やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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戸塚彩加は気付き始めた

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「それでは、全国模試の回答を返却する、志望校選びに直結する内容だ、しっかりと確認する様にな。」

 

グローカービショップが倒されてから数日の後、八幡達のクラスでは冬休み前に行われていた全国模試の結果の返却が行われていた。

 

高校二年の3学期ともなれば、一年後、早ければ半年かそこらで大学受験が始まる時期だ。

自分の将来の方向を変えるかもしれないその結果に、皆表情が硬かった。

 

結果が書かれた紙を見ていた者達の表情は、喜色に彩られ安堵するか、落胆に落ち込むか、そのどちらかだった。

 

「うん・・・、この調子なら、大丈夫だね。」

 

自身に返って来た結果を眺めながら、沙希は何処か安堵した様な表情を見せていた。

 

どうやら、彼女の今の学力と希望していた大学の偏差値に、絶望的な開きは無かったのだろう、今後の計画を見通せば、希望の大学に合格できる見込みは十分だった。

 

尤も、何事もなければと言う大前提が付き纏う訳だが、今ぐらいはひと息吐いていてもバチは当たるまい。

 

「その感じだと、沙希は大丈夫みたいだな。」

 

そんな彼女の隣の席に座っていた八幡が、何処か安心したような表情で話しかけてきた。

 

「まぁね、八幡も良かった感じ?」

 

「応とも、沙希のお陰で数学も大幅アップだ、これなら国公立、狙えるぜ。」

 

沙希の問い掛けに、八幡はサムズアップしながらも笑み、順調だと言ってのけた。

 

夏休みから本格的に数学の総復習を重点的に行う様になった八幡は、元々強かった文系科目を維持、補強しつつ、数学系科目の点数も大きく上昇させていた。

 

その結果、模試の総合点も大きく上昇し、流石に学年トップレベルとは言い難いが、それでも進学校と呼ばれる総武高校でならば国公立も狙える位置につける程にまでなっていたのだ。

 

「そんなに褒めたって、今日の膝枕延長しかないよ?」

 

「すんげぇご褒美だな、ありがたく貰っとく。」

 

半分本気な事を言い合いながらも、二人の表情には笑みが溢れていた。

 

愛し合う者と共に笑い合う、温かな空気がそこには流れていた。

 

「八幡、沙希ちゃん、二人とも良さそうだね。」

 

そんな二人の間に、彩加もまたひょっこりと入り込んで行った。

 

大好きな親友との時間、そして、彼等と共に歩める未来を語らいたい、そう願っての事だろう。

 

「おう、彩加はどうなんだ?」

 

「僕もバッチリだよ、これなら同じ大学行けるかもね。」

 

「まぁ学部は違うだろうけどね。」

 

彩加も首尾は上々らしく、同じ目標を抱ける事を喜んでいた。

 

尤も、それぞれが希望する進路や、僅かながらも差がある学力の関係で学部や学科は些か異なってしまう可能性もあったが、それでも三人は構わなかった。

 

幾ら選んだ道が違っても、分かり合える相手がいる。

それだけで十分だったに違いないのだから。

 

「へぇ・・・、沙希は兎も角、ヒキオも成績良かったんね・・・。」

 

そんな彼等に、何処か顔色の良くない優美子が話しかけてきた。

 

「三浦か、っていうかその呼び方なんだよ・・・。」

 

彼女に気付いたか、八幡がその呼び方に対して少々文句言いたげな様子だった。

 

名前呼び出ない事はまぁ良いとはいえ、それでも納得のいかない呼ばれ方と言うのもあるだろう。

 

「あーしは全然ダメかもね・・・、私立でちょっと良いトコしか無理そう・・・。」

 

「おい俺の話を聞け。」

 

自分を無視して話し始めた優美子に一言物申したくなったが、取り立てて追及する事も無いために口を噤んだ。

 

「そっか、まぁ頑張んなよ、二足の草鞋は結構大変だからね。」

 

「分かってるし、っていうか、その事で相談したいんだけど。」

 

沙希の言葉に、優美子はタメ息を吐きながらも神妙な表情を作った。

 

どうやら、翔同様、八幡達にウルトラマンとしての手ほどきをしてほしい様にも見えた。

 

「場所が場所だ、帰りに聞く。」

 

「ん、分かった、ヨロシクね。」

 

だが、ヒトの目がある教室内で話せる内容では無い事は明白だった。

遠回しにそれを伝えると、優美子は一言だけ短く返し、自分の席へと戻って行った。

 

「いろいろ大変だよなぁ、俺達が変わっちまっただけか・・・。」

 

そんな優美子の背を見送りながらも、八幡は自分達の境遇に苦笑する以外なかった。

 

一年前までは平凡な、ただ友達と呼べる者がいない高校生だった自分達が、今やこの街を、ひいては世界を護る存在になっているのだ、あまりの変わり様に、改めて振り返ってみると戸惑う部分があるのかもしれない。

 

だが、そんな感傷も、今では心地の良い物になっているのも事実だった。

八幡は、これまでに経験した事に思いを馳せながらも、これから来る未来を想っていた。

 

「それに・・・、もうすぐ、最後の戦いだな・・・。」

 

「うん・・・。」

 

しかし、大学受験よりも前に、終わらせねばならぬ決着が、彼等にはまだ残されていたのだ。

笑みを引っ込めた八幡の言葉に、沙希は苦い顔をしながらも小さく、そして悲しげに呟いた。

 

大決戦を発端とする、この世界で起きている怪獣災害。

その元凶たる存在、ダークルギエルとの最後の戦いが間近に迫って来ている事を、彼等は肌で感じ取っていた。

 

これまで、ダークルギエルの闇の被害に遭ったのは、どういう訳か彼等の知り合いが大半を占めていた。

 

だが、それも最後の一人と予想されていた隼人の案件も終わり、一通りの布石は為されている。

 

最後の一手は一夏達が詰めると、以前聞かされた計画の内で本人達が語ってはいた。

 

その彼、八幡達の師である織斑一夏の予想が正しければ、遠くない内にルギエルは最後の手に出てくる筈だと。

 

そこでルギエルを倒せば、この世界に起きる怪獣災害は終わりを迎え、元の、ウルトラマンや怪獣が存在しない世界へと戻って行くはずだった。

 

だが・・・。

 

「でも、この戦いが終わったら、先生達は・・・。」

 

「「ッ・・・。」」

 

それは、彼等の師、アストレイメンバーとの別れも意味していた。

 

放浪の旅を続けていた彼等がこの世界に留まったのは、一重に大決戦の後始末の側面が大きい。

 

彩加達を鍛えていたのも、自分達が戦えない間の戦力を立てる為だった。

 

それと分かっていながらも、先達として自分達を導く一夏達の姿に、八幡達は何時しか師弟の情を超えた感情を抱いていた。

 

尊敬と愛、その二つから来る、別離への恐怖と悲哀が、彼等の胸中に渦巻いていた。

 

「出来る事なら・・・、ずっとこの世界にいて欲しい・・・、でも・・・。」

 

それに気付き始めていた彩加は、苦しげに、だが、何処か諦めた様に呟いた。

 

出来る事なら、ルギエルとの決戦が終わった後も、この世界に残り、今までのように自分達を導いてほしいとは思う。

 

そして何時か、師達を超えた自分達の姿を見て欲しいとも思っている。

 

だが、それと同時に、自分達が彼等を引き留めてはいけないと分かっていた。

 

自分達の帰る場所を捜し、旅を続ける一夏達にこの世界に残ってくれとは、とてもではないが出来る筈も無かった。

 

「何時までも、甘えちゃいけないって分かってる、分かってるけど・・・。」

 

沙希もまた、八幡とその気持ちを同じくしているのだろう、その表情は暗く、重いモノだった。

 

何度も自分を導き、戦う意味と真に寄り添える相手を教えてくれた一夏達は、彼女にとって師を超えた恩人、そう言うに値するモノだった。

 

故に、この地を去って欲しくない気持ちは、一入だったに違いない。

 

「うん・・・。」

 

八幡と沙希の言葉に、彩加もまた、ただ頷く事しか出来なかった。

 

自分の想いと一夏達の生き方、そこにあるジレンマに苦しんでいるのだろう。

 

だが、思い悩んだとて、今の彼等には一夏達を止引き留めるだけの理由も、手段も無い。

 

故に彼等は、思考の片隅で考えてしまっていたのかもしれない。

このまま、戦いが起きないまま終わらず、彼等がこの世界に残ってくれる事を・・・。

 

sideout

 

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「間もなくだ。」

 

その日の夜、アストレイの店内には、メンバー全員が揃っていた。

 

何時もの会議のように、円卓に7人全員が向かい合う様にして腰掛け、グラスに注がれたワインに手を着ける事も無く、何処か重苦しい雰囲気の中でその話し合いは進められていた。

 

誰もが沈黙を貫く中、リーダーである一夏がその口を開いた。

 

「これまでのダークスパーク絡みの事件で、ヤツは相当に力を取り戻している、昨年末に沙希達4人が囲んでも捕まえられなかった事からも、復活は秒読み段階に入っていると見て良いだろう。」

 

「やはりな、ヤプールも消え、自分の計画を邪魔する者も俺達以外いなくなった、実に都合の良い頃合いだな。」

 

一夏の推測に、彼の向かいに座っていたコートニーが納得した様に言葉を発した。

 

ヤプールとルギエル、同じくこの世界に悪意を齎す存在ではあったが、それが同じ方向を向いているかと言われれば、否と答えられる関係性だった。

 

何せ、ヤプールは一夏のティガアナザーに斃されるまでの間に、何度か八幡達にもちょっかいを掛けてはいた。

 

だが、それでもルギエルよりも頻度は少なく、単独での襲撃や超獣を嗾けての行動が多かった。

 

ルギエルもまた、ヤプールとは関係なく事を進め、八幡達の前に何度も立ち塞がっていた。

 

故に、この二体が協力した事は殆どなく、目的を同じくしていないのは明白だった。

 

「だからか、ヤプールのやり口や目的は分かり切ってるが、ルギエルのやる事は何度か見ないと分からなかった訳だ。」

 

その説明に、宗吾も何処か納得した様に呟いていた。

 

何故ルギエルのやろうとしている事が分からなかったのか、その理由が分かったのだろう。

 

「ヤプールは人間を狂わせ、破滅させようとしている、でも、ルギエルには滅ぼす様な邪悪は感じなかったからかもね。」

 

宗吾の言葉に、玲奈もまた納得の表情で頷いていた。

 

ヤプールのやり方は、人間を狂わせるように精神的な攻撃を行い、それを助長させる様に超獣による蹂躙が行われていた。

 

それに対し、ルギエルが主としたのは人間の闇の部分に付け込み、それを増幅して怪獣化した人間に鬱憤を晴らさせる様に暴れさせることだった。

 

一見して似た様なやり方には見えるが、その根本はある意味で異なっていたのだ。

 

悪意に満ち満ちたヤプールの様なやり方ならば、アストレイのメンバーは先回りして止める事も出来ただろうが、ルギエルのやり方の共通項に気付くのには時間を要した。

 

悪意はあったとしても、それはともすれば、別の感情とも読めたが故に後手に回らざるを得なかった部分もあったのだ。

 

「でもまぁ、それで怪獣暴れさせるならこっちもやる事やらないとね。」

 

だが、それももうここまでと、シャルロットが宣言する。

 

いい加減、この世界にも長居しすぎた。

さっさと終わらせてこの世界を去る、その意思が強く滲み出ていた。

 

「でも、あの子たちはどうするの・・・?まだ私達が教える事が・・・。」

 

そのシャルロットの言葉に反応し、リーカが少し昏い声色で言葉を発した。

 

その言葉に、一夏を除く一同が複雑な表情を取った。

 

この世界に降り立ち、幾ばくかの思惑があったとしても、自分達を師と慕ってくれた八幡達の事を想うと、このままこの地を去っても良いモノか、そう思う者も居たのだろう。

 

出来る事なら、自分達がこの世界に残るか、彼等が自分達と共に旅に出るかして、彼等が持つ技の全てを教えたいと言うのがリーカや宗吾が持つ、偽らざる本音だった。

 

赦される事ならば・・・。

 

「ですが・・・、私達には、強制する事は出来ませんわ・・・、決めるのも、進むのも彼等次第、という事・・・。」

 

だが、そのどちらかの道を選ぶのは自分達では無い、彼等が出した答えだ。

 

自分達を必要とするならば応じればいい。

必要としないならば、これまでのように旅に出ればいい。

 

情もへったくれも無い言い草に思えてならなかったが、結局のところ、それが全てとしか言いようが無かった。

 

「とにかく、だ・・・、俺達の最後の役目は、ルギエルを倒す事だ・・・、それが終われば、7人全員の力で異界の扉を抉じ開ける、躊躇いは無用だ。」

 

全員を纏め上げるように、話を聞いていた一夏が言葉を発した。

 

情に絆されず、躊躇う事なく、自分達のやるべき事をやるだけだと、その為に力を尽くすだけだと・・・。

 

それを最後に、皆、何か言いたい事があっただろうが、話は終わったと言わんばかりにワインを一息で飲み干して店の奥の自室へと帰って行った。

 

「まったく・・・、情に絆されるなと言っておきながら・・・、一番絆されているのは俺って訳か・・・。」

 

一人残った一夏は、何処か自嘲するように呟き、タメ息を吐いていた。

 

メンバーの前では気を張り、冷静かつ自分達の正道を見据えて動いている様に振舞う事は出来た。

 

だが、本音を言えば、この世界で力を全て伝えた後に、自分を超える超人となる弟子の行く末を見守りたかった。

 

しかしそれは、今の彼等のやるべき事では無い事も承知していた。

だからこそ、彼は敢えてこの世界を去ると言う決断を下したのだ。

 

「ホントに・・・、嫌にもなる・・・、自分自身の小ささってのは・・・。」

 

自分自身の弱い部分を吐き捨てるように、そして何処か嘲笑う様に、一夏は注がれたワインに口を付けた。

 

その一口一口に、千万の想いを共に飲み干す様に・・・。

 

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そこは、無限とも思われる程に深く、果てない闇が広がっていた。

 

一切の光も通す事の無い、底無しの昏さを持った闇が、その空間を支配していた。

 

―――時は来た―――

 

闇の中で、その者はひっそりと、だが、確固たる意志を籠めて宣言した。

 

機は熟した。

 

何人もの憐れな人間共を使い、その心の闇を増幅させて解き放ち、世に悪意をばら撒く事で闇を深めて来ていた。

 

本来ならば気の遠くなるような時間を要しただろうが、大決戦から僅か2年足らずでその力は満ち、溢れんばかりとなりつつあった。

 

この世界の人間、特にその者が目を着けた地域に居た人間たちの闇の感情には目を見張るものが有った。

故に、その闇を取り込み、自身の力を取り戻したのだ。

 

―――愚かな人間共よ、間も無く、貴様たちも知る事となるだろう、真なる幸福と言うモノを―――

 

闇の中で、その者は高らかに笑っい、最後の一手を打つ。

 

その哄笑と共に訪れるは、この世の終焉を告げる悪魔の宣告だった・・・。

 

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次回予告

世界が止まる時、絶望の闇が世界を覆う時、彼等は遂に真なる敵と邂逅する


次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

比企谷八幡は立ち向かう

お楽しみに

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