やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
noside
『行くよ二人とも!!』
『『応!!』』
彩加の声に、翔と優美子は全くの同時に応じ、三人同時にエタルガーへと飛び掛かっていく。
Xにゼノン、そしてジャスティスは、三方向から挟撃する形を取り、エタルガーからの攻撃を分散させる戦法を採る。
数時間前の戦闘で、エタルガーが凄まじい強さを持っているのは分かった。
それに単騎ずつで挑もうとする方が愚かである事は分かり切っている。
だが、それでも今の彼等では状況を覆せるほどの力を持ち得ているかと問われれば否というところだ。
幾ら多勢に無勢であったとしても、師であり、圧倒的な強者であったアストレイ7人を捕らえた相手に勝てる訳など、そもそも有り得はしない。
ならば、今彼等が出来る事は、大和達が一夏達を復活させるまでの間と、八幡と沙希の特訓をやり遂げ戻って来る時までの、時間稼ぎぐらいしか出来なかった。
『フン!貴様ら如きが幾ら群れようとも俺には勝てん!!大人しくヤラれておくんだなぁ!!』
手も足も出せずに敗れた者共の事など歯牙にもかける程でもない。
そういわんばかりに、エタルガーもまた構えを取り、彼等に向かって突っ込んでいく。
まずは先頭にいるXから倒す、そう考えての突進だった。
『連れねーべ、俺達も相手しろって!!』
『アンタみたいなブ男は、願い下げだけどね!!』
だが、ゼノンとジャスティスが滑り込む様にエタルガーの前に立ちふさがり、その腕をしっかりと抑え込む。
『ぬっ・・・!?』
連携攻撃を掛けてくることは織り込み済みだっただろうが、先の戦いから同時攻撃が主軸であると予想していたために、エタルガーは面食らった様子を見せる。
しかし、僅かながらでも困惑している間は確かな隙となる。
『イーッ!サァーッ!!』
光を纏う手刀、Xクロスチョップががら空きとなった胴に、人間でいう辺りの鳩尾に叩き込まれる。
『ぬぅっ・・・!?』
その威力に耐えられるものの、押されたのは確か。
エタルガーは小さく唸りながらも後退を余儀なくされる。
その瞬間、ゼノンとジャスティスが腕を離し、すぐさま攻撃の態勢を取る。
まったくの同時に、衝撃を逃がしにくい膝関節へとローキックを叩き込み、エタルガーの態勢を崩す。
『うぉっ・・・!?』
よろめくエタルガーが態勢を立て直そうと顔を上げたその瞬間、光が瞬く。
『ビクトリューム光線!!』
『ゼノニウムカノンッ!!』
二条の光線が放たれ、エタルガーの胴に突き刺さり、削る様に火花を散らす。
二体のウルトラマンによる強烈な光線に呻くも、暫しの拮抗の後に腕で払い除ける様にして光線を掻き消した。
『小癪な・・・!?』
直ぐ様反撃に出ようとしたエタルガーの前に、新たな影が躍り出る。
それは、宇宙恐竜ゼットンを模したモンスアーマー、≪サイバーゼットンアーマー≫を装着したXだった。
『『ゼットン火炎弾!!』』
『ぬぅぅぅ・・・!?』
ゼットンの十八番である火炎弾を再現した技の威力は凄まじく、エタルガーは咄嗟にガードするも大きく後方へと吹っ飛ばされる。
とはいえ、ダメージはそこまで通ってはいないのだろう、直ぐ様立ち上がり、三人を睨み付ける。
小憎らしい事をしてくれると言わんばかりの、苛立ちが見てとれる様だった。
『僕達は諦めない!皆のためにも!!』
毅然と、彩加はエタルガーに向かって構えを取りながらも宣う。
お前なんかに負けてたまるか。
そんな強い意志が垣間見える言葉だった。
『お前なんかに、負けて堪るか!!』
強い言葉と共に、彼等は再びエタルガーへと突き進んでいく。
この世界を、友を、家族を護るために・・・。
sideout
noside
『よーし、逃げるのはなかなか息併せられるようになってきたな、次行くぞ!』
一方その頃、採石場で八幡と沙希の稽古を着けているゼロは、及第点をやれるなと言わんばかりの表情で二人を見下ろしていた。
人間とウルトラマンの身長差があれば当然ながら視点が低くなるのは当たり前であるが、彼等の力関係を視覚的に表わしている様にも思えてならなかった。
「こ、今度は何を・・・?」
「させるつもりですか・・・?」
息も絶え絶えに、次は何をする気かと問う八幡と沙希だったが、どうみてもボロボロとしか形容出来なかった。
まぁ無理もない、連続で落とされる岩を、片腕同士を繋がれてる状態で逃げ回っていたのだから、十全に動き回れないために、予想以上にダメージを負ってしまったのも事実であった。
とはいえ、伊達に鍛えられてはおらず、尚且つ八幡と沙希のコンビネーション力は、元々恋人同士という事もあってそれなりに高いものがあったため、そこまで時間を掛けずとも動き回れる様にはなってはいた。
だが、それとこれとは話が別である。
特訓は、まだ完了していないのだから・・・。
『二人で、この崖を登れ。』
ゼロは休んでる暇はないぞと言わんばかりに、凭れかかっていた崖を指しながらも新たな指示を出す。
『この崖を登り切った時、お前たち二人は究極の力を手に入れているだろう。』
その言葉に、八幡と沙希は顔を見合わせながらも、未だに半信半疑と言わんばかりの様子だった。
まぁ、今の今までやっていたのが、特訓とは名ばかりのイジメを受けていた様なものだから。
とはいえ、他にやるべきことも見つからないため、二人は渋々と言った風に崖に近付いていく。
しかし・・・。
「よーし・・・、これなら右から攻めていくぞ。」
「いーや、ここは左からの方が効率的だよ。」
と、まぁ、こんな風に微妙に息が合わない部分がまだ残っているからか、二人はほぼ無意識に鎖に繋がれている方の腕を、交差させるように出して崖の出っ張りを掴もうと動かしていた。
「ちょ・・・!?引っ張らないで・・・!?」
「沙希こそ・・・ってうぉぉぉい!?」
無理に引っ張り合った事で変な姿勢になったからか、二人は盛大に体勢を崩して地面に倒れ込んだ。
『おいおい・・・、何やってんだよ・・・。』
そんな彼らの様子に、ゼロは何処か呆れたようにため息を吐く以外無かった。
こんなことで、本当に究極の力を掴めるのか、少し心配になった。
だが、今はこれしかないのだ。
彼等が、一夏達を救う鍵となると、そう見込んだからこそ・・・。
sidoeut
noside
同じ頃、時空城内部では・・・。
『うぉぉぉっ!!』
無数に向かってくるチブロイドの大群を、ヒカリに変身する大志はたった一人で相手取っていた。
既に凄まじい数のチブロイドが屠られていくが、一向に減ったような印象は全く受けないほど、その数は圧倒的だった。
一体一体は然程強くなく、それなりに腕に覚えのある人間でもその気になれば無力化は出来る程である。
現に、今もまたヒカリの蹴りを受けて吹っ飛ばされた個体が壁にぶち当たり、爆散する。
斬られ、殴り飛ばされ、四散していく個体がどんどん積みあがっていくが、一向に数が減らないのだ。
幾ら倒しても無限に湧いてくる、それが大志が感じた率直な感想だった。
多勢に無勢とは正にこの事か、そう思わずにはいられなかった。
せめて小町のアグルが加勢してくれたならば、ここまで苦戦する事も無かっただろう。
だが、彼女もまた、大和達と同じく、エタルガーの罠によってトラウマを見せられているのだ。
それが如何なるものかなど、最早考えるまでもない。
彼等は皆、ダークルギエルの罠に嵌り、自らの意志で間違いを、怪獣となって生まれ育った町を破壊するという罪を犯した者達だったのだから。
「やめろ・・・!俺は・・・、こんなこと・・・!!」
「やだ・・・!やだ・・・!やめて・・・!!」
『先輩方・・・!くそっ・・・!!意識をしっかり持って!!闇に・・・、自分に負けちゃダメだ!!』
震え続ける大和達に、大志は声を張り上げ檄を飛ばす。
諦めるな、前を見ろ、自分に負けるなと。
だが、どれだけ叫んでも、どれだけ彼一人が力を籠め、戦おうとも、人がそれぞれ個を持つ限り、それぞれの後ろめたい、消してしまいたい過去を持つ限り、それを討ち破るのはその本人しか成し得ない事だった。
そんな事ぐらい、大志にだって解っていた。
一人で乗り越えなければならないものもある。
手出しができないものだってある。
だが、それでも居ても立っても居られない事だって有る。
力が有れども手出しができないとは、なんとも歯がゆいモノかと。
「大志君・・・!!」
それ以上に、ただ見守ることしか出来ないのは、ウルトラマンの力を持たない陽乃だった。
一度きりの変身を可能にする器を持っていたとしても、それは元の主へと返さねばならないモノ。
彼女がこの危機を乗り越えるためだけに使って良いものであるとは、到底考えられなかった。
だから、彼女はチブロイドが大和達の方へ来ないように祈り、大志にすべて託す以外無かった。
「雪乃ちゃん・・・!皆・・・!負けないで・・・!!」
祈るように、彼女は自身の懐よりエボルトラスターの写し身を取り出し、強く両手で包み込むように握り締めた。
彼女が想う男の力を、その強さを、彼等にと・・・。
sideout
noside
「くっ・・・、やっと、半分・・・!!」
いざこざが終わり、話が纏まった八幡と沙希は、ゼロから課せられた試練である崖を、互いに鎖で繋がれたまま攀じ登っていた。
しかし、どうやら身体能力を人間より少しだけ強いぐらいのレベルまでセーブさせられているのだろう、今の彼等に人間の身の丈では相当の高さを持つ崖を、この短時間で登る事は出来ていなかった。
しかも、崖に掴むような出っ張りは少なく、足を掛けられるところもないと来た、如何に彼等でも登り切るのは至難を極めていたのだ。
「もう少し・・・、っ・・・!?」
力を籠め、残りを一気に登り切ろうとした沙希だったが、足を滑らせた拍子に手を放してしまう。
「うわっ・・・!?」
「沙希っ・・・!!」
滑落しそうになる沙希の右手を、八幡は咄嗟に出した左手で掴む。
当然そうなると、彼は右腕だけで体重を支える事となり、バランスを保てないせいで更に重い負荷が掛かっている事となる。
「は、八幡・・・!」
「諦めるかよ・・・、こんなところで・・・!」
全身に力を籠め、彼は沙希を引っ張りあげる。
足が掛けられる様になり、彼女はすぐに崖の出っ張りを掴んだ。
だが、これで終わりではない。
それが分かっていた。
二人は軽く頷き合った後、再び頂上を目指すべく登り始めた。
しかし・・・。
「「っ・・・!!」」
二人の頭上遥かより、幾つもの巨大な降り注ぐ。
どれもが、彼等の身の丈を優に越える程の大きさであり、直撃すれば一溜りもない事は、最早考えるまでもなかった。
だごしかし、彼らは崖を登る途中で、更には動きを制限された状態である。
ここの状態から避けろというのは、最早出来る事ではなかった。
ならば大人しくこのまま潰されるのを待つか?
「沙希、このままじゃヤバイ、一か八かだ!」
答えは否だ。
八幡は、これを切り抜けるために賭けに出ようとしていた。
「一二の三で飛ぼう!それしかない!!」
今使える力をフルに使い、尚且つ二人分合わせる事で飛び越えようと。
「もちろん・・・!あたし達なら、きっと大丈夫!!」
沙希もそれを理解し、そして八幡を信じて手を握り、強く頷いた。
必ず乗り越えようと、ここで終わってたまるかと。
「いくぞ・・・!」
「「1・・・、2・・・!!」」
呼吸を合わせるようにカウントを取り、タイミングを合わせる。
二人の力をフルに使う、そのためにも。
「「3!!」」
手近な岩石目掛け飛び移り、それを足場に次の岩へと飛び移って上を目指す。
全くズレのない、息の合った跳躍が為せる技であり、二人が一心同体となっていく瞬間でもあった。
「「うぉぉぉぉぉ!!」」
眼前に迫る最後の巨大岩石を、二人は全くの同時に突き出した拳で叩き割り、そのままの勢いで突き進んだ。
そして、頂上が近付いたその時、彼等は眩いばかりの光へと包まれていく。
だが、それでも握った手を離したりはしない。
その手にある絆こそ、彼等を結び付ける強い想いなのだから。
『俺達は一心同体!お前じゃなきゃ、ダメなんだ!!』
光の中、八幡は沙希に向けて宣言する。
これから先も、隣に居てくれるのは沙希じゃないとダメだと、他なんていないと言う様に。
『だから沙希、俺と一緒に来てくれるか?』
『もちろんだよ!どこまでも、八幡と一緒に!!』
その強い想いを受けて頷き、沙希は突き出された八幡の拳に自身の拳をぶつけ合い、それを解いた後に抱き合い、唇を重ねる。
心と愛と力、その全てを重ね合わせるかのように。
『『見せてやる!二人の力を!!』』
繋がれていた鎖が解かれ、八幡の左腕に青いブレスが、沙希の右腕に赤いブレスがそれぞれ出現する。
それは、彼等の絆が具現化した証、究極の力のカギとなるものだった。
それぞれ、ギンガとビクトリーの描かれた金色のレリーフを回し、究極の力を呼び起こすための動作へと移る。
『沙希っ!!』
『八幡っ!!』
互いに愛する者の名を叫び、大きく腕を振り上げる。
『『ウルトラタッチッ!!』
そして、互いの腕を、ブレスを交錯させる。
『ギンガァァァ!!』
『ビクトリーィィィ!!』
刹那、二つのブレスから強烈な光が放たれ、二人を包み溶け合っていく。
そう、まるで融合、フュージョンさせるかのように・・・。
sideout
次回予告
エタルガーの罠に嵌まり、追い詰められていく彩加達。
八幡と沙希が掴んだ光が、彼等を新たなるステージへと導いた。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのは間違っている
八幡と沙希は想いを重ねる 後編