やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は立ち向かう 後編

side八幡

 

回想を終わらせ、俺はもう一度大きく溜め息を吐いて水を飲む。

 

沙希と三浦が二体同時に出て来た怪獣を倒した後も、休む間もないと言っていいほどの頻度で次々に怪獣は現れつづけた。

 

中にはスペースビーストなどの厄介な性質を持つ連中も居たが、問題はそこには無い。

何せ、数が多いだけで連携しようとはしないし、あちらこちらに出現しているのだ。

 

恐らく、俺達ウルトラマンの戦力を分散させる目的があるのかもしれない事は分かっていた。

 

だけど、だからと言って全員で向かう訳にもいくまい。

故に、先生の判断で、俺達とアストレイは関東中に散らばって、出現する怪獣達に対応する事となった。

 

事の中心であるこの街には、本当はアストレイメンバーの誰かが残る予定だったけど、先生の進言で俺が防衛を担当する事になっていた。

 

無論、先生のサポートもあるとはいえ、正直キツイ状況である事には変わりないんだけどな・・・。

 

「これから、どうなるのかな・・・?」

 

俺の不安が顔に出ていたのか、大和が不安げに尋ねてきた。

 

この街は、この世界はこのまま滅びに向かってしまうのだろうか。

力の無い人間故の苦悩が、彼の顔にはそれが浮かび上がっていた。

 

本当だったら、それは俺が一番聞きたい事だった。

前々から、この世界には危機が迫っているとは前々から承知はしていたし、覚悟もしているつもりではいた。

 

だけど、実際に怪獣が同時多発的に現れ、誰の助けも得られず、闇の支配者が近くにいると思うと、俺だけでやれるのかという不安は勿論あった。

 

でも、力を持つ俺が、その闇に対抗できる俺が不安でいて良い筈がない。

だから、俺は無理にでも笑ってやる、それで、彼の不安の種が一つでも消えるのならば。

 

「大丈夫、なんて言えやしない、だけど、俺は戦うだけだから。」

 

「無理だけは、しないでくれよ・・・?」

 

俺の言葉に、もう何を言う気も無いのだろうか、彼は俺に肩を貸しつつもそう告げた。

 

それをありがたく受け入れつつ、俺はまだ不安を拭い去る事は出来なかった。

 

だからだろうか、これから起こる事件に、俺達は翻弄されるしかなかったのだ・・・。

 

sideout

 

noside

 

「まったく、好き勝手やってくれる。」

 

日も沈み、夜も更けてきた頃、人気の無くなった総武高の屋上でその男は小さく呟いた。

 

目元を隠す白いローブを羽織ったその男、アストレイのリーダー織斑一夏は、空を見上げながらも嘆息した。

 

何故こうも節操なく怪獣を出してくるのか、十人を超えるウルトラマンが存在しているこの世界において、戦力を分断させる様な真似をするのか。

 

答えは単純明快、これから行う最後の侵略を行いやすくするため、そして、その力を少しでも弱める為。

 

それがわかっていても、彼は仲間と弟子たちを振り分け、関東中に散らばせた。

 

弟子たちは千葉近郊より少し外れた場所に、アストレイメンバーは関東外縁部に向かわせた。

 

移動手段の有無も含まれているだろうが、弟子たちの体力的問題も加味している部分は有った。

 

だが、それがどうした。

来るなら来てみろ。

 

今の自分には紛い物とは言え、戦うための力がある。

そして、戦えるのならば、戦士として生きてきた自分が負ける筈も無い。

 

「まぁ良い、来るなら来てみやがれ、俺がねじ伏せてやる。」

 

喩えその相手が誰であれ、刺し違えてでも止める覚悟は既にデキている。

 

自分達が巻き込んでしまったこの世界を、以前の様な怪獣の出ない世界に出来るならば、その責任を果たせるなら・・・。

 

「ここが墓場になるなら、それも良いか。」

 

それで命が尽きても、彼は後悔する事など無いと、自嘲気味に嗤っていた。

 

人間をやめた時から数えて数千年、長く生き過ぎてしまったと・・・。

 

「だから、早く出てこい、ダーク・ルギエル、お前のやる事、俺が全部止めてやるよ。」

 

故に彼は待っていた。

闇の支配者が現れるその時を。

 

一年半に及ぶ戦いの終止符を打つために・・・。

 

sideout

 

noside

 

『ハァァッ!!』

 

それから更に2日程が経過した。

 

今もまた、八幡はギンガとなり、向かってくる怪獣に立ち向かっていく。

 

何処かロケットの様な印象を受ける怪獣、リガトロンに対し、彼は上空高くから放つ蹴り、スワローキックを頭部に叩き込んだ。

 

その蹴りの威力は凄まじく、リガトロンは大きくよろめいて後退させられる。

 

だが・・・。

 

『くっ・・・!』

 

変身してまだ一分経つか経たないかと言う程度の時間で、既にカラータイマーは点滅を始めた。

 

怪獣大進撃の初日から数えれば既に一週間以上が経過しており、連日連夜戦い続けていたため、蓄積されていた疲労もピークに達していたのだろう。

既に気力だけで動いている状態の八幡は膝を着き、追撃する事が出来なかった。

 

それを好機と見たか、リガトロンは体勢を立て直し、一気にギンガの方へと突進していく。

 

『しまっ・・・!!』

 

それに気付いた時には既に遅かった。

リガトロンの腕がギンガの身体を捉え、腕から電撃を発して攻め立てていく。

 

『ぐぁぁぁっ・・・!!』

 

最早逃れるだけの体力も着きかけていたのだろう、逃れることさえ出来ずにもがき苦しむ事しか出来なかった。

 

カラータイマーの点滅が勢いを増し、最早これまでかと思われた。

 

その時だった。

 

『ビクトリウムバーン!!』

 

『『アタッカーXッ!!』』

 

何処からともなく飛来した二筋の光条がリガトロンの背面を襲った。

 

不意打ち気味な攻撃に堪え切れず、リガトロンは大きく体制を崩し、ギンガを解放してしまっていた。

 

それを好機とみて、ギンガは残された力を振り絞ってリガトロンとの間合いを取った。

 

『今のは・・・!!』

 

何が起こったのか理解した八幡は、歓喜の声をあげた。

 

今の攻撃は、自分が最も信頼している者達の・・・。

 

『八幡・・・!!』

 

『大丈夫・・・!?』

 

『間に合ってよかった!』

 

ビクトリーとXがギンガを庇う様に降り立ち、リガトロンに対して構えを取った。

 

だが、既にカラータイマーが点滅していることからも、連戦に連戦を重ねている事が窺えた。

 

『何とかな・・・!一緒にアイツ倒そうぜ・・・!!』

 

誰よりも、何よりも信頼できる恋人と親友の帰還に奮起したのか、八幡は無理して笑いつつも立ち上がり、構えを取った。

 

既に体力はそこを突きかけており、これが最後の一撃になるであろう事が窺い知る事が出来た。

 

『勿論だよ!!』

 

『行こう!!』

 

その声に、沙希と彩加もまた精一杯の力を振り絞って構えた。

 

これで決める、三人の気迫がそう物語っていた。

 

『行くぜ!!ギンガクロスシュートッ!!』

 

『ビクトリウムシュート!!』

 

『『ザナディウム光線!!』』

 

三体のウルトラマンから、強烈な必殺の光線が放たれ、リガトロンの強固な装甲に直撃する。

 

だが、かなりの強度がある装甲なのだろう、3つの光線をクロスさせた攻撃にも耐えている様子だった。

 

『ウォォォッ・・・!負けて、堪るかぁぁ・・・!!』

 

これは自分が受け持ったヤマだ、本来ならば、沙希や彩加の手を煩わせる訳にはいかない。

 

だからこそ、八幡は自身の体内に残るすべての力をバーストさせる様に力を籠め、その全てをリガトロンへとぶつけた。

 

その感情が光となり、ギンガクロスシュートの光条をより一層力強く、そして強大なモノへとした。

 

その威力は凄まじく、リガトロンの装甲を貫通するだけにとどまらず、背後の山さえ消し飛ばすほどだった。

 

だが、その成果はあったのだろう、リガトロンは青い光の粒子となって消滅し、スパークドールズへと封印された。

 

『へ、へへ・・・、やったぜ・・・。』

 

それを認め、変身する体力が尽きたのだろう、ギンガは背中から地面に倒れ込み、そのまま変身が解除された。

 

『は、八幡・・・!!』

 

八幡が倒れた事に焦った沙希も変身を解除し、彼を抱き起す。

 

「大丈夫・・・!?」

 

「へへへ・・・、カッコワリィなぁ・・・、大丈夫だよ、何とかな・・・。」

 

不安げに尋ねる沙希に、八幡は心配するなと言わんばかりに笑い、彼女の支えを借りて立ち上がった。

 

だが、思う様に身体が動かないのだろう、その足に普段のそれは無かった。

 

「無理も無いよ・・・、僕だって、結構キテるし・・・。」

 

そんな親友の状態に、彩加もまた全身を襲う疲労と痛みを堪えながらも話す。

 

彩加自身も戦闘慣れしてきているとはいえ、最早疲労もピーク、一瞬でも気を抜けば意識を手放しかねない状況だった。

 

『あぁ、八幡が任されているこの街は、他の地域に比べても怪獣の出現頻度が二倍、いや、それ以上だ・・・。』

 

だが、それ以上の懸念事項も勿論存在していた。

X曰く、八幡が受け持った街の怪獣出現率は異常に高く、如何に一夏が八幡と共に残っていたとはいえ、ほとんど八幡一人で倒している様なものだ。

 

それだけ八幡に負担が集まっている中、もし最後の敵が現れるという事になれば。

 

そう考えると、最早一刻も早くケリを着けたいと言うのが本音だったに違いない。

 

更に間の悪い事に、一夏もまた怪獣頻発の後に、まるで何かを追う様にほとんど姿を現さなくなっていた。

 

よもややられたなどとは思わないが、それでも八幡達若手の精神的支柱である彼の不在は、非常に大きな痛手となっていた。

 

「だからって、逃げる訳にもいかねぇだろ・・・、俺達で、終わらせようぜ・・・!」

 

だが、だからと言ってむざむざと負ける訳にはいかない。

此処で退く様な事があれば、この世界はどうなるか分からない、それが全員の共通認識だったのだ。

 

故に、八幡は自分自身を鼓舞するように声をあげた。

 

負けて堪るか、やってやる。

それだけの想いがその言葉からは伝わってくる様だった。

 

その強い想いを受けて、沙希と彩加も苦しいなりに笑おうとした。

 

その時だった。

 

『『『ッッ・・・!?』』』

 

これまで感じた事の無い様な、途轍もない闇のプレッシャーが彼等を襲った。

 

全身の産毛までもが逆立つ様な、途轍もなく嫌な感触にたじろぐがそれも一瞬の事だった。

 

「遂に・・・・、来やがったか・・・!?」

 

それの正体に思い当たったか、八幡は表情を引き締め、その気配が最も強くなる場所へと急ぐ。

 

そこに待つ、全ての元凶と向かい合う為に。

そして、全ての決着を着ける為に・・・。

 

sideout

 

noside

 

『当地区の避難警報は引き続き発令中、住民の皆様は不要な外出を控え、安全な場所へと避難してください、繰り返します―――』

 

仮設の避難所となっていた総武高校の講堂に流れる防災放送は、引き続き避難警報を流し続けていた。

 

講堂に批難した者達の表情は暗く、不安と疲労に押しつぶされそうになっていた。

 

無理も無い。

これまで散発的にしか現れていなかった怪獣達が、この半月ほどで大量に現れ、まるで蹂躙するかのように暴れ回っているのだ。

 

如何にウルトラマンがいて、それを食い止めようと戦っていたとしても、何時自分に被害が降り掛かるか分かった物では無い。

 

その不安が滲み出ているのだろう、幼子も、大人も、その表情は皆一様に昏く、絶望に近い色さえ窺えた。

 

「これから、どうなっちゃうんだろうね・・・。」

 

その一角、主に総武高生が集まっていた場所の隅の方にいた南が、不安げに呟いていた。

 

彼女もこの街に残り、ウルトラマンとなる者達のサポートに徹していたが、それでも不安が無いわけでは無い。

 

寧ろ、一度闇に取り込まれた経験があるが故に、その力が増して行っている事を肌で感じ取っているのだろう。

 

「このまま、世界が終わるなんて事に成ったら・・・。」

 

このまま闇の支配者が完全に復活してしまったら、自分はその片棒を担いだこととなり、世界を滅ぼしたも同然となってしまう。

 

そんな未来など受け入れがたいモノだったが、既に犯してしまった間違いを訂正する事など出来ない。

 

今の彼女に出来る事は、ただ、最悪の結末にならぬ様、手を組んで祈るだけだった。

 

「分からない・・・、でも、俺達に出来る事は、きっと何か出来る事がある筈だよ、戦えなくたって、出来る事はきっとある。」

 

そんな恋人の苦悩を察し、大和は安心させる様に笑いかけながらも語りかける。

 

自分に何が出来るか、それを見失わなければきっと活路はある。

 

それは、彼自身が見て来た八幡達の戦いの中で感じ取った、一つの答えでもあった。

 

「だから信じよう、比企谷君達の事を、俺達の未来を。」

 

だから、彼に迷いは無かった。

力を持つ友を信じ、彼等が一人では無いと信じ伝える。

 

それが、今の彼に出来る事だと。

 

「そっか・・・、うん、そうだよね。」

 

彼の言葉に、不安が幾分か和らいだのだろう、南は少しだけ笑っていた。

 

このまま不安でいても仕方がない。

ならば、同じ待つだけならば、信じるほかないと割り切ったのだろう。

 

それが、自分に出来る今の過ごし方だと・・・。

 

彼女がそう感じた時だった。

 

「な、なんだあれは・・・!?」

 

窓の外を見ていた避難民が驚愕の声をあげた。

まるで理解出来ない、そう言った感情が適切だっただろうか。

 

それにつられて大和と南も窓の外へと視線を向けた。

 

その先に有ったのは、天を覆い尽くさんばかりに蠢く、漆黒の闇だった。

 

「あ、あの闇は・・・!」

 

その闇に見覚えがあった大和は、震える自身の身体を必死になだめながらも、上擦った声をあげる事が精一杯だった。

 

「闇の支配者・・・!」

 

南もまた、震える声をあげ、その名を呼ぶ。

 

そう、その闇は、この世界を覆わんとする闇、ダークルギエルが齎したモノだった。

 

それを見た者達が、大きくざわつき始めた。

恐怖に慄く者、この世の終わりの様な表情をする者など、講堂内は異様な雰囲気に包まれた。

 

だが、それに構っていられる程状況は甘くなどない。

 

「行こう・・・!せめて近くで見届けるんだ・・・!」

 

責任を果たす為なのだろうか、大和と南は人目に付かない様にひっそりと、だが急ぎ足で行動の外へと向かって行く。

 

自分達が呼びこんでしまった闇をこの目で確かめ、けじめを着けたいのだろう。

 

「俺達も行く!」

 

そんな彼等の前に、隼人や雪乃、結衣が立った。

 

彼等もまた、自分達が犯した間違いのケジメを着けたかったのだろう、その表情や目には確かな感情があった。

 

「黙ってついて来てくれよ!急ぐんだからな!」

 

そんな彼等に短く返しつつも彼は先を急いだ。

 

自分達の罪の形を改めて直視するために。

 

その果てに、何が有るかを見届ける為に・・・。

 

sideout




次回予告

遂に姿を現す闇の支配者に、八幡達は新たなる真実を目撃する事となる。
それが齎すのは、光か闇か・・・。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

比企谷八幡は真実を知る

お楽しみに

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