やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
side八幡
此処は、何処だ・・・?
ルギエルの言葉の後、自分が何処かに飛ばされる様な感覚に襲われていた俺は、その感覚が不意に無くなった事で漸く目を開けた。
どれぐらい意識が飛ばされていたのだろうか。
そう考える間も無く、俺は自分の目で周囲を確認した。
「ここは・・・?」
幻覚かそれとも別の何かか、俺は見慣れた風景の中に居た。
そこは、俺達が通っている総武高の廊下だった。
まやかしだとしても、どうしてここなのか、その意味を、俺は理解出来なかった。
―――分からないか?ならば己が目で確かめると良い―――
どういう意味だ、と尋ねるよりも先に、俺の視界は移動を始める。
廊下を進み、行きついた先は、何処か見覚えのある部屋だった。
「ここは、奉仕部か・・・?」
今はもう無い筈の奉仕部の部室の前に、俺は居た。
この部屋があると言う事は、俺が今いるこの世界は、俺がいる世界の光景では無いと言う事を確信できた。
だが、此処で一体何を見せると言うのか・・・。
その先を考えるよりも早く、視界の先にあったドアが開かれ、部屋の中の様子が視界に飛び込んで来た。
「ッ・・・!?」
そこにあったのは、俺の記憶の片隅にあった時の様に喧しく騒ぎ立てる由比ヶ浜と、由比ヶ浜の言葉に頷きながらも棘のある言葉を口にする雪ノ下の姿があった。
何を言っているのかまでははっきりとは聞き取れなかったが、その言葉の数々は、その部屋に居た、もう一人に向けられたものだと、俺は即座に理解できた。
二人の少女の視線の先には、何処かニヒルな冷笑の中に満更でもないと言わんばかりの色を浮かべた、腐った目を持った、見た事のある奴が居た。
それが誰か何て考えるまでも無い。
ギンガに遭う前の、先生と会う前の、俺自身の姿だった。
少女たちがどう思っているかなどは分からない、だが、目の前にいる、嘗ての俺の姿をしているそれは、何かに縋っている、そんな雰囲気さえ見えていた。
だけど、俺の目の前にいるコイツは、この空気を心から愛している様にも思えた。
今の俺にだって縋りたくなるモノはある、共に在りたいと慈しむモノもある、その点だけは理解出来るつもりだ。
だが、コイツが浮かべていたのは、何処か、依存に近い物を感じた。
―――これは、貴様が歩むべきだった道だ―――
「どういう意味だ・・・!?」
ルギエルの言葉の真意を問い質すよりも早く、場面が更に進んだ。
次に飛び込んで来たのは、今の俺と同じ様に、ギンガとなって戦う姿だった。
的確に、だけど力強く戦うその姿は、戦士としての風格を漂わせていた。
だが、何かがおかしかった。
いや、考えるまでも無い事だった。
何せ、俺の目の前の巨人は、誰からのサポートも共闘も無い、孤立無援で戦い続けていた。
ボロボロになっても戦い続け、倒れそうになっても怪獣を倒しているのに、誰一人、彼の戦いを見守る事も、手助けする様な事は無かった。
これでは、勝ち続ける事なんて出来ないじゃないか。
そう思う俺の目の前で、またしても場面が飛んだ。
次に目に飛び込んで来たのは、何時ぞやの修学旅行で訪れた京都の風景に良く似ていた。
周囲を見渡すと、俺と先生がルギエルを相手にしていた林のすぐ脇、竹林の間に出来た道で、更に目の腐った俺の姿をした奴は海老名と向き合っていた。
何をしている・・・?
俺がその意味を考えている視界の隅に、奉仕部の連中と葉山と三浦、それから戸部のヤツが居た。
何が始まると言うんだ・・・?
その意味が解ら俺と、彼等全員が見守る中で、俺の形をした奴は、耳を疑う様な発言を繰り出した。
『ずっと前から好きでした、付き合って下さい。』
コイツは何を言っているんだ?
あまりにも唐突で、あまりにも理解不能な言葉だった。
お前、今までそんなもん欲してなかっただろうに、何を急にそんな事言いだすんだ・・・?
その意味を、俺の世界線で起きた事件を思い返しながらもそれを眺め、考えていた時だった。
『ゴメンね、私今、誰とも付き合うつもり無いんだよね。』
『・・・。』
海老名の姿をしたヤツの返答を、俺の姿をした奴は能面の様な表情で、だけど予想通りと言わんばかりの様子で聞いていた。
おい。
何やってんだよ・・・。
お前、何考えてんだよ・・・。
俺の言葉に答える事無く、場面は切り替わって行く。
戸部が駆けていく後ろで、三浦達が俺の姿をした奴を、心底腹立たしいと言わんばかりの表情を見せていた。
その表情に、俺はこの件の真相を悟った。
いや、頭にそれが流れ込んで来た。
「これは、アイツの思惑が、成功しちまったのか・・・!?」
これは、海老名への戸部の告白を阻止する為に、俺にその役目を押し付けた結果なのだ。
その証拠に、その後、この世界線の俺がどうなったか。
それは、流れ込んでくる記憶が教えてくれた。
葉山の依頼のやり方に直前で気付き、最早それ以外にないところまで追いつめられていた彼は、そうする以外に場を収められなかった。
そう、周りに頼れる者などおらず、居たのは勝手に期待や願望を押し付けてくる者ばかりだった。
『貴方のやり方、嫌いだわ。』
『もっと人の気持ち、かんがえてよ・・・。』
『あの比企谷って奴、戸部の告白の邪魔したらしいぜ。』
『なにそれ、最低じゃん。』
奉仕部の女連中は勝手に失望して彼を救う事もせず離れ、周囲は伝聞からの解釈で彼を貶めた。
周囲に居た者達は殆どが彼から離れて行き、彼に残ったのは、人間には手の余る力、ウルトラマンの力だけだった。
そこからは更に場面が次々と流されて行く。
孤独となった彼は、何時しか家族と言うモノさえも投げ捨て、只只管にその残された力を振るい続けた。
光の力を使い、ただひたすらに怪獣を倒した。
その中には、バオーンなどの善良な怪獣も含まれていて、彼の前に立ちはだかった全てが、等しく蹂躙されて行ったのだ。
だが、俺が真っ先に感じたのは怒りでは無い。
虚無、ただそれだけだった。
どれだけ戦っても虚しい、何を欲しても手に入らない、そんな絶望と諦観が伝わってくる様だった。
そして、何時しかそのギンガは闇に染まって行った。
何処まで行っても満たされない虚無が絶望を生み、その絶望に対する怒りが生まれていった。
クリスタルの青い輝は次第に失われ、赤く流れ落ちる血の様に染まって行き、その身体も黒く、禍々しく変わって行った。
それは、今、俺の世界で暴れ回るルギエルの姿そのものだったのだ。
「ルギエルは、俺の孤独から生まれた、のか・・・。」
それが、ルギエルが生まれた理由。
ルギエルが、俺たる理由・・・。
―――そうだ、受け入れろ、貴様もいずれは全てを失うのだ、我の、俺の様に―――
先生が居なければ、沙希や彩加が居なければ、俺もこうなっていた。
いや、そもそも、ビクトリーと対立した時点で、俺はもう絶望しきっていたに違いない。
だから、俺は、次々に流れる光景を、ただ茫然と見る続ける事しか出来なかった。
―――俺に従え、お前の運命を受け入れろ―――
その言葉と同時に、足元に出来た沼の様な闇に脚を取られ、俺は抵抗できないままに墜ちていく。
頭から墜ちていく中で、意識がどんどん遠退いていく事だけが、俺が感じ取れたモノだった。
本当はどうなるのが正しかったのか、その答えさえ分からなくなったままに、ただただ墜ちていくだけだった・・・。
sideout
side沙希
『ぬぅっ・・・!?』
スーパーグランドキングを相手取っていた先生が、唐突に呻く様な声をあげた。
まるで、急な状況の転換に困惑する様な、そんな声だった。
いや、傍から見ても、その理由は顕著だった。
グランドキングの動きが、最初の方より格段に鋭くなってきていた。
見てくれからして、相当な重量級の相手だとは想像に難くないし、動き自体もそこまで早くは無い筈だった。
だけど、今グランドキングから繰り出される動きは、一撃一撃が途轍もなく重く、先生でさえ受け止めるのがやっとの状況になっていた。
それを何とか凌ぎ、反撃を行っても、その強固な装甲の前に一切の攻撃が無効化されてしまう始末だった。
先生の纏う雰囲気も、若干ながら焦りが見える程に、それは脅威を増していた。
「パワーが上がってる・・・!?なんで・・・!?」
ルギエルの闇で元々強化されてたとは言っても、どうして急にパワーが跳ね上がる様な事が起きるって言うんだ・・・!?
『ふはははは!!どうやらギンガは知った様だな、我の正体を、そして、その意味を!!』
あたしの困惑に答える様に、ルギエルが哄笑と共に宣言する。
正体?意味?それがどうしたって言うんだい・・・!?
訳が解らなかったけど、何故かとっても嫌な予感がして振り向いた。
そこには八幡が居る筈だった。
だけど、あたしが信じた光景は、いとも容易く打ち砕かれようとしていた。
あたしの目には、ギンガスパークとダークスパークを交え、光と闇が鬩ぎ合う光景があり、その中心に八幡と平塚センセイの姿があるだけだった。
だけだった筈だった。
「八幡・・・!?」
八幡が纏っていた筈の光が弱まり、徐々に闇に浸食されつつあるようにさえ思えた。
よくよく見れば、八幡の表情にも僅かながら苦悶の色さえ見えてくるぐらいだった。
「一体何が・・・!?」
何が起こってるの・・・!?
その意味が解らずに、あたしはただただ叫ぶ事しか出来なかった。
光が負ける・・・?
そんなバカな事が・・・?
『沙希!今すぐソイツから八幡を引き剥がせ!!』
先生が何かに気付いたのか、途轍もない怒声と共に告げてくる。
一体どういう意味かを問いかけたかったけど、お前が出来ないなら俺が殺してでもやるって雰囲気だったから、状況の悪さだけは、しっかりと理解出来た。
「は、はい・・・!!」
あたしはその指示に弾かれる様に動き、何とか八幡をその闇のオーラから引き剥がそうと試みた。
だけど・・・。
「うっ・・・!?」
八幡の身体に触れる事すら叶わず、あたしの腕は弾かれ、尻餅をつく形になった。
まるで、見えない壁に阻まれた、そんな印象さえ受ける程だった。
「は、八幡・・・!!」
せめて呼びかけようとしても、この声さえ届いていないのか、八幡が振り向く事は無かった。
触れられない、声も届かない。
これじゃあ、ジリ貧のまま何も出来ずに終わってしまう。
そんなの、嫌じゃないか・・・!!
だけど、どうすれば良いの・・・!?
「川崎さん!!」
そんな時だった。
大和が事件に関わった連中を引き連れて屋上に駆け込んできた。
この闇を感じ取って来たのだろうか、全員の表情にはある種の怯えと、それ以上の覚悟が見えた気がした。
「大和・・・!早く逃げな!!」
だけど、ただの人間にはこの場はあまりにも凄惨すぎる。
巻き込まれてしまえば、冗談でもなんでもなく命は無い。
だから、せめて彼等だけでも逃がそうと、あたしは手を伸ばそうとした。
だけど・・・。
「逃げるなんてとんでもない!俺は、いや、俺達は自分の意思でアイツと決着着けに来たんだ!」
その手を、大和が力強く取り、あたしを立ち上がらせた。
逃げるつもりなんて最初からない、それをその行動一つで表して見せていた。
「ウチもだよ、操られて迷惑掛けたのに、最後の最後で関われないまま終わってましたなんて、なんもしてないより最悪!」
大和の言葉に、相模も続く。
これは、自分のケジメだと。
「俺もだ!」
「逃げるなら、サキサキも一緒だよ~?」
葉山と海老名も、そして無言ながらも由比ヶ浜と雪ノ下も逃げるつもりなど無いようだった。
迷惑、なんて事は口が裂けても言えない、いや、あたしが言わせたくなかった。
『沙希ちゃん!八幡を頼んだよ!!』
ルギエルがこれ以上何かをしようとさせまいと、Xが必死に抑え込んでいた。
だけど、体力的な余裕なんてもうない筈だった。
彩加の為にも、早く八幡を助けて加勢する、それ以外に選択肢が有る筈も無かった。
「分かった。」
覚悟を決めた目であたしを見る大和達に頷き返して、あたしはビクトリーランサーを掲げた。
『ウルトライブ!ウルトラマンビクトリー!!』
あたしは彼等の想いを受け取り、ウルトラマンビクトリーへと変身する。
これが最後の戦いになる。
だったら、彼等にも悔いが残らない様に、力を持っているあたしが彼等の想いを受けて立ち上がるべきなんだ。
『闇には光を、傷には癒しを!!』
『ウルトランス!ウルトラマンヒカリ!ナイトティンバー!!』
闇を祓うには、邪気を鎮めるにはこの力が一番だ。
あたしはすぐさまビクトリーナイトに姿を変え、ナイトティンバーをフルートの様に構えた。
流石に無いとビクトリウムブレイクを直接叩き込む訳にはいかないから、清めの音でこの邪気を消し去る。
それが、今あたしに出来る事だった。
だけど、幾らウルトラマンに成ったとはいえ、一人ではこの闇には届かないだろう。
だったら・・・。
『皆!あたしの肩に手を!力を貸して貰うよ!!』
「勿論だ!!」
あたしの言葉に、大和達は勇んで応じ、皆の心が通じるようにと手を貸してくれた。
一人じゃない、あたし一人で戦っている訳じゃ無い!
『響け・・・!未来のメロディー!!』
仲間の想いも、八幡に届ける!!
清らかな笛の音と共に、浄化の光が周囲を、闇と光に包まれる八幡と平塚センセイをも包みこんで行った。
絶対に勝って未来を掴む。
その想いと共に、あたしはメロディーを奏で続けた・・・。
sideout
次回予告
闇の中で見せられた真実を知り、彼は立ち止まってしまうのだろうか。
信じる者達の声と祷りは、彼に届くのだろうか。
次回 やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
川崎沙希は祷り続ける 後編
お楽しみに