やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
noside
『まだ、終わってない・・・!!』
ルギエルに渾身の一撃を叩き込んだ直後、八幡はルギエルがいた場所とは違う場所、ダークスパークランスが突き刺さる場所を睨む。
スーパーグランドキングを必死に抑え込んでいる一夏もまた、言葉にこそ出さないものの、その雰囲気は先ほどよりも険しく、緊迫したものとなっていた。
一体何事か。
それを見ていた沙希達が一体どうしたと言わんばかりに、彼らを見ていた。
ルギエルは先ほど、八幡が放ったコスモミラクル光線の奔流に呑まれ、跡形もなく消し飛んだはず、元凶を倒せばすべて終わる、そう信じていた彼等には、困惑の色が濃く浮かび上がっていた。
だが・・・。
『だ、ダークスパークが残ってる・・・!?』
状況のおかしさに気づいたXが驚愕の声を上げる。
ダークスパークが残っている意味、それを察したのだ。
『どうしたの、X!?』
その意味を理解できなかった彩加がXに問うた。
ダークスパークがまだ残っている意味、その脅威を知るために。
『ギンガが持つギンガスパークがギンガの現身の存在であるならば、ギンガの対であるルギエルの持つダークスパークもまた、その現身でなければならない筈・・・!』
『『ッ・・・!!』』
その言葉に、その意味を悟った彩加と沙希が絶句する。
それぞれが持つ変身ツール、それはウルトラマンへと変身するための道具であり、同時にウルトラマンの存在そのものでもある。
ウルトラマンが負け、その存在が消えれば、その変身ツールもまた消滅する運命にある。
ダークスパークもまた、ルギエルが用いる道具であると同時に、ルギエルを構成するための存在であるのだ。
つまり、ルギエルが本当に消滅しているのならば、ダークスパークもまた、その存在を消している筈。
それがまだ、この世にあるという事は・・・。
『ルギエルはまだ、消滅していない・・・!!』
『『ッ・・・!!』』
沙希が発した言葉に、それを見守っていた者達までもが息を呑む。
まだ戦いは終わっていない。
本当の悪夢はまだ、終わらないのだと・・・。
『おのれ・・・、おのれ・・・!』
『その声・・・!』
その場の誰のものでもない、怨嗟に染まる声があたりに響き渡る。
憎しみに染まり、闇を纏ったその声の正体に、皆固まっていたのだ。
『ルギエル・・・!しつこい奴ッ・・・!!』
その声の主、ダークルギエルに対し、八幡は怒気を含んだ声で叫ぶ。
何度その姿を見せれば気が済むのだ、いい加減やられてしまえと言わんばかりに、その叫びはルギエルを詰っていた。
『忌々しいウルトラマン共よ・・・!最早これまで・・・!我に残る最後の力で、この世界諸共、貴様達を葬ってやろう・・・!!』
『負け惜しみを・・・!!』
ルギエルの言葉に返しつつ、彼等は底を尽きかける体力を振り絞って構える。
先程の一撃、コスモミラクル光線を放つために皆、エネルギーの大半を持って行かれていたのだ、本来ならば立っている事さえままならないのだ。
そんな彼等の目の前で、上空を覆う闇全てがダークスパークランスに纏わりつく様にして集まって行く。
まるで、それを依り代に、再び姿を取り戻そうとしているかのようだった。
『なんだ・・・!?この気持ち悪い感じは・・・!?』
怨念が渦巻いているかの様な気持ち悪さを感じ、八幡達は思わず後ずさってしまう。
その最中に攻撃しようと考える事も、一夏の援護に回ろうと言う考えも起こらず、ただただその光景を見詰める事しか出来なかった。
そして、全ての闇が集結した時、それはまるで膨れ上がる様にしてその姿を現した。
『なっ・・・!?こ、これはッ・・・!?』
その姿に、彼等はそれ以外の言葉が出なかった。
それ、は50mサイズのウルトラマンの3倍以上はあるであろう大きさを持ち、ヒト型と言うよりは、まるで怪獣と呼ぶべき姿をしていた。
前傾姿勢気味に突き出された頭部に、肥大化し、ウルトラマンをも掴めそうなその腕は、脅威を感じさせてならなかった。
だが、ルギエルから受けた印象はそのまま残り、それはまるで、ルギエルがヒトから獣へとその姿を変えた様にも受け取れたのだ。
正に第二形態への進化、いや、変身とも呼べるその姿は、アークルギエルとでも呼ぶべき凄味があった。
『さぁ、どこからでも掛かってくるがいい・・・!』
獣の咆哮と紛う唸りをあげ、ルギエルは高らかに宣言する。
貴様等を葬る、その為には形振りなど構わぬと・・・。
その咆哮に、八幡達は一瞬恐怖を感じ、その足を止めてしまった。
彼等の本能に、直接恐怖を叩き付けているのだろう、その叫びは聞く者に突き刺さっていた。
『へっ・・・!一度負けたヤツが何言ってんだべ!』
『そうだし・・・!大人しく、負けてろっ!!』
だが、いち早く恐慌から抜け出したゼノンとジャスティスが飛び上がり、アークルギエルの顔面目掛けて同時に蹴りと拳を繰り出す。
『ッ・・・!待て!戸部!三浦ッ!!』
それに気付いた八幡が警告を発するがもう遅い、彼等はどんどんルギエルに迫って行った。
それは狙い違わずにルギエルの頭部に叩き込まれた。
『『どうだ・・・ッ!?』』
並の怪獣ならば悶えのたうち回る程強烈な打撃技がまともに入ったはずだが・・・。
『効かぬ・・・!!』
『『うわぁぁっ・・・!?』』
ルギエルは全く怯む事無く咆え、右腕の払いだけで二体のウルトラマンを軽々と地に叩き付けてしまった。
強烈な一撃に受け身を取る事すら儘ならず、ゼノンとジャスティスは悲鳴をあげながらも地に倒れた。
『愚か者共め・・・!!』
『い、いけない・・・!!』
『翔さん!優美子さん!!今の内に逃げて!!』
二人のピンチに、アグルとヒカリが飛び出して行く。
このまま攻撃をされてしまえば、最早体力の底が見えている二人はそれこそ命の危険に晒される事となるのだ、それだけは避けなければならなかった。
二体の青いウルトラマンはアークルギエルの胸元に飛び込み、それぞれの技の発動体勢に入った。
『ホットロードシュートッ!!』
『フォトンクラッシャー!!』
今だせる精一杯の光線を放ち、二人への追撃を逸らす、あわよくば撃破しようと言う魂胆で放たれたそれは、無情にも一切の傷を付ける事すら叶わずに霧散した。
『そ、そんな・・・!!』
『貴様等如き、最早我の相手にはならぬ!!』
愕然と硬直するアグルとヒカリを闇の波動で弾き飛ばして見せた。
『『うぅぅっ・・・!!』』
先程までの、腕を振るって発生させたようなものでは無い、全身から発した気そのものと言わんばかりにあふれ出ていたのだ。
その威力は先程までの比では無かった。
めり込む様に地面に叩き付けられ、二人は意識を失ったかのように動かなくなった。
『大志・・・!小町・・・!!』
『この野郎ぉぉ!!』
身内がやられて行く事に怒りを抱いた八幡と沙希は、それぞれ残された力を振り絞る。
これが最後の一撃、そう言わんばかりの気迫があった。
『八幡!沙希ちゃん!合わせて!!』
それを感じ取った彩加もまた、彼等を援護すべく動き出した。
三人の力を併せれば負ける事など無い。
これまでの信頼に裏打ちされた自信が、そう思わせていたのだ。
『ストリウム光線ッ!!』
『ナイトビクトリウムシュートッ!!』
『『エクスラッガーショット!!』』
其々の想いが乗せられた光線が混じり合いながらも放たれ、ルギエルの胸元を抉る様に打ち込まれた。
合体光線はそれぞれの光線を混ざり合わせる事で威力を何倍にも強化できる技だ。
心を通わせる事に何の問題も無い彼等ならば、単純に3発分の光線を打ち込むよりも遥かに強力な物が撃てるはずだった。
だが・・・。
『こんなものか・・・?温い!!』
最後の希望たる合体光線も、ルギエルは難なく耐えきってしまう。
防ぐまでも無い、そんなものなど、自分の身体に傷一つつける事も出来ないと、言外に語っていた。
『く、くそっ・・・!』
『もう、力が・・・!』
だが、それにはもう一つ要因があった。
それは、とうに限界を超えてしまっていた彼等の体力が本当につきかけていた事だった。
体力が万全ならば、その強固な皮膚をぶち破るまで光線を浴びせ続けていただろうが、既にそれが出来るだけの気力が続かなくなっていたのだ。
無論、そんな事など勝負の世界ではタラレバにしかならぬモノでもある。
それは、彼等もわかっている事だった。
無情にも、輝いていた胸の青いランプ、カラータイマーが急速に点滅し、最早戦う事など出来ないと言わんばかりに鳴り響いていた。
『これで終わらせてやろう!希望という網に囚われた憐れな者どもよ!!』
勝負を決する一撃を放つつもりか、ルギエルは全身をスパークさせ、口部に禍々しくも強烈な閃光を収束させていく。
全てを滅ぼす一撃、そう形容する事が出来る禍々しさを放っていた。
『いかん・・・!皆逃げろぉぉぉ!!』
一夏はそれを止めに駆け付けたい所だったが、スーパーグランドキングを抑え込む事が精一杯で、到底間に合う訳が無かった。
『ま、まずい・・・!』
一夏の警告とその光景から、途轍もなく悪い事が起こると本能で察知したか、八幡達は震える膝に鞭打って立ち上がり、何とかバリアを形成する。
気を失っていた筈の4人も何とか起き上がり、彼等と同じく光の壁を展開、重ねあわせて少しでも防御力を高めるべく力を籠めた。
この技を避ければとんでもない事が起こってしまう、その最悪を回避する為に、後ろにいる善き人間の友を護るために。
そんな覚悟をせせら笑うかのごとく、その閃光は無慈悲に放たれて突き進む。
それは八幡達が形成した光の壁にぶち当たり、押し破らんと拮抗する。
その衝突により周囲には凄まじいまでの力の圧が溢れ、それがソニックブームとなって襲い掛かる。
無論、ウルトラマンにとっては強めに吹き付ける風程度の圧でしかなかったとしても、脆弱な人間には、強烈な台風の中に放り出された様なモノだった。
「きゃぁぁっ・・・!?」
「み、皆!何かに掴まれ・・・!!」
事件の全てを見届けると決めた事が仇となったか、大和達は突如として発生したソニックブームに吹きとばされぬよう、必死に手摺に掴まり耐えた。
『ま、負けるかぁぁ!!』
『皆・・・!もっと力を上げるんだッ・・・!!』
それを視界の端で認識した八幡は、彼等を救うべくその光線を防ぎきろうと力を籠めた。
だが、既に限界ギリギリな彼等に、それを弾き返す気力さえ残されていなかったのだろう。
7人分合わせて張ったバリアも、持ったのは十数秒足らずだった。
バリアを粉砕した分威力は弱まったものの、それでも強烈な閃光の嵐が彼等を襲った。
『ぐぁぁぁっ・・・!!』
その強烈な奔流は彼等を苛み、地に倒した。
皆、最早変身を解除するだけの体力も尽きてしまったのだろう、
彼等は大地に倒れ込み、気を失ったかのごとく動けずにいた。
『ひ、比企谷君・・・!』
『立って・・・!お願い・・・!!』
彼等の敗北を信じたくなかったか、何とか前を向く事が出来た大和と南が叫ぶ。
立ってくれと、負けないでくれと。
自分達を助けてくれた時の様に立ちあがってくれと・・・。
「そ、そうだよ・・・!ヒッキー!」
「サキサキ・・・!立って・・・!!」
「戸部・・・!優美子・・・!!」
自分達の声も思いも届けんと、結衣も姫菜も、そして隼人も声をあげた。
「立って・・・!ウルトラマン・・・!!」
雪乃も彼等と同じく祈った。
ウルトラマンの勝利を、その先に待つ、本当の意味での幸福の未来を。
彼等とて、戦えない自分達の代わりに傷付く事を心苦しく思っている事には変わりはない。
だが、それでもルギエルの言う停滞を受け入れる気など、今の彼等には存在しなかったのだ。
だから、ウルトラマンに立ち上がって欲しかった。
それが、自分勝手な望みだとしても・・・。
『耳障りな声だ・・・。』
その声に反応したか、アークルギエルは総武高の校舎へと、正確には屋上にいる大和達に目を向けた。
その声には苛立ちが混ざり、明確な敵意と害意を窺う事が出来た。
『希望、何とも脆く儚いモノだ・・・、良いだろう、貴様たちから消えるが良い、助けにも来ないウルトラマンを信じたままにな!!』
その耳障りな声をかき消す為か、ルギエルは再び禍々しい閃光を口部に集中させた。
最早逃げる事も出来ないと、彼等はその光景を、自分達を焼く事となる閃光をただただ呆然と見つめる事しか出来なかった・・・。
『やめろっ・・・!!』
その刹那、その閃光は臨界に達し、彼等目掛けて撃ち掛けられた。
その奔流を前に、彼等は次に訪れる瞬間を覚悟し、目を瞑り、顔を腕で覆った。
だが・・・。
「えっ・・・?」
その瞬間が訪れる事は無かった。
一体何が起こっているのか確かめようと、大和はその目を恐る恐る開いた。
そこには・・・。
『ぐ、ぁぁぁ・・・っ!!』
「あっ・・・!!」
屋上にいた彼等を庇うかのごとく、閃光の奔流に身を晒す黒き巨人の姿があった・・・。
sideout
次回予告
闇に呑まれた者は再びその光を見る事は無いのだろうか。
斃れし者に指す光は、既に閉ざされてしまったのだろうか・・・。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
織斑一夏は命を賭ける 後編
お楽しみに