やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
noside
『イーッ!サーッ!!』
『ぬぅぅ!!』
ルギエルとXの戦闘は苛烈を極めようとしていた。
戦闘開始からすでにかなりの時間が経過しており、元々疲弊気味だった筈の彩加とXの勢いは削がれる事無く、寧ろ相手を打倒せんと言わんばかりに勢いを増していた。
目にもとまらぬ速さで繰り出される拳や蹴りは、ルギエルの急所を狙って突き出されていた。
その勢いは凄まじく、徐々にルギエルを押して行くようにさえ感じられた。
『貴様・・・!何時まで悪あがきをするつもりだ・・・!!』
だが、ルギエルの言葉通り、それは最後の足掻きにしか映らない物でもあった。
現にXのカラータイマーは点滅を始めており、これ以上の継戦は望めない程となっていた。
しかし、彩加とXは一歩も退く事をしなかった。
未来を止められて堪るかと、それを受け入れてなるモノかと。
この戦いに命を賭しているかの如き勢いだった。
『どこまでも!!』
『いつまでもだ!!』
ルギエルに返しつつ、Xは飛び上がり、技の発動体勢に入った。
『『アタッカーXッ!!』』
絶大な破壊力を秘めたその技はルギエルへと迫り、討ち倒さんとその勢いを増していく。
『嘗めるなぁぁ!!』
だが、ルギエルは強大な闇の盾を片腕に形成し、その強大なエネルギーを受け止めた。
『ぬぅぅぅ・・・!!』
だが、片手では分が悪いのか、少しずつだが押し込まれている様な錯覚を覚える程だった。
『ハァァァッ!!』
だが、ルギエルも負ける気など更々無いのだろう、全身に纏う闇を一気に収束し、そのエネルギーを一気に掻き消した。
『アタッカーXがかき消された・・・!!』
『これで終わりだッ!!』
決め技がかき消された事が信じられなかったのか、硬直してしまったXにルギエルが放った光弾が迫る。
それは致死の威力を持つと考えられが、固まったままのXが逃げられる距離では無かった。
『しまっ・・・!!』
『ゼノニウムカノン!!』
『ビクトリューム光線!!』
なんとか回避しようとしたXを救う様に、遥か彼方から二筋の光線が飛来し、その光弾をかき消した。
その隙に、彩加はルギエルから距離を取り、何とか体勢を整えた。
『なに・・・?』
攻撃が邪魔された事に、ルギエルは苛立ちながらもその方向を睨んだ。
すると、蒼穹の彼方より、ヒカリやアグル、ゼノンとジャスティスと言った4人のウルトラマンが飛来し、Xを庇う様に降り立った。
だが、相当な連戦を経ての参上なのだろう、全員のカラータイマーは点滅しており、長期の戦闘は望めない事が窺える程に消耗している様だった。
『彩加さん!大丈夫ですか!?』
『遅くなりました!』
その内の青いウルトラマン、アグルとヒカリがXに駆け寄り、その身体を支えていた。
『待たせちまったね!俺も一緒に戦うべ!!』
ゼノンも戦意をむき出しにし、ルギエルに挑みかからんばかりの勢いだった。
『皆・・・!』
そんな彼等の姿に、彩加は感動の念すら覚えた。
自分は独りで戦っている訳では無い。
離れていても、駆けつけてくれる仲間がいる、それを改めて実感できたのだ。
『一人でこの三体を抑え込んで疲れたっしょ?あーし達に任せて休んでな!』
『えっ?』
流石彩加だと言う優美子の言葉に、彼は首を傾げた。
三体?自分が面と向かって相手にしていたのはルギエルだけだし、もう一体は・・・。
『優美子さん、あの灰色のウルトラマンは織斑先生ですよ。』
彩加がその言葉の意味を探っていると、大志が突っ込みを入れていた。
あぁ、そういう事か。
ティガアナザーを敵と見間違えたのかと、彩加は何処か納得していた。
いや、それも無理も無い事だった。
なにせ、ティガアナザーはウルトラマンの様な見てくれをしていながらも、闇の力をその身に纏い、前面に押し出している姿を見れば、敵と錯覚してもおかしくはあるまい。
尤も、中の人間がそれで納得するかと聞かれれば、否である事には間違いは無かった。
『うっそ・・・!?どう見ても悪人じゃん!?』
『ほーぅ?誰が悪人だってぇ?』
優美子の驚きに満ち満ちた本音が思わず口を突いて出てしまい、それは一夏の耳にホールインした様だ。
表情の分からない筈のティガアナザーの顔が、若干ながら引き攣っていた様に見えたのだから、彼の憤慨は推して測るべしだった。
抑え込んでいたスーパーグランドキングを蹴り飛ばし、体勢を立て直すために彩加達の方へと戻って来た。
『い、いやぁ・・・、そのぉ・・・。』
『言い訳無用、説教してやるから絶対に生き残れ。』
取り繕う様なセリフを吐こうとした優美子を制し、彼はさっさと構えろと言わんばかりに自ら構えを取る。
立ち止まっている暇など無い、勝つ事だけを考えろ。
そう言わんばかりの姿勢で、彼は教え子たちを鼓舞したのだ。
『行くよ、皆!!』
彼の隣に並び立った彩加は、後に続く仲間達を率いるかの如く先頭に立った。
『『はいっ!!』
『勿論だべ!!』
彩加のその姿に、大志たちもまた声をあげて戦列に加わった。
この世界を護るために、未来を止めさせない為に。
彼等は立ち上がったのだ、この世界に生きる者として、戦う事を諦めてはいなかった。
そんな彼等の様子に、ルギエルはただただ憐れとでも思っているのだろうか、静かに、彼等を見ているだけだった。
その手が、僅かに硬く握られた事を、誰も知らぬままに・・・。
sideout
side八幡
俺は、これで良かったのか・・・?
闇の中、意識が頭から墜ちていく中、俺は混乱の中で何が正しいか分からないままでいた。
―――お前が辿る道は只一つだ―――
ルギエルの哄笑混じりの声が、俺を耳朶打つ。
お前は俺の様になるしかないと、そう言わんばかりに・・・。
俺に追い打ちを掛けるかのように、嘗ての光景が頭を過ぎった。
小・中学時代の自分に対する心無い言葉や迫害の数々、ビクトリー、Xとの諍い、ムエルトさんを迫害する人間たち、その全てが俺に突きつけられていく。
俺の過ちや、人間の悪意が、次々に現れては俺に問いかけてくる様だった。
誰も皆、自分の利しか考えていない、自分の身の事しか考えていないくせに、群れたがり、そして傷付けたがる。
なんて欺瞞なのだろうか、今でさえ、受けいれがたいものが有った。
お前が護りたいのは、本当にこの人間たちかと。
お前を迫害し、あまつさえ関係の無い者をも殺した人間たちを、本当に護る必要があるのかと。
―――お前は何故光の力を使う?こんな人間を護るためだとでも言うのか?―――
ルギエルの言葉が。またしても耳を打つ。
お前は何の為に力を使うのか、何故傷付いても戦おうとするのかと。
何故戦うか、問われて初めて、俺は自分の覚悟はあっても、それを言葉に言い表せないでいた様な気がした。
最初にウルトラマンの力を手にして戦ったのは、自分が戦わねばならない気がしたから、それ以降も、一夏を本当の意味で師事した時から、大切な物を護りたいと思ったに過ぎなかった。
別段、自分の護りたい相手以外を護る義理は殆ど皆無に等しく、今も、俺は自分の大切な人達が傷付こうとしていたから戦っている。
故に、俺はこんな事をする人間など、護らなくては良いのではないか。
相手の言葉に耳を傾ける事も無く、ただ異質だから、怖いからという理由で罪なき異星人を殺した人間たち。
今もまだ、俺の思考にこびり付き、その先に行くべき思考を邪魔していた。
―――もう二度と、あのような不幸を起こしたくはあるまい―――
あぁ、確かにな・・・。
人間たちの勝手な行動は、俺でさえ許せない物があった。
その身勝手による不幸は、俺ももう二度と見たくない、起こしたくなんて無かった。
―――時を止めれば、それも見なくとも済む、二度と不幸など起きぬ―――
不幸が起きない、なんて素晴らしい世界だろうか。
争いも悲しみも起こり得ない、停滞の世界・・・。
そんな世界、現実にはありえないし、あったとしてもそれは欺瞞でしかない物だ。
だけど・・・。
それでも、争いが起こる事に比べたら、些細な事なのだろうか・・・。
もう、何を考えるのも億劫にさえ感じて来た。
―――受け入れろ、我を、我が歩んだ道を―――
このまま、まどろんで、全てを手放してしまえば楽なのだろうか・・・。
未来も何も、全て棄てて・・・。
停滞の中に居た方が、苦しくも無いのだと・・・。
停滞を受け入れかけて、俺は意識を闇に委ねてしまおうとしていた。
―――八幡・・・―――
微睡の中に意識が解けようとしていた時だった。
誰かが俺を呼ぶ。
力強くも優しい、俺を案じる想いが詰まった声だった。
この声は・・・。
「さ・・・、き・・・?」
―――諦めないで―――
―――比企谷君―――
―――頑張れ―――
沙希だけじゃない、大和や相模、俺達に関わりがあった皆の声が聞こえてくる。
負けるな、立ち上がれ、俺を信じて声をあげてくれた皆の想いが、俺に流れ込んでくる。
そうだ、諦めて堪るか、終わってたまるか・・・!!
俺を案じ、信じてくれる声に、溶けかけていた俺の意識の輪郭が、徐々にその形を取り戻していく。
俺が何の為に戦ってきたかなんて、今は何も関係ない・・・。
俺は変われたんだ。
ギンガが、彩加が、小町に大志、大和達もアストレイの人達も、そして、先生と沙希が支えてくれたから変わる事が出来たんだ。
それなのに、違う世界線の、変われないままの俺を見て、絶望するってのもおかしな話だ。
なんでそれに気付かなかったのか、冷静になれた今なら俯瞰できる気がした。
「ありがとな、沙希。」
頭から墜ちていく様な感覚を堪え、地に足を着けるかの如くどっしりと構えた。
そこで、俺の意識ははっきりとその輪郭を取り戻し、身体に力がみなぎってくる。
決心を固めるべく、俺は大きく深呼吸を一度し、闇を一点を睨みつけた。
「俺は、違う。」
―――なんだと・・・?―――
先程の先の声とは違う、どこか驚愕を含んだ俺の声が返ってくる。
何を言っているのだと、そんな混乱が感じ取れた。
そうだ、コイツは知らないのだ。
人から向けられる温かさを、支えて貰える喜びを、支え合っていると言う誇らしさを。
それを手に入れられなかった虚無、それがヤツの正体だと。
『俺はウルトラマン、ウルトラマンギンガだッ!!』
だったら俺は否定するだけだ。
ウルトラマンとして、未来を信じる者として、その半端な絶望を!!
『ショォウラッ!!』
目の前の闇に向かって拳を叩き付けると、目の前の空間はガラスが割れるかのように砕け散る。
何かに当たった感触がした後、嘗ての俺の姿をしたソイツ、ルギエルのへたりこむ姿が目の前にあった。
何とも憐れな、他人を憎み、他人を受け入れ愛する事を知らないまま、力に突き進んでしまった男の姿が、そこにはあった。
俺もこうなる可能性はあった、でも、そうはならなかった。
その境遇に理解は出来ても、同情する気には更々なれなかった。
『何故だ・・・!?何故否定する・・・!?』
『簡単な事だ、俺は停滞なんて望んでない、ただそれだけだ。』
そうだ、否定するのは簡単。
望んでいない、ただそれだけでいいんだ。
あーだこーだ考えるのも、今は時間の浪費以外の何でもない。
なら、単純明快に答えを突きつけてやれば良い。
『愚かな・・・!何故分からん・・・!!』
ルギエルの姿となったソイツは激昂して殴り掛かってくる。
だが、俺の思考はまるで冷や水を浴びせかけられたかのごとく、スーッと冴えており、混乱と憤りに揺れるその拳を避けるのは容易な事だった。
『何故・・・!何故ぇっ・・・!?』
最早その意味を為さなくなった言葉に答える事は無く、俺はその拳を受け止め、ヤツの拳を一気に押し返す事で上体を崩す。
『悲しいな、お前は!!』
がら空きになったその胴に、渾身のストレートパンチを叩き込む。
これまでコイツから被った迷惑と、この星の恨みつらみをついでに乗っけた、俺の私怨バリバリの一撃だったが、それは効果覿面だったようだ。
『ぬぉぉぉ・・・!?』
ヤツは後方に大きく吹っ飛び、受け身を取る事すら出来ずに背中から倒れ込んだ。
『ぐ、ぬぅぅ・・・!』
『俺には仲間がいる、愛する人がいる、だから、お前とは違う!!』
『だ、だまれぇぇ!!』
ダークスパークをランス形態にして向かってくる奴に、俺はきっぱりと否定の態度を表しつつ、同じくギンガスパークランスでそれを迎え撃つ。
同じ得物、同じ間合い、同じ戦い方でも、精神状態が違えばその技の精度も変わってくる。
明らかに動じているヤツの攻撃は精彩を欠き、弾き返すのに何の苦労も無かった。
突きを柄で払い、柄頭でルギエルの顎を打ち上げる。
何時もより冷静に、相手を倒す事だけを考えた行動が出来る。
怒りで頭がオーバーヒートして、逆に冷静になれているのかもしれないが、今の状況では好都合、そのまま決着を着けさせてもらう。
背負ってるモノとか、野望とかなんて関係ない。
俺は戦う、人間として、ウルトラマンとして!!
『俺の世界、返してもらうぞ!!』
ダークスパークランスを大きく弾き飛ばし、がら空きになったルギエルの身体目掛けて、俺はランスに光のエネルギーを集中させた切っ先を突き立てた。
これで、終わりだッ!!
『ギンガファイナル!!』
『うぉぉぉぉ・・・!?』
突き刺した切っ先から光が溢れ、ルギエルと俺ごとその空間を呑み込んで崩壊させてゆく。
この精神世界での決着を、本来の世界で着ける為に・・・。
sideout
次回予告
精神世界での決着を着けた八幡に待ち構えるは現実世界での脅威だった。
だが、彼等は負けない、明日を信じる力がそこにあるから。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
比企谷八幡は手を伸ばす
お楽しみに