やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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三浦優美子は決めていた

noside

 

『参りますわよ!!』

 

『はいっ!!』

 

大地に降り立った二体の巨人、コスモスとジャスティスは、目の前に聳え立つ巨兵、グローカービショップへと向かって行く。

 

コスモスに変身するセシリアは、何度かグローカービショップのオリジナルと戦った事があるのだろう、その戦闘パターンを思い返し、それを基に攻撃を仕掛けていた。

 

エクリプスモードのパワーとスピードを兼ね備えた動きで、グローカーのパワーに振り回されない様に間合いを計りながら攻撃を繰り出していた。

 

それは、熟練した達人が到達できる極みであり、セシリア自身の経験を裏打ちさせるものであった。

 

それに追従するもう一人のウルトラマン、ジャスティスに変身する優美子は、これが初陣であり、まだ戦う事に成れていない様子がありありと伝わって来ていた。

 

ウルトラマンジャスティス

宇宙正義≪デラシオン≫と呼ばれる、宇宙の調和を保つ存在に属するウルトラマンであり、絶対正義の名の下にその力を振るう、正義の巨人である。

 

その基本形態で、コスモスのエクリプスモードに匹敵するパワーとスピードを持っているとされるが、今の優美子はそれに振り回されない様、おっかなびっくりでしか戦えていない様子でもあった。

 

『隼人ッ!!いい加減に、しろっ!!』

 

グローカーを止める為、コスモスが動きを封じている隙に、ジャスティスが全力のストレートを打ち込む。

 

その威力はなかなかのものが有り、パワーだけならば、鍛えられた八幡のギンガにも匹敵する程だった。

 

だが、それをものともせず、コスモスのパワーでさえ振りほどこうと、グローカーはバーニアを噴射し、ジャスティスへ攻撃を仕掛けようとする。

 

『下がりなさいジャスティス!!』

 

『は、はいっ!!』

 

しかし、今の彼女は一人では無い、歴戦の勇者が共に戦っていた。

 

コスモスからの怒号に反応して咄嗟に飛び退いた瞬間、コスモスから逃れたグローカーの爪がジャスティスの居た空間を薙いだ。

 

それを躱し、更に後方へ飛び退きつつも、両の腕から交互にハンドスラッシュの様な光弾を放ち、牽制の様な形を取る。

 

光弾に反応したグローカーに追撃を掛けるべく、グローカーの前に飛び出し、その顔面にハイキックを叩き込む。

 

その威力は凄まじく、八幡達が4人がかりで漸く引かせられる程であったグローカーを、大きく仰け反らせる事に成功した。

 

その隙に、コスモスは華麗にバク転をし、下がっていたジャスティスに合流、再び構えを取る。

 

『大丈夫でして?』

 

『だ、大丈夫ですっ!!あーし、打たれ強いんでッ!!』

 

まだ行けるかと挑発する様なセシリアの問い掛けに、優美子はバカにしないでくれと強気に返す。

 

自分がやるべきと感じて始めた戦いだ、ここで引きたくなどないのだろう。

 

『でしたら、合わせて頂けますか?』

 

『勿論ですッ!!』

 

その言葉を心地良く受け止めながらも、次の手に移るべく、セシリアは優美子に檄を飛ばす。

 

それを受け、優美子もまた、その技の発動体勢を取った。

 

『コズミューム光線ッ!!』

 

『ビクトリューム光線!!』

 

勇気の光線、コズミューム光線と、正義の象徴たる光線、ビクトリューム光線が放たれる。

 

二筋の光条はそれぞれ突き進み、グローカービショップへと殺到、その装甲に炸裂した。

 

だが、その強烈な光線二発を同時に受けても、その装甲には傷一つ着く事は無かった。

 

『な、なんで・・・!?当たったのに・・・!?』

 

ウルトラマンの力を、絶対的な物と感じていたのだろう、優美子の驚愕は並では無かった。

 

人間ではかなわない様な強大な怪獣を、何度も倒してきたウルトラマンの力が全く通じないのだ。

その力自体にある種の希望を見ていた彼女の身からしてみれば、絶望に近しい感情が沸き上がっても仕方のない事だった。

 

『なるほど、これは厄介ですわね・・・、ですが、加減を失くせば、或いは・・・。』

 

だが、それに驚きすらしなかったのはセシリアだった。

彼女にとってコズミューム光線は、敵を殺す事も活かす事も出来る、いわば中途半端な光線であり、今回は中にいる人間の事も考えて威力を絞ってさえいた。

 

しかし、結果を見れば、コズミューム光線程度の浄化の力と破壊力では効き目は無いと判断できる材料を得る事は出来た。

 

ならば、コロナモードの、力だけに振り切った攻撃は通じ、ルナモードの浄化だけは通じる事になる。

 

併せ持つ、とは言え、それぞれに届いているという訳ではないのだ。

 

だが、両方を合わせて漸く効き目が出るのは確かだ。

今の、戦闘慣れしていないどころか、戦意さえ怪しくなってきている優美子をフォローしながら相手取るのは、幾らセシリアとは言えど、少々笑ってはいられない状況であるに違いなかった。

 

『ジャスティス。』

 

『は、はい・・・!?』

 

だから、少しでも勝てる確率を上げるためにも、彼女は隣で立ち尽くしていたジャスティスに声を掛ける。

 

その声があまりにも平淡且つ、冷たいモノだったからか、優美子は上擦った声で返事を返した。

 

『取って食べる訳でもありませんのよ?硬くならずとも結構ですわ。』

 

あんまり怯えなくても良いのになぁと、戦闘中であるにもかかわらず、くすぐったいような心地を覚えたセシリアは、苦笑しつつも宥めに入った。

 

だが、状況が状況である事を思い出し、その笑みはすぐに掻き消え、戦士としての表情へと変わった。

 

『ですが、逃げるなら今の内ですわよ、貴女はまだ、本当の意味で覚悟を決めきれてはおられない様子、そのままでは、命は有りませんわ。』

 

戦士として永く戦ってきたセシリアから言わせてみれば、少しでも怖気が入った兵がどれほど戦おうとも、それは死への片道切符でしかない。

 

だからこそ、年若い少女をそんな目に合わせぬ様配慮した、セシリアなりの心遣いだったのだろう。

 

『いや・・・っ!もう、逃げない・・・!!』

 

『あら・・・?』

 

その提案を、優美子は声を張り上げて拒絶した。

痛みを堪える様な、それでいて何処か血を吐く様な悲壮感すら漂っている程だった。

 

『あーし、隼人の事、ずっと勘違いしてた、でも、それは、あーしの責任なんです・・・!!』

 

自分は、表側の、皆の王子様を演じている葉山隼人しか見ていなかった。

そして、無意識にそれを求めるように振舞っていた。

 

それは、隼人本人にとっては苦痛になっていて、何時しか心の中に闇を溜めこむ大きな切っ掛けになっていたのかもしれないと、今の彼女は漠然ながらも感じ取っていた。

 

だから、その苦しみから逃れ、本当にやりたい事をやるために、彼は闇に手を染めたのだとも感じていたのだろう。

 

『だから・・・!あーしは逃げません・・・!!あーしが、隼人を助けます・・・!!』

 

故に、その恐怖を心から追い出し、彼女は再びその足で大地に立った。

 

逃げて堪るか、これは自分が着けるべき決着なのだと。

 

『分かりました、では、貴女の望みを、未来につなぐ希望としましょう。』

 

その覚悟を感じ取ったセシリアは、己が中にある力をもう一段開放する事を決意する。

覚悟を形とさせるため、その想いを未来につなぐために。

 

コスモスの身体から光が迸り、その姿を更なる力を湛えるモノへと変えていく。

 

その姿こそ、未来への希望を象徴する、フューチャーモード。

ルナの慈愛、コロナの力、エクリプスの勇気に、未来への希望が加わった姿だった。

 

『貴女の力、ジャスティスの力はそんなものではありませんわよ?その力を、開放なさい。』

 

コスモスが掲げた掌から光が溢れ出し、ジャスティスの身体を包んで行く。

 

それは、ジャスティスに眠る力を解放する、新たなるきっかけを与える光だった。

 

その光に呼応し、ジャスティスの姿が変わって行く。

 

金色のプロテクターを纏いしその姿は、邪悪を粉砕する力、クラッシャーモードだった。

 

その力は、並の怪獣ならば難なく粉砕し、己の信じる正義の障害を粉砕する。

 

『これが、ジャスティスの力・・・、あーしの力っ・・・!!』

 

『そう、貴女の力です、この力で、参りますわよっ!!』

 

『はいっ!!』

 

戦意を漲らせた優美子と共に、再び構えを取ったセシリアは、向かってくるグローカービショップへと立ち向かう。

 

先程とは比べ物にならない速さでグローカーの背後に回り込み、スラスターのカバーたる装甲を、同時に放った蹴りで叩き壊した。

 

『次、行きますわよ!!』

 

『はい!!』

 

セシリアの声に返しつつ、ジャスティスはアッパーをグローカーの頭部に叩き込んだ。

 

だが、それでも怯む事無く、グローカーはジャスティスの首元にアームによる突きを食らわせ、その巨躯を大きく吹き飛ばした。

 

『くぅぅっ・・・!まだぁっ・・・!!』

 

なんとか踏ん張り、空中で反転する事で体勢を整え、勢いを着けた蹴りを見舞った。

 

『負けてはいられませんわね!』

 

それに続く様に、コスモスもまた飛び上がり、三日月を描く技、フューチャーブレードを放ち、その装甲に漸く大きな傷を付けた。

 

『任務ノ障害ハ消去』

 

だが、それすらも意に介することなく、二人と距離を取ったグローカーは、両腕の銃口にエネルギーをチャージ、ウルトラマンを消し去るべくジルザデスビームを放った。

 

『『ッ・・・!!』』

 

ジャスティスの攻撃後の隙を狙われた事に気付いたコスモスがカバーに入ろうと動くが、それも間に合わないと思われた。

 

その時だった。

 

『ギンガクロスシュートッ!!』

 

『ビクトリウムシュートッ!!』

 

何処からともなく飛来した光線がジルザデスビームとぶつかり合い拮抗、コスモスとジャスティスに退避出来るだけの時間を与えた。

 

『八幡さん!沙希さん!!』

 

その技の主を知っていたセシリアが、自分達の傍に降り立ったギンガとビクトリーに声を掛ける。

 

大丈夫なのかと、休んでいろと言わんばかりの声色だった。

 

『遅れてすみません・・・!』

 

『回復に手間取りました・・・!』

 

だが、二人は大丈夫だと声を返し、点滅したカラータイマーを気にするそぶりも無く構えを取った。

 

この戦いは自分達に叩き付けられた挑戦状だと、そう捉えていたのだ。

 

『俺も戦いますぜ!!見てるなんて出来ねーべ!』

 

離れた場所で体力の回復に努めていたゼノンも合流し、5人のウルトラマンはグローカーに向けて戦意を飛ばした。

 

最後まで己の役割から逃げない、彼からもそんな決意が伝わってくる様だった。

 

『分かりました、彼女のサポート、任せましたわよ。』

 

『『『はい!!』』』

 

それを受け、わざわざ無碍にする事も無いと判断したのだろう、セシリアが下した判断に、八幡達は覇気を漲らせた。

 

5人に戦う意思があると見たか、グローカーは再びジルザデスビームのチャージに入る。

 

『アイツの攻撃を相殺するぞ!!』

 

『おう!!』

 

その攻撃を相殺するべく、ギンガとゼノンが動き、それぞれの最強光線の体勢に入った。

 

『ギンガエスペシャリーィィ!!』

 

『ギャラクシーカノンッ!!』

 

ジルザデスビームが放たれると同時に、ギンガとゼノンからも対抗する光線が放たれる。

 

その光条はぶつかり合い、互いの威力を打ち消し合った。

 

お互いにとって、それは攻撃の手を与える事なく消える筈だった。

 

『今だぁぁぁっ!!』

 

だが、それは陽動でしかなかったのだ。

 

攻撃発動の直前に飛び上がっていたコスモスとジャスティスが、その隙を狙っていたのだ。

 

『フューチャーストライク!!』

 

『ダクリューム光線ッ!!』

 

二体のウルトラマンが放った光線は、狙い違わずグローカーの腕を破壊、吹き飛ばした。

 

それに大きく怯んだか、グローカーは体勢を大きく崩し、その腹を無防備に晒していた。

 

『今っ!!』

 

瞬時にビクトリーナイトへ変身したビクトリーが、ナイトティンバーを構えて突っ込んで行く。

 

『ハァァッ!!ナイトビクトリウムブレイクッ!!』

 

強烈な浄化の光を籠めた斬撃、ナイトビクトリウムブレイクが炸裂、グローカービショップに纏わりついていた闇をあぶり出し、全て打ち消した。

 

『ギンガコンフォート。』

 

だがそれだけでは終わりでは無い。

最後の力を振り絞り、ギンガはグローカービショップより隼人を切り離す事に成功する。

 

核となる人間を抜かれたからか、先程までの絶対的な動きから一転、グローカーはまるで、糸の切れた操り人形のようにその動きを停止した。

 

『これでトドメッ!!』

 

『えぇ、よろしくて。』

 

地に降りたったコスモスとジャスティスが並び立ち、それぞれの左腕と右腕を交錯させ、エネルギーをスパークさせていく。

 

まるで、二人の力を完璧にクロスさせる、そんな印象を受けていた。

 

『『クロスパーフェクション!!』』

 

二つの光線をクロスさせた大技、クロスパーフェクションが抜け殻となったグローカービショップに炸裂、その装甲を突き破り、盛大に爆散させた。

 

それは、三浦優美子という少女が着けるべき決着が着いたという、その証を示すもののようにさえ思えた。

 

『お、終わった・・・?』

 

戦いが終わった事に実感が湧かないのか、優美子は自分の掌を食い入るように見つめていた。

 

本当にこれが自分の力なのか、その戸惑いが透けて見える様でもあった。

 

『いいえ、まだ終わってはいませんわよ、最後まで決着、着けて下さいまし。』

 

まだ終わっていない、そう言い残し、コスモスは沈みゆく夕日に向かって飛び、その姿を消した。

 

優美子が周囲を見渡せば、既にギンガやビクトリーもその姿を消しており、倒れ込む隼人の周りに人間の姿として彼女を待っている様な雰囲気を見せていた。

 

それを受け、彼女もまた、もう一つの決着を着けるべく、人間としてその場に赴いた。

 

自分の中で燻っていた想いを、今度こそ彼に届けるためにも・・・。

 

sideout

 

 




次回予告

彼が求めていたものとはなんだったのだろうか。
それを知った時、彼女は一つの決断を迫られる。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

三浦優美子は求めていた

お楽しみに

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