やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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最終回・若人達は走り出した

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「よっと・・・。」

 

エタルガーを倒し、驚異を払い除けた八幡達は変身を解き、人間の姿で地に降り立った。

 

時空城にて着けるべき決着を着けた者達もまた、それぞれに力を貸していたウルトラマン達と分離、八幡達に駆け寄ってくる。

 

「比企谷君・・・!俺達、勝ったんだな・・・!」

 

八幡達に真っ先に駆け寄ってきた大和が、飛び上がらんばかりにその勝利を喜んでいた。

 

初めての戦闘、それも途轍もないほどの強敵を相手にしての勝利だ、疲労も大きかっただろうが、それにしても勝る喜びに皆うち震えていたのだ。

 

「あぁ、勝ったんだよ、俺達皆で掴み取った未来への切符。」

 

彼等に向け、八幡は柔らかい笑みと共に自分達の勝利を、そして、自分達の師を救えた事を、何よりも喜んでいた。

 

「そうだね、本当に良かった。」

 

彼の言葉に頷きながらも、沙希は自分達の後ろを振り返った。

 

大和達は目線を上に、八幡と彩加は彼女と同じように振り返り、そこにいる者達に向き直った。

 

そこには、身長50mはあろうかという巨人、ウルトラマン達の姿があり、彼等を見下ろす様に佇んでいた。

 

8人いる全てのウルトラマン達は皆、彼等にとっての師であり、道を示してくれた者達であった。

 

すでに力を貸していた大和達から分離し、アストレイそれぞれの人格も目覚めたという事が分かった。

 

だが、人間としての姿に戻らずにいるため、ウルトラマンとして彼等若者達を見つめているという形だった。

 

「先生・・・!俺達と戦ってくれて、ありがとうございました・・・!!」

 

大和が一同を代表し、手を振りながらも感謝の声を上げる。

 

それに倣い、他の者達もまた口々に彼等への想いを叫んでいた。

 

ありがとう、お帰りなさい。

感謝と感激が、それぞれの言葉にはこれ以上無いほど籠められていた。

 

図らずも卒業式の日に起きた大事件、不謹慎な物言いである事は確かだろうが、彼等の門出を祝うために、アストレイが帰って来てくれたと、全てが済んだ後の彼等はそう思わずにはいられなかった。

 

それを、アストレイの者達が知る由も無かったが、そんなことなど今の彼等には関係なかった。

 

こんな特別な日に、喩えハプニングとはいっても、敬愛する師が自分達の前に帰ってきてくれた、それだけが全てだったのだ。

 

手を振り、感謝の言葉を叫ぶ若者達に、アストレイのウルトラマン達は静かに、だがそれ以上に慈しみと安心の感情を交え、満足げに頷いた。

 

『へへっ、よくやったぜお前ら、流石は一夏達が見込んだだけあるぜ。』

 

そんな彼等に、事の成り行きを静かに見守っていたゼロは、よくやったと惜しみ無い賛辞を贈った。

 

諦めず前を向き、幾度も限界を越えた彼等の強さ、それに応えるアストレイとの絆。

 

そこの括りにいないからこそ、それらが何よりも眩しく見えていたのだろう。

 

「ゼロさんも、あたし達を鍛えてくれて、ありがとうございました。」

 

その賛辞を素直に肖れぬか、沙希は擽ったい様な笑みを浮かべつつ、ゼロへの礼を口にする。

 

ゼロがいなければ、今頃どうなっていたことかと分かったものではないのだから。

 

『いいって事よ、お前らの絆が呼び込んだ勝利だ、もっと胸張れや。』

 

謙虚な事は良い事だが、ゼロからしてみればこの勝利の立役者は地球人である彼等のモノであり、自分はほんの少しだけ力を貸したようなものだと解っていたから。

 

だが、そんな彼等を好ましく思う辺り、自分も知らぬ間にアストレイに感化されていたのだと、彼は改めて感じたに違いない。

 

照れ笑いの様な、それでいて心底気持ちのいいと言わんばかりの笑みを浮かべるゼロに、彼の隣に立っていたティガは何処か慈しむ様な瞳で、自らの教え子達と弟分を見ていた。

 

若者達が種族を超えた絆を育み、嘗ては敵対していた者とも手を携えるという事、自分が出来なかった事を成し遂げた弟子達の成長が、彼にとっては最高の報酬だったのだ。

 

『で、お前からは何か言ってやらねぇのかよ?』

 

そのむず痒い感覚を逸らすために、ゼロはティガへと水を向ける。

 

何を思って、アストレイのメンバーが口を開かないのかは分からない。

だがせめて、師として何か言ってやれ、そう思わずにはいられなかったのだ。

 

『まだ約束の時じゃないんだ、こんだけやられてたら、俺達の立つ瀬がねぇ。』

 

暫しの沈黙の後、観念したようにティガ、一夏は少々照れが窺える声色で言葉を発する。

 

約束の時、それは八幡達がウルトラマンとして広大無辺の宇宙へと旅立った時、ウルトラマンとしての修練を積み、今よりも大きな存在となった時に、アストレイが超えるべき壁となって彼等と向かい合う時のことを言っているのだ。

 

まぁ百々のつまり、相手が厄介な存在だったとしてもあっさりと捕まり、尚且つ弟子に頼りっぱなしになってしまった。

これだけ醜態を晒しておきながら面と向かい合える筈も無いだろうと、言ってしまえば彼等のプライドの問題でもあるのだ。

 

それを悟ったゼロは、照れ隠し下手すぎるだろうと思わずにはいられなかったが、そういう事ならばと苦笑するに留めた。

 

もっと大きく成長した弟子達と、更に力を増した自分達が向き合うと言う、ある意味夢を彼等は求めている。

ならば、これ以上の口出しは野暮と、そう思う事にしておいた。

 

「先生・・・、俺達、今日が卒業の日なんです・・・。」

 

だが、アストレイのプライドを理解して尚、八幡は待ってくれと声を上げた。

 

今日は自分達にとって節目となる日、新しい未来へと踏み出す特別な日。

そんな日に偶然とはいえ、別れた師が自分達の世界にいる。

 

「だからせめて・・・、もう少しだけ俺達と・・・!!」

 

ならばせめて、今日という日の間だけでも、共にいさせてくれないかと。

 

話したい事、見せたいモノ、たくさん有り過ぎて一晩では語りつくせないほどある。

 

それだけ、アストレイの者達への想いは強かったのだ。

 

『そうか・・・、偶然とはいえ、これも運命か・・・。』

 

その事を知り、アストレイの面々は何処か苦笑するかの様な動きをした後、どうすると言わんばかりにティガを見る。

 

今までとなにも変わらない、アストレイの総意は一夏に在り、そう言いたいのだろう。

 

どうするか決めかねているのか、沈黙がしばらくの間続く。

 

『しかし、俺が言えるのはこれだけだ、またいつの日か、その時こそそれは成るさ。』

 

別れは前に済ませた、だから今度は湿っぽい感じにしてくれるなと言わんばかりに、一夏は努めて明るい声色で彼等に語り掛けた。

 

今日の借りは何時か必ず、違う形で返しに来る。

そういう意味での言葉だった。

 

それがアストレイとしての答え、先に進むと決めた者達の、少しだけ融通の利かない方針だった。

 

『それに、まだやらなくちゃならない事が残ってる、ここで立ち止まってる訳にもいかんのだよ。』

 

やるべき事が残っている、留まれない理由がそこにはあったのだ。

 

異邦の旅人である彼等に、止まっている時間など無かったのだ。

 

「わかり、ました・・・!」

 

ほんのわずかな時間も、今は共にいられない事を悟り、八幡は惜別の念を涙に滲ませながらも、その別れを受け入れた。

永久の別れではない、またいつか出逢うその日のためにも、二度目の別れは気持ちのいいものでなければならないのだと。

 

「またいつか、お元気で!!」

 

『あぁ、またな。』

 

手を振り、別れを惜しむ若者達に柔らかく笑み、彼等は再び旅に出る。

自分達の進むべき道に戻るために。

 

最後の別れの後、ウルトラマン達は遥か宇宙へと飛び立った。

 

そこに、嘗てほどの悲哀は無い。

何時かの未来、その時に誇れるために歩んでいく、その想いが、彼等の表情を輝かせていたのだった・・・。

 

sideout

 

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エタルガーとの決戦から十年・・・。

世界は、嘗ての様な平穏を取り戻しつつあった。

 

「えー、皆さんご入学、おめでとうございます。」

 

総武高の教室において、新入生に向けたオリエンテーションが行われていた。

 

新入生たちは皆、緊張と期待、様々な感情をその顔に浮かべながらも、教壇に立つ男性教師に注視していた。

 

「今日から一年、君達のクラスの担任になります、大和猛です。」

 

黒を基調としたスーツに身を包むのは、総武高校の卒業生、大和猛だった。

 

彼は総武高卒業後、大学にて教育課程を修めて卒業した後、母校の総武高校に数学の教師として赴任、数年目の勤務で初めての担任の仕事に就いたのだ。

 

数学の教師になったのは、一重にある人物の影響が強かった。

 

「皆、正直今不安の方が大きいと思う、何も分からない中で学ぶことは辛い事も多いはずだ。」

 

大和自身、自分が分からなかった事もある。

 

はじめの一歩を間違い、そのまま要らないコンプレックスを拗らせて大きな罪を犯してしまった事もあった。

 

十数年経った今も忘れる事のない、彼自身が抱く、昏い想いそのものだった。

 

「でも、何もそれは恥ずかしがる事でも無いし、何なら誰かと相談し合っても良いぐらいなんだ。」

 

だが、彼がその経験で得たのは何も苦いものばかりではない。

 

そこで出会った友、恩師の存在。

今の彼をこの道に進むきっかけをくれた者達との出会いもあった。

 

一生に続く友というモノを得た事は、彼の一生の財産そのものだった。

 

「だから、苦しかったら誰でもいい、吐き出してくれ、先生がダメならクラスメイトに、クラスメイトには話しづらいなら先生に話してくれ、君たちは一人じゃない、一人なんかじゃない、覚えていてくれ。」

 

間違いは誰にだってある。

だが、そこから更に奥に行っては罪になる。

 

その手前で踏みとどまれるようになってほしいと、大和は願わずにはいられなかった。

 

その間違いが、彼が嘗て見た迫害の種となるのだから・・・。

 

果たして、彼の言葉をどれだけの者達が理解できただろうか。

だが、それでも頭の片隅程度には残しておいてくれと、大和は心の中で呟くに留めた。

 

「以上、今日のオリエンテーションは終わりだ、明日からもよろしく。」

 

チャイムが鳴ると同時に、彼はオリエンテーションを切り上げ、生徒たちを見送りながらも職員室へと自分も帰っていく。

 

その途中で、彼の携帯に着信が入る。

どうやらメールの様で、彼は周囲に人がいない事を一旦確認し、その文面に目を通す。

 

「そっか、もうそんな時期か・・・。」

 

その内容に小さく笑みを零し、返信の文をしたためる。

 

そのメールを返信し、彼は携帯を懐に戻し、先程よりも僅かに急ぎ気味のペースで道を行く。

 

意地でも早く仕事を切り上げ、彼等に会いに行こうと、そんな笑顔で・・・。

 

sideout

 

side八幡

 

「大和からの返事は帰ってきたぜ、嫁さんと来るってよ。」

 

大和からのメールの返信があった事を一緒に働いている沙希に伝える。

 

俺から少し離れた場所で、見慣れた青みあったポニーテールが揺れる。

 

「ホント?今の時期忙しいはずだけど、来るんだね。」

 

テーブルを拭いていた手を止め、沙希が少し驚いたと言わんばかりの表情でこっちを見てくる。

 

彼女の言う通り、大和は高校で教師をしてて、今は新入生のアレコレでかなり忙しい筈だ。

 

それなのに来てくれるという事は相当に無茶をしてくれているんだろう。

 

本当に義理堅い奴だよ。

でもまぁ、昔からそういう手合いだと、この十年の付き合いで分かった部分もある。

 

そう、十年も経った。

正確には十一年、俺達の付き合いは続いている。

 

「ま、今日は貸し切りだし、表の看板片してくるよ。」

 

「お願いするよ。」

 

沙希と短く言葉を交わし、俺は店の戸を開けて、表にかかっていた〈OPEN〉の掛札を裏返し、〈CLOSE〉へとかけ替える。

 

そう、俺と沙希は今、ある店を共に切り盛りしている。

 

高校卒業後も俺達は交際を続け、大学を卒業と同時に結婚した。

 

まぁそこは滅茶苦茶大事な事ではあるけど、惚気話で長くなるから今は割愛させてもらおうか。

 

ある店、それは嘗て、ウルトラマンのアジトであり、俺達が最も尊敬した人たちの家、アストレイである。

 

十一年前、先生達がこの世界を離れる際、どういう訳か俺の親父を後見人に、俺が二十歳になった時に店の所有権とアストレイの地球での財産を譲渡するという形で、俺がこの店の主となった。

 

いや、いつの間に親父たちと接触してたとか、税金どうしたのかとか純粋に気になる所ではあるんだけど、それについて親父に聞いてみたら話せないの一点張りで、結局真相は闇の中という事だ。

 

まぁ、自分がオーナーとして動く立場になるんだと、在学中から漠然と考えてはいた。

営業形態はどうするとか、品はどうするかとか、正直今もその辺の悩みは尽きないけど、やると決めたからにはやるだけだった。

 

そのために経営とか色々勉強したし、バイトもバーと喫茶店掛け持ったりしてスキルは身に着けてきた。

 

で、大学を卒業と同時にこの店を、嘗てのアストレイと同じ形態で運営していく事になった。

まぁ、最初の一年は本当にしんどかったけど、今はある程度常連さんも来てくれてるから、何とかなってるってだけだけどな。

 

「皆と会うのも、本当に久しぶりだね。」

 

「そうだな、最後に皆で集まったのも確か、大学を卒業する直前だったもんな。」

 

何処か感慨深げに呟く先の言葉に、俺は今日ここに来るであろう、アストレイ所縁の者達、俺達の友に想いを馳せる。

 

大和とその嫁さんになった相模は俺と同じ大学に通い、教育の道からアストレイの心を説く事を信条に、大和は高校の数学教師、相模は小学校の教師になった。

今でも時々、仕事がない日はここに訪ねて来てくれて、色々語らったりしている仲だ。

 

戸部は俺達とは別の大学に進学して以来、そこまで交流を深められた方ではないが、今は地方で公務員をやってるらしい。

で、海老名は在宅ワークでデザインの仕事をやっていて、たまにうちで作ってるケーキの郵送を頼んでくる。

詳しくは沙希の方が知ってるだろうけど、この二人も同棲の期間はそこそこ長めで、結婚も秒読みってとこらしい。

 

雪ノ下と葉山は、家の関係上それなりにうまくやっているらしく、今は二人して海外勤務らしい。

 

お姉さんの方は本家の仕事を回してるらしく、時たまここに茶を飲みに来る。

なんかもう近所のおばちゃんみたいに、俺と沙希との関係やら他の面々の噂話を持ってくるもんで、本当に何しに来てたのか分からない時期があった。

 

まぁ、時々平塚センセイを連れて飲みに来てくれる、大事な客であることに変わりはないし、一時の事もあって戦友みたいな関係だから来てくれても全然いいんだけどね。

 

由比ガ浜は、幼稚園の先生をやってるらしく、それなりに忙しいとオフの日にここに来ては、喧しく話して帰っていくを繰り返していた。

忙しない奴だと思いながらも、なんだかんだあの時の当事者と話せているのは少し嬉しくはある。

 

沙希がジェラシーするから、あんま表立って言えないけどな。

 

それはまぁいいとして、次は身内の話をするとしよう。

 

義弟である大志は、二年ほど前に高校からの付き合いである三浦優美子と結婚し、今は俺達夫婦と共にこの喫茶店を運営している。

 

この二人もまぁ互いにぞっこんである事に間違いはなく、気が付けばイチャついているんだなこれが。

 

まさかあの煉獄の女王と言われてた女が義理の妹になるとは、ボッチ時代の俺なら想像できなかったに違いねぇ。

さっきも買い出しに共に出た切り、かれこれ一時間以上は帰って来ていない。

まったくお幸せなこって。

 

人の縁とは、不可思議でおかしなものだ。

だが嫌いじゃない、これも俺達が勝ち取った未来の一つなんだから。

 

で、俺の妹の小町は、俺と沙希の親友にして恩人でもある彩加と三年前に結婚した。

 

結婚までの一年半はこの店を手伝いながら資金を貯めていたらしく、今は彩加と共に世界の隅々を見て回る旅に出ている。

時々二人、若しくはそれぞれが写った写真と共に、現地の風景や建造物、それから星空や虹を被写体にした写真も送られてくる。

身内びいきかもしれんが本当にいい写真が多くて、拡大した写真を店の中に飾っているぐらいだ。

 

旅人になるとは思いもしなかったけど、それでも彼らが何かを求め流離う様子は、中々に心惹かれるものがある。

 

まぁ喫茶店のマスターになって、この街を見守るのも存外悪くは無いけどな。

 

で、バラバラに今を生きている俺達なわけだけど、今日は同窓会的な形で集まろうという事になった。

 

十年前の戦いから、この世界に怪獣が現れる事はめっきり少なくなった。

たまに別世界に呼ばれて戦い、そこにいた様々な戦士達と交流を持ったけど、まだ彼等には一度も会えていない。

 

まだ、時期じゃない。

そういうことなんだろう。

 

「彩加達ももうすぐで来るみたいだな、そろそろしあげちまおう。」

 

彩加からメールが入って、たまたま同じ便で雪ノ下と葉山と帰ってきたから、4人でこっちに向かうとのことだ。

 

戸部達も間もなくこちらに到着するとの連絡が今届いた。

この街にいる奴らもそろそろ来る頃だ、準備をしておかねばなるまい。

 

それにしても、こうも示し合わせたかのように、皆が同じ時間帯に来るのって、何かの偶然にしちゃ出来すぎてる気もしなくはないけど、気にしてたら切りがない。

 

食事や飲み物のある程度は準備しておいた、あとは買い出しから帰ってくる大志達の帰りを待って仕上げを・・・。

 

そう考え、沙希と一緒に動こうとした時だった。

唐突に店のドアが開かれ、誰かが入ってくるような足音が聞こえる。

 

「あ・・・。」

 

入り口に目をやると、白いローブを羽織った一人の男性がそこに立っていた。

深くローブを被っているからか、人相はハッキリとは分からない。

だけど、何処か優し気で、陰のある様な雰囲気だけは、解る様な気がした。

 

「い、いらっしゃいませ、けど、すみません・・・、これから貸し切りの予約が入ってて・・・。」

 

とは言え、今日はこれから大事な予定がある。

折角のお客さんではあるが、お引き取り願う以外に無かった。

 

「良い雰囲気だ、昔と何も変わらない、君達も。」

 

「「っ・・・!」」

 

その声は、それにその言葉は・・・!

 

「あ、あなたは・・・!?」

 

まさか、そんな筈はない・・・、でも、この懐かしく温かい感じは・・・!!

 

「幸せにな、俺達は何時でも待っているぞ。」

 

「待っ・・・!」

 

彼の笑みが見えたと思ったその瞬間に、視界を白く染め上げんばかりの光が瞬く。

 

その光が晴れ、視界が元に戻った時には、既に彼の姿はそこには無かった。

 

代わりにあったのは、テーブルの上に置かれた紫の花が中心となった花束だった。

 

呆気に取られていた俺と沙希だったが、咄嗟に店の外に飛び出し、辺りを見渡す。

 

そこにも彼の姿は無く、幻だったのかと思ってしまう。

 

だけど、そこに確かにあった温もりは、形となって俺達の手元にあった。

 

「花・・・、これは紫苑・・・?」

 

俺の手に握られた花束の中にセットされた花の種類を見て、沙希が小さく呟いた。

 

確かに紫苑の花と、それから紫蘭にラベンダー。

 

どれも花束にして贈る向けの花ではない。

しかし、彼等がすることには意図がある、それだけは確かだった。

 

「紫苑の花言葉は、あなたを忘れない、か・・・。」

 

紫苑、紫苑、そしてラベンダーに共通する花言葉、それは≪あなたを忘れない≫と言うこと。

 

追憶や変わらぬ愛、そして期待と、二つ目以降の意味合いは僅かに違うだけで、忘れずにいる、待っていると言う想いが、溢れんばかりに詰まっていた。

 

「それぐらい、面と向かって言ってくれれば良いのに・・・。」

 

尊大な癖に、何処か照れ屋な性格が出たんだ。

それが少し可笑しくて、俺と沙希は顔を見合わせて笑いあい、涙を一筋だけ零す。

 

俺達がどれだけ歳を取っても、どれだけ後に旅に出ようとも、あの人達は俺達をずっと思っていてくれるんだって、心に届いたのだから。

 

「でも、ちゃんと受けとりました、あなた達の想い。」

 

何時になるかは分からない、だけど、必ず何時か追い付くために、歩き続けて行く。

 

この温もりを持つ、大切な人達と共に。

 

「行こう、沙希。」

 

「うん。」

 

あの時、俺は青春とは欺瞞であると謂った。

 

でもそれは違う。

欺瞞も、喜悦も、悲哀も、様々な物が入り交じった、煌めきなのだと、今の俺なら謂える。

 

だから、どれだけの時間が経っても、何時か別れる時が来ても、あの一瞬の熱は永遠に褪める事は無いだろう。

 

俺の青春にウルトラマンがいたことは間違ってなんかいなかった。

 

これまでも、そして、これからも・・・。

 

 

 

 

          ~完~




どうもです

丸四年に渡り連載させていただきました本小説も、ついに完結を迎えました。

色々と評価も分かれる作品ではあると思いますが、新しい主人公、前作主人公を絡めて書けた楽しみは一入でした。

これから新しい小説を書くかは未定ですが、見掛けたら何卒よろしくお願いいたします。

そして、四年間の応援と温かい感想の数々、本当にありがとうございました。

それでは、また何時の日か~

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