やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は決断する

noside

 

「・・・、そっか・・・、やっぱり・・・。」

 

熾烈を極めた死闘から数日の後、沙希は八幡から聞いた事に、小さくショックを受けて呟いた。

 

今回は被害がかなりの規模に広がったためか、学校の授業はいまだに始まらず、最早3学期とは名ばかりの自習及び自宅待機が続いている状態だった。

 

だが、それも致し方の無い事であるのは事実だ。

何せ、彼等が住む街はその死闘の中心であり、総武高もかなりの物的被害を受けている状態だ。

 

そんな状態で授業を行えと言うのはあまりにも酷である事には変わりない上、教師陣も個々人それぞれ被害を被っている状態なのだから、休校という措置は妥当とも言える判断だった。

 

とは言え、その判断は実際に戦っていた彼女達にとっては好都合であり、身体を休めたり、感情を整理するためには実に有意義とも言えたのだ。

 

だが・・・、それは同時に、避けては通れない未来の事を直視し、受け止める為に思考する為の時間でもあったのだ・・・。

 

現在、科特部の正式メンバー3人と、ウルトラマンに覚醒した4人が八幡の家に集まり、話し合いの場を持っていた。

 

大和達は現在、被害を受けた地に赴いてボランティア活動を行っており、今この場に集まる事は無かった。

 

彼等もまた、自分達に出来る事、それをやろうとしていたのだ。

 

それはさておき・・・。

 

八幡から聞いたのは、一夏達がもう間もなくこの世界を去る事、そして、本当は自分達を仲間に加え、旅に連れて行きたい事だった。

 

「正直な話・・・、そこまで先生達に入れ込んで貰えたってのは嬉しいさ・・・、だけど・・・。」

 

説明し終えた八幡は、師に受け入れて貰えた、認めて貰った事は純粋に嬉しいと語りつつも、それ以上に不安や苦悩の色を強く表に出していた。

 

それは、その場にいる全員が抱く感情を代弁しているかのようでもあり、八幡の心情を吐露している様なものだった。

 

「俺は、外の世界に出たとして、やって行けるのか・・・?この世界に残していく親父や御袋、それに、大和達・・・、俺が知らない間に皆老いて、先に死んで行っちまうんだ・・・。」

 

「八幡・・・。」

 

恋人の様子を気遣いつつも、その言葉に一番ショックを受けたのは、他でもない沙希自身だった。

 

彼女は誰よりも家族を愛しており、幾ら愛する八幡のためとはいえ、家族を置いて行く事などしたくは無いと言うのが心情だ。

 

だが、自分も出来る事なら八幡と共に一夏達に付いて行きたいとも思っている。

 

それは紛れもない本心であり、戦士としての沙希自身が望む、更なる高みへと上がってみたいという本能の叫びでもあった。

 

「俺は怖い・・・、失うのは、怖いんだ・・・。」

 

「お兄ちゃん・・・。」

 

気心知れた、とは言い難い距離感の相手もいるにはいるが、仲間達の前で八幡は本音を吐露する。

 

誰も失いたくない。

奪われる恐怖、失う恐怖を知っている彼には、そんな未来など受け入れがたいモノだった・・・。

 

そんな兄を近くで見ていた小町もまた、自分が年老いる事も無く、仲の良い友人や家族が老いていく様を想像し、その身を震わせていた。

 

そう、どれだけ力を得ようとも、どれだけ強くなろうとも、彼女達は所詮人間でしかなかったのだから・・・。

 

『私が言うのも何だが・・・、皆は、皆がやりたい事をやれば良いんじゃないか?』

 

その場にいた誰もが皆、答えを出せずにいた時だった。

Xがその空気を破るかの如く発言した。

 

『君達は、幾らきっかけがあったとはいえ、自分達の意思で今日まで戦い続けてきた、誰に言われるでもなく、強制されていた訳でも無いのに、自分の意思を持っていた。』

 

「X・・・?」

 

その言葉の意味が解らず、彩加はエクスデバイザーを全員に見えるように取り出し、その言葉の続きを待った。

 

『君達は、我々宇宙の住人から見ても若い、だから、一つの答えに縛られなくても良いじゃないか?』

 

「一つの、答え・・・?」

 

その言葉の意味を取るならば、人間として生きるか、ウルトラマンとしての一生を選ぶか、そのどちらかを取らなければならないと言う事も無いと言う事だ。

 

つまり、言い換えてみれば、二つともを選んでも良いと言う事だったのだ。

 

『人間の一生をある程度過ごしてから、ウルトラマンとして旅に出るのも良いじゃないか、今すぐに何て決める事など出来る筈も無いからな。』

 

「ッ・・・!」

 

その言葉にもっとも衝撃を受けたのが八幡だった。

 

師と永遠に別れるか、家族と永遠に分かれるか、そのどちらかしかないと思っていた。

 

これからの将来、いや、道そのものを決めるのだ、時間は多い方が良いに決まっている。

 

それを、たった一か月にも満たない時間で決めろと言う方が酷な問題でもあった。

 

それを、これから生きていく中で探せると言う考え方は、まさに考え付かなかったやり方だった。

 

「俺の人生の中で、答えを見付ける、か・・・。」

 

そうだ、今までもそうやって来たではないか。

闘いの中で迷う事もあった、戸惑う事も何度となくあった。

 

だが、それでも今まで戦い続けて来れたのは、その都度答えを出すために悩み、足掻き続けて来たからだったからだ。

 

これからも、今までと同じ様に、師の助けを借りずに答えを出す。

難しいかもしれないし、途方もない時間が掛かるかもしれない。

 

だが、それでも自分達は自分の脚で歩いて行くしかない。

だって、どんな道に転ぼうとも、それは自分の人生なのだから。

 

「そっか・・・、そうだったよな・・・、なんか、大事な事忘れてた気がするぜ。」

 

それに気付いて吹っ切れたか、八幡は清々したと言わんばかりの表情で笑った。

 

迷いを吹っ切ったその笑みは、沙希達にも力を与えてくれたものだった。

 

「なーに一人で納得して吹っ切れてんの?あーし等にもちょとは悩む暇も欲しいんだけど?」

 

一人で今の答えを掴んだ八幡に、優美子は少しは相談位させろと言わんばかりに苦笑する。

 

だが、彼女も同じだったに違いない。

恐らく、自分は人間として生きる事となるかもしれない。

 

だが、それでも今は自分に出来る事を精一杯やる。

それが将来に繋がる導になると、彼女は短いながらも、この戦いの中で感じ取る事が出来たのだから。

 

「なら、先生に直接伝えないとな!」

 

そう言うが早いか、彼は上着を羽織って家を飛び出そうとした。

 

この想いを、この覚悟を伝えたい。

恩返しとか、別れとか、そんな事よりも、今は感情に任せて走りたかった。

 

「あたしも!」

 

「僕も行くよ!!」

 

「俺も行くッすよ!!」

 

そんな彼を追いかける様に、沙希達もまた走り出した。

 

自分達を導いてくれた人へ、その想いを伝えて安心させるために・・・。

 

彼等が、後顧の憂いも無く旅立てるように・・・。

 

sideout

 

noside

 

「一夏、くどいようだが、本当にそれで良いんだな・・・?」

 

喫茶店としての営業を終え、バーとしての営業に切り替えようとしていたアストレイの店内に、コートニーの尋ねる様な声が響く。

 

他のメンバーの姿は店内には無く、今は彼と、その言葉を向けた相手である一夏しかいなかった。

 

どうやら、教師たちにも待機令が出ているのだろうか、彼はカウンターに腰掛けながらも、グラスに注がれたワインを煽った。

 

既に彼の傍らには幾つもの空のグラスが無造作に置かれており、何杯も口にしている事が判った。

 

だが、それでも酔う事も出来ない程に思い詰めているのか、彼の表情に笑みは一切なかった。

 

「覚悟は出来ている、とは言い切れんが・・・、置いて行くつもりだ・・・。」

 

盟友の言葉に、彼は苦笑では無いにしろ、何処か揺れる様な声で答えた。

 

その揺らぎは迷いと、ある種の期待と恐怖、そんな複雑な感情が入乱れていた。

 

その内容は語るでもない。

八幡達、この世界で出来た弟子たちの行く末だった。

 

彼等は自分達を慕い、ただ大切なモノを護りたいがために教えを乞うてくる。

その純粋な想いは、荒んでいた一夏達を次第に癒して行き、何時しかその未来に期待を寄せるまでに至った。

 

そんな彼等を、一夏自身は自分の手で育て、何時かは自分を超える戦士として広い世界へと旅立たせてやりたいと言う想いもあった。

 

だが、それは彼等に人間としての幸せを捨てさせることとなるだけでは無く、家族や友の死を見続けねばならないと言う業も背負わせてしまう。

 

自分達ですら押し潰されそうになるモノを、まだ人生を歩み始めたばかりの八幡達に負わせる訳にはいかない。

 

頭ではそう理解していても、心はまだ決めきれていなかったのだ。

 

迷いは後悔を生み、後悔は判断を曇らせる事になる。

それが命取りになる事など、彼等は自分達の身を以て解っている事でもあった。

 

それでも、悩まざるを得なかった。

それだけ、自分が彼等を想っていると解っていたから。

 

「情けないよな・・・、八幡の前じゃ別れを受け入れろと言っておきながら、俺が一番受け入れられてないじゃねぇか・・・。」

 

「お前がそこまで入れ込むとは思いもしなかったが、良い事だ・・・、俺としては、旅の連れが多くなろうが、彼等なら歓迎できるさ。」

 

教師になったが故に、彼等の変容を間近で見続けてしまったが故に、仲間想いに過ぎる彼には執着にも似た感情が生まれてしまったのだ。

 

それを理解し、コートニーは何処か柔らかい笑みを浮かべつつ、もう切り上げろと水が入ったグラスを手渡した。

 

お前がそう感じるのは予想外だったが、それも本質とでも言いたいのか、彼は八幡達が付いて来るような気がしていた。

 

何故だかは分からない。

だが、そうであってほしいという希望も籠めて、彼はそう感じていたのだ。

 

「待っていたらいい、お前は全部自分で答えを出そうとする、それが良いにしろ悪いにしろ・・・、俺は信じて待つだけだ。」

 

師弟が結んだ絆を信じ、自分は待つ。

だから、それで良いと・・・。

 

その時だった・・・。

 

店の扉が勢いよく開け放たれ、何人もの足音が入ってくる。

 

カウンターに背を向けていた一夏には、気配だけは察せても誰が来たのかまでは分からなかった様だが、コートニーはその端正な顔に、何処か嬉しげな笑みを浮かべていた。

 

それは、彼が待っていた相手でもあり、一夏の心を決めさせる事が出来る者達だったのだ。

 

「先生!」

 

その声は真っ直ぐで、迷いを振り切った事を窺える強さを感じさせた。

 

「八幡か・・・、それに沙希達まで・・・、こんな時間に来るとは、不良になっちまったか?」

 

自分の中にある迷いを悟られない為か、彼は敢えて軽口とも取れる言葉を発する。

 

弟子に弱みは見せられない、師としての面子の問題も、彼自身のプライドもあっただろう。

 

だが、今の八幡達に、そんな事は関係なかった。

 

「先生、俺、いや、俺達皆・・・!覚悟しました!」

 

背を向けたままの師に、八幡は一同を代表する形で言葉を発する。

 

八幡にも、沙希にも、そして彩加達にも迷いは無かった。

 

「俺は、今は人間として生きていきます、この世界で、沙希達と一緒に生きていきたい。」

 

その言葉に迷いは無く、自分の願いを、真っ直ぐ師に告げた。

 

「・・・、そうか・・・、ウルトラマンとしての生き方をやめて、人間として生きる、か・・・、何だか羨ましいな・・・。」

 

その宣言に、一夏は何処か寂しげに笑いつつも、肯定する様な声色で呟いていた。

 

人間として生きていく、それは、一夏達が望んでも手に入れる事が叶わなかった生き方の一つであった。

 

その生き方を選べるのは、彼等がまだウルトラマンと完全に融合していない事と、戦う事を宿命付けられた訳でも無いからだと解っていても、彼は僅かながら嫉妬を抱かざるをえなかった。

 

最も、それはちっぽけな羨望が生むモノだと解っているために、取り立てて表に出す事では無かったが・・・。

 

それはさて置き・・・。

 

彼は、八幡達がウルトラマンに成らないと決めたと感じ、それも仕方ないと腹を決めかけた。

 

「いいえ、ウルトラマンをやめるつもりはありません、他の皆がどう感じているかは分かんないけど、俺は、何時か先生を超えるウルトラマンに成ります。」

 

「なっ・・・!?」

 

一夏の言葉を否定する宣言に、一夏はこの世界に来て一番驚いたと言わんばかりの声をあげ、振り返りながらもその顔を見る。

 

八幡だけでなく、沙希と彩加も同じ様な顔をしており、その覚悟が嘘では無い事を物語っていた。

 

だが、当の一夏はまるで理解出来ないと言わんばかりに目を見開き、続く言葉を発する事が出来ずにいた。

 

いや、それも無理も無い。

人間として生きていくこと、ウルトラマンとしての力を極めること、それは両極端に位置するモノであり、今から始めるにはとてもではないが不可能な事だと、一夏自身が感じてしまっているのだから。

 

だが・・・。

 

「人間は長生きできても100年、その人生をやり切ったら、俺はアストレイを追って旅に出ます、貴方達に追い付く事、それが、俺が出来る恩返しです。」

 

人間としての幸せや苦労を乗り越えた後に、今度はウルトラマンとしての戦いに身を投じると、彼は迷いを捨てたのだ。

 

今すぐにとは出来る筈も無い。

だが、何時かの未来に向かって備える事ならば出来る。

 

その時に後悔しない様に生きていく、それが、彼が出した答えだった。

 

その答えに、一夏も、そしてコートニーも面食らったかのように驚いていた様だったが、それも次第に笑みへと変わって行く。

 

良くも悪くも、一つの生き方しか出来なかった彼等からは想像もできない生き方だったから。

 

一つを終わらせたら、もう一つの生き方に挑んでみる。

それで良いじゃないかと言う様な八幡の姿に、彼等もまた、新たな光を見た気がしたのだ。

 

「くくく・・・、そうか・・・、そうか・・・!」

 

その答えに、一夏は愉快痛快だと言わんばかりに笑い、コートニーと顔を見合わせて頷いた。

 

その心意気やよし、ならば自分が口を挟む事など何もないと。

 

「君の、いや、君達の覚悟は確かに見届けさせてもらった、強くなったな。」

 

その覚悟を見届け、彼は力強く笑んだ。

 

お前達が決めた事なら、俺は師としてそれを見届けるだけだと。

 

「ならば追い駆けてこい、俺達はその先で、より高く、より厚い壁となり、無限の彼方でお前達を待っている。」

 

『はいっ!!』

 

自分達の事を忘れないと宣言するに等しい言葉に、八幡達は表情を輝かせながらも頷いた。

 

師に認められた、それだけでも誇らしい事では無いだろうか。

 

「ならば、俺もジッとしている訳にはいかんな、コートニー、手を貸せ。」

 

「そのつもりだ。」

 

一夏がしようとしている事を察して、コートニーはカウンターを飛び越えて並び立った。

 

「せめてもの餞別だ、俺が最後にお前達を鍛えよう、ウルトラマンティガとして、最後の稽古だ。」

 

「はいっ・・・!!」

 

その言葉と共に店外に出て行く一夏を追う様に、八幡達もまた駆けていく。

 

別れを、ただ悲しいだけのモノにしない為に。

未来へと繋がる旅立ちとするために・・・。

 

sideout

 




次回予告

思えばいと疾し、この年月。
今こそ別れめ、いざさらば。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

比企谷八幡は別れを見る

お楽しみに

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