やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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織斑一夏は命を賭ける 後編

noside

 

異次元の狭間、並行世界を隔てる狭間の世界にその光は有った。

 

『何処だ・・・!何処にいる・・・!?』

 

その光は巨人なのだろうか、しきりに何かを探しては、焦燥にも似た声をあげていた。

 

いや、何かというよりは、誰かを、その誰かがいる場所を探している様な雰囲気を感じ取る事が出来た。

 

『急がねぇと・・・!!ジーさんの伝言、届ねぇといけねぇのに・・・!!』

 

急がねばならない、こうしている間にも彼等は苦しみを増やし、取り返しのつかない事態に巻き込まれている可能性がある。

 

いや、彼等の性分を知る彼からしてみれば、その事態は既に起こっていると直感する事が出来ていた。

 

何せ、彼等は自分を逃がし、その苦境の中に自ら残ったのだから・・・。

 

故に、彼は一刻も早く彼等に合流し、その苦境を跳ね除けてやらねばならないのだ。

 

それが、彼等に救われた自分が出来る恩返しの一つだと・・・。

 

だが、そうは思えど彼等がいる場所、最後に湧かれた世界の場所がどうしても判らなかった。

 

世界は無数に存在し、その中の一つを見つけ出すのは、如何に彼の師であっても難しい事だったのだ。

 

それ故に、彼は微弱ながらも断続的に続く彼等からの力の呼び声を頼りに狭間の世界を何度も行き来しているのだった。

 

『何処・・・、ん・・・?』

 

焦りがピークに達しようとしていた時だった、彼の視界に何かが映り込んだ。

 

それは光を纏いながらも闇をも内包する、矛盾に満ちた何かだった。

 

『あれは、まさか・・・!!』

 

何かを察したのだろうか、彼は脇目も振らずにそれに向かって行き、それを受け止めた。

 

『これは・・・!』

 

その正体に、彼は驚きの声をあげた。

それはスパークドールズであり、その存在自体は力だけだと言うのに、力の持ち主に意志の残滓が唸りを上げんばかりに叫ぶ様な勢いを感じ取る事が出来た。

 

まるで、早く戦いたいと、その力とその主が叫んでいるかの様だった。

 

『これはアイツの・・・!!』

 

その力の持ち主が、彼等の内の一人、力に誰よりも強い執着を持つ彼だと気付いたのだろう、その声は明るかった。

 

その意思が伝えている。

力の持ち主と強く呼び合っているが故に、彼が何処に向かうべきかを無言の内に指示しているかのようだった。

 

『あっちの世界だな・・・!待ってろよ、一夏・・・!!』

 

それを失わぬ様しっかりと握り締め、彼は光を纏って突き進んだ。

 

嘗て受けた借りを返すために、そして、友を救うために・・・。

 

sideout

 

side八幡

 

『うぅ・・・、ッ・・・!しまった・・・!気を失って・・・!!』

 

全身を襲う疲労感と鈍痛に叩き起こされる様に、俺の意識は覚醒する。

 

さっきまで俺は何をしていた・・・?

 

それを思い出すより早く、何とか身体をお越し周囲を確認する。

そうだ、俺はルギエルの攻撃を防ぎ損ねて・・・。

 

それを理解した瞬間、一気に焦燥が身体中を駆け巡る。

 

マズイ、今ここで寝たままだと確実にヤラれる・・・!!

 

ここで負ける訳にはいかねぇんだ・・・!

 

その想いと共に、俺はもう一度ルギエルを睨もうと前を向く。

 

ルギエルは校舎の屋上に向けて閃光を吐こうとしていた。

無論、その先にウルトラマンは誰一人としていない。

 

それも当然だった。

何せ、ここで戦っていたウルトラマンは、俺と同じく地に倒れているから。

 

じゃあ何を狙っているのだ。

それは、考えるまでも無い事だった。

 

それは、身を護る術を持たない大和達を狙っていたんだ・・・!

 

『や・・・、やめろぉぉぉ・・・!!』

 

逃げてくれ・・・!皆・・・!!

退避を促そうにも身体が動かない、声もあげられない・・・。

 

ただ、それを見ている事しか出来なかった。

 

何も出来ず、ただ手を伸ばす事しか出来ない俺の目の前で、致死の閃光が彼等に向けて放たれた。

 

それは無慈悲に突き進み、彼等を容赦なく焼かんと迫った。

 

だがその刹那・・・。

 

『うぉぉぉっ・・・!!』

 

凄まじい速さで黒い影が校舎の前に立ちはだかり、その身体で閃光を受け止めていた。

 

バリアを展開する時間も無く、ただ己が身を挺する捨て身そのモノ・・・。

 

『あっ・・・!!』

 

その姿は紛れもなくティガアナザーの姿をしていた。

 

大和達の危機を察知し、押さえていたスーパーグランドキングを放置してでも助けに入ったのだろう。

人間を、ウルトラマンを憎んでいたと言われるあの人が、人間を助けたいと思ってくれた瞬間だったんだ。

 

だけど、そんな事など、今この瞬間には何の関係も無い事だった。

 

『う、ぁぁぁぁ・・・!!』

 

『せ、先生っ・・・!』

 

苦悶の声をあげる先生を助けに入る事も出来ず、俺はただそれを見ている事しか出来なかった。

 

『ぐ、ぁぁぁ・・・。』

 

数瞬の後、その閃光は止み、最早立つ体力さえ奪われたのだろう、ティガアナザーは大地に倒れ込みながらも変身が解除された。

 

「ぐっ・・・!」

 

校舎の足元に倒れた先生は身を捩りながらもなんとか立ち上がろうとしていた。

 

だが、ダメージが大きすぎたか、最早立つ事すら叶わず、彼は再び崩れ落ちた。

 

「せ、先生ーーっ!!」

 

「そんな・・・!俺達の為に・・・!」

 

その姿を屋上から見たのか、大和達が叫びをあげた。

 

先生が変身していた事に対する驚きよりも、織斑一夏が負けるなど思ってもみなかったんだ・・・。

 

いや、それは俺も同じか・・・。

先生は負けるはずないって、心の何処かで思ってしまっていた。

 

そんな事ある筈ないのに、勝手に想像していた。

 

だから、それが覆された時の衝撃は、あまりにも大きすぎた・・・。

 

『そ、そんな・・・、先生・・・!』

 

呼びかけるが、彼は最早動く事すら出来ないのか、俺の言葉に返してくる事も無かった。

 

『ふはははは!無様だな織斑一夏よ・・・!貴様も終わるのだ!』

 

そんな彼に、ルギエルは勝ち誇った様な哄笑を投げかける。

 

お前は終わりだと、諦めて敗北を受け入れて幸福を取れと、そう言っているかのようだった。

 

『黙れ・・・!その人を・・・!笑うな・・・!』

 

だが、憎んでいた筈の人間をも護って傷付いた先生を嗤うなんて許せるはずが無かった。

 

彼は、自分の矜持以上に誰かを護る事を選んだ・・・!

その選択を、嗤わせて堪るか・・・!!

 

『ふん、今の貴様に他人を庇う余力などあるまい・・・、そこで大人しく見ていろ、この世が闇に包まれ、停止する様を・・・!!』

 

ヤツが宣言した瞬間、ルギエルと同化したはずの闇が溢れ出し、再び空を覆って行く。

 

先程よりも濃く、凄まじい勢いで空を埋め尽くす闇は太陽光を遮り、周囲を漆黒へと塗りつぶさんとしていた、

 

だが、それだけじゃなかった・・・。

 

「う、うわぁぁ・・・!?」

 

「な、なにこれっ・・・!?」

 

それとは別にルギエルから発せられた闇が近くにいた大和達、いや、それ以外の人間にも纏わりつく様に憑りついて行く。

 

『何を・・・!?』

 

一体何をする気だ・・・!?

 

『知れた事・・・、幸福のために眠って貰うだけだ・・・、案ずるな、貴様たちも、何れ同じ道を辿るのだ・・・!』

 

そういうが早いか、斃れていた俺達にも闇が迫ってくる。

 

直感で良くない事とは直ぐに分かった。

だが、逃げるだけの体力も、もうなくなっていた・・・。

 

『諦めろ、そして永久なる幸福に沈むが良い!!』

 

その言葉を聞き終えるより早く、俺の視界は闇にかき消された・・・。

 

sideout

 

noside

 

『時よ止まれ・・・!幸福よ、降臨せよ・・・!!』

 

呪詛の様に響くルギエルの声に答える者は無かった。

 

だが、それでも構わんと言わんばかりにそれは響き、世界を覆わんと広がって行く。

 

それは人間をも呑み込んでゆき、行動を阻害、地に倒して行った。

 

皆、ウルトラマンが全て倒されてしまったのを実際に見ていたからだろうか、誰もそれに逆らう事が出来ずに、起き上がる事さえ出来ていなかった・・・。

 

それはこの世の終わりを示唆しているかの如く、地獄変を表現しているかのようだった。

 

『諦めよ、そして受け入れよ、哀れな人間共よ・・・!』

 

貴様等に希望は無い、未来は無いと、まるで嘲るかの如く告げた。

 

『貴様等の希望、ウルトラマンは敗れたり!最早選択肢など残ってはいない!』

 

選択肢など残っていない、だから、自分が指し示す未来を受け入れろ。

 

喩え受け入れなくとも、強制的にそれを受け入れさせるまでと言わんばかりに、その闇は濃さをどんどん増していく。

 

辺りがすでに闇に覆われ、一切の光も失われてしまった。

 

世界は、ルギエルの思惑通り、停止の中へと向かってしまうかに思われた・・・。

 

『俺は・・・!諦めない・・・!!』

 

『何・・・?』

 

倒れていた筈のギンガが、全身に力を籠め、震える身体を無理やり起こした。

 

それを信じられんと言わんばかりに見るルギエルの視界に、想像もしなかった事が映り込む。

 

「そうだ・・・!諦めちゃいけないんだ・・・!!」

 

屋上で闇に憑りつかれ、倒れていた大和も、負けるかと言わんばかりに手摺に掴まり強い光を灯した瞳で睨む。

 

諦めない、その言葉には彼の想いが全て乗せられていた。

 

「何が、幸福よ・・・!そんなモノ、ウチは認めない・・・!認めたら、あの時のままだ・・・!!」

 

同じく、南達もまた立ち上がり、あの時に戻りたくないと叫ぶ。

間違いを犯したまま、のうのうと生きていける筈がない。

 

間違いを知り、それを二度と犯さぬよう、誰かと共に生きていく、それが、彼女達が得た答えだった。

 

『だから、アンタには屈しない・・・!それが、あたし達が掴む幸せだから・・・!!』

 

ギンガの隣に、ビクトリーが、Xが、倒れていたウルトラマン達が立ち上がる。

 

此処で終わらない、終わらせない。

自分達の幸せは、自分達で作って行く、誰かに押し付けられるものでは無いと。

 

それに呼応するかの如く、立ち上がった者達の身体からは光が溢れ出し、自身の身体に纏わりついていた闇を打ち払った。

 

その行為自体、ルギエルの幸福を完全に否定し、自らの脚で立つと宣言した証左にならなかった。

 

『なんだと・・・!?』

 

その現実を受け入れられなかったか、ルギエルは取り乱す。

人間如きが、心地良い闇の微睡から抜け出せるなどと思いもしなかったのだ。

 

『何故、人間如きが・・・!?』

 

「人間、嘗めすぎだ・・・!ルギエル・・・ッ!」

 

その困惑に答える様に、息も絶え絶えながらも立ち上がった一夏が叫ぶ。

 

人間を過小評価しすぎたのだと、元人間のお前が何故それを分かっていないのだと。

 

「人間ってのは、どんな奴でも頑固で勝手なもんだ・・・!お陰で傷付いたのは、俺もお前も同じだろう・・・?」

 

貴様と俺は人間に傷付けられた痛みを持つ、だから分かるのだと。

それを理解していないくせに、人間を自らが考える幸福に落そうと言うのだから笑えないと。

 

「人間はどれほど踏みつけられても、間違いを犯しても立ち上がる・・・!それが人間の面倒な所でもあり、良いトコロだ・・・!だから、俺は人間を嫌いになっても希望を持てた・・・!!」

 

その面倒な所が嫌いになり切れないと、彼は苦悶に歪む顔に笑みを浮かべていた。

こんな所で自分が目を掛けた者達が止まる筈も無い、それを知っているからこそ、彼は無理にでも笑ったのだ。

 

信じていたのだ。

光と闇、そのどちらをも内包する人間だからこそ、自らに巣食う闇と共に、押し寄せる闇を跳ね除けられると。

 

「ぐ、うぅぅ・・・!!」

 

一夏の言葉に呼応するかの如く、屋上で闇に憑りつかれたまま苦しんでいた静が、これまでとは違う声をあげ、身体を捩った。

 

「応えてみせろよ・・・!人間・・・!いや、平塚ぁ!!」

 

「お、お前に・・・!呼び捨てにされるいわれなど無い・・・!!」

 

挑発するかのような声に、静は黙れと言わんばかりに叫び返した。

 

「貴様等の思い通りにはさせん・・・!私は・・・!私の意思で・・・!勝ってみせる・・・!!」

 

『ば、バカな・・・!?貴様は、完全に取り込んでいた筈・・・!?なのに何故・・・!?』

 

自らの意思でダークスパークを放り投げ、闇の呪縛を断ち切った静の行動に、完全に予想外だったと言わんばかりに声をあげる。

 

何故自分が直接施した闇の呪縛を、何の力も持たない筈の女が振り切れるのだと。

その理由が分からずに混乱しているかのようだった。

 

「言ったよな・・・!人間嘗めたら、怪我するぜ・・・!!」

 

ルギエルに宣告するかの如く、彼は笑った。

人間を嘗めるなと、それは元人間であり、人間の頃に抱いた矜持を今も尚持ち続けている彼だからこそ発せた言葉だった。

 

お前が否定するモノを、自分は肯定しないまでも受け止めてみせる、そう宣言したのだ。

 

『黙れ・・・!黙れ黙れ黙れぇぇぇ!!』

 

それに激昂したか、ルギエルは叫び、手当たり次第周囲に闇の光弾を乱射する。

 

だが、どれもが精彩を欠いたかのように外れ、当たるにしても、ウルトラマンの腕に弾かれて霧散するばかりだった。

 

「お前は負けたんだよ・・・!この星の人間に!未来を信じるその意思に!!」

 

『黙れぇッ・・・!!ならば・・・!貴様も敗北するがいい・・・!我が・・・!引導を渡してくれるッ・・・!!』

 

痛い所を突かれたか、ルギエルは咆哮をあげながらも腕を振りかぶる。

 

その拳の先には、既にその場から動く事さえ出来ない一夏の姿があった。

 

どうやら、一夏をそのまま殴り殺そうとしているのだろう、その拳からは殺気を感じ取る事が出来た。

 

『せ、先生っ・・・!!』

 

それに気付いた八幡達が何とか気を逸らそうとハンドスラッシュを撃ち掛けるが、激昂しているルギエルには、弱った彼等の攻撃など一切の効果は無かった。

 

『死ねぇ!織斑一夏よッ・・・!!』

 

自らに振り下ろされる拳を、一夏はただ睨みつけんばかりに見据えていた。

逃げない、まだ終わった訳じゃ無いと何かを信じる色、そして、漸く終わらせる事が出来ると言う満たされた色が、そこにはあった。

 

最早避けられない所まで迫った時だった。

 

『ウォォォッ!!ウルトラゼロキィィィックッ!!』

 

『なにっ・・・!?』

 

空に巨大なワームホールが突如として開き、そこから炎を纏った何かが流星の如くルギエルへと突っ込んで行く。

 

その何かはルギエルの頭部を蹴り飛ばし、一夏に向かっていた拳をルギエルの本体ごと大きく吹っ飛ばした。

 

『なっ・・・!?』

 

『なんだ・・・!?』

 

突然の事に、八幡達は状況を理解できていない様で、一体何が起きたのかと混乱するばかりだった。

 

だが・・・。

 

「ふっ・・・、まだ、終わらせてはくれないのか・・・、まったく、良い所で来やがるよなぁ・・・!」

 

命の危機が思わぬ形で逸れた事となった一夏は、苦笑しつつも膝を着いた。

 

その正体を知っていたから、そして、自分達の運命を皮肉りつつ笑っていたのだ。

 

『待たせたなぁ!』

 

それはウルトラマンの姿をしており、赤と青、そして銀の3色が光る身体に頭部に備わる2本のスラッガー。

 

自信と覇気に満ちたその姿からは、強者の風格を漂わせていた。

 

『き、貴様は・・・!まさかっ・・・!?』

 

その正体に気付いたか、ルギエルはあからさまに驚愕と焦りを露わにした。

 

それを受け、その光の巨人ももまた立ち上がり、声高に宣言したのだ。

 

『俺はゼロ!ウルトラマンゼロ!!一夏達のダチだッ!!』

 

sideout

 




次回予告

新たなる巨人、ゼロが駆けつけ、局面は最後の一手へと進んで行く。
それが齎すのは光か闇か・・・。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

織斑一夏は再臨する 前編

お楽しみに

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