やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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川崎沙希は比企谷八幡に近付く 前編

side八幡

 

「くっ・・・!なんなんだ、あいつッ・・・!?」

 

光線技の相殺反動で吹き飛ばされ、変身が解除された俺は、戦っていた場所から少し離れた川に落ち、そこから這い出ながらも呻いた。

 

いきなり俺と同じウルトラマンに攻撃されて、変身解除させられた挙句、運悪く川落ちするなんて目に合ったんだ、恨み言の一つや二つ言いたくなるもんだ。

 

「八幡君!大丈夫か!?」

 

なんとか土手まで上がり切った所で、バイクで追ってきた先生が俺に駆け寄ってくる。

 

スーツの上着を脱ぎ、俺に掛けてくれるあたり、この人は俺を本当に心配してくれてるんだなぁ・・・。

 

って、今はそれどころじゃない・・・!

 

「せ、先生・・・、あのウルトラマンは・・・、何です・・・?なんで俺を・・・!?」

 

先生の仲間の事を信じられない訳じゃ無いけど、あんな事されちゃ疑いたくもなる。

 

今迄独りで戦ってきたから、これじゃあただ敵が増えただけにしか思えない。

 

「分からない、だが少なくとも、セシリアやシャル、俺の身内の誰かが変身したウルトラマンじゃないのは確かだ。」

 

俺の身体を、持っていたタオルとハンカチで拭いてくれながらも、先生は話を続けた。

 

「それに、君のウルトラマンの姿を撮った写真は全員に配ってある、間違っても攻撃はされない筈だ。」

 

「と言う事は・・・、ギンガと同じ、新しいウルトラマン・・・?」

 

先生の言葉を信じるなら、大流星群以前のウルトラマンを先生達とするなら、俺達は新参者のウルトラマンだと言える。

 

つまり、どっかの誰か、それも悪意を持ったヤツにウルトラマンの力が渡ってしまったという事だろう。

 

「それは分からん、俺の方で調べは進めておく、君は身体を温める事を先に考えろ。」

 

「はい・・・。」

 

五月に入ったとは言っても、まだまだ夏には程遠い気温、それに加え、日も暮れかけていて川辺だ、濡れた身体でいるのはマズイ。

 

そう思いながらも、俺は濡れた身体を拭き続けた。

 

「次は、絶対に負けない・・・。」

 

これまでに無かった、妙な悔しさを抱えたままで・・・。

 

sideout

 

side沙希

 

「うっ・・・!なんだ・・・!あのウルトラマン・・・!?」

 

吹っ飛ばされて、大志と京華が横たわる場所に倒れ込んだアタシは、自分でも出した事の無い様な声で呻いた。

 

ビクトリーへの変身は既に解かれていても、受けたダメージはある程度残るみたいだ、身体中のあちこちが軋んでいる。

 

「仕留めきれなかった・・・!!やっぱり、強い・・・!!」

 

まだビクトリーの光を掴んで一時間も経ってないのに、あのウルトラマンに勝てるとは思ってなかったけど、それでも身内の仇ぐらいは取りたかった。

 

まぁ、さっき確かめて、死んでは無いから仇討ちとは言えないね。

 

そうは言っても、あんな大きな瓦礫が降ってたら、それこそ命は無かったし、最低でも手足の一本は無くなっていたかも知れない。

 

そう考えたら、また沸々と怒りが沸き上がって来るのが分かる。

 

でも、それよりも何よりも、まずは大志と京華を連れてここを離れないとね。

 

二人とも怪我してるだろうし、ここに居続けたらあたしがウルトラマンだと思われてしまう。

 

実際その通りなんだけど、バレたらバレたで面倒な事になりそうだからね。

逃げるが勝ちって言葉もあるんだ、今はそれに倣うとしよう。

 

「次こそは、必ず仕留める・・・!あたしの家族を傷付けた落とし前、着けさせてやる!!」

 

さっきまで、もう一人のウルトラマンがいた場所を睨んだあと、あたしは倒れている大志と京華を担いで急いで場所を離れた。

 

胸の内で燻る、小さな怒りと悔しさを抱えたままで・・・。

 

sideout

 

side八幡

 

翌日、全身が軋む様な痛さと、川に落ちたせいで起きた微熱による気怠さを連れて学校に登校し、現国と科学、ついでに英語を流しで受け、先生の授業である数学Ⅱの授業を少し真面目に受けた。

 

少し頭がボーっとするが、どういう訳か、そこまでしんどさは感じなかった。

 

ギンガがいるおかげか、本当に色々な面での回復力や体力も上がっている。

その影響で、数学の授業が始まるころには全快し、寧ろ動き回りたくて仕方がないくらいにエネルギーが満ちていたまである。

 

「それでは、今日の授業はここまでだ、予習はしなくていいが、復習はしっかりしておくように、今日の範囲は期末に出すぞ、ここは憶えていれば便利だからな。」

 

先生の号令を聞いているのか聞いていないのか、リア充共はさっさと昼飯を食べようと移動を開始していた。

 

テストに出るってトコぐらいは聞いているだろうが、その他の言葉を聞いてる奴は少ないだろう。

ホント、どうなっても知らねぇぞ、あの天邪鬼に目を付けられたら、それこそ笑えない状況になるのにな。

 

ま、関わりの無いヤツが留年しようと退学しようと、俺の知ったこっちゃない。

俺が関係の無い奴の心配をするのは、ウルトラマンに変身して戦っている時だけで良い、それが丁度いいバランスだろうしな。

 

それは兎も角、今は昼休みだ、さっさと購買でパンを買って屋上で頂くとしよう。

 

「はちまーん!」

 

そう思って教室を出て暫く進んだ時だった、現世に降臨する天使が俺を追いかけてこっちに駆けてきた。

 

「おぉ!どうした戸塚!?何かあったのか?心配するな、俺が付いてるからな!」

 

まさか天使から御声掛けがあるとは・・・!!

あれか、天へ召される時か!?ギンガに助けられて、地獄の門をピンポンダッシュしてきた時のツケか!?

 

あ、でも戸塚に連れて行かれるならそれもそれで良いな!

 

「あはは、そう言ってくれると嬉しいな、それで、八幡にお願いしたい事が有るんだけど、良い・・・?」

 

うぉぉぉ・・・!?そ、その上目遣いは反則だっての・・・!!

何だよ!どんな女子よりも可愛いぞ!?やっぱり性別間違ってるだろ!?

 

「おぉ!何でも言ってくれ!どこ行くんだ?それとも何するんだ!?」

 

戸塚が誘ってくれるなんて夢みたいだぜ、へっへっへっ・・・、最高にハイってヤツだぁ・・・。

 

「あんた・・・、戸塚にだけはそんな笑顔見せるんだ・・・?」

 

「うぉぉぉ!?」

 

したり顔をしている脇から声を掛けられ、俺は素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

ビビりながらも目をやると、そこには呆れた様な表情でこっちを見る青みがかった長髪の女子生徒が立っていた。

 

「って、なんだ、川越か?」

 

「川崎なんだけど、ぶつよ?」

 

ひぃ、なにこの人、ちょっと名前間違えただけでメンチ切られたんですけど。

っても、わざとだけどな、どっかの誰かより、この女の方が付き合いが短い分、敵意を抱かずに話せるから、ついついいじりを入れたくなっちまう。

 

あれ、俺が人を弄るのって結構珍しくね?

まぁ、そんな事出来る相手なんて、今までいなかったんですけども。

 

それより、どうして川崎が俺に話しかけて来たんだ?

なんかしたっけ?

 

「もう、二人とも!そんなピリピリしてちゃダメだよっ!」

 

「「す、すいません・・・。」」

 

あぁん・・・、戸塚に怒られて、全く同時に謝っちまったよ・・・。

何なのこの人、どんだけシンパシー感じれば気が済むんですかね?

 

まぁ、戸塚の面目を立てて、話位は聞いてやろうじゃないの。

人の話に耳を傾けるなんて、何処かの誰かさんより、俺ってチョー良いヤツぅ?

 

「で、なんの用だよ川崎、俺、今から購買行ってパン買いたいんだが・・・。」

 

別段、話し込む理由も無いし、留まってまで向かい合う必要も無い。

けどまぁ、一応川崎とは無関係ではない訳だし、コイツは家族想いの良い奴だ、接しやすくていい。

 

「そ、それなんだけど・・・、その・・・。」

 

先程のメンチ切る様な表情はどこへやら、川崎は顔をほんのり赤くし、照れた様にもじもじとし始めた。

 

しかも何だよその上目使い、戸塚や小町と違った意味で可愛いじゃねぇか。

何?勘違いして告白してフラれちゃうよ?どうすんの?

 

「そ、その・・・、この間の件の、お礼と言っちゃなんだけど・・・、これ、あげる・・・!」

 

勢いよく手渡されたそれは、可愛らしい花柄の包みに包まれた弁当箱サイズの何かだった。

 

いや、先生に似たような事されたから分かるし、時間を考えれば一番最初に行きつく答えでもある。

 

「これ・・・、弁当・・・?」

 

「く、口に合うかどうかは分からないけど、良かったら食べてよ・・・。」

 

うぉぉ・・・!?今年に入ってから、急にどうしたんだ俺!?

家族以外の女から二回も弁当もらえてるぞ!?

ギンガと融合した副次効果か!?なにそれ聞いてない。

 

「っと・・・。」

 

受け取ろうと手を動かすが、途中で手を止める。

 

養われる事こそ受け入れるが、同情や恩からの施しは受けない。

まだまだ変えられそうにない思考だが、俺はそれを口に出すかすら一瞬躊躇う。

 

川崎は家族想いの良い奴だし、俺と立場も似ている。

シンパシー感じているのは確かだ。

 

だからこそ、安易に近付いて、やっぱり寄り切れなかったっていう結末が来るのを、俺は恐れているんだろうな。

 

「八幡・・・?」

 

「比企谷・・・?」

 

そんな俺の躊躇いが表に出てしまったか、戸塚は訝しむ様に、川崎は不安げに俺に声を掛けてくる。

 

そんな顔をしないでくれよ・・・、俺だって、どうすれば良いか・・・。

 

「何を悩んでるんだ?迷うほどの事でもないだろ?」

 

「「うわっ!!?」」

 

俺達以外の第三者の声が掛かった事に、俺と川崎は思わず声を上げた。

 

バクバクと音を立てる胸を押さえつつ振り向くと、穏やかな笑みを浮かべた先生が俺達を見ていた。

 

この人・・・、一体何処から見てたんだ・・・?

 

「たまたま通り掛かったんだ、俺はうるさい文系教師に色々言われずに飯を食える場所を探してるだけだからな、気にするな。」

 

いやいや・・・、気持ちは分かりますけど、だからと言って俺達に話しかける理由にはならんでしょ・・・。

 

まぁ、嫌な雰囲気になる前に壊してくれたから良いですけど。

 

「さて、川崎君には一度言ったが、自分の思いは自分だけのモノだ、だが、人から向けられる想いは、自分次第でどうとでもなる、君の選択次第でね?」

 

「俺の・・・、選択・・・。」

 

先生の言葉に、俺はもう一度川崎を見る。

 

今、コイツは善意から俺に何かをしてくれようとしている。

俺は今、その善意を無碍にするような行動を取ろうとしていたんじゃないか?

 

確かに、人に期待する事は、先生やギンガに会って、怪獣と戦う事になるまで辞めていた。

裏切られる事が怖いから、だから最初から期待しない方が楽だからと・・・。

 

でも、それで拒絶したら川崎の想いはどうなるんだ?

折角の好意が台無しじゃないか?

 

それに、先生は前に教えてくれたよな、拒絶する事は楽だけど、受け入れる事はずっと難しいって。

 

そう思ったら、自然と断るという選択肢が自分の脳内選択から弾かれて行ったのが分かる。

 

ボッチである彼女がここまでしてくれているんだ、俺も勇気ださないとな。

それに、たまには直感で動いても良いって事もあるはずだしな?

 

「川崎。」

 

「な、なに・・・?」

 

弁当を持ったままの川崎の手から包みを受け取り、努めて穏やかな笑みを浮かべる。

 

「ありがとう、折角作って来てくれたんだ、残さず食べさせてもらうよ。」

 

「っ!ほ、ホント・・・!?」

 

なんでそんなに嬉しそうな顔するんですかね・・・、貴女意外と表情変わる人なのね、川崎さん。

 

「一件落着したようで何よりだ、ところで、俺は静かな所でランチにさせてもらうが、君達も来るか?」

 

「はい先生!」

 

戸塚さん、なんで織斑先生に懐いてるんですかね?

いや、俺も傍から見ればそうかもしれないけどさ。

 

先生は俺の肩を軽く叩き、戸塚と一緒に先に歩いて行ってしまった。

行く場所は恐らく屋上、追いかけるのに労力は掛からない。

 

だが、このまま俺一人だけで追い駆けては、二人にどんな冷やかしを言われるか分かったもんじゃない、フリーズしてるもう一人も連れて行かないとな。

 

「あー・・・、川崎・・・。」

 

「な、何・・・?」

 

バーでの強気な態度は何処へやら、ちょっと赤くなってる弱気なその表情がたまらない。

 

って、そうじゃないだろ。

 

「ここで別々にってなったらあの人に何言われるか分かったもんじゃない、だから・・・、なんだ・・・、一緒に、来いよ・・・。」

 

は、恥ずかしい・・・!!

何だよこれっ・・・!?誘うだけなら大した事ねぇと思ったのに、どうしてこうなるっ!?

 

あれだな、川崎がちょっと違った面を見せたからだよな、俺は悪くない、悪くないよね?

 

「う、うん・・・!」

 

だから、なんでそんなに嬉しそうなんですかね・・・?ホントに勘違いしちゃうよ?

 

俺のやる事や言う事に対して罵倒やら冤罪紛いの言葉がまだ無い分、こうも振り回されるのかね?

 

まぁ、悪い気は、しないけどさ・・・。

 

「行くぞ、早く行かないとホント時間無くなる。」

 

「あっ、うん!」

 

先生と戸塚を追いかけるため、俺は川崎と走り出した。

 

自分でもやっと気付いた、熱を帯びた頬を誤魔化す様に・・・。

 

sideout

 




次回予告

強き光が近付けば近付くほど、深き闇もまた、その力を高めるのだ。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている。

川崎沙希は比企谷八幡に近付く 後編

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