やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は理解した 前編

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『レボリュームウェーブ!!』

 

関東外縁部にて、ウルトラマンダイナに変身する玲奈は、今もまた怪獣を相手取り、一切の容赦なく屠っていた。

 

闇が空を覆い始めてどれぐらい経っただろうかと考えながらも、目の前の敵を倒す事だけに集中し、受け持ちの地区の安全を確保、戦闘を続けつつも徐々に千葉へと向かって行った。

 

既に目的の大半は片付いている。

ならばさっさと全員と合流し、チェックメイトを決め込む。

 

それで自分達の落とし前は、完全につける事が出来るのだ。

 

『ホーント、久々って言っても結構楽なもんねー・・・。』

 

口では気だるげに、もう少し骨のある相手が欲しいと言っている様に感じられたが、それでも余計な被害を出さぬように気を付けながら戦えば、必然的に発揮できる力もある程度制限されてしまう。

 

その中で効率よく敵を倒してきた訳だが、全力全開で敵を一瞬で倒すスタイルを取っている彼女からしてみれば、このようなチマチマした小手先技の戦い方は性に合わない分、余計に体力を擦り減らしたのだろう。

 

『でもまぁ、さっさと終わらせようじゃない、この世界に長居は無用ってね~。』

 

だが、それももう終わる。

後はルギエルをブッ飛ばせばすべて終わる。

 

その決着は自分自身で着けてみせると・・・。

 

何処となく暢気な言葉とは裏腹に、決然たる想いを籠めた決意を新たにした時だった。

 

『ッ・・・!!』

 

突如として強烈な気が彼女を突きぬけていく。

 

純粋な光で在りながらも、何処か闇を感じさせるプレッシャー。

だが、何処か懐かしく、それでいて頼もしいそれは、彼女が良く知る者の発するモノだった。

 

『なによアイツ・・・!何時の間に戻って来てやがんのよ・・・!!』

 

興奮を抑えきれないと言わんばかりの声で、彼女は口元を三日月に歪めた。

 

自分で言うのもはばかられるモノだが、一癖も二癖もある自分達を何千年と束ね上げてきた男。

 

全幅の信頼を寄せる、最強の戦士が発する闘気だった。

 

『それに、ゼロまで・・・!こりゃ急がないと・・・!』

 

何かに、いや、考えるまでも無く解っている。

喜悦に突き動かされる様に、彼女は宙へと駆けた。

 

帰還した仲間の下へと、蘇った最強の男の下へと馳せ参じたいという想いと共に・・・。

 

sideout

 

noside

 

『お・・・!おぉ・・・!?』

 

その力、光を解放したティガ、グリッターの力を目の当たりにしたルギエルは、その圧に圧倒されてていた。

 

絶対的な力、それを体現した者のみに纏う事を許された究極、その輝きがあった。

 

『何を恐れている・・・?貴様は俺が究極の力を取り戻す事を望んでいたんだろ・・・?』

 

その怯えを見抜いた一夏は、温度と言う喜楽が抜け落ちた声で挑発する。

 

お前は俺の究極の力を奪い、全宇宙を支配したかったのだろう?

だと言うのに、折角取り込むべき力を見せてやっているのに、何を怯えているのかと。

 

だが、そんなものは所詮口だけの、彼の軽口の一種にしか過ぎなかった。

 

その言葉の裏に隠された感情は、弟子を消すと言ったルギエルへの、殺意と怒り、ただそれだけであった。

 

自分の命よりも大切な仲間や家族、そして愛弟子を消すと宣言した相手は、地獄へ追いつめてでも消し去ると、彼はある時から決めていたのだ。

 

喪わない為に、もう二度と、あの時の様な苦しみを味わって堪るかと・・・。

 

『くっ・・・!』

 

『逃げんなよ・・・、お前は何百年かぶりに俺を怒らせた逸材だ、可愛がってやんねぇと気が済まん・・・。』

 

ゆっくり、ただゆっくり歩いているだけだが、圧倒的な威圧感を纏っているからか、ルギエルは一歩、また一歩と後退を余儀なくされていた。

 

金色の光を纏うティガにあるのは、絶望的なまでの力の差。

間合いに入れば即座に身体を斬り刻まれるという恐怖、ただそれだけが本能に語りかけて来ていた。

 

『来いよ、散々人を見下してたんだ、パンチの一発ぐらい叩き込むの、ワケねぇだろ・・・?』

 

かかって来いと、彼は手招きする。

殴れるだろうと?そんな度胸も無く見下していたのかと、せせら笑うかのように・・・。

 

『ほ、ほざくなぁぁぁ!!』

 

この絶対的な力を前に逃げる事など出来ないと悟ったか、ルギエルは最早破れかぶれと言わんばかりに拳を突きだした。

 

並のウルトラマンでは受け止めるどころか、そのまま粉々になってもおかしくない威力を秘めた拳が、金色の戦士に迫る。

 

息を呑み、言葉を発する事さえ出来ない八幡達の目の前で、ティガはそれをただジッと見据えているだけで、避ける素振りを全く見せなかった。

 

拳との距離は瞬く間に縮まり、遂にはティガのカラータイマーの辺り、つまりは胸部に叩き付けられた。

 

その衝撃は余波であっても凄まじく、周囲の瓦礫や土煙を巻き上げながらもソニックブームとなり、見守っていた者達に襲い掛かる。

 

「う、わわっ・・・!?」

 

『くっ・・・!』

 

そんなものに襲われては人間ではひとたまりもない。

それをいち早く察知したヒカリが動き、力を振り絞って瓦礫から大和達を護った。

 

周囲の者ですらその様な被害を受けるのだ、その爆心地、直撃をまともに受けた者がどうなるかなど、考えるまでも無かった。

 

無かったはずだった・・・。

 

『ぬぅっ・・・!?』

 

確かに手応えはあった、直撃したと言う実感もあった。

だと言うのに、斃した、そう確信する事が出来なかった。

 

『良いパンチじゃないか、我流ながらよくぞここまで力を着けられたもんだ。』

 

その威力を褒め称えるかのように、ティガは一切微動だにせず、ただ笑みを浮かべるだけだった。

 

地形さえ変えてしまうほどの、核爆弾何個分だと考えられる程のエネルギーを受けてさえも、彼はその強靭な身体で受け止めてしまったのだ。

 

『だがまるで・・・!全然・・・!!』

 

だが。それもただ所詮その程度と、彼は僅かに動かしただけの右腕で、その拳をあっさりと払い除けてしまった。

 

身体のサイズからして既に3倍以上の身長さ、それ以上の質量差があるにも関わらず、ただ動かしただけでそれを払い除けてしまえるほどのパワーに、皆、戦慄する以外なかった。

 

『おぉぉ・・・!?』

 

『速さ力正確さ、俺を斃すにはまるで足りていない・・・!!』

 

ほんの僅かに握った拳に光が収束、軽く突き出したにも関わらず、ルギエルの身体に光の波動の様なものが突き刺さり、その巨躯をいとも容易く吹っ飛ばした。

 

『うごぉぉぉ・・・!』

 

あまりのダメージに、最早立ち上がる事さえ苦痛となっているのだろうか、ルギエルはのたうち回るばかりでその巨躯を起こす事が出来なかった。

 

『お前のこれまでのやり口は見事だったよ、だが・・・、それもここまでだ・・・。』

 

それでも容赦はせんと謂わんばかりに、彼は一瞬でルギエルの頭部の上を取り、それを鷲掴みにする。

 

『頭消し飛ばせば流石のお前も生きてられんだろ、念仏唱えてやるからさっさと逝きやがれ。』

 

『ッ・・・!!』

 

相手が何をしようとしているのか分かったのだろうか、ルギエルは声にならぬ悲鳴を上げて腕を振り上げ、ティガを払い除けようともがく。

 

だが、幾ら錯乱しかけていたとはいえ、フルパワーの攻撃をも微動だにしない存在にそれが効く筈も無かった。

 

『終わりだ、グリッタースマッシュ!!』

 

掌底に光のエネルギーを収束させて放つ、中国武術に伝わる発脛の様な技が炸裂する。

 

光のエネルギーを光線にして浴びせるでも、弾丸状にして打ち込むでもない。

エネルギーを直接叩き付ける技だった。

 

『ぐぉぉぉぁぁぁぁぁぁ・・・!!』

 

断末魔とも悲鳴とも取れる絶叫が周囲に木霊し、それは聞く者の肌を粟立たせた。

 

衝撃はルギエルを突きぬけて地に突き刺さり、巨大なクレーターを深々と穿った。

 

だが、それだけでは飽き足らず、ルギエルの全身に亀裂が走り、赤い血飛沫をまき散らす。

 

『ウっ・・・!』

 

「ッ・・・!!」

 

そのあまりの凄惨さに、小町や優美子は目を逸らし、南たちも口元を抑えて蹲った。

 

圧倒的な力の差から引き起こされる、暴力にも等しい技が叩き付けられ、遂にルギエルは力尽きたかのように動かなくなった。

 

『ふん・・・。』

 

それを冷めた目で見下ろし、ティガはルギエルから離れ、八幡達に向き直った。

 

『敵はこうやって倒せ、自分の仲間や家族を消そうとする者を、決して許すな。』

 

何時もの様な、教えを授ける時と変わらぬ調子で、彼は八幡達に自らの持論を語る。

 

敵を、特に仲間や家族を消そうとする者を、決して許すなと。

その先に待つのは、ただ絶望以外の何物でもないと・・・。

 

握り締めた拳から血が滲まんばかりに、彼は肩を震わせていた。

 

『先生・・・、貴方は・・・。』

 

その様子から、八幡は何かを察したかのように、声を掛けようとしたが、思い留まったかのように俯いた。

 

八幡は感じてしまった。

一夏もまた、ルギエルが抱く絶望とは別種の絶望、恐怖に囚われているのだと・・・。

 

『一夏・・・、お前・・・、まだアイツ等の事・・・。』

 

『黙れゼロ・・・。』

 

ゼロもまた、それを見ていたからだろうか、痛ましげに呟きながらも俯いた。

 

それに触れられたくないからか、一夏はそれ以上言うなと制した。

 

まるで、今だに血を流し続ける傷を見られたくない。

そんな雰囲気があった。

 

『で、でもこれで・・・!!』

 

勝った筈なのに通夜な状態の雰囲気を変えようとしたのか、沙希が声をあげる。

 

今の一撃で、ルギエルは斃された。

それは、此処に居る全員の勝利を約束した物に等しかった。

 

『そ、そうっすよ・・・!勝ったんだ・・・!!』

 

『今度こそ、本当に・・・!!』

 

大志も、翔も、自分達の勝利を疑うことなく歓声を上げた。

 

今度こそ、闇の権化は息絶え、この戦いに終わりが訪れる。

そう確信していたのだ。

 

優美子も小町も、それを疑わず安堵の表情を浮かべていた。

 

これで終わりに出来る、そんな思いが見て取れるようだった。

 

だが・・・。

 

『いや、まだ終われそうにはないみたいだ。』

 

その歓喜の声に水を指す様に、一夏は自身の背後を指し示した。

 

『えっ・・・?』

 

一体どういう事かと、八幡達がその方へと目を向けると、そこには信じられない物があった。

 

『オォォォ・・・!!』

 

『ッ・・・!?』

 

全身から血を流しながらも、その巨体を起こし、ゆらりと揺れながらも地を踏みしめて咆える、ルギエルの姿があった。

 

『そんな・・・!!』

 

あの一撃は、金色の光を纏ったティガの攻撃は紛う事なく致命傷以上のモノだった筈。

それを受けて尚、戦えると言わんばかりの様子なのだ、恐怖を感じない訳が無かった。

 

『まだ・・・!まだ終わらぬ・・・!我は・・・!我はまだ成し得ておらぬ・・・!!』

 

まだ終わっていない。

まだ何も成し遂げてはいない。

まだ、死にたくない。

 

そんな感情が、叫びとなって彼等を震わせた。

 

どれだけ攻撃しても、どんなに強い一撃を叩き込んでも倒れないこんな化け物を、本当に倒せるのか?

こんな化け物とまだ戦わなければならないのか。

 

そんな怖気が、八幡達の間に僅かながら芽生え始めていた。

 

『誰にも負けぬ・・・!我は・・・!我はぁっ・・・!!』

 

『なるほど。』

 

ルギエルの血を吐く様な叫びを聞いていた一夏が、何かを確信したかのように呟いた。

 

『お前、何処までも孤独なんだな、意地でもサシじゃ負けねぇってやつか?』

 

『な、何を・・・!!』

 

『えっ・・・?』

 

一夏の言葉にあからさまな動揺を見せるルギエルの反応に、八幡達は戸惑いの表情を見せた。

 

今のやり取りが、一体ルギエルの何を暴いたと言うのか、それを理解出来なかったのだ。

 

『全員、俺に手を貸せ、最後のケリ、一緒に着けて貰うぜ。』

 

だが、そんな彼等を置き去りにする様に、一夏はさっさと手を貸せと言わんばかりの勢いだった。

 

そんな彼に、少しは説明してくれてもいいのに、と思わざるをえない八幡達だった。

だが、一夏が説明を省いてでも行動を急かす時は、大抵何か裏がある時と相場が決まっている。

 

故に、彼等は震える脚に鞭打って立ちあがる。

 

『さ、させぬ・・・!もう、やらせぬわぁぁ・・・!!』

 

それが持つ意味を理解しているルギエルは、その先に待っている物を防ぐために足掻く。

 

無数、それも空を埋め尽くしてしまう程の光弾を放ち、斃せぬ一夏を無視して死にかけの八幡達を狙った。

 

最早避ける事など出来ない。

いくらティガが助けに動こうとも、迫る光弾の全てを消す事は不可能。

 

せめて嫌がらせ程度でもしてやらねば気が済まない。

そんな感情が見て取れるようだった。

 

動いても無駄だと分かってしまったか、一夏はその場から動かない。

 

致死の光弾が、無慈悲に距離を詰め、今にも炸裂しようとしていた。

 

だが・・・。

 

『クロスレイ・シュトローム!!』

 

『メビュームシュートッ!!』

 

彼方より飛来した二筋の光線が、その光弾の全てを掻き消す。

 

『なっ・・・!?』

 

予想外の攻撃に、ルギエルは愕然とその方角へと目を向ける。

 

恐怖、ただそれだけがあった。

 

そんなルギエルの目の前に、その6つの影は降り立った。

 

それは、ルギエルが合流をかたくなに阻止しようとした、最強の戦士達だった。

 

『俺達の弟子に、何か用か?』

 

その中心に居たネクサスが威圧を籠めた声色で尋ねる。

 

誰の許可を得て弟子に絡んでいる?

そんなヤクザ風な問いにも聞こえるモノだった。

 

『な・・・!何故・・・!?』

 

『何故?簡単な事だ、俺達は此処に居る、それが全て!』

 

何故ここに来れたと問うルギエルに、マックスはきっぱりと答える。

 

どれだけ怪獣を出して足止めをしようとも、それ以上の力を持って制圧すれば、所詮操られただけの相手などどれほどいても問題では無い。

 

そんな意志が籠められている様だった。

 

『私達はアストレイ、目の前に立ち塞がった敵は、全て倒します。』

 

『弟子が危ないんだ、護らせてもらうよ。』

 

コスモスとガイアが自分達の信念を籠めて、お前を斃すと宣言する。

弟子を傷付けた落とし前、それを着けさせるためにも。

 

『んじゃ、任せたわよリーダー!』

 

『手加減なんていらないよ、いつも通りね。』

 

自分達の大将を迎える為に、ダイナとメビウスはメンバー達に道を空ける様に促し、中央を開けた。

 

お前が先頭に立って決着を着けろ、そんな思いが見て取れるようだった。

 

『ふっ・・・、良いだろう、八幡、君達も来い、一緒にコイツを斃すんだ。』

 

グリッターの光を集中させ、後方に控える弟子たちにそのエネルギーを与えた。

 

これで立ち上がれと、お前達もやられっ放しは性に合わないだろうと。

 

その光を受けたギンガ達のカラータイマーは再び蒼の輝きを取り戻す。

 

それは、敵を必ず倒すと言う、彼等の闘志そのものが蘇った輝だった。

 

ギンガ達7人は、その光をしっかり受け止め、大地を踏みしめた。

もう負けない、その意思を熱く燃やして・・・。

 

『全員で倒すぞ、誰かと繋がれた俺達とコイツの差、見せ付けてやろうぜ!!』

 

『おぉ!!』

 

『はいっ!!』

 

ティガを中心に立つ15人のウルトラマンは、目の前に聳える悪魔にむかって構えを取る。

 

今こそ決着の刻、全てを終わらせる時だと。

 

光と闇。

誰かと繋がる事の出来た者、出来なかった者。

背中合わせ、想いが交わる事の無い者同士の最後の戦いが、今まさに、始まろうとしていた・・・。

 

sideout




次回予告

彼は何を求めたのだろうか、何故届かなかったのか。
伸ばした手の先にあった希望は、何故・・・。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

比企谷八幡は理解した 後編

お楽しみに。

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