やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は真実を知る

『いよいよだ・・・。』

 

総武高校の屋上に、その者の姿は有った。

 

黒いローブで身体を覆い、口元だけが見えるその女は、口元を歪に歪めて笑っていた。

 

思惑通り、全てが思惑通りに進んでいる、そう言わんばかりの様子だった。

 

『間もなく、この世界も止まるのだ・・・、哀しみも争いも無い、幸福な時に・・・。』

 

感慨深げに、だが同時に狂気を含んだ声で呟き、その手を天に向けてかざした。

 

その瞬間、天には漆黒の闇が渦を巻く様に発生し、上空を覆って行く。

 

まるで、世界そのものを呑み込まんばかりに、その昏さを深めていった。

 

「待て・・・!!」

 

その時だった、屋上の扉を蹴破る様に、八幡と沙希、彩加の三人が駆け込んでくる。

 

だが、相当に体力を消耗しているのだろう、三人とも立っているのがやっとの状態だった。

 

『ギンガ、ビクトリー、そしてエックスか・・・、随分と遅かったな。』

 

その姿を嘲笑うかの様に、ルギエルは彼等に向き直る。

 

だが、目的の進行は止めてはいない様で、その背後では闇が蠢き、その勢いを広げていた。

 

「何が望みだ・・・!ルギエルッ・・・!!」

 

そんな視線を跳ね除けるかのように、彼は残された体力で必死に虚勢を張りつつも叫ぶ。

 

本当の目的は何だ。

これまで散々人を闇に落す様な真似をしていたくせに、今度はいきなり世界を闇で呑みこもうとするのだと。

 

その目的が分からぬ事による不快感が、彼を苛立たせている要因の一つでもあった。

 

『この世界を、幸福の中に停止させる・・・、ただそれだけの事よ。』

 

「幸福・・・?停止・・・?何言ってんだい・・・!?」

 

その言葉の意味が分からず、沙希は叫ぶ様に尋ね返した。

 

その言葉の意味が、闇による支配と何の関係があるのか、その関連性を見出す事が出来なかったのだろう。

 

『簡単な事だ、この世界のすべての生命体の時を止めてやる、スパークドールズにする事でな。』

 

「「「ッ・・・!!」」」

 

その意味を語るルギエルの言葉に、彼等は一気に青ざめた。

 

時を止める、それはつまり、スパークドールズの中に生命を閉じ込める事に他ならないと。

 

スパークドールズへの封印は、八幡達も怪獣被害を食い止める為に行っている行為ではある。

だが、それが全てのモノに幸福を齎せるはずなど無いと考えていた。

 

怪獣とは言え命を閉じ込める事に他ならない。

その行為自体、結局はどちらかの一方的な平和の為に、その平和の脅威となる存在を無の世界へ閉じ込めてしまっているのだから。

 

無論、八幡達とて戦いが終わった後は安堵もし、自分が力を着けている事を自覚して喜んでいる節があるのは事実だ。

 

だから、それを自覚しつつも、一つの命を蔑ろにしている事実を忘れるなと、一夏から教えられた事もあり、彼に近付くために力を着けつつも、それの犠牲となる怪獣達への後ろめたい想いも当然ながらあった。

 

故に、スパークドールズ化など、八幡達からしてみれば、到底幸福とは思えない状態だった。

 

「そんなもん・・・!幸せなんて呼べる筈がねぇ・・・!」

 

故に彼は叫ぶ。

 

そんなものを幸福と認めてしまう訳にはいかないからだ。

 

『ならば、今の世界は幸福か・・・?」

 

「な、何を・・・!?」

 

その叫びに、ルギエルは何処かせせら笑う様に尋ね返してくる。

 

『この世界には悲しみが絶え間なく続いている、戦争、紛争、差別、そして、貴様たちがされてきたような迫害がな?』

 

「ッ・・・!」

 

謳う様に紡がれたその言葉に、その事実に返す事が出来ず、八幡達は言葉を呑み込む事しか出来なかった。

 

自分達が身に染みて分かっている事だった。

嫉み、偏見、それらの被害に遭った者も、それが原因で暴走してしまった者も居る。

 

それらを不幸、悲しみと呼ばずして何と言うだろうか。

 

『それら全てが無くなるのだ、幸福と言わずして何と言うのだ?』

 

それら全てが無くなれば、今なお続く差別や偏見等も無くなるならば、確かに不幸や悲しみは消えてなくなるだろう。

 

だが・・・。

 

「だけど、それでは喜び消えてしまう・・・!」

 

スパークドールズになってしまえば、そこから先に進む事は出来なくなる。

 

停滞の中には悲しみはないだろう、だが、同時に喜びも未来も消えてしまう事に他ならないのだ。

 

故に、彼等はそれを受け入れる事など出来る筈も無かった。

 

『それはどうかな・・・?』

 

だが、そんな彼等の叫びを受け、ルギエルは打つ手があると言わんばかりの笑みを浮かべた。

 

『その証拠を見せてやろう、この世界に我の力を示すために!!』

 

「そうはいくか、俺が止めさせてもらうとしようじゃないか。」

 

ルギエルが何かをしようとするのを遮る様に、ルギエルの背後、つまりは転落防止柵の外側から影が飛び出した。

 

その影は空中で回転しつつ飛び蹴りの体勢を取り、ルギエルの顔面目掛けてその長い脚を突きだした。

 

「はぁっ!!」

 

『ぬぅっ・・・!?』

 

気配を完全に消しての接近だったからか、完全には避けきれなかったのだろう、その蹴りはルギエルの頭頂を掠めていった。

 

「待たせた、ここからは俺のステージだ。」

 

蹴りの体勢から華麗に着地したその人物は、被っていた白いローブのフードを脱ぎ、その顔を三人に晒した。

 

癖のある黒い髪、切れ長の目から覗く黒曜石の様な瞳、歴戦の覇者としての風格を纏わせた存在がそこにはあった。

 

その男は・・・。

 

「「「せ、先生!!」」」

 

彼等の師、織斑一夏その人だった。

 

『ぐっ・・・!おのれぇ・・・!』

 

「エンドマーク、今日こそ打たせてもらうぞ。」

 

忌々しげに彼を見るルギエルに、一夏は鼻で笑う様に表情を歪めた。

 

そんな彼の視線の先で、ルギエルの顔を覆い隠していたフードが、一夏の蹴りが掠めた事によりはだけていた。

 

「「「ッ・・・!?」」」

 

フードの影から現れたその顔に、八幡達は驚愕のあまり呼吸すら一瞬忘れてしまった。

 

何故なら、そこにあった顔は・・・。

 

「ひ、平塚センセイが・・・!?」

 

「ルギエル・・・!?」

 

『・・・。』

 

八幡と沙希の驚愕に答える事も無く、ルギエル、否、総武高教師、平塚静は何処か冷めた様な、能面の様な表情を浮かべているだけだった。

 

いや、能面と言うよりも、生気を感じないと言うべきだろうか、人間らしさと言うモノが、今の彼女の表情からは欠落している様にも見て取れた。

 

「その女はルギエルの器として闇に取り込まれている、大方、合宿の辺りにだろうがな。」

 

そんな様子など気にも留めていないのか、一夏はただ事実のみを話した。

 

『やはり気付いていたか・・・、相変わらず、恐ろしい男よ・・・。」

 

一夏の言葉に、静に憑りついているルギエルは、彼女の口と声を利用して話し始めた。

 

だが、そこにはすでに恐れの様な色が浮かび上がっていた。

 

そう、一夏は最初から気付いていたのだ。

静が一夏達の事を探ろうとした、特訓合宿初日のあの瞬間から・・・。

 

「お前が話した内容にちょいとばかし疑問点があった訳だが、あの後の動きやケルビムの乱入で確信していたよ、尤も、泳がせていたのは俺達の総意だがね。」

 

「だ、だから、先生はあんなことを・・・!」

 

一夏の言葉に、八幡は驚きながらも合点が行ったと言わんばかりの様子だった。

 

静に憑りついている事を知っていたと言う事は、奉仕部を潰す段階になった時点から利用するつもりだったのだろう。

 

何せ、わざわざ闇の支配者を復活させるような真似をしていたのだ、少なからずは疑問に思っていたが、まさかそこまで手の込んだ事をしているとは思いもしなかったのだろう。

 

納得しながらも、八幡達は本当の意味で恐怖を覚えたに違いない。

 

織斑一夏と言う、途轍もない狂気と知性を秘めた存在に・・・。

 

「八幡君達には苦労を掛けてしまったよ、とは言え、コイツを確実に仕留める為には、どうしても必要だったんでね。」

 

そんな八幡達の表情を見て、フォローのつもりだったのだろうか、一夏が軽い詫びと共に真相を語り始めた。

 

「俺達には人間に憑りついた邪悪その物を祓う力は無い、それも、意識を乗っ取る程の奴なら尚更難しい。」

 

一夏の言葉通り、如何にアストレイとは言え、寄生に近い憑りつき方をした邪悪を、無理やり人間から引き剥がす術を持ってはいなかった。

 

幾ら戦闘経験の豊富な彼等とは言え、技や技術にも得手不得手があり、特に浄化技は全員が不得手とするモノだった。

 

故に、下手に干渉すれば、憑りついた相手の命がどうなるか分かった物では無いと考えていた。

 

尤も、一夏個人の感情から言えば、今回ルギエルが憑りついた相手である静の事などどうなっても構わないとさえ思ってはいた。

 

色々と面倒に巻き込まれたからというのもあるだろうが、一番は愛弟子である八幡を苦しめる様な真似をしたからというのが本音だったのだ。

 

だが、アストレイの全員からそれは固く禁じられたために、彼は一つの方法を選ぶ以外なかったのだ。

 

「だから、俺は一つ芝居を打った、お前が誰に憑りついてるのかも知らない振りをして、その女から離れても良いタイミングまで力を戻してやるためにな。」

 

『なるほど・・・、貴様そのために・・・。』

 

一夏の計画を聞かされたルギエルは、何処か納得しながらも吐き捨てるように呻いた。

 

そう、一夏はルギエルを誘き出し、最早退く事も出来ない程に進んだ所まで追いつめた事になる。

 

つまり、完全に姿を取り戻したルギエルならば、さっさと目的を達成しようとするはず。

ならば、そこまでは泳がせておき、逃げられない様にする。

 

それが、一夏が企てた事の全容だった。

 

言ってみれば単純なのだが、そこまでの過程で生まれる被害を丸々無視しているとも取れたのだ。

 

如何に闇の支配者を宣うルギエルでさえ、理解しがたいものが有った。

 

「この世界を混迷に陥れた罪、俺が裁いてやる、わが師、キングに代わって・・・!」

 

拳を握り締める彼の表情には、決死の覚悟と悲壮感、そして狂気と言った様々な感情が入乱れていた。

 

だが・・・。

 

『ならば・・・!ここで貴様を消し去るのみ・・・!我の力は、既に戻りたり!!』

 

大人しくやられてやる程、ルギエルも甘くは無い。

それに、既に力は戻っている、ならば、やる事は一つだった。

 

その手に持ったダークスパークを天高く掲げると、それを中心に闇が具現化していく。

 

その闇が最大にまで膨れ上がった瞬間、それは姿を現した。

 

闇を具現化した様な黒い身体に、穿たれた銃創の様な赤い窪みを持った巨大な影が、彼等の目の前にあった。

 

「こいつが・・・!?」

 

その姿に、我に返った八幡が声をあげた。

 

その声には驚愕と同時に、何処か怪訝の色も混じっていた様に感じられた・・・。

 

「八幡・・・?」

 

その戸惑いにも似た声を疑問に思ったか、沙希と彩加が彼を不安げに見ていた。

 

何を戸惑っているのか、その正体を知りたがったのだろう。

 

「君達はそこで休んでいろ、連戦続きでもう変身すら危険だ、俺がカタを着ける。」

 

それに気付かなかったか、若しくは気にしている場合ではないと思考しなかったか。

一夏は彼等に一声だけかけて、スパークドールズとダミースパークを取り出し、読み込ませていた。

 

『ウルトライブ!イーヴィルティガ!!』

 

闇と光が迸り、彼の身体は巨大化、ティガアナザーとしての姿となった。

 

『闇を以て闇を制する、お前を消し去ってやる。』

 

『面白い・・・、やってみせよ。』

 

固まったままの彼等の目の前で、闇と闇の戦いが始まろうとしていた。

 

それは、意地と野望がぶつかる、最悪の結末への序章なのだろうか・・・。

 

sidout

 

noside

 

『ナイトシュート・・・!!』

 

関東のある地区で戦っていたウルトラマンヒカリは、体内に残された力を振り絞り、目の前の怪獣に必殺光線を放って打ち倒していた。

 

怪獣は耐え切れずに爆散し、戦闘は終結した。

 

だが・・・。

 

『うぅ・・・!』

 

最早変身を解くのも逆に辛いほどに消耗しているのだろう、変身している大志は呻きながらも地に膝を着いた。

 

彼も戦い慣れているとはいえ、既に限界を超えて戦っている状態だ、普通ならば立つ事すら儘ならない状態だった。

 

『嫌な予感がする・・・!急がないと・・・!!』

 

だが、それでも胸中を覆い尽くす、言葉に表せない不安に突き動かされる様に、彼は何とか立ち上がろうと力を籠めた。

 

しかし、消耗しきった身体では上手く立ち上がる事が出来ないのか、その巨躯は中々動かなかった。

 

『大志・・・!』

 

『大丈夫だべか!?』

 

ヒカリの傍にジャスティスとゼノンが降り立ち、彼の身体を支えてゆっくりと立ち上がらせていた。

 

『優美子さん・・・!それに、翔さんも・・・!』

 

『無理すんなし・・・、でも、無事でよかった・・・。』

 

なんとか立ち上がり、良い関係になりつつある優美子に笑いかけたが、既に笑みにすら力は無くなりつつあった。

 

既にカラータイマーは三者ともなっており、限界を迎えている事など明白だった。

 

だが・・・。

 

『急ぎましょう・・・!なんだか、気持ちの悪い感じが・・・!』

 

大志は言いようのない焦りを必死に伝えようとしていた。

 

急がなければ手遅れになりかねない。

そんな不安が彼の口を突いて出たのだろう。

 

その様子に、優美子も翔も思う処があったのだろう、顔を見合わせて頷いていた。

 

『勿論だべ・・・!戻ろう、俺達の街に!!』

 

翔はそれならば急がねばと言わんばかりに大志を担ぐ様にして飛び上がった。

 

優美子もそれを追う様に飛び上がり、自分達の居場所へと駆けた。

 

『途中で小町も拾うよ、あの子も、強いかんね。』

 

『はい・・・!!』

 

優美子の声に応じ、大志は自分の意思で宙を駆けた。

 

本当の意味での決着を着ける為、彼等は前だけを向いていた。

 

これで、全てが終わると分かっていたから・・・。

 

sideout

 




次回予告

闇と闇、その二つがぶつかり合う中、八幡達はその中に未来の光を見出す事が出来るだろうか。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

比企谷八幡は掴まれた

お楽しみに

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