やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
side沙希
「それじゃあ行ってくるね、カレー温めて食べといてね。」
アストレイでのバイトがある日の夕方、あたしは私服に着替えて支度を進めていた。
もうバイトを始めて二か月近くになるけど、慣れれば早いモノだ、予備校や家の夕ご飯作りもそつなくこなせるようになっている。
とはいえ、それも心にゆとりがあるからだと思うと、ちょっと前のあたしが恥ずかしく思えちゃうよ。
「うん、分かってるって、俺達なら大丈夫だよ、もうすぐ父さんと母さんも帰ってくるしね。」
見送りに来た大志が呆れた様に言うのを、あたしは何とも言えない心地で聴いていた。
弟の姉離れと言うのか、それともあんまり大事に思われてないって事なんだろうか。
あれ、なんか言ってて悲しくなってきた・・・、違うよね、そんな事ないよね・・・?
「あの店の人達って織斑先生の家族なんでしょ?だったら信じても良いよ、じゃないと、姉ちゃんを今でも護ってくれないって。」
ぐぬぬ・・・、この弟、もう傷も気にならないぐらいに調子が戻ってる・・・!!
ちょっと前まで包帯取れなかったって言うのに、もう怪我する前よりもこっちの思考を読み切っているなんてね・・・。
まぁ、それはそれだ、ギンガを許すつもりは今のところ毛頭も無い。
って、話が逸れたね。
遅刻しそうな時間だし、早く行かないと。
「じ、じゃあ行ってくるから!!」
「うん、いってらっしゃい。」
軽くあしらわれた気もするけど、それにどうこう文句付けてる時間も無いから、さっさと家を出て通い慣れた道を歩く。
夜の闇もすぐそこまで迫って来てる時間帯で、辺りを見渡せば部活帰りの学生がチラホラ見受けられる。
彼等は隣を歩く(表面的にはそう思っているだろう)友人と談笑しながら帰路に就いていた。
あたし個人、部活なんてやった事も無いし、そんな余裕も無かった。
とはいえ、集団生活の中の更にキツイ集団にボッチのあたしが馴染めよう筈も無い。
なんせ、迫害され続けて来たんだ、纏まれって言ったって、結局は纏まるための矛先がこちらに向くしかないのは見え見えだ。
だから、あたしは必然的に独りになったし、それで良いとさえ思っていた。
とはいえ、最近では仲がいいって言える位の付き合いが在る奴は、二人いる。
その内の一人は何処までも純粋で可愛い男の子。
もう一人は、昏くて寂しそうな目をした、本当は優しい男。
そんな二人があたしから離れようとしないんだ、誰も寄せ付けないふりして、心の底では分かり合える相手を求めてたあたしも、彼等から離れたいなんて全く思わなくなっていた。
だから、あたしも二人には真摯でいたいと思う。
それ以上に、二人に危害が及ばない様に戦うつもりでもいる。
この身の全てを賭けてでも、護りたいと思えたから。
とは言っても、このまま我流で戦い続けるのもどうなのかな・・・?
戦い方にもいろいろあるだろうしさ。
いい加減、しっかりと織斑先生と話し合ってみるかな。
あの人、多分ウルトラマンの事に詳しいだろうしさ。
なんせ、あのカラス頭とやり合って勝ったんだ、普通の人間って言う方が不自然に過ぎるよ。
「ま、アストレイに行けば会えるよね、あの人、毎日飲んでるし。」
アストレイでバイトしていれば、先生と会う事も必然的に増える。
話を聞く機会なんて幾らでもあるんだ。
でも、あたしがバイトしてる時も、先生は誰が見てもおかしい量の酒を一度に呑む。
しかも、それで控えてるって言われた時は引いた。
どんな肝臓してるんだろうね、ホント・・・。
ま、それは良いや。
取り敢えずは、先を急がないと・・・。
そう思った矢先だった、あたしの前を黒い何かが横切った。
それは頭まで真っ黒なローブを羽織っていて、人相は窺えなかったけど、纏う雰囲気だけで良くない奴だと分かった。
そして、あたしはソイツに会った事が有る、しかもつい最近だ!!
「コルネイユ!!」
『あぁ?貴様、ビクトリーか・・・?』
チッ・・・、やっぱり、あたしの正体もばれてるか!!
だけど、構うもんか、やるべき事を果たす、それだけだ!!
『貴様に構っている暇は無い!コイツの相手でもしていろぉ!!』
奴は鬱陶しそうに表情を歪めた直後、懐から怪獣の姿を模った人形を取り出し、黒い短刀の様なもので読み込ませた。
『ダークライブ!ネオジオモス!!』
「なにっ・・・!?」
怪獣になる事なく、怪獣を召喚した・・・!?
そんな使い方もあるのか・・・!!
『あばよ!コイツには勝てねぇだろうがなぁ!!』
「くっ・・・!!」
追い駆けたい所だけど、こっちを放っておくわけにはいかない・・・!!
「行くしかないか・・・!!」
ビクトリーランサーを取り出し、ビクトリーのスパークドールズを召喚、そのまま読み込ませて変身する。
『ウルトライブ!ウルトラマンビクトリー!!』
『ディヤッ!!』
ビクトリーに変身したあたしは、構えを取って一気に怪獣との距離を詰める。
ソイツはあたしを見るや否や、大きく吠えてこっちに向かってくる。
『ドリャァッ!!』
大きく飛び上がってそいつの顔面を殴りつけるけど、ソイツは怯む事無く吠え、あたしを殴り飛ばす。
凄い力だ・・・!ビクトリーの身体が飛ばされるなんて・・・!!
だけど・・・!!
『くっ・・・!これならっ!!』
後方に飛びつつ、ビクトリウムバーンを放つ。
足止めぐらいにはなるだろうし、そこから一気に畳み掛ければこちらのモノだ。
頭部より放たれた光線は、そのまま怪獣に直撃すると思われた。
だが・・・。
怪獣の手前の空間が歪み、光線がかき消されるように霧散した。
『なっ・・・!?バリア・・・!?』
まさか、ゲームとかで見た様な防御をされるとは思わなかった・・・!!
地面に着地し、光線を無効化された驚愕で動けないあたしを倒すつもりか、怪獣は真っ直ぐこっちに向かってくる。
しかも、頭部から赤い破壊光線を撃ち掛けてくる。
『くぅっ・・・!?』
なんとか咄嗟に避けるけど、それは背後のビルに直撃し、盛大な爆発光と共にビルを爆散させた。
なんて奴だ、今までの怪獣なんて比べ物になりやしない・・・!!
パワーも強い上に光線まで無効化されてるんじゃ・・・、迂闊に近付いても、ましてや離れても勝ち目が薄い・・・!
でも、逃げてなんていられない、あたしには護りたい人達がいる。
誰よりも大切な人が!!
『うぉぉぉぉ!!』
地面を殴って立ち上がりあたしはもう一度怪獣に飛び掛った。
絶対に逃げない、そう決めたから!
sideout
noside
『ガァァァっ!!』
その頃、アストレイの店先に転がされたコルネイユは、身体を襲うダメージに呻いていた。
沙希から逃れた後、その足でアストレイに出向き、アストレイメンバーが所有しているスパークドールズの数々と、メンバー達の命を奪おうとカチコミを掛けたのだった。
ウルトラマンたちが怪獣に気を取られている隙に本拠地へ一気に近付くという陽動作戦を、コルネイユは実行したのだ。
だが、結果はご覧のとおり、リーカに撃たれ、一夏に更に押し広げられた傷口を集中攻撃され、目的を達することが出来なかったのだ。
「甘いわねコルネイユ、アンタがここを知ってるのは百も承知、だったらアタシ等も何時戦っても良いように待ち構えてるっての。」
「それに怪獣が現れたんだ、俺達の目を逸らすつもりだったんだろうが、大袈裟過ぎたな、俺達はお前より永く、戦い続けて来たのさ。」
そう、一夏とその隣に立つ女性、神谷玲奈は、彼等の言葉通り、文字通り長きに渡って戦いに身を置いてきた人間だ。
そんな彼等にとって、相手の、特に直情的なコルネイユの思考を読む事など造作も無い事だった。
『グ、ガァァ・・・!!』
「さぁお客さん、お帰りはあちらですよっと!!」
呻きながら立ち上がるコルネイユに一気に近付き、玲奈は渾身の右ストレートを腹部に叩き込む。
それはミシリという嫌な音を立ててめり込み、コルネイユの身体を大きく吹っ飛ばした。
『がぁぁ・・・!!憶えてやがれぇぇ!!』
吹っ飛ばされる勢いを利用して、コルネイユは店の前の道路の反対側へ飛び、そのまま一目散に逃げて行った。
「見たかアタシの超ファインプレー!!」
「はいはい、いいからさっさと戦いに行け、ビクトリーの真意を知りたいんだろ?」
コルネイユを撃退したことを喜んでガッツポーズを取る玲奈を窘める様に、一夏は呆れた様に呟きつつ顎でビクトリーが戦っている市街地の外れを指した。
既に戦いが始まって数分が経過している上に強力な攻撃力と防御力を持つネオジオモスに手も足も出せず、カラータイマーが点滅していた。
「そういやそうだったわね、今助けるわよ、ビクトリー!!」
相棒の言葉に状況を思い出したか、彼女は懐から暗褐色のクリスタルのようなモノを取り出し、天に掲げる。
「ダイナーーー!!」
クリスタルの中央が上部へ展開し、その切っ先から眩いばかりの光があふれ出る。
その光に包まれ、彼女の身体は巨大化、トリコロールの体色をもつ巨人へと姿を変えた。
その巨人は、どんな時も決して逃げなかった、新たな光のウルトラマンだった。
sideout
side沙希
『あ、あれは・・・。』
あたしと怪獣の前に突如として現れた光の柱は、その姿を見た事の無いウルトラマンへと姿を変えた。
そのウルトラマンはあたしを護るように立ち塞がり、素早い動きで怪獣にパンチやキックを浴びせかけていた。
怪獣が怯んでいる隙に、あたしに近付き、カラータイマーから光のエネルギーを放出、ビクトリーのエネルギーを回復させてくれた。
『立ちなさい、ウルトラマンビクトリー、アンタもウルトラマンなら、護りたい人がいるんでしょ?』
差し出された手を取って立ち上がると、そのウルトラマンはあたしに戦う事の想いを問いかけてくる。
『あ、あの、あなたは・・・?』
ビクトリーの名前を知っている・・・?
どうやってそれを知ったの・・・?
『アタシはウルトラマンダイナ、またの名を、神谷玲奈とも言うわ。』
サムズアップしながら名乗る彼女の言葉に、あたしは今度こそ驚いた。
『れ、玲奈さん・・・!?』
まさか、アストレイのメンバーの人だったなんて・・・!!
そんなこと夢にも思わなかった・・・。
『貴女、もしかして沙希ちゃん・・・?』
あたしの言葉に、正体を見抜いたんだろうか、彼女はまさかと言わんばかりの声で尋ね返してきた。
知り合いがウルトラマンだって、普通は考えないだろうしね・・・。
『って、話は後にするわ、今は、アイツを倒すわよ!!』
『はい!!』
だけど、今は戦うべき時だ。
あたしは玲奈さんの言葉に頷いて構えを取る。
さて、援軍が来たのは良いけど、あの怪獣の防御をどうやって破れって言うんだ・・・。
こっちの攻撃も殆ど効かないのに?
『あの怪獣はネオジオモス、亜空間バリアーで光線を無効化できるけど、本体は然程頑丈じゃないわ。』
『で、でも、どうやって倒すんですか・・・?』
物理的な防御力が低いからって、攻撃を当てるのも一苦労なのに・・・?
『簡単よ、近付いてぶん殴る!以上!!』
『えぇっっ・・・!?』
そんな殺生な・・・!!
『下手に小手先の技に頼っても勝てないなら、身一つで挑んだ方がマシよ!!見ときなさい!!』
そう言うや否や、玲奈さんは前に出て両腕を胸の前でクロスした。
すると、ダイナの身体を光が包み、その姿を赤い戦士へと変えた。
『姿が変わった・・・!?』
『タイプチェンジよ、出来るウルトラマンと出来ないウルトラマンがいるけど、気にしなくていいわ。』
驚くあたしを尻目に、真っ赤なダイナは敵に向かって走って行く。
ネオジオモスは頭部から破壊光線を放つけど、ダイナはそれを意に介さないように走る。
直撃も有る筈なのに、全く怯まないなんて・・・、どんだけタフなの・・・!?
『でぇぇいやぁぁっ!!』
間合いに入ったダイナは、渾身の右ストレートを怪獣の腹部に叩き込む。
するとどうした、びくともしなかったネオジオモスが、まるで風に吹かれた紙切れの様にあっさり吹っ飛ばされた。
『えぇぇぇっ!?』
なんてパワーなの・・・!?
あんなの喰らったらまともじゃいられないって・・・!!
『この手の怪獣はね、真正面から殴れば勝てるのよ、作戦なんてまどろっこしい真似、アタシゃ苦手なのよね!』
『いやいやいや・・・、そんなレベルじゃないでしょぉ・・・。』
でも、攻撃が通じるって事は分かった、なら、防げない様にすればいい。
なるほど、簡単で良いね
『あたし達も、行くよ、ビクトリー!!』
構えをもう一度取って、あたしはネオジオモスに向けて走る。
フラフラになった怪獣は、苦し紛れに破壊光線を撃ってくるけど、もう怖れなんて無い!!
本当の戦いは、ここからなんだから!!
『ディヤッ!!』
尻尾の殴打を飛び上がって回避し、ビクトリウムスラッシュを纏わせた踵落としを脳天に叩き込む。
あたし自慢の脚力に、ネオジオモスは為すすべなく仰向けに倒れる。
その隙を逃さず、あたしは両足蹴りを腹部に叩き込み、意識を刈り取った。
さっきまで散々やられてたんだ、三倍返し位はさせてもらおうか!!
『ビクトリウムハリケーン!!』
気絶した様に動かなくなった奴を担ぎ上げ、あたしは身体を捻って上空へ投げ飛ばす大技、ビクトリウムハリケーンを繰り出す。
狙い通り怪獣の身体は上空高く舞い上がり、中々落ちて来なかった。
だけど、そこが狙い目だ。
『沙希ちゃん!!』
『はい!!』
玲奈さんの声に返しつつ、必殺光線の発射体勢に入る。
十八番とは言わないけど、これは効くよ!!
『ビクトリウムシュート!!』
『ガルネイドボンバー!!』
光線と火炎光弾が上空へと奔り、落ちて来ていたネオジオモスに狙い違わず直撃、内側から膨れ上がった後、盛大に爆散した。
青い光が収束し、スパークドールズへと還るのを見届け、あたしは玲奈さんと全く同時に変身を解き、人気のない場所へ降り立った。
「お疲れ様、まさか、沙希ちゃんがビクトリーだったなんてね、正直驚いたわ。」
困ったように笑いながらも、あたしを労ってくれる玲奈さんと向かい合う。
まぁ、知人がウルトラマンって言うのは中々に衝撃があると思うね。
「まぁ・・・、成り行きで・・・、それと、また助けてくれてありがとうございます、あたし一人じゃ、勝てませんでした・・・。」
玲奈さんに頭を下げつつも、あたしの胸中を占めるのは悔しさに他ならなかった。
自分では結局何も出来ず、助けられてばっかりで・・・。
ウルトラマンになって、強くなったつもりでいても、結局あたしは無力なままだ・・・。
「ん、でも負けなかったから良いじゃない。」
「えっ・・・?」
あっさり放たれた言葉に、あたしの口から間抜けな声が漏れた。
負けなかったら良い、意味は分かるけど、理由が分からないね・・・?
「何度転がされたって、何度負けたって、人間は何度でも立ち上がれるわ、一人じゃ無理でも、誰かに支えて貰う事で何度だって立ち上がれる、ウルトラマンだってそうよ。」
「何度でも、立ち上がる・・・。」
玲奈さんの言葉を反芻させる様に、あたしは小さく呟いていた。
誰かからの助け何て、期待できなかった。
だけど、そんなあたしでも傍にいてくれる人達はいる、助けてくれた人たちもいる。
独りで崩れそうだった時、確かにあたしは支えて貰ってたんだね・・・。
「誰かを、大切な人を信じて、何が有っても絶対に諦めなかったら、きっと今みたいに何かが変わる筈よ、八幡君が貴女を助けてくれた時みたいにね、それがウルトラマンとしての力にもなるわ。」
「絶対に諦めない・・・、それが、ウルトラマン・・・。」
ウルトラマンとして、川崎沙希として、あたしがどうあるべきか・・・。
改めて教えられた、そんな気がするよ。
だったら、護りたい人達の為に、諦めず進んでみようじゃないか。
それが、きっと未来を掴むと信じて。
「切り拓く力、我武者羅に前に進む力、それが必要なら、アタシの力を使ってよ、他の皆もそうするはずだしね。」
そう言いつつ、手に持ったクリスタルの様なものを掲げ、光をあたしが持つビクトリーランサーに向けて放つ。
その光は温かく、それでいて力強さを持ていたそれは、ビクトリーランサーを包んで一体化した。
「じゃ、そういう事で!今日のバイトは休んでいいからね、給料は出す様に言っとくから。」
玲奈さんはそう言うや否や背を向けて、アストレイがある方向へと歩いて行ってしまった。
それを追う事も出来ず、あたしは立ち竦む。
頭の中で繰り返し反芻される言葉に、思考を奪われていた。
「切り拓く力・・・、前に進むための力、か・・・。」
光と一体化したビクトリーランサーを見つつ、あたしは呆然と呟いていた。
これは、センパイがあたしを信じてくれたってことなんだろうね・・・。
大切な人達を護るための力を与えてくれたって事か・・・。
「この力で、真っ直ぐ進んでみます、大切な人達を護るために。」
その信頼を裏切らないためにも、あたしは進もうじゃないか。
それがウルトラマンの進むべき道だと信じて・・・。
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次回予告
哀しむたびに、苦しむたびに、命の雄叫が心のマグマを呼び覚ます。
昔も今も変わらぬ想いは、生まれた時から掴んでいた。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのは間違っている
戸塚彩加は大地と共に立つ
お楽しみに