やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は負けられない 後編

noside

 

時空城の上層の天蓋を破壊しつつ飛び出し、最上部である頂上へと到達したギンガビクトリーとXを出迎えたのは、無数の闇の光弾だった。

 

不意打ちに近い攻撃ではあったものの、その全てをギンガビクトリーは自身の右腕で、Xは両の手で持つXカリバーで切り払って防ぎ切った。

 

この程度の光弾など、たとえ不意打ちであったとしても、今の彼等にとっては、大げさに対応するものではなかったのだ。

 

『『この程度で!』』

 

『僕達を止められるもんか!!』

 

それに対する答えとでも言わんばかりに、彼等は眼前に立つ金色の魔人を睨む。

 

こんな小手先の技じゃなく、真正面からぶつかって倒されろ。

そんな気迫があった。

 

『待っていたぞ、青二才どもめ・・・!!』

 

金色の魔人、エタルガーが彼等を忌々し気に吐き捨てながらも出迎える。

 

一度は自分に敗れた者達が、まさか様々な障壁を突破し、撃ち滅ぼし、新たな力と共に再び自分の前に立つとは思ってもみなかったのだろう。

 

その表情には、克明な苛立ちが浮かびあがり、ともすれば怒りとも呼べる色があった。

 

『ここに来るまで、俺達に手を貸してくれた仲間の力だ、青いなんざ言ってられんぜ。』

 

青二才と煽るその挑発を、八幡は乗る事も流す事もなく、大真面目に返す。

 

仲間が自分を信じ、助けてくれたから俺はここにいる。

自分だけが使える力ではない、仲間と繋がる事で得られる力が自分を歩かせてくれたと、彼は臆する事も恥ずる事もなく、寧ろ誇らしげに宣言した。

 

その力に、今からお前は負ける、嘗てのルギエルの様に、と・・・。

 

『仲間、だと・・・?くだらん事を言うな・・・!』

 

その想いを、エタルガーは侮蔑の色を籠めた、何処か激しい感情と共に唾棄する。

 

それは先程までの苛立ちとは違う、生理的嫌悪からくる怒りの叫びだった。

 

下らない事を言うな、仲間など、俺には必要ないと。

 

『それが何になる?そんなもの、圧倒的な力には勝てんのだよ!』

 

求めるは圧倒的な力、ただ一人ですべてを制してしまえる無敵の存在、エタルガーはそれになろうとしていた。

 

いや、それだけではない何かが有る事は、八幡達が嘗て倒した相手がそれを証明している。

 

だが、その相手と今の相手は違う。

理由はどうあれ、八幡達の大切な者達を傷つけ、あまつさえ自分達を滅ぼそうとする敵を、彼等は退ける必要があった。

 

『そういうなら、試してみなよ、アンタが下らないって言う、あたし達の力を!!』

 

その下らないと断じた力をこれから見せてやると、沙希は強く意気込んだ。

 

この二年が、幾人もの大切な人々と育んだ絆と力が、決してちっぽけなものではないと証明するためにも。

 

『ならば掛かってこい・・・!俺を倒せるものならなぁ!!』

 

それを戦闘の意志アリとみるや否や、エタルガーは構えを取り、一気に八幡達に迫ってくる。

 

これが最後だ、これでこの茶番を終わらせてやる、その意思が垣間見えた。

 

『八幡!沙希ちゃん!行くよ!!』

 

『『あぁ!!』』

 

彩加の声に応じ、八幡と沙希は強く返す。

 

ギンガビクトリーとXは構えを取り、エタルガーを迎え撃つべく駆け出す。

 

その首をへし折らんと迫るエタルガーを釘付けにするつもりか、ギンガビクトリーが先行する形で飛び出し、腕を掴み動きを封じる。

 

如何に力を得たとて、幾人ものウルトラマンを同時に圧倒した相手に、単騎で挑むのはそもそもの間違い。

 

ではどうするか?

彼等が出した答えは至極単純。

 

数の利を活かし、コンビネーションを駆使して戦う事で勝利を掴むと。

 

『ぬぅっ!?』

 

『はぁぁっ!』

 

攻撃でも単純な防御でもない行動に驚き、一瞬硬直するエタルガーの隙を突き、Xが飛び出し、Xカリバーを横薙ぎし、エタルガーの腹に一閃、ダメージを与えて怯ませる。

 

弾かれる反動を利用し、ほぼ密着状態にあったギンガビクトリーの左腕のブローが鳩尾に突き刺さる。

 

『ぐぉぉぁ・・・!?』

 

その重い一撃に、エタルガーの身体が僅かに浮き上がる。

 

怯ませることすら出来なかった先程までとは違う威力に、エタルガーも唯々唸るしかなかった様だ。

 

だが、ヤラれてばかりはいないと、エタルガーはすぐさま体勢を整え、手近にいたギンガビクトリーへ蹴りを叩き込まんと動く。

 

その蹴りは、ギンガビクトリーの右わき腹を捕らえかけるが、ギンガビクトリーは容易く防御し、払いのける様にしてそれを弾く。

 

よろめく間もなくXが前に飛び出し、再び斬撃を与えんと迫るが、エタルガーはひらりと身を躱す事で回避、その勢いでXカリバーを殴ってXの気勢を削ぐ。

 

『『おォッ!!』』

 

その刹那、体勢を立て直したギンガビクトリーが動き、エタルガーの胴に突き蹴りを叩きこみ、よろめいた拍子に、ショルダータックル、更にそこからの連続パンチを浴びせかける。

 

『うぉぉぉ・・・!?』

 

息もつかせぬ連続攻撃に、エタルガーも思わず唸る。

 

一撃一撃に気が籠められており、押しつぶさんとする感情がダイレクトにぶつけられていた。

 

だが、それだけでは終わらない。

エタルガーとの距離が離れたと見るや、すぐさま彼等は次の動作に移っていた。

 

『『ウルトラマンゼロの力よ!!』』

 

右腕の赤いブレス、ビクトリーブレスに宿る戦士の力が一つ、解放された。

 

『『エメリウムスラッシュ!!』』

 

額のビームランプから、ライトグリーンの光線が放たれ、エタルガーに突き刺さる。

 

『ぬぅぅぅ・・・!!』

 

その攻撃に、エタルガーは咄嗟に腕を翳す事で防御し、暫しの拮抗の後に弾き飛ばす。

 

エタルガーの背後で盛大な爆炎を巻き上げ無効化されるが、それは隙を作るためのデコイでしかなかった。

 

『セレクト!ウルトラマンダイナ!!』

 

ギンガビクトリーの背後から、深紅の刃を握るXが飛び出す。

 

『『ガルネイトカリバーッ!!』』

 

『ちぃっ・・・!!小賢しい・・・ッ!!』

 

燃え盛る炎の刃が叩き付けられるように上段から振り下ろされる。

 

受けてはならないと直感し、エタルガーはバックステップの要領で後方に跳ぶ。

 

僅かな差で、Xカリバーの刃は空を斬り、時空城に傷をつけるに留まった。

 

だが、直撃した地面は大きくへこみ、放射状に罅と焔を走らせていた。

 

直撃して入れば、少なくない手傷を与えられていたに違いないそれに、エタルガーの仮面の様な表情が僅かに強張る。

 

侮っていたわけではない。

だが、押されているのは純然たる事実。

 

ならばどうするか?

答えは単純だった、彼等の師を倒した時の様に、数で圧倒すればよいと。

 

『調子に乗るな・・・!貴様らも、奴らの様に地に這え!!』

 

体内に残る、エタルダミーを生成できるだけの全ての闇を吐き出し、エタルガーは叫ぶ。

 

貴様らもアストレイと同じく、闇に溶け消え去る運命なのだと。

 

『ファイブキングコルネイユ!!』

 

『アストレイキラー!!』

 

『グローカービショップ!!』

 

三体の、彼等を苦しめた影が召喚され、ギンガビクトリーとXを取り囲み、咆哮を上げる。

 

過去から生み出された闇のまがい物とは言えど、彼等にやられたという記憶が微かに混ざったのだろう。

 

『行けぇぇぇ!!』

 

エタルガーの指示のもと、三体の魔獣が動き出す。

 

憎き相手を屠らんと、その動きは殺意に満ちている様だった。

 

『どこまでも・・・!』

 

『姑息な真似を・・・!!』

 

それを受け、ギンガビクトリーとXは表情を歪め吐き捨てながらも、構えを取ってそれぞれの敵を相手取る。

 

ギンガビクトリーは速さと身軽さを活かし、ヒト型であるエタルガーとアストレイキラーを。

 

Xは強大な火力を持つXカリバーを用い、大物であるファイブキングとグローカービショップを。

 

二対一から形成は逆転し、一対二となったのだった。

 

『がぁぁぁ!!』

 

『『ッ・・・!!』』

 

両側から攻撃してくるエタルガーとアストレイキラーの魔爪を受け止めるが、その様子に余裕は一切見受けられない。

 

押し込まれようとしているのを何とか踏ん張り、体勢を崩さないようにするのが精いっぱい、そんな様子だった。

 

だが、それを嘲笑うように、エタルガーとアストレイキラーの膝蹴りが二人の腹部を捉える。

 

『『ぐぅっ・・・!?』』

 

その強烈な威力に呻き、遂に拮抗が敗れ、ギンガビクトリーの身体は大きくよろめく。

 

その隙を逃さんと、エタルガーの腕からは闇の波動が、アストレイキラーの十字に組まれた腕からはソルジェント光線が放たれ、ギンガビクトリー突き刺さる。

 

『『うわぁぁぁ・・・!!』』

 

『八幡・・・!!沙希ちゃん・・・!!』

 

『気を逸らすな彩加・・・!!今はこっちに集中しろ!!』

 

友の身を案じる彩加に、Xは戦いに集中しろと叱咤する。

 

ファイブキングコルネイユの右腕、レイキュバスシザースをXカリバーで防ぎながらも、背後から迫るグローカービショップを後ろ蹴りで牽制し、何とか挟み込まれないように徹底し、戦い続ける。

 

ファイブキングの腹を蹴って振り返りつつ、グローカービショップにバスターソードの横薙ぎを叩き付ける。

 

しかし、機械相手だからか、それとも幻影の存在だからか、ダメージが入った様子は無く、二体の魔獣はXを討ち滅ぼさんとその圧を強めるばかりだった。

 

『くっ・・・!このままじゃ・・・!!』

 

戦況の悪さに歯噛みするが、打開の一手は何一つない。

 

現に、今、Xの背にファイブキングコルネイユの右腕のシザースが直撃する。

 

『うわっ・・・!!』

 

被弾のために体勢が崩されたところへ、グローカービショップによる突進が突き刺さる。

 

既に崩されていた体勢では耐え切る事など出来る筈も無い、Xは大きく吹っ飛ばされ、ギンガビクトリーの横に倒れ込んだ。

 

それを取り囲む様に、三体の魔獣はゆっくりと近づいていく。

 

それはまるで、死刑を宣告する処刑人のそれだった。

 

立ち上がろうとする彼等へ、ファイブキングコルネイユは身体の各部位にから光線や光弾、火炎球を。

 

グローカービショップは両腕のクローからジルザデスビームを。

 

アストレイキラーはネクサスの力、クロスレイ・シュトロームを、容赦なく撃ち掛ける。

 

『『ッ・・・!!』』

 

咄嗟に反応し、バリアを形成するも間に合わない、殺しきれなかった熱線が彼等を襲う。

 

『『『うわぁぁぁ・・・!!!』』』

 

これまでにない爆発に、熱にさらされ、彼等は呻きながらも藻掻く事しか出来なかった

 

巻き上げられる爆炎が彼等を焼き、その身を焦がしていく。

 

『『ぐぅっ・・・!!』』

 

『あぁぁっ・・・!!』

 

致死の光線が止んだ時、彼等はダメージに耐え切れずに崩れ落ち、膝をついた。

 

如何に強化されたウルトラマンの頑丈さでも、多重光線の威力に持ちこたえる事は出来ても、完全に凌ぐことは出来なかったのだ。

 

だが、それでも彼等の戦意は折れてはいなかった。

肩で息をしながらも、何とか立ち上がろうと力を籠めていた。

 

こんなところでやられてたまるか、自分達は戦うと。

 

『くははは・・・!無様だな、ウルトラマン共よ!!』

 

その様を、エタルガーは嘲笑う。

なんとも見苦しい、大人しく負けを認めてしまえ。

 

そう言っているように感じ取れるものだった。

 

『既に貴様らの仲間も、我が闇の化身共に追い詰められ、絶望を味わっている頃あいだ・・・!』

 

呼び出したエタルダミーからのフィードバックで戦況を把握したか、エタルガーは哄笑をあげながらも勝ちを確信する。

 

八幡達を行かせるために闇に立ち向かった光達は、間も無く闇に溶け、消えると。

 

いや、エタルガーだけではない。

それは、八幡達も、そして離れて戦っている友たちも感じていたのだ。

 

苦境に立たされ、苦悶に歪む表情の仲間たちが、その呻きが、痛みが、その全ての感覚が15人の身体を刺す様に伝わって来ていた。

 

『『それでも・・・!!』』

 

『僕達は・・・!!』

 

皆、今にも崩れそうなほど、追い込まれかけていた。

だが、それでも誰も、戦いを止めようと、目の前の敵から逃げようとはしなかった。

 

使命感も確かにあるだろう。

だが、其れよりも何よりも、強く持つ意地が、彼等を奮い立たせていたのだ。

 

『俺達は・・・!!』

 

下の階層でゼロダークネスを相手取る大和が。

 

『ウチらは・・・!!』

 

大志のヒカリと共に、エンペラ星人を相手に、一歩も引かない南が。

 

『絶対に・・・!!』

 

静が、大志が、翔が、姫菜が、陽乃が、優美子が、隼人が、小町が、雪乃が、結衣が。

強い闘志を燃やす目で、眼前に立ちはだかる闇を、真っすぐ捉えていた。

 

希望を、決して絆を諦めない心を燃やして。

 

『諦めないッ!!そう誓ったから!!』

 

別れの時、力を借り受けた時。

時は違えど、アストレイに誓った心を、今こそ示すためにも。

 

15人の心は、今一つになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そうだ、諦めるな―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那、彼等の脳裏に、温かく力強い声が響く。

 

一人ではない、7人の男女の声で、彼等の意志を鼓舞し、背を押す頼もしい声。

 

皆、振り向かずとも、確かに感じていた。

自分達の後ろで微笑む、師の笑顔と、その頼もしい意志を。

 

セシリアが、シャルロットが、宗吾が、玲奈が、コートニーが、リーカが、そして、一夏が。

 

幻なのだろうか、彼等以外には姿も見えねば、声も聞こえてはいないだろう。

 

だが、彼等は八幡達に寄り添い、関わりの深い者達の肩に手を置く。

 

俺達は君達と共にあると、その姿勢で伝えていた。

 

―――だから共に行こう―――

 

―――この世界を、護るために―――

 

ここからが反撃の時だ。

彼等の意志は、雄弁に物語っていた。

 

『はいっ!!』

 

皆が頷き、彼等の意識は目の前の戦場に戻る。

 

エタルガーの哄笑が響き、闇が蠢く戦場へと。

 

『無様もここまでだな・・・!』

 

ギンガビクトリーとXが立ち上がり、並び立つ。

 

最早、先程までの苦し気な様子は一切見られない。

ただ、闘気と覇気、そして勝つという強い意志。

 

『沙希、彩加!行けるよな!?』

 

『『勿論!!』』

 

八幡の呼びかけに、沙希と彩加は勇んで応じる。

これからだと、自分達はまだまだいけると。

 

その意志に、八幡もまた強く頷き返す。

 

仲間が、友が、そして何より掛け替えのない人が共に戦ってくれている。

ただそれだけで、彼が歩みを進めるには十分すぎるモノだったのだから。

 

彼等は決意と共に構えを取る。

これが、最後の激突だと!

 

『見てやるぜ!!』

 

『あたし達の!!』

 

『僕たちの!!』

 

『『『絆の力!!』』』

 

 

sideout




次回予告

偶然と言う名の奇跡の中で出会った若者達は、自らの運命のプレリュードを奏でていく

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのは間違っている

若人達は英雄だった 前編

お楽しみに

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