やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
noside
『ディィァッ!!』
首都圏西部のある街では、三体の怪獣を相手に、シャルロットが変身する赤い巨人、ウルトラマンガイアがその力を振るっていた。
彼女が相手取るは、最強合体獣 キングオブモンス、骨翼超獣 バジリス、巨大顎海獣 スキューラの三体だった。
最初の戦いが始まってから既に一週間以上が経過した今、アストレイズは一人頭で言えば、八幡達よりも遥かに多い怪獣達を担当しており、その戦闘回数も既に二十、否、三十を超えんとしていた。
だが、それにも拘わらず、体力の限界と言った様子だった八幡達弟子勢とは異なり、その戦いぶりはまだまだ余裕を窺わせるほどだった。
キングオブモンスから増殖したバジリスとスキューラは、キングオブモンスの指示を受けてか、空と地の両方からガイアを攻め立てていく。
しかも、それは同時では無く波状攻撃にも近い形であるため、捌き切る事は困難に思われる程だった。
だが・・・。
『リキデイター!!』
放たれた赤い光球は宙から狙っていたバジリスの羽を撃ち抜き墜落させる。
バジリスに気をやっている隙に畳み掛けようとしたスキューラだったが、即座に飛び退いたガイアに、開いた上顎の上に乗られ、地面に顔面を勢いよく叩き付けられてしまう。
その勢いを利用して飛び上がったガイアに対し、キングオブモンスは口から放つ破壊光線『クレメイトビーム』を放つ。
しかし、空中でスプリームヴァージョンへと変わったガイアの強固な身体には一切のダメージを与える事は叶わずに弾き返された。
『シャイニングブレードッ!!』
光の斬撃を飛ばす技、シャイニングブレードがキングオブモンス目掛けて放たれ、その左腕と左翼を切り飛ばした。
あまりのダメージに、キングオブモンスは悲鳴のような叫びをあげて倒れ伏した。
その背後に華麗に着地したガイアは、そのままの勢いでキングオブモンスの残った右翼を掴み、大きくスイングして立ち上がろうとしていたバジリス目掛けて放り投げた。
それは狙い違わずにバジリスに直撃、キングオブモンスの重量を支え切れず、バジリスはその下敷きになった。
『これで決める!!フォトンストリーム!!』
三体纏めて爆散させるつもりか、ガイアは最強技、フォトンストリームを放ち、キングオブモンス、バジリス、そしてスキューラを纏めて爆殺せしめた。
そこで一段落したか、彼女はひと息ついて辺りを見渡す。
来るのが少し遅かったのだろう、既に町は廃墟に近い様相を呈しており、何人もの人間が巻き込まれた可能性がある事を、ただ無慈悲に物語っていた。
『まったく・・・、やってくれるねぇ・・・。』
その元凶となった闇の支配者への怒りを募らせている様にも感じ取れた。
怒りを感じたその時だった、彼女の背筋を冷たい何かが這いずった様に寒気が奔った。
『ッ・・・!!この気配・・・!!』
その気配に心当たりがあったか、シャルロットは臨戦態勢のまま、八幡達の街がある方角へと意識を向けた。
そちらから合せられる嫌な気配、それは、嘗て大決戦時に感じたあの気配と全く同じだったのだ。
『遂に出て来たね・・・、僕も行く・・・!』
目的が遂に果たせると理解し、彼女はその方角へと飛ぼうとした。
だが、それを阻むように新たに怪獣が数体出現、咆哮をあげながらも彼女の方へと突進してくるのが見えた。
『やっぱりタダじゃいかせてくれないか・・・!』
どうやら、自分を、否、自分達アストレイを八幡達の下へと向かわせたくないのだろう思惑が伝わってくる様で、彼女自身苦笑を禁じ得なかった。
だが、だからどうしたと言うのだ。
ならばこちらはその力を上回る力で粉砕し、一刻も早く駆けつけてやるだけだと。
そう決めた彼女は構えを取り、怪獣達へと勝負を挑んだ。
遠き地で戦う夫と弟子たちの事を信じ、この場を勝利で収めると心に誓って・・・。
sideout
noside
『むぅん!!』
『どぉりゃっ!!』
同じ頃、総武高校の近くでは、二体の黒い巨人が熾烈な争いを繰り広げていた。
一体は、黒い闇を纏った身体の中にも光を宿す巨人、ティガアナザー。
もう一体は、一片の光も見付からない程の闇を纏う、ダーク・ルギエル。
其の二体は、互いに目にも止まらぬ速さの打撃を繰り出し、互いへとダメージを与えようとしていた。
だが、まるでお互いの手の内を分かっていると言わんばかりに、その攻撃は一切ボディに掠める事は無かった。
『やるな、不意打ちしか能が無いと思っていたが、予想外だ。』
その攻撃をいなしつつ、一夏はまだまだ余裕があると言わんばかりに返していた。
幾ら本物の力では無いとはいえ、戦人としてその生涯のほとんどを掛けて来た彼にとっては、この程度まだまだウォーミングアップでしかないのだろう。
実際、彼の拳は更に唸りをあげて勢いを増し、ダークルギエルに叩きつけられようとしていた。
『ぬぅ・・・、やはり紛い物とは言え、その動きはウルトラマンティガそのモノ・・・、一筋縄ではいいかぬな・・・!』
それを、ルギエルは渋面を作りながらも何とか回避し、反撃の機会を窺うもそれを見出す事が出来なかった。
無理も無い。
ティガアナザーの攻撃はそれほどまでに隙が無く、同時に重すぎるモノだったのだから。
だが、そんなことなど一夏には関係ない。
彼の側に戦況の支配権がある内に、ルギエルを滅ぼしてしまいたい、そう考えているのだろう。
しかし、そう上手くさせて堪るかと、攻撃を防いだ際に大きく後方へ飛び退き隙を作る。
その一瞬の隙に、ルギエルは腕から闇を発生させ、一体のスパークドールズを実体化させた。
『行け!』
それは、何処か鋼の塊のようなモノにも見えたが、何処か獣のような意匠さえ感じ取れる奇怪な怪獣だった。
その名もスーパーグランドキング。
嘗て宇宙を支配しようとしたグア軍団が作り上げた恐るべきロボット怪獣の、更なる発展版とも呼ぶべきモノだった。
そのパワーは凄まじく、嘗ては一夏達アストレイをも苦戦させた事があったのだ。
『ちっ、グランドキングとはまた厄介な・・・、これは少々、ヤバいか・・・?』
その姿に舌打ちしつつも、一夏はルギエルとスーパーグランドキングに挟まれる形になっていた。
一瞬の隙を許した自分に対し苛立っているのもあるだろうが、今の状況は彼の不利だった。
『そいつと遊んでいろ、我には為さねばならない事がある。』
『この臆病者め・・・、もっとマシな戦い方でも取りやがれってんだ!』
ルギエルの言葉に悪態を吐いているが、それでも既に余裕と言うモノは消え去っていた。
ティガアナザー目掛け突っ込んでくるスーパーグランドキングに対し、彼はそれを飛び越える形でなんとか回避する。
だが、それは必然的にルギエルとの距離を開くと同じであり、その隙に、ルギエルはダークスパークを再び天へと掲げた。
『まずい・・・!このままではよく無い事が起きるぞ・・・!!』
それを見ていたXが警告を発するように叫ぶ。
このままではこの世界が終わってしまう、そんな悲痛な色さえ窺い知れた。
「僕が行く・・・!」
最早一刻の猶予も無いと悟ったのだろう、彩加が立ち上がり、変身しようとしていた。
「無理だ彩加・・・!」
「もう体力が残ってないのに・・・!」
それを見た八幡と沙希が慌てて彼を止めに入った。
無理も無い、彼等の身体は先の連戦で既にボロボロであり、ウルトライブやユナイトが出来る状態では到底なかった。
故に今まで、一夏に加勢する事すら出来ずに事の成り行きを見守っていた訳だったが、事態は一刻を争うほどまでに悪化していくばかりだったのだ。
「だからって・・・、このままだと、本当に・・・!」
彩加がそう言った時だった、彼は何かを見付けてしまったかのように驚愕に目を見開き、八幡と沙希の後方、その一点を凝視した。
それに気付いた八幡と沙希も、一体何事かと背後を振り返った。
そして、信じられ無い物を見たと言わんばかりに、彼等の目は見開かれる事となった。
「ぐぅぅぅ・・・!ぁぁぁ・・・っ!!」
彼等の視線の先に有ったモノ、それは、今だ闇に囚われたダークスパークを握り、苦悶の表情でもがく平塚静の姿だった。
彼女に纏わりつく闇はダークスパークを介して、まるで生体エネルギーを吸い上げるようにして、ルギエルの持つダークスパークへと贈られて行った。
「ど、どうして・・・!?」
目の前の光景を、沙希は受け入れる事が出来ず、ただただ、困惑に硬直する事しか出来なかった。
何せ、これまで闇に囚われた人間と言うのは、ライブして具現化した怪獣の中に囚われている場合がほとんどだったのだ。
今のように、身体が具現化した存在の外側にある場面などに遭遇した事など、ただの一度も無かったのだから。
『どうしてだと?簡単な事よ、その女は我が器でしかなかった、故に、我が体内に取り込む事など、無価値。』
彼女の困惑に応える様に、ルギエルはただただ平淡に、何の感情も無いかのように言い放つ。
力を取り戻している最中には、余計なエネルギー消費を抑える為に身体が必要だった。
スパークドールズから具現化している怪獣が姿を維持できたのも、ダミースパークと人間の闇の感情が大きな要となっており、言い換えてみれば依り代となっていたのだ。
だが、完全に力を取り戻している今の状態で、人間を取り込むという行為は、不純物を取り込む事と同義である。
完全かつ純粋な存在となるならば、不純物などわざわざ進んで取り込む必要などない。
あるとすれば、人間から放出されるマイナスエネルギー、闇に染まった感情だけだった。
『その女は役に立ってくれた、今の今まで、貴様たちを怒らせ、その目を曇らせてくれたのだからな。』
「ルギエル・・・!人間を何だと思っていやがる・・・!!」
あまりにも身勝手な理由に、八幡は怒りを堪える事が出来ずに叫びをあげた。
お前は人間を何だと思っているのだ。
人外の存在から見れば、自分達人間など取るに足らない存在だろう。
だが、そんな取るに足らない存在でも、尊厳と言うモノがある。
その尊厳を踏みにじる様な真似をしておいて、何が幸福だと言いたいのだろう。
「早く助けないと・・・!このままじゃ・・・!!」
だが、そんな事で一々噛み付いている場合では無い。
彩加の焦りに、八幡はギンガスパークを懐から取り出し、ライブしようとした。
だが・・・。
「なに・・・!?」
ギンガスパークは何の反応も示さず、ギンガのスパークドールズが表れる事も無かった。
「どうして・・・!?戦わせてくれ、ギンガ・・・!!」
その理由が分からず、八幡はギンガに問いかけた。
何故変身させてくれないのか、幾ら体力が限界に近いとはいえ、今はそんな事を言っている場合では無いのだと。
だが、その答えが返ってくる事は無かった。
「戦うなと、そう言いたいのかギンガ・・・!!」
ならば自分はどうすれば良い、そんな困惑がその声にはあった。
だが、恐らくギンガは八幡を戦わせたくなかったのかもしれない。
その真意が何なのかは、今の彼等には判らなかったが・・・。
自分はどうすれば良い、そんな思いが見て取れるようだった。
その時だった・・・。
「だったら・・・!」
何かを決意したかのように、八幡が静に向けてゆっくりと近付いて行く。
「な、何をする気・・・?」
彼の雰囲気が何処か張り詰めたものとなっている事に気付いた沙希が、一体何をするつもりだと問うた。
「平塚センセイをこのままにしておけない、俺が内側から闇を祓う。」
「どうやって・・・!?」
八幡の口から飛び出した言葉が信じられず、どうやってそれを行うつもりだと問う。
遣り様は在るだろうが、今の変身出来ない状況でどうやるつもりだと。
だが、それに対する八幡の表情には、なにか確信があった。
「ギンガスパークとダークスパークは、光と闇の対になっている、みたいに感じる、だったら、あの闇と俺の光をクロスさせる事も出来るかもしれない。」
『なるほど・・・、だが、なにかあれば・・・。』
八幡の説明に納得しつつも、Xは懸念を捨て切れずにいた。
彼が言いたいのは、もし闇を祓えなかった場合、八幡がこちら側に帰って来れない可能性だってあると言う事だった。
だが、最早悩んでいる暇は無い。
スーパーグランドキングは一夏が抑え込んでいるが、ルギエルが何かしてこないとも限らない。
ならば、早い内に決着を着ける必要があるのだ。
「わかった、なら僕がルギエルの脚を止める、X、付き合ってくれるよね?」
『勿論だ、君の覚悟、私が受け止めた。』
彩加の覚悟を受け取り、Xはユナイトを許可した。
『行こう、X!!』
『おう!!』
ユナイトした彩加とXは、ルギエルに向かって攻撃を繰り出した。
『貴様・・・!!どこまで邪魔をするつもりだ!!』
『何処までも邪魔するよ、あなたの言う幸福なんて、受け入れられないからね!!』
苛立つルギエルに返しつつ、彼は立ち向かっていく。
この世界の未来を止めさせない為に・・・。
「んじゃ、俺も行ってくる、彩加が危なくなったら助けに入ってやってくれ。」
それを見送った八幡もまた、自分にすべき事を成すべく動き始めた。
「気を付けてね・・・?」
そんな彼の背に、沙希は不安げながらも声を掛けた。
無茶だけはしてほしくない、そして、無事に帰って来て欲しい、そんな思いが混ざり合っている様であった。
「あぁ、約束する。」
八幡は沙希にしっかりと向き合い、大丈夫だと頷いた。
必ず戻ってくる。
その決意を胸に、八幡は静に纏わりつく闇に向き直った。
「ギンガ、俺を導いてくれ・・・!!」
祈る様にギンガスパークを握り、それを静が掲げるダークスパークと交錯させた。
その瞬間、ギンガスパークから光が溢れ、まるで闇と争うかのごとく混ざり合って行く。
その光と闇に、八幡の視界と意識は覆われていった。
まるで、真なる戦いの場へと、彼を誘うかの様に・・・。
sideout
次回予告
踏み入れた場所で、彼はルギエルに秘められた過去を知る。
それは、今の彼の在り方を問う、最後の問いだった・・・。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
比企谷八幡は掴まれた 後編
お楽しみに