あ、あの時の・・・?」

 

ボロボロになりながらも、優美子が以前であった少女であると気付いた様だ。

彼は何とか彼女を逃がそうともがいたが、その真意が伝わる事は無かった。

 

「こんな・・・、こんな事って・・・!」

 

大志のあまりに痛ましい姿に、彼女は拳を握り締めた。

 

こんな少年が身を削って戦っていたと言うのに、自分は何も出来ないでいる。

そんな理不尽な事が有って良いのだろうか。

 

出来る事なら、自分にも戦える力が欲しいと思った。

自分が、囚われた男をぶん殴って正気に戻したいとさえ思った。

 

それが、正しい事なのか間違いなのか、そんな事は分からなかったが、それでもじっとしているままでは、彼女の性分が許さなかったのだろう。

 

その時だった。

 

「でしたら、これを御使いなさいな。」

 

「えっ・・・?」

 

何処からともなく聞こえてきた声と共に、優美子にウルトラマンのスパークドールズが投げ渡された

 

その先に居たのは、二人の金髪美女、セシリアとシャルロットだった。

 

「貴女の覚悟は分かりました、願いなさい、止めたいと、力が欲しいと。」

 

セシリアの言葉に、優美子は手渡されたスパークドールズを見詰めた。

 

自分に力が与えられるならば、今、この状況を覆す事が出来るなら。

 

「戦いたい・・・!あーしは、護られてばっかりなのも、関係ないままも、全部いやなんだ・・・!!」

 

見ているだけなど、優美子には到底受け入れる事など出来なかった。

 

故に、その強い願いは形となって行く。

 

スパークドールズが光となって優美子の身体を包み、その力を与えた。

 

光が晴れた時、優美子の掌に、片翼のエンブレムの様なものが納まった。

 

それは、彼女がウルトラマンに選ばれ、その力を託された証であると言う事だった。

 

「さぁ、君の力で、終わらせるんだよ!!」

 

立ち上がることさえ出来ずに気絶した大志を安全な場所まで移すべく、シャルロットが彼を担ぎ上げてその場から連れて行った。

 

その置き土産とばかりに残された言葉に頷き、優美子は立ち上がる。

 

「行きます・・・!あーしが、あーしが止めてみせます!!」

 

「では、僭越ながらお手伝いさせて頂くとしましょうか。」

 

戦う意思を見せた優美子をサポートすべく、セシリアもまた、己が変身アイテムを取り出して掲げた。

 

この哀しみを終わらせる。

その強い意志を籠めて・・・。

 

「コスモーーーースッ!!」

 

「ジャスティスーーーっ!!」

 

光に包まれ、彼女達はその姿を光の巨人へと変えていく。

 

セシリアは、慈愛と強さを併せた勇気の戦士、ウルトラマンコスモス エクリプスモードへ。

 

そして、優美子は正義と調停の戦士、ウルトラマンジャスティスへと変身した。

 

『参りますわよ!!』

 

『謂われなくてもッ!!』

 

構えた二人は、目の前の敵へと向かって行く。

 

己が役目を果たすために。

分かたれてしまった友と、もう一度向き合う為に・・・。

 

sideout




次回予告

勇気と正義、その二つが舞い降りし時、希望は再びその芽を表すのだろうか

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

三浦優美子は決めていた

お楽しみに

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