やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
noside
『行くぞ!』
『おう!!』
アークルギエルに向けて、ティガダークとゼロ、二体の巨人が地を駆け、向かって行く。
力を取り戻しつつある今のティガダークの勢いは凄まじく、気迫だけでルギエルを押し潰さんばかりだった。
『お、おのれ・・・!貴様等如きに・・・!』
苦し紛れか、それとも本当に怯えているのか、その声は震えており、撃ち掛ける光弾も彼等を捕える事は無かった。
『ハッ!!』
ティガダークが飛び上がり、ルギエルの顔面目掛けて接近、闇のエネルギーを纏ったフックを叩き込む。
『ぐぉぉぉぉ・・・!?』
その威力は凄まじく、ルギエルは大きく吹っ飛ばされて盛大に地に叩き付けられる。
ゼノンとジャスティス、特にパワーに自信のあった二人がかりでビクともしなかったその巨体を軽々と吹っ飛ばすその力は、最早形容できるものでは無かった。
『す、すごい・・・!』
『なんて力だよ・・・!?』
ただのパンチ一発で150m以上あろうかという巨体を軽々吹っ飛ばすその力の強大さに、八幡達はただ戦慄する以外なかった。
これが、自分達の師の、本当の力・・・。
それを理解すると同時に、身震いもしていた。
自分達が目指す力の導が、果てしなく遠いモノだと理解していたのだから。
『こ、小癪なっ・・・!!』
『余所見厳禁油断大敵ってなッ!!』
『なにっ・・・!?』
なんとか立ち上がろうとするルギエルに、背後に回ったゼロが畳み掛ける。
スラッガーを二本、融合させたゼロツインソードを振りかぶり、背びれのような突起を叩き斬った。
『ヌォォォォ・・・!?』
『よっしゃっ!!』
悶絶するように叫びながらも暴れるルギエルから離れつつ、ゼロはガッツポーズをしていた。
ザマァ見やがれ、そんな感情が透けて見える様だ。
『油断するな、来るぞ!』
そんなゼロに対し、一分の隙さえ見せていない一夏は、油断するなと叫んでゼロと並び立つ。
彼には、ルギエルが怒りを爆発させ、今にも熱線を吐こうとしている所が見えていたのだ。
『くたばれぇぇぇぇ!!』
怒りの咆哮と共に、これまでの比でない程の閃光が膨れあがり、彼等目掛けて放たれた。
先程、ギンガ達のバリアを突き破ったモノよりも遥かに凄まじいそれは、緩まる事無くティガダークとゼロに向かって突き進んで行く。
自分達では防ぎ様の無いそれを、一夏とゼロはどうやって躱すかと、八幡達は息を呑んでそれを見ていた、いや、見ているしかなかった。
『ゼロ、俺の後ろに!』
『すまねぇ!!』
そんな彼等の前で、ティガダークはゼロを庇う様に閃光の矢面に立ち、右の掌底を突きだす。
その刹那、彼の掌底と閃光が激しくぶつかり合い、激しい光の明滅が辺りを支配する。
だが、それほど強烈な閃光の中でも、ティガダークの姿は依然として健在、それどころか余裕さえ感じさせながらも閃光を防いでいた。
周囲の地形すら変えてしまう様な巨大な力を、彼はただ片手をかざすだけで受け止め、しっかりと立っていたのだ。
『スゥー・・・、フゥー・・・。』
その強烈なエネルギーの奔流の中で、彼は精神を統一するかの如く、武術で用いられる様な呼吸を行う。
その呼吸のたびに、彼の纏うオーラはその強大さをどんどん増して行き、ティガダークの中へと還って行く。
『ハァァァッ!!』
それが最大になった時、ティガダークの身体が光り、同時に炎の様なエネルギー球がルギエルの吐く閃光を押し返していく。
『な、なにぃぃ・・・!?』
閃光を止める事も、光球を押し返す事も出来ないまま、ルギエルはその炎に顔を焼かれた。
『ぐ、ぐぉぉぁぁぁ・・・!?』
一体何が起こったと言うのか。
それを確かめんと、焼かれる痛みに悶えながらも、ティガへとその視線を向けた。
『そ、その姿っ・・・!?』
そこにあった光景に、ルギエルは戦慄の声をあげるしかなかった。
何せ、今のティガの姿は、最早ティガダークでは無くなっていたのだから。
黒に支配されていた身体に赤い色が差し込んだその姿は、これまでとは違うと視覚的にも訴えている様な印象さえ受けた。
『俺はティガダークより進化せし者、闇を纏いし剛力の赤!ティガトルネード!!』
ティガダーク改め、ティガトルネードは構えを取り、ルギエルに向かって迫る。
移動速度は落ちたが、気迫は先程までよりも増しており、一気にルギエルを呑み込まんとしていた。
『ゼロッ!!』
『おっしゃぁ!!』
一夏の声に呼応し、ゼロはティガトルネードと共に飛び上がりつつ、その姿を変えた。
それは、紅蓮の炎と絶大なパワーを宿す、ダイナとコスモスの赤を纏った姿、ストロングコロナゼロ。
赤き戦士たちは、そのパワーを用いて敵を粉砕するのだ。
『行くぞ!!』
ルギエルの懐に飛び込みつつ、ティガトルネードが広げた腕に炎のようなエネルギーが集まって行く。
それと同時に、ゼロも技の体勢に入った。
紅蓮の炎を纏った腕が、その唸りを上げていた。
『ガルネイトォォォォ!バスタァァァァッ!!』
『デラシウム光流ッ!!』
炎を纏いし奔流が、大気を焼きながらも突き進み、ルギエルの胸部を焼いた。
『ぐ、ぁァァァァッ・・・!?』
その強烈な威力はルギエルの身体を吹き飛ばした。
『相変わらずスゲェパワーだな・・・!惚れ惚れするぜ・・・!!』
『ふっ・・・、お前も力を増したみたいだな!』
地に降りたった二人は拳と拳をぶつけ合わせながらも互いをたたえ合った。
一年半前に別れた時とは違う力が、そこにはあったのだ。
『お、おのれ・・・!オノレェェェ・・・!!』
怒りに理性を失くしたか、ルギエルは光弾や閃光を撃ち掛けながらも、我武者羅に彼等を狙った拳や蹴りを繰り出した。
もう効果的な一撃必殺など求めてはいない。
憂さ晴らし以外の何物でもない、ただ錯乱と言うべきものだったのだろう。
パワーが上がった事と引き換えに移動速度が落ちているのだろうか、二人は腕をクロスさせて光弾を防いでいた。
だが、その場で留まったとていい結果は出ない事は明白だった。
『仕方ない・・・!コイツでっ!!』
しかし、彼等にはまだ札がある。
それを切る以外、この魔物を倒す事など出来ないと分かっていた。
『ハァァァッ!!』
彼が全身に力を籠め、何かをスパークさせようとしていた。
それはまるで、自身の内にある力、それを解放せんばかりの様子だった。
『ッ・・・!さ、させぬわぁぁ・・・!』
何をしようとしているのか理解したのだろう、ルギエルは咄嗟に光弾を幾つも形成して撃ちだした。
当たらなくとも構わない、せめて行動を阻害せんと放たれたモノだった。
それはティガやゼロが立っている場所の近くに着弾、炸裂して盛大な爆炎を巻き上げる。
だが、ティガはそんなものなど一切気にも留めていないのか、力を溜める事を止めなかった。
一際大きな爆炎が上がり、彼等の姿を覆い隠した時、それを突き破らんばかりの光が溢れ出す。
『ぬ、ォォォォ・・・!?』
その光は真っ直ぐルギエルの咽元を貫いて行った。
目にもとまらぬとはこのことを言うのかと言うほどの速度で喉笛を貫いて行ったからか、ルギエルは数テンポ遅れて痛みにのた打ち回っていた。
ルギエルの背後の空に佇む、二体の影がそれを成したと、全員が更にワンテンポ遅れて気が付いた様だ。
『俺はティガトルネードより進化せし者!闇を貫く迅速の紫!ティガブラスト!!』
『ルナミラクルゼロ!』
身体が更に光を取り戻し、パープルのラインが入った迅速の戦士、ティガブラスト。
青を纏いし慈愛と奇跡の戦士、ルナミラクルゼロ。
二体のウルトラマンは口上を上げるや否や、またもや目にもとまらぬ速さで空を駆けまわる。
『は、速い・・・!?』
『目で追えない・・・!!これが、ティガ・・・!?』
そのあまりの速さは、ウルトラマンとなった者達でさえ追い切れない程だったのか、八幡達は驚愕し、慄く以外なかった。
自分達がこれをされて無事でいられるか?
その結果を考えるだけで、震え上がる心地だったに違いない。
『ぐ・・・!?おぉぉぉ・・・!?』
残像が幾重にも見え、それが自分を囲う様にして迫って来ている様な錯覚を覚えたルギエルは、どれが本物だと周囲を警戒する
攻撃の一瞬を見逃せばヤラれる、そう分かっているからこその生存本能から来る恐怖だった。
だが・・・。
『ミラクルゼロスラッガー!!』
その残像のどれでも無く、何処からともなく幾つものスラッガーが襲い掛かる。
『ぬぉぉぉ・・・!?』
それは乱舞するかの如くルギエルへと襲い掛かり、その巨体に幾つもの傷を付けていく。
『ゼロッ!!』
『おぉ!!』
空の彼方から急降下するティガの蹴りに合わせ、ゼロはスラッガーを飛ばす。
それ目掛けてティガブラストは、急降下の勢いを乗せた蹴り、ティガブラストキックを叩き込む。
『『ティガゼロノックアタック!!』』
コンビネーション技が炸裂し、凄まじい勢いを伴ったスラッガーが待機を切り裂いてルギエルの尻尾を叩き斬った。
『ぐ、おぁぁっ・・・!!おのれ・・・!!おのれぇぇぇ・・・!!』
最早悲鳴にもならない怨嗟の声をあげ、ルギエルは辺りを手当たり次第殴り、大地震の様に地を震わせた。
だが、それも空を舞う二体の戦士には何の意味もなさない。
彼等は、上空を飛ぶツバメの様に我関せず、と言った風だった。
『お前には何もない、そんな空っぽの拳では、今の俺に傷一つ着ける事は出来んぞ!!』
その様子に、ティガブラストは憐れむ様に言葉を紡ぐ。
大切な仲間を、家族を、そして手塩にかけた弟子を持つ彼からしてみれば、護るべきモノを持たないルギエルは憐れ以外に何とも思えなかった。
いや、憐れとすら思えなかった。
彼の中にあるのは、自分のすべき事をする。
長きに渡って培われた、戦士としての血が、そんな憐れみさえ殺し、彼をただ目的を遂行するための兵士とさせていた。
『この俺に滅ぼされる事を光栄に思え、貴様の様な空っぽなお前に直々に手を下してやるんだ、戦士としての誉は充分だろ?』
煽る様に、だがそれでも一切の情けと言うモノを感じさせない声で、彼はルギエルを睨みつけた。
その目は、射抜く様に恐怖を煽り、ルギエルに語りかけた。
死
ただそれだけを意識させるには十分すぎた。
『からっぽだと・・・!?貴様に何が分かる・・・!?貴様に・・・!我の、俺の何が解ると言うのだ・・・!?』
最早見下したような、何処か取り繕う様な態度を取る事さえ出来ない程の追いつめられたか、ルギエルはただ叫ぶ。
自分の何が分かるのだと。
お前はそんな経験など無いクセにと・・・、何時ぞやの誰かが言った様な、そこから進歩できなかった者の叫びが、そこに籠められていた。
『ならば・・・!貴様も失うと良い・・・!!貴様の愛する弟子とやらを・・・!護れずに喪うのだぁぁ・・・!!』
『ッ・・・!?ヤベェ!逃げろお前等ぁぁ!!』
ルギエルのやろうとしている事に気付いたか、ゼロが警告を飛ばす。
だが、それよりも早く、ルギエルはダメージで思う様に動けないギンガ達を狙って閃光を吐く。
大切な物を護れぬ弱さに打ちひしがれろ、そんな八つ当たりにもにた感情がそこには乗せられていた。
その無慈悲な閃光は、最早ガードする体力も無い彼等を呑み込もうとしていた。
『お前・・・、今、なんて言った・・・?』
だが、ルギエルは気付いていなかったのだ。
その行為が、彼の逆鱗に触れる事を・・・。
聞く者全てが縮み上がる様な声が、その場にいたすべての者を耳朶打つ。
それと同時に、八幡達と迫り来る閃光の間に、何者かが光を超えて割り込んだ。
その何者かは、後ろにいる7人を護る様に腕を広げ、その閃光を真正面から受け止めた。
『ッ・・・!!』
その姿に、八幡達は絶句する。
何せ、それは先程と全く同じだったのだから。
ティガが、誰かを庇って攻撃を受けていたのだから・・・。
『せ、先生・・・!!』
自分達の為に死ぬ事なんてない。
そう叫ぼうと、八幡は震える脚に鞭打って立ち、一夏を死なせてなるモノかと前に出ようとした。
『情けない声を出すな、八幡・・・。』
そんな彼の不安を笑い飛ばす様に、彼は穏やかな声で制止する。
まるで、先程死にかけた攻撃を喰らっても、何とも感じていない。
そんな絶対的な安心感が滲み出た、彼の言葉だった。
『見ていろ、これが、お前達が目指すべき、光だッ!!』
驚愕に目を丸くする八幡達の前で、彼は更に力を籠める。
斃す、護る、そして、強くなる。
今迄自分がやって来た三つのポリシーを今一つにして、目の前のバカタレをぶちのめす。
その想いと共に、彼は力をスパークさせた。
『ぬぅ・・・!!』
その瞬間、彼の周囲が強烈な金色の光に包まれる。
あまりに強烈な光だったからか、八幡達も目を焼かれた。
『こ、この光は・・・!』
『とっても・・・、暖かい・・・。』
その光は傷付いたウルトラマン達を癒すかのごとく寄り添い、包んでいく様な印象さえ与えた。
『や、やめろ・・・!その光を見せるな・・・!』
その光に、ルギエルはこれまでより克明な怯えを見せた。
今、彼が発している光の正体、それに気付いてしまったのだから。
そして、その光はティガを中心に集い、フラッシュの様に明滅して大輪の華を咲かせた。
その光を直視する事が出来るようになった時、彼等の目の前には金色を纏う巨人の姿があった。
それは、ウルトラマンティガが纏う、最強にして伝説の光だった。
『な、なんて強い光・・・!』
金色を纏うティガの姿に、八幡の目は釘付けとなる。
一切の闇を弾き返してしまうほどの光の壁とも言える圧力を纏い、そこに存在していたのだ。
憧憬や畏怖など、様々な感情が沸き上がり、その背をただ見つめる事しか出来なかった。
『ルギエル・・・、テメェ、さっきなんて言った・・・?』
そんな彼等の視線を背に受けつつも、彼は一歩、圧倒的な存在感と共に前へと踏み出す。
その声は怒りに打ち震え、今にも爆発せんばかりの様子だった。
『う・・・!うぅ・・・!?』
そのあまりにも凄まじい光と怒りの力に、ルギエルはただただ圧倒されるばかりだった。
『お前・・・、俺の弟子を消すって、言ったよなぁ・・・?』
ルギエルは、知らず知らずの内に触れてしまっていたのだ。
ウルトラマンティガ、織斑一夏の逆鱗を、そのキーとなる対象を・・・。
『やれるもんならやってみろよ・・・、この、グリッターティガを滅ぼせたらなぁ!!』
憤怒と共に噴き出した強烈な光が周囲を包む。
それは、最強の戦士が抜き放った、魔剣そのものだった・・・。
sideout
次回予告
彼は何を思い、何を成したかったのか。
誰にも悟られる事も無いままに、闇は光と最後の決着を迎える事となるのだ。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
比企谷八幡は理解した
お楽しみに