やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
side八幡
何故こんな事になっているのだろう。
その疑問に、自分自身でも答える暇も無く、俺は拳を振るい続ける。
『ショォウラッ!!』
どれ程戦い続けたのだろうか、日は既に傾き、闇夜の訪れを告げる夕日に照らされながらも、俺は二体の怪獣を相手取っていた。
ムチの様な腕を振り回しながら向かってくる怪獣、グドンを殴り飛ばし、振り向き様に背後から迫っていた、頭が下にある怪獣、ツインテールに回し蹴りを叩き込む。
相手が二体いる状況で、俺独りで戦うのは実はそんなに回数を熟した訳じゃ無いから、なるべく二体同時に攻撃されない様、二体を引き離しながら戦っていた。
何時も以上に気を遣って戦ったせいか、少し体力もペース配分も狂って来ていた。
だから、そろそろ終わらせてやる・・・!
ツインテールの触角を掴み、大きく振り回す事でグドンの方へ放り投げる。
ツインテールを回避する事が出来ず、グドンはその衝撃によろめき、大地に倒れ伏した。
『ギンガファイヤーボール!!』
その瞬間、俺は無数の火球を放ち、グドンとツインテールにそれをぶつけた。
ギンガファイヤーボールの威力に耐え切れず、グドンとツインテールは盛大な爆発と共に四散し、消滅した。
『これで、受け持ちは最後か・・・。』
太陽が完全に沈むと同時に、俺は変身を解除、手近なビルの屋上に降り立った。
だが・・・。
「くっ・・・、きっついなぁ・・・。」
予想以上に身体に蓄積されたダメージがあるのか、俺は立っていられずに片膝を着いた。
少しでも身体を休める為、俺は引き摺るように身体を動かし、手近な壁にもたれて呼吸を整える。
幾ら鍛えてるって言ったって、体力には限界があったからな。
「比企谷君・・・!大丈夫か・・・!?」
屋上の扉を蹴破る様にして、大きめのバッグを背負った大和が俺に駆け寄ってきた。
まったく・・・、逃げろって言われてたのに・・・。
「大和・・・、見ての通りだ・・・。」
「大丈夫、じゃなさそうだね・・・、とりあえず、これ飲んで!」
俺の冗談めいた口調に応じる事無く、バッグからスポーツドリンクが入ったペットボトルを取り出して手渡してくれた。
俺はそれを半ばひったくるようにして受け取り、被る様に流し込んで行った。
「何とか、護るだけは護れたか・・・。。」
スポドリを飲み干して、俺は身体の中にたまった色々な物を吐き出すようにタメ息を吐き、呼吸を整える。
なんとか、自分が受け持った場所の敵は倒し、一応街も護っておいたから今は良い。
だが・・・。
「でも、酷い状況だ・・・、この街に、今ウルトラマンは比企谷君しかいない・・・。」
大和の言葉通り、今の状況は御世辞にも良いとは言えない。
何せ、今の千葉市とその近郊には、ウルトラマンが俺しかいないのだから・・・。
「状況は最悪、だけど、やるしかないさ・・・、頼まれちまった、からな・・・。」
しかし、次の怪獣がいつ出るか分からない、日が暮れたからと言って、怪獣が出ない訳ではないのだから。
何故こんな事になっているのか、話は、数日前に遡る・・・。
sideout
noside
その日は二月に入って間もない土曜日だった。
その日は、俗にいうバレンタインデーまで日数があと僅かまで迫っていた事もあり、アストレイの店内には男性陣を除いた女性メンバーと、沙希達などの関わりのある少女たちの姿もあった。
小町は受験間近と言う事を考慮され、今は自宅で同じく受験生の大志と共に勉強をしているらしい。
それはさておき・・・。
「えー、それでは、アストレイ恒例のバレンタインチョコ製作会を始めたいと思います♪」
笑顔で司会進行を務めているのは、アストレイの店長であり、サブリーダー的ポジションに収まっているセシリアだった。
イベント事が大好きなアストレイのメンバーからしてみれば、これは只の助力では無く、弟子たちを可愛がる為の口実でしかないのだから。
因みに、男連中はBBQと言う名の追い出しに遭っており、近くの河原に集まっているとの事だった。
「何時から恒例になったのよ、あたし知らないけど。」
「そりゃ玲奈は作れないからね。」
呆れるように呟く玲奈に、シャルロットは冷たく突っ込みを入れていた。
何度も言うが、玲奈は菓子作りだけは苦手であり、今では食えなくはない程度まで底上げされているとはいえ、一般人と比べても、お世辞にも美味いとは言えない程だった。
それを言われてしまえば何も言えなくなるのか、玲奈は苦い表情をしながらも押し黙り、そそくさと調理器具や材料を並べる作業に戻って行った。
師のそんな姿に、沙希は苦笑しながらも周囲に目を向けていた。
彼女の近くには南や姫菜、そして新たにウルトラマンとして覚醒した優美子の姿もあった。
南は男女の付き合いのある大和に贈るチョコを、姫菜と優美子はそれぞれ世話になった相手である翔と大志に贈るモノを作りに来た、という風だろう。
それを察しつつ、こんなにも人が増えた事を何処かおかしく思いながらも、小さく笑っていた。
「では沙希さん、代表として頑張りましょうね♪」
「へっ・・・!?」
まさか自分に丸投げされるとは思いもしなかったのだろう、沙希は素っ頓狂な声をあげてセシリアの顔を見た。
そこには、まるで悪戯が成功した時の少女の様な、からからと笑っていた。
そこに恨めしげな表情を向けはしたが、何を言っても暖簾に腕押しと判っているのだろう、彼女はタメ息を一つ吐き、準備されていた調理器具と材料を使って手際よくチョコを湯煎し始めた。
「簡単に出来るヤツだけど、チョコケーキのクリームに混ぜ込むから、よく見といてね。」
その手際の良さは、元から持っていたものを、普段の家事で昇華させた技が光っていた。
その手際の良さを知っている南は兎も角、あまり料理が得意とは言い難い姫菜と優美子も、その技を学ぼうとかぶりついてその手元を見ていた。
そんな熱心な弟子たちの様子に感化されたか、玲奈もまた、沙希の背後からこそーっと様子を見ていた。
彼女のそんな姿に、セシリア達は苦笑しながらも、自分達の仕事もせねばといそいそと調理を始めた。
そこからは、沙希の独壇場だった。
見ているだけでなく、手も動かせと檄を飛ばし、姫菜や優美子はそれにつられて忙しなく動きながらも相手に贈るために必死にプレゼントを作ろうとしていた。
そうこうしている内に、沙希が作ろうとしていたケーキが出来上がり、後は飾りつけだけになっていた。
「これで、完成・・・。」
最後の仕上げと謂わんばかりに、『My LOVE Dear Hachiman』と書かれたホワイトチョコの板を乗せようとした、まさにその時だった。
『ッ・・・!?』
突き上げるような巨大な揺れが襲い、彼女達は大きく揺さぶられてしまった。
「い、一体何が・・・!?」
「ま、まさか怪獣か・・・!?」
あまりに唐突な揺れに、姫菜が狼狽え、優美子がまさかと言わんばかりの表情で身構えた。
二人とも、この世界が置かれている事情と言うモノを改めて突き付けられた事で、危機感と言うモノが出て来たのだろう、その表情に余裕は無かった。
「まったく・・・!これ出来上がるまで待ってってのに・・・!!」
沙希はというと、最早慣れっこと言わんばかりに、形が崩れぬようにホワイトチョコを綺麗に飾り付けた後、エプロンを一瞬で脱ぎ捨てて店の外へと駆け出した。
彼女が外に出ると、道路を挟んだ崖のはるか向こう側に、その姿は有った。
超古代獣ゴルザと、超古代翼竜メルバの姿があった。
「あれは、まさかファイブキングの・・・?」
「えぇ、パーツになった怪獣よ、だけど、油断しなければ勝てるわ。」
沙希の言葉に、玲奈が簡潔にアドバイスを渡した。
油断さえしなければ、鍛えられたお前なら負けないという意思が籠められていた。
「はいっ!」
『ウルトライブ!ウルトラマンビクトリー!!』
すぐさまウルトライブし、沙希はビクトリーとなってゴルザに飛び掛った。
それに反応し、ゴルザとメルバは咆哮をあげながらもビクトリーに突っ込んで行く。
地と空、その両方から攻撃が開始されていた。
『ウルトランス!エレキングテイル!!』
『ハァァッ!!』
ゴルザをビクトリウムスラッシュで牽制しつつ、向かって来たメルバの翼にエレキングテイルを巻き付け、電撃による攻撃を加える。
多対一の状況においても、どうすれば的確な攻撃が出来るかが見えているのだろう、その行動には一切の躊躇いは見受けられなかった。
メルバが地に伏している隙に、ゴルザを徹底的に相手するつもりなのだろう、挟み込む様なとび蹴りを叩き込んで怯ませる。
メルバが起き上がろうとした際は、その首を掴み、大きく振り回しながらもゴルザにぶつけて二体とも沈黙させた。
その手際は見事であり、幾らゴルザとメルバの連携が撮れていないとはいえ、沙希の力が強力な物となっている事を如実に表していた。
『これでトドメだ!!』
時間をかける気は無いと、彼女は一気に力を解放し、必殺光線の体勢に入った。
『ビクトリウムエスペシャリー!!』
ビクトリーの身体に散らばるクリスタルから無数の光弾が放たれ、グロッキーになったゴルザとメルバに殺到、その巨躯に食らいつく様に直撃していく。
その威力に耐え切れずに、二体の怪獣は爆散、青い光の粒子となってスパークドールズへと戻って行った。
『全く、大事な時になんて邪魔してくれたんだい・・・。」
折角、初めて付き合った恋人の為にチョコを作っていたのだ、それを邪魔されて少々ご立腹だったようだ。
大きなタメ息を一つ吐き、変身を解こうとした、まさにその時だった。
『ダークライブ!!グライキス!Xサバーガ!!』
『何っ・・・!?』
闇の波動と共に、新たに二体の怪獣がその姿を現す。
何処かワニガメの様な見た目を持った怪獣、グライキスと、左手がドリルのような形状をしている怪獣、Xサバーガは、それぞれ咆哮をあげながらもビクトリーに迫って行く。
『くっ・・・!」
大技を出した直後でもあるため、まだ戦えるとは言え、既に余裕と言うモノはないのだろう、沙希は何処か上擦った声をあげる以外なかった。
「やばいじゃん・・・!あーしもッ!!」
沙希の危機を感じ取り、優美子もジャスティスとなって怪獣たちの前に立ちはだかる。
『助かる・・・!でも、なんでこんな・・・!!」
その助太刀に感謝しつつも、沙希は頭を過ぎる疑問を払拭できずにいた。
なぜこうもポンポンと怪獣が湧く様に出て来るのか、これまで、幾ら出て来たとしても1体ずつか、間を開けての2体目までが関の山だったのだ。
どうしても、特別な思惑がある様な気がしてならなかった。
それは、見ていたセシリア達アストレイにとっても予想だにしなかった事なのだろう、取り乱してなどいなかったが、それでも何かを危惧する様な緊張の面持ちをしていた。
二体の怪獣を相手取るビクトリーとジャスティスは、互いを護る様に立ち回りながらも、焦りを隠せない様子だった。
『一気に片付けるよ!!』
『分かってるし・・・!』
時間をかけている場合では無い、そう判断した沙希に返しつつ、優美子もまた敵を倒す為に動いた。
空を飛ぶグライキスに対し、ジャスティスが高く飛び上がる。
上を取った事で体勢を整え、右脚にエネルギーに集めていく。
『クラッシャーハイキックッ!!』
クラッシャーモードにモードチェンジし、一気に急降下、迫ってくるグライキスの脳天に強烈な蹴り技を叩き込んだ。
その威力は凄まじく、グライキスはそのまま真下へ急速に落下、あまりのダメージに動けなくなっていた。
『ウルトランス!キングジョーランチャー!!』
Xサバーガの左手のドリル突きを半身になって躱しつつ、キングジョーをウルトランス、弾幕を張る。
それが牽制になったのだろうか、Xサバーガが一瞬だけ怯んだ。
『今っ・・・!!』
『ウルトランス!シェパードンセイバー!!』
切り札のシェパードンセイバーを呼び出し、身体をもう一度捻って斬りつけた。
その威力は凄まじく、Xサバーガは大きくよろめき、後ろに倒れ込んだ。
『決めるよ!!』
『任せな!!』
これで終わらせる、その意気を籠めて二体のウルトラマンは動いた。
『シェパードンセイバーフラッシュ!!』
『ダクリューム光線!!』
飛ぶ斬撃と強烈な光線が迸り、二体の怪獣に炸裂、その姿を跡形も無く消し飛ばした。
それを認め、体力が減ったビクトリーは膝を着いた。
『大丈夫・・・!?』
『何とかね・・・、でも、なんだってこんな・・・!』
案ずる声を掛ける優美子に、大丈夫だと返しながらも、沙希は悪態を吐く他無かった。
何故こうも連続して怪獣が出て来るのか、その理由が皆目見当も着かなかった。
その時だった。
戸惑う二人の上空で、一夏からのウルトラサインが瞬いた。
『全員、即刻変身して戦闘を開始しろ!関東各地に怪獣が現れた!!』
「なっ・・・!?」
その報せに、沙希だけでは無く、アストレイメンバーすら驚愕に値するモノだったのだ。
だが、それは序の口に過ぎなかったのだ。
これから巻き起こる、最後の戦いの、序章に・・・。
sideout
次回予告
世を揺るがす大災害、それを抑えるべく動き出すウルトラマン達。
そして、全てを終わらせる思惑は、最後の地へと彼等を誘った。
次回やはり俺の青春のウルトラマンがいるのはまちがっている
比企谷八幡は立ち向かう 後編
お楽しみに