やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
noside
「よし、ここ等辺で良いだろう。」
ゼロに連れられ、八幡と沙希は千葉近郊の山岳地帯に足を踏み入れた。
何時ぞやの千葉村とはまた違った場所ながらも、切り立つ崖や、そこから落ちてきたであろう巨大な岩々が目立つ場所であった。
特訓を着けると言われて来てみた二人からすれば、ここで何をすれば良いのか見当も付かない様子ではあった。
「こんなところで、一体何をするんですか?」
何故ここに連れて来られたのか、その理由を分かっていたとしても、八幡は尋ねずにはいられなかった。
沙希もその言葉には素直に肯定しているのだろう、無言ながらも、早く説明してくれと言わんばかりの気色が見てとれた。
「お前達には、これから究極の力を手に入れてもらう、それがエタルガーに対抗する手段だ。」
「究極の、力・・・?」
ゼロの言葉に、沙希はその意味を把握しきれずにいるのだろう、僅かながら怪訝の色を浮かべていた。
そんなものが、たった1日やそこらで身に付くものなのかと。
そして、その力が自分達の中に有ったとするならば、何故今まで発現したかったのか
「あぁ、お前達にはウルトラマンの力を重ね掛して使う事の出来るブレスがあるはずだ、それが究極の力の片鱗だ。」
その問いに、ゼロは鷹揚に頷きながらも、二人を指さしながらも答えた。
ギンガとビクトリー、二人のウルトラマンが持つ、他のウルトラマンの力を受け取り使うブレス。
それこそが、今の状況を打開するための、究極の力となると。
「俺達のブレスに・・・?」
「究極の力が・・・?」
八幡と沙希は、実感がわかないと言わんばかりに、互いに顔を見合わせていた。
実際に言われたところで、今その手に持っているという実感が無いままだったのだ。
「・・・で、どうすればそれを目覚めさせられるんですか?」
だが、その真意を追及したところで意味はない。
何せ今は、彼等に残されている時間はほとんど無いのだから。
「簡単だ、ほい。」
答えの代わりと言わんばかりに、ゼロは指先に軽く光を集め、それをまるで魔法でも掛けるかの様に彼等に向かって振るう。
光は弧を描いて飛び、八幡の左腕と沙希の右腕に絡み付き、手錠に形を変えた。
「えっ・・・!?」
「ちょっ・・・!?何のつもりですかこれは・・・!?」
何をするんだと、二人は抗議の声を上げる。
修行させると言いながら、なぜ拘束する必要があるのか、その答えを知りたがったのだ。
「その究極の力は、お前たちが本当の意味で力を、心を合わせた時に生まれてくるモンだ、なら意地でも合わせてもらおうじゃねぇかって話だ、理解できるよな?」
「嘘だろ・・・!?」
とんでもない事を言い出したゼロに、二人は最早絶句する以外なかった。
幾ら時間がないこの状況であっても、このようなスパルタに走るとは思いもしなかったのだろう。
一夏達アストレイからも、大概スパルタな特訓は受けてきたが、それでもそれは結局、五体満足かつ、自由に動ける事が出来た状況での特訓だった。
正直な話、生きて戦いに赴けるかどうか、怪しく思えてきたのだろう。
「ま、時間がねぇんだ、さっさと始めるぞ!!」
特訓開始と言わんばかりに、ゼロは左腕の手首に着けていたブレスレットを光らせ、ウルトラマンとしての姿へと戻るためのアイテム、ウルトラゼロアイを出現させる。
「デヤッ!!」
それを華麗にキャッチするや否や、ゼロはゼロアイを掲げ、メガネを掛ける様にして顔に当てた。
その瞬間、ゼロの身体を眩い光が覆い、その身体をウルトラマンとしての姿へと変貌させていく。
しかし、その大きさは通常の50mサイズではなく、その半分、いやもう少し小さいぐらいの20mサイズであつた。
その、中途半端な変身が、今の八幡と沙希にとっては嫌な予感しか感じ取れないものでしかなかった。
『ん。』
変身が完了するや否や、ゼロは手近な崖にあった岩を手で払い、八幡と沙希の近くに墜とす。
「うぉぉ・・・!?」
「や、やめてくださいゼロさん・・・!!」
咄嗟に回避行動を同じ方向に飛ぶことで為すが、それでも落ちた衝撃で粉塵と細かに砕かれた破片が彼等に襲い掛かる。
ウルトラマンと融合していて、身体が細胞レベルで消し飛ばされたり、ウルトラマンとしての即死攻撃を受けない限り、再生は出来る身とは言え、人間の身体よりも大きい岩が頭の上10m以上から落ちてくるとなると、人間としては死んでしまうほどのダメージを受けてしまう事は間違いなかった。
『二人で息を合わせて逃げないとやぁばいぞぉ~?』
しかし、当のゼロ本人は、そんな事など知ったことかと言わんばかりに岩を落とし続ける。
声自体は遊んでいる様な響きさえ含まれている分、余計に恐怖が助長されている様な気がしなくもなかった。
「こ、こんなの滅茶苦茶だぁぁぁぁ・・・!!」
何とか立ち上がり、八幡は沙希と繋がれている手をうまい事握りながらも死に物狂いで逃げ始める。
こんな理不尽な虐めにも等しい事から、逃げ延びるためにも・・・。
sideout
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一方その頃、囚われた7人のウルトラマン救出のために時空城へと向かう彩加達一行は、瓦礫が散乱し、車も走れない道をひたすらに走っていた。
総勢10人を超える一行は、途中までは雪ノ下家が有していた車数台に分乗して時空城まで接近、車が通れない道に差し掛かったため、自らの脚で走っていたのだ。
皆、その表情は真剣そのもの、そして、救いたいという強い意志を伺う事が出来た。
とはいえ、ここにたどり着くまで一度たりとも妨害を受けなかったことが、彼等には不気味に思わざるを得ない、というのが本音だった。
どんな馬鹿でも、自分のテリトリーに土足で踏み込もうとする輩がいれば、それなりに防衛手段を取るというものだ。
特に、人を痛めつける事に抵抗のないエタルガーならば、何かしてきても可笑しくはないとも感じていた。
「見えてきたよ!入り口を探すんだ!!」
そして、今まさに、彼らは時空城の足下まで到達、何とかして内部に侵入しようとしていた。
ウルトラマンでない者は、長い距離を走った事で少々苦しそうな表情をしている者も見受けられたが、それに一々憚っている余裕など、今の彼等には一切なかった。
「探せったって・・・!浮いてるんだから飛ばないと行けねーべ・・・!!」
彩加の指示に、翔はそりゃそうだがどうやって見つけろと言うんだと言わんばかりに声を上げる。
そう、足下まで来ているとはいっても、時空城は宙に浮いている状態だ。
無論、人間のジャンプ力で届くような高さではないし、まかり間違っても簡単に侵入できる筈も無かった。
「くっ・・・!」
近くには時空城に直接乗り込めるような高い建造物は見当たらない。
出来る事ならば、変身はせずに乗り込みたいところであった。
何せ、恐らくではあるが、エタルガーは時空城の中で待ち受けているモノと考えられる。
少しでも力を温存しておくならば、変身せずに乗り込んだ方が良いに決まっているのだから。
だがしかし、現実はそれを許してくれるほど甘くはない。
この状況をどうするべきか、彩加が対応を決めようとしていたその時だった。
『がぁぁ・・・!』
激しい地鳴りを上げ、エタルガーが時空城から飛び出し、彼らの目の前に降り立った。
「エタルガー・・・!!」
『つくづく愚かな人間どもめ・・・!目障りな事この上ない・・・!!』
ゼロにやられた事に相当苛立っているのだろう、その声には怒りと苛立ちが克明に表れていた。
それを感じ取った彩加は、一気に自身が持ちうる警戒のレベルを最大にまで引き上げ、エクスデバイザーを構える。
「大志君と小町ちゃんは変身して皆を中に・・・!」
『ここは私達で抑え込む!翔!優美子!!』
「おう!!」
「分かってる!!」
ここでこれ以上時間を取られている暇はない。
彩加とXの呼びかけに、翔と優美子はすぐさまゼノンとジャスティスに変身、エタルガーの前に降り立つ。
彩加もまたXとユナイトし、臨戦態勢を整える。
彼等は時間稼ぎを買って出て、大和達がアストレイ達を助ける手伝いをしようとしていたのだ。
「わ、解りました・・・!!」
「どうか、ご無事で・・・!!」
その想いを汲み取り、大志と小町はすぐさまヒカリとアグルに変身、大和たちに手を差し伸べる。
『乗ってください・・・!一気に時空城まで飛びます・・・!!』
「だけど大志君・・・!!」
その言葉に、それでいいのかと大和は問う。
八幡と沙希を加えた人数でも勝てなかった相手に、一度挑んだ時よりも少ない人数で挑んだとしても勝機は無い。
みすみすやられてしまう事になるのではという、不安がそこにはあった。
『俺達皆覚悟の上です・・・!皆さんは皆さんのやるべき事をしてください!!』
しかし、それを大志は強い言葉で制する。
ここに立っているという事は、エタルガーと真っ向からぶつかることも、再び敗北するかもしれないというリスクも覚悟の上だと。
『さぁ早く・・・!!』
「っ・・・!皆!乗れ!!」
急かされる言葉に、腹を決めた大和の言葉を切っ掛けに、隼人達も次々とヒカリとアグルの掌に身を任せる。
全員が乗り込んだことを確認した二人は頷き、時空城に向かって飛翔する。
『フハハハ・・・、愚かな・・・、盾のつもりか?』
『違うね、あなたを倒す剣だよ!』
彼等が飛び立った直後に、三人のウルトラマンは魔人に向かって構える。
護るための盾ではなく、倒すための剣となる。
仲間たちのために、師のために、そして自分達のために。
戦意を高め、彼等はエタルガーを打ち倒すために勇んで向かっていくのだ。
『愚かなことだ、奴らにも、そして貴様らにも見せてやろう、悪夢というものをなぁ!!』
それを嘲笑うかの如く、エタルガーもまた構えを取り、猛然と向かっていく。
不気味な、それでいて哄笑とも取れる笑い声と共に・・・。
sideout
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時空城に突入した大和達は、7人のウルトラマン達が囚われている空間があると思しき場所を目指してひた走っていた。
大志と小町は、等身大のサイズのまま変身し、障害物や危険がないか探りながらも先頭を走っていた。
ここは敵のテリトリー、ただの人間が無事でいられる保証はどこにもない。
故に、危険を少しでも回避するため、二人は変身した状態を維持すると決めたようだ。
エタルガーの追撃は今のところ無いとはいえ、いつまでそれが持つかも分からない。
そのため、彼等の表情には焦りの色が強く滲んでいた。
「急いでくれ皆・・・!戸塚君達が頑張ってくれてる今がチャンスなんだ!!」
「分かってる・・・!!」
大和の急かすような言葉に、隼人が声を荒げながらも返す。
焦りが言葉にも滲み出ていることが窺えるが、この場に居る誰もが同じ心持だったに違いない。
自分達を行かせるために囮となった三人のためにも、早く一夏達を開放しなければならない。
そのためにも、立ち止まっている時間などない。
急がなければならないと分かっていたのだから。
暫く走り続けると、吹き抜けたかと錯覚するほどに広い部屋にたどり着いた。
「し、城の中にこんな大きな空間があるのか・・・!?」
驚愕に目を見開き、大和はその視線を上へと向け、更なる驚愕で再び瞠目することとなる。
「た、猛君・・・?」
彼の様子が気にかかった南は、彼の視線の先を見て、彼と同じ表情となった。
その視線の先には、七人のウルトラマン達が磔にされた状態で囚われている姿だった。
そのどれもが、彼等を救い導いた者達の姿であることに、疑いは無かった。
それと認識し、皆の顔が違う緊張に強張った。
ついに行動を起こす時だと。
彼等は互いに顔を見合わせて頷き、それぞれが持っていた変身アイテムを取り出す。
手筈通りだ。
このままあ、光を彼等に返せば逆転の糸口を掴む事が出来る。
彼等は、そう確信して疑わなかった。
だが・・・。
突如として天井の見えぬ宙の奥深くに光が瞬いた。
「なんだ・・・!?」
「なんかやな感じ・・・!?」
隼人と結衣が身構えるが、それよりも早くその光は降ってくる。
『皆さん逃げて・・・!!』
大志が警告を飛ばすよりも早くその光は彼等を呑み込んだ。
『ッ・・・!!』
息を飲む彼の前で、光は晴れていく。
光に飲まれた者達は皆、防御態勢を取っていたが、特段目立った外傷も見当たらなかった。
よかったと安堵するが、それも束の間の事ことだった。
大志と陽乃を除く全員が、突如として蹲り、頭を抱えて苦悶の呻きをあげ始めたのだ。
『皆さん・・・!?小町さん・・・!?どうしたんですか・・・!?』
「雪乃ちゃん・・・!!ガ浜ちゃん・・・!!」
大志と陽乃が呼び掛けるが、皆何かに脅える様な様子を見せるだけで返答すらなかった。
『これは・・・、まさかゼロさんが言ってた・・・!?』
尋常ではない様子に、大志は先程ゼロから教えられたエタルガーの能力、相手のトラウマを利用する力に思い当たる。
この場に居るのは、ダーク・ルギエルの一件で大きな間違いを起こした者達が集まっている。
一度は立ち直ったとはいえ、まだ心に抱えている事も大きいものである事は想像に難くなかった。
なんという嫌な手を使うと、大志は苦虫を嚙み潰したような表情で唸る以外なかった。
トラウマは、自分自身が克服しない限り打ち祓う事は出来ない。
せめて少しでも浄化を行いたいところだが、生憎浄化を得意とする者達は今この場にはいない。
自分に出来る事はただ呼びかけ続ける事だけと、解ってしまっていた。
だが、そうは問屋が卸さないと言わんばかりに、無数のチブロイドが部屋の唯一の道から向かってきていた。
『くそっ・・・!こんな時に・・・!!』
嫌なタイミングで、しかも念入りに相手を潰すような真似をしてくるエタルガーの陰湿さに、大志はやってくれやがってと思わずにいられなかった。
だが、今ここで戦わなければ、この場に居るだれも救うことは出来ない。
『陽乃さん、みんなを頼みます・・・!!』
言うが早いか、彼はナイトブレードを展開し、一人チブロイドの大群に向かっていく。
護るために、救うために。
そして、切り拓くために・・・。
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次回予告
それぞれ苦境に立たされる若き光達。
彼等に反撃の機会は訪れるのか?
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのは間違っている
八幡と沙希は想いを重ねる 中編
お楽しみに