やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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一応本編最終話です





比企谷八幡は別れを見る

noside

 

月日は流れ、3月半ばになった頃だった。

 

春の兆しが訪れたその日は、晴天に恵まれていた。

 

総武高の校門付近には多くの生徒の姿が見受けられた。

 

彼等、彼女等は胸元に花をつけ、級友と惜しむ様な涙を流しながらも抱擁を交わしていた。

 

そう、その日は総武校の卒業式であったのだ。

 

「卒業、か・・・。」

 

そんな一学年上の者達の反応を、八幡は校舎の屋上より眺めていた。

 

彼の手には、何処から持ってきたのか紅茶の入った紙コップが握られており、見物でもしているのではないかと思わせる様相だった。

 

まぁ、それも強ち間違ってはいない。

今日は生徒会等一部の生徒を除き、休みを言い渡されていた為に、彼は教師陣にばれない様に校舎に侵入、屋上から卒業生達の様子を窺うと言う、何とも意味の解らない事をやっているのだった。

 

「気持ちは、なんだろな、めっちゃ分かるよなぁ・・・。」

 

「何言ってんだい君は・・・。」

 

感傷に耽る八幡に、半ば強引に連れて来られたのか、大和が何処かウンザリとした様子で呟いていた。

 

いや、この場にいると言う事は、八幡から何かを察してついて来ていたのだろう。

 

「気にすんなよ、どうせ俺らも一年後にはあぁなんだぜ?」

 

「そんな死ぬみたいな言い方やめてくれないかな?」

 

八幡の言い回しが、どことなく死に向かう様なものに言う言い回しに聞こえたか、大和は大きく溜め息を吐きながら彼の隣に腰掛ける。

 

その表情に、つい一瞬前まで見せていた呆れの表情は無く、真剣そのものと言わんばかりの表情を見せていた。

 

「それで・・・、決めたのかい?」

 

もう茶番に付き合うつもりはない。

無駄足に指せないでくれよと言わんばかりに、彼はオブラートに包む事も無く真っ直ぐに問う。

 

逃道なんて与えない、八幡の覚悟を問うための質問だった。

 

「あぁ、答えは出てるよ。」

 

大和達にはあの後、一夏達が去る事を伝えてはいたが、八幡達がどうするかまでは伝えていなかったために、その覚悟を問われたのだった。

 

それを解っていて、八幡もまた表情を真剣そのものに変えていた。

 

「俺は、この先50年ぐらいは人間として生きていくよ、ウルトラマンの力を持ったまま、この地球で生きる。」

 

自分一人では無く、誰かと共に悩み抜いた末に出した答え、それを告げた。

 

人間として、ウルトラマンとして生きていく。

何時か、その先で待つと言ってくれた人たちに追い付きたいからと。

 

だが・・・。

 

「そっか・・・、だったら、その時は見送りに行くよ、ヨボヨボのジーさんになってそうだけど。」

 

それは、大和は自分達との別れを告げられたようなモノだった。

 

人間としての友人はいなくなり、ウルトラマンとして遠い宇宙の彼方へ何時の日か行ってしまう。

 

自分はそれを見送る事しか出来ず、その先の事を知る事も無く、一生を終えてしまうのだから。

 

「でも、ヒトは何時か死ぬ、大事なのは、誰かに残す事、だよね?」

 

だが、それでも人は何時かは別れる事となる。

 

一時だろうが永遠だろうが、別れとは何時か訪れるものなのだ。

 

それに躓いている場合では無い。

その別れの先に待つ未来、そこに何を残して行けるか、それが問われるのだ。

 

「あぁ・・・、俺は、喩え皆がいなくなっても、皆がいたって事は、忘れないさ。」

 

「ありがと。」

 

大和の答えに、八幡は勿論だと言わんばかりに頷いていた。

 

喩え死んでも、想いは遺る。

それを分かった上で、少し早いサヨナラをしているのかもしれなかった。

 

「だったら俺は、先生達の想いを別の形で伝えていける様に頑張るよ。」

 

その想いを受け止め、大和は何かを決めた様に言葉を紡いだ。

 

自分に八幡達や一夏達を追う事は出来ない。

何せ、彼等はウルトラマンで、自分にはそんな特別な力は無かった。

 

だが、それでも違う道で彼等の見せた希望を伝え、語り継ぐ事は出来る。

 

「俺は、大和猛は、教師を目指すよ、ムエルトさんみたいな不幸を起こさない為にも、人間も理解して行かなきゃダメだから。」

 

彼は、教師となって、後の世を作る子供たちに差別や偏見の目を持たせない様にする事を選んだ。

 

それが、これまでの戦いの全容を、人間の立場から見て来た自分が出来る、唯一の方法だと。

 

「大和・・・、お前・・・。」

 

そんな彼を、八幡は驚いた様な表情で見据えていた。

 

彼らしくも無い、間抜けとも言われかねない様な、ただ驚愕に満ちた目で・・・。

 

「お前・・・、猛って名前だったのか・・・!?」

 

「驚くトコロってそこかい!?」

 

まさか下の名前で呼ばれた事が無かったとはいえ、憶えられてないとは思ってもみなかったのだろう、彼は八幡に向けて叫んだ。

 

友達だと思ってたのにあんまりだ、そう言わんばかりの悲哀が伝わってくる様だった。

 

「ははは!嘘嘘!冗談だって!」

 

「酷いじゃないか!確かに言った事なかったかもしれないけどさ!!」

 

冗談だと笑う八幡に、猛もまた少々怒ったようにしながらも笑っていた。

 

心から楽しい。

そう思っている様子が窺い知る事が出来た。

 

「ま・・・、それだけ笑えるなら、吹っ切れたって事で良いのかな?」

 

ひとしきり笑った後、大和は八幡に問うた。

 

それだけ笑えているなら、彼等の事を引き摺ってはいないのかと。

 

「あぁ、この前、キッチリ最後の手合せさせてもらった、一発も当てられなかったけどな。」

 

彼の問いに、八幡は少し悔し気に、だが、清々しいと言わんばかりに笑みを浮かべていた。

 

彼は数日前、最後の稽古と銘打って、一夏とサシでやり合ったのだ。

 

一夏は八幡達7人を相手に連続で戦い続けた事になるが、それでもその結果は火を見るより明らかだった。

 

誰一人、一夏に一撃としてクリーンヒットを叩き込む事さえ出来ないまま、その稽古を終わらせたのだった。

 

「やっぱり凄かったよ・・・、俺は、何時かあの高みまで行く・・・、必ず・・・!!」

 

その強さは、八幡にとって、崇拝に値するモノだった。

 

自分もいつか、その強さで旅の果てに何かを残す。

それが、自分の辿るべき道だと確信していたから・・・。

 

「だから、俺は行くよ、空の果てに・・・、何時の日か。」

 

「そっか・・・。」

 

迷いの無い目に、大和もまた空の彼方を見ていた。

 

織斑一夏が見せた、戦士としての顔と、教師としての顔。

 

彼等はそれぞれ、彼を追って走り始めたのだ。

 

彼に追い付き、追い越さんと・・・。

 

sideout

 

noside

 

「時間だ。」

 

卒業式からさらに数日後の夜・・・。

 

店仕舞いを済ませたアストレイの店の前で、その人影はあった。

 

既にアストレイ自体は営業を取りやめているのか、店内から灯りを感じる事は出来なかった。

 

いや、それも無理も無い事だ。

何せ今日は・・・。

 

「皆さん、短い間でしたが、お世話になりましたわね。」

 

アストレイの店長、セシリアが何処か寂しげな表情で別れを口にしていた。

 

それを受ける見送る側の者達、八幡達の表情にも、離別への悲哀が見て取れた。

 

そう、今日が本当の最後の日・・・。

アストレイがこの世界を去り、永い旅路へと旅立つ日だった。

 

「俺達こそ・・・、何も返せないままお別れで、申し訳が立ちません・・・。」

 

そんなセシリアに、いや、彼の目に立つアストレイメンバー全員に向けて、八幡は深々と礼をした。

 

今日、八幡達は、師である彼等の見送りに来ていたのだ。

 

師である者達はこの世界を離れ、これからは自分の脚で立っていかねばならない。

 

それに加え、自分達は彼等に何も返せてはいない。

だから、本当ならば見送るだけというのも忍びなかった気がしたのだ。

 

「いんや、アタシ等はもう十分貰ったわ、だから、お礼をすんのはアタシ等の方よ。」

 

それに対し、玲奈は優しく微笑みながらも制した。

 

玲奈たちからしてみれば、八幡達は自分達に希望を見せてくれた。

それが、未来へと繋がる希望であり、嘗てに置き去りにした物を、取り戻しかけるきっかけになったのだ。

 

逆に、八幡達に巡り合えて良かったと、感謝の念さえ抱く程だった。

 

「だから、これからも未来を信じて進め、君達の道をね。」

 

「はい・・・!皆で、俺達皆で歩いて行きます!」

 

宗吾の言葉に対して、八幡達は胸を張って彼等と向き合っていた。

 

師から認められ、共に歩める道がある。

 

そこに何を恐れる必要があるのだろうか。

自分は、一年前とは違い、こんなにも分かり合える仲間達と出会えたのだ。

 

得た者達と共に歩んで行くのだ、何時までも下を向いている訳にもいかなかった。

 

「寂しくなるね・・・。」

 

シャルロットの言葉に、皆、やはり悲哀を隠す事は出来なかったか、一斉に表情を変えた。

 

解っている。

これ以上、この世界にいる事は出来ないし、共にいる事は出来ない。

 

だが、それでも、これまで共に過ごしてきた誰かとの別れは、耐えがたい悲しみに襲われるモノだった。

 

「・・・、世界は、無限に広がっている、だが・・・、何処かで一つに合わさる場所がある筈だ。」

 

その空気を破る様に、一夏が言葉を発する。

 

宇宙が無限に広がろうとも、その場所は何処かに必ずある。

運命が自分達を引き合わせるのならば、きっと、必ず・・・。

 

「はい・・・!その場所に、必ず辿り着きます・・・!!」

 

一夏の言葉の意味を、八幡はしっかりと受け止めていた。

 

これは別れでは無い。

一回りも二回りも、今よりも大きく羽ばたくための旅立ちなのだ。

 

だから、今は一時、別の道を歩むだけだと・・・。

 

「あぁ、待っているぞ。」

 

それを受けて、一夏もまた頷いた。

 

もう言葉はいらないぐらい、拳で、その生きざまで語り合った。

だから、涙は不要。

 

何時か追い付いてくる、それだけを信じ、彼は頷いたのだ。

 

『デァッ!!』

 

その時だった。

遥か空の彼方より光が煌めいた。

 

それは何の迷いも無く彼等の方へと降りてくる。

 

『待たせたな!』

 

それは、光の鎧を纏う巨人、ウルトラマンゼロだった。

 

スパークドールズにされた怪獣やウルトラマン達を、自分の時空を渡る能力を使って元の世界に帰してきたのだ。

 

その終わりに、彼はこの世界に戻り、一夏達7人を迎えに来たのだった。

 

そう、ゼロが再び現れたという事は、もう時間が遺されていないと言う事だった。

 

『行こうぜ、ゲート開けてんのもしんどいんだ。』

 

一夏達とは異なり、人間としての姿にならないまま、ゼロは宙の彼方を指差した。

 

その先に、異界に通じる回廊を開いているのだろう。

 

「お別れだ。」

 

コートニーはそう言いつつ、懐からエボルトラスターを取り出す。

 

彼に倣い、他の者達もそれぞれの変身ツールを取り出し、掲げた。

 

もう、行かなくてはならない。

皆、その決意が揺らぐ様子は無かった。

 

それぞれのツールが光輝き、彼等の姿をウルトラマンへと変えた。

 

「皆さん・・・。」

 

『先に行ってるね。』

 

これ以上別れを惜しむと決意が揺らぐと、リーカの言葉をきっかけに、一夏を除いたアストレイメンバーは先に宙へと飛び立っていく。

 

後は、彼に任せる、そう言わんばかりの様子だった。

 

「先生・・・。」

 

人間の時の姿のまま立つ一夏に、沙希は泣きそうになるのを堪えた様な声で呼びかける。

 

やっぱり、行ってしまうのですか。

そう言わんばかりの八幡達の前で、一夏もまた、自身の変身ツール、スパークレンスを取り出した。

 

それを見た八幡は、今の今まで堪えていたものが決壊したか、涙が頬を伝って落ちていく。

 

それを見た一夏もまた、一筋の涙を零し、頷きながらもスパークレンスを天に向かって掲げた。

 

「ティガっ!!」

 

スパークレンスが開くと同時に、眩いばかりの光が彼を包み込み、その姿を変えていく。

 

その光が納まった時、そこに立っていたのは、光と闇を内包する巨人、ウルトラマンティガだった。

 

『八幡、沙希、彩加、大志、小町、翔、優美子、ありがとう。』

 

膝を着き、彼等の事を慈しむかのように、彼は穏やかな声色で、弟子たちに感謝を伝える。

 

この世界に来れて良かった、お前達に出会えて、俺は幸せだった。

そんな優しい想いが、その言葉から伝わって来た。

 

その優しさに触れて、皆涙が止まらない様子だった。

 

「先生・・・!一年間・・・!本当に、ありがとうございました・・・!!」

 

一同を代表して、八幡は声を張り上げて、感謝の声をあげた。

 

貴方がいたから、貴方に会えたから、自分達は変われた。

その感謝の想いが、叫びとなって彼に届けられた。

 

『この世界の未来を作るのは君達だ、この世界がより良い未来を歩めるように、頼んだぞ。』

 

この世界の未来を、若い八幡達に託し、彼もまた、仲間達を追って空へと駆けて行った。

 

その様子を、彼等は瞬きさえするのが惜しいと言わんばかりに、目を逸らす事無く見送った。

 

出会えたことへの感謝と、別れる事への悲哀を、その胸に抱えて・・・。

 

―――さらばだ―――

 

光となったその姿が空の彼方に消える頃、彼等の脳内に声が届く。

 

また会おう。

そう取れる声色で、その光は、一夏は広大無辺の宇宙へと去って行った。

 

嘗ての大決戦の最後のワンピース、アストレイ達の旅立ちそれが為された事により、この世界に再び真の平穏が訪れた・・・。

 

出会いと別れ、僅かながら変わった未来が遺された世界で、彼等はこれからも生きていく。

 

未来を、より良くするために。

 

ウルトラマンの様な存在が無くとも、正しく生きていける様に・・・。

 

sideout




はいどうもです。

一応最終回です。
二年と4ヶ月もの間お付き合い下さりありがとうございます。

最終回とは銘打ちましたが、現行ウルトラマンみたく、劇場版風な話は書きたいなぁと思っていますので、完全な終わりではないです。

さて、それでは残された二作品の方でお会いしましょう。

ご声援ありがとうございました

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