やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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三人は絶望を知る

noside

 

「あれは、ウルトラマンギンガ・・・!!」

 

夕暮れも間近に迫った刻、屋上に上がった彩加の目に飛び込んで来たのは、夕日を背にして立つギンガの姿だった。

 

身体の各所に光る水色に輝くクリスタルは夕日の中でもその存在を確立し、夕焼けに映えた姿となっていた。

 

『何故だ・・・?怪獣は出て来てないぞ・・・!?』

 

だが、意味が分からないと言う様に呟くXの言葉通り、目の前に聳えるギンガ以外に何もなかった。

 

だからこそ分からないのだろう、何故何も無しにギンガが現れたのか、その理由に合点が行かなかった。

 

「えっ・・・!?」

 

その直後だった、ギンガの手前100M程の場所に、新たにウルトラマンビクトリーがその姿を現した。

 

此方も警戒色である黄色に輝くクリスタルが夕闇の中で自己主張し、その存在を強く示していた。

 

『ビクトリー・・・!?まさか・・・、あの二人・・・!?』

 

その光景から、その先に待つものを予測したのだろう、Xが声を上げた。

 

彩加も、Xの言葉でその意味に合点が行った。

あの二人は、今まさに死合うつもりなのだと・・・。

 

「彩加君・・・!」

 

驚愕に硬直する彩加の背後から、一夏が血相を変えて走ってくる。

 

「先生・・・!?」

 

「頼む!彼等を止めてくれ!!あの二人を戦わせちゃいけないんだ!!」

 

切羽詰まった一夏の表情に気圧されつつ、彩加は考えを巡らせる。

 

何時も不敵かつ掴み処のない笑みを浮かべ続ける彼が、その普段を微塵も見せない姿が、彩加の脳裏に嫌な予感が膨れ上がって行く。

 

このまま、静観している訳にはいかない、無意識に彩加の身体は動いていた。

 

「分かりました、行くよX!!」

 

『おう!ユナイトだ!!』

 

一夏に頷いた彩加は、ウルトラマンと融合した事で跳ね上がった身体能力で転落防止柵を軽々飛び越え、エクスデバイザーを展開した。

 

『エックスーーーッ!!』

 

『≪エックス、ユナイテッド!!≫』

 

ウルトラマンとなった彼は、ギンガとビクトリーの間に割り込む様に降り立った。

 

『なっ・・・!?X・・・!?』

 

『何しに来たんだ・・・!?』

 

一触即発だった所に割り込まれれば困惑も、苛立ちもするだろう、ギンガとビクトリーはXに詰め寄ろうとした。

 

『ウルトラマン同士で争わないで!』

 

『君達の間に在る理由は分からない、だが、我々が争うべきでは無い!!』

 

だが、二人を制止するように、Xは腕を広げ、二人を押し留めようとした。

 

戦うべきでは無い、彼の言葉に嘘偽りはない、だが、それは彼が抱くだけのモノだ。

 

『知ったこっちゃねぇ、コイツを倒すまで俺は戦いをやめるつもりなんて無い。』

 

『同感だね、あたしの戦いに口出すんじゃない、部外者が・・・!』

 

この二人に在る溝は、Xが広げる腕よりも広く、ウルトラマンの身長よりも高さと深さがある物だった。

 

『それでも止める!今の状況を利用されないためにも!!』

 

二人を相手取れる場所に立ち、Xはファインティングポーズを取る。

 

『やるつもりか・・・!!』

 

『分かった、ギンガのついでにアンタも倒す!!』

 

それに応じ、二体のウルトラマンも構えを取り、Xに向かって行った。

 

『シェアッ!!』

 

『ディヤッ!!』

 

『シィェアッ!!』

 

向かってくるギンガとビクトリーに対し、Xはギンガに向かって行き、先制パンチを見舞う。

 

『チッ・・・!嘗めるなッ!!』

 

なんとか受け止めるギンガだったが、Xの背後からビクトリーが姿を現し、蹴りを叩き込もうとした。

 

『貰った!!』

 

『彩加!!』

 

『うんっ!!』

 

ギンガから身を離し、回し蹴りでビクトリーの蹴りを相殺、ギンガとビクトリーの距離を引き離す。

 

『コイツっ・・・!!』

 

『強い・・・!?でも・・・!!』

 

ギンガとビクトリーには、その意図が何も言わずとも伝わって来ていた。

 

攻撃を当てない、当てさせない、それだけに徹していたのだ。

 

『彩加・・・!』

 

『分かってる!ここでこれ以上戦わせない!!』

 

Xの言葉に返す彩加の言葉には、決然たる意志が込められていた。

 

学校にも近い場所で戦い続ければ、彼の思う友にまで危害が及んでしまう。

それだけは、絶対に避けたい所だった。

 

『戦う気が無いなら、下がりな!!』

 

『同感だ!!どけよX!!』

 

その想いを、互いの知らぬギンガとビクトリーは、その嘗めきったような振る舞いに怒り心頭の様だ。

 

もういがみ合っている場合では無い、今倒すべきは、邪魔なXだ、と・・・。

 

二体のウルトラマンは共通の敵を見付けたと言わんばかりに向かって行く。

 

ギンガが先に殴り掛かり、それを避けた所にビクトリーが蹴りからの連撃を叩き込む。

 

皮肉な事に、共通の敵を見付けた二体は、いがみ合っていたのが嘘のように連携していた。

 

『くっ・・・!やめろぉ!!』

 

苦境に立たされた事で頭に血が昇ったのか、彩加は声を荒げながらも向かって行く。

 

先程までの、攻撃を当てさせない事で二人を引き離す様にする戦い方では無く、自分から攻撃するスタイルになっていた。

 

『彩加!!落ち着け!!君が熱くなってどうする・・・!!』

 

『うぉぉぉぉ!!』

 

Xの静止する言葉も聞かず、彩加はギンガとビクトリーに殴打や蹴り、それに加え、ハンドスラッシュの光線を撃ち掛ける。

 

それは、完全に体力や戦法をまるで考えない、身を砕く攻勢だった。

 

だが、その戦い方をしているのはギンガとビクトリーも同じだった。

 

怒りや憎しみを籠めた攻撃を互いに打ち合い、神経を擦り減らしていく。

 

その先に待ち受ける何かに、気付かぬままに・・・。

 

sideout

 

noside

 

「だめだ・・・!三人とももうやめろぉーー!!」

 

屋上で三人のウルトラマンの戦いの様子を見ていた一夏は、時間が経つにつれて悪化していく状況に歯がみした。

 

八幡と沙希が止まれないのは既に分かっていた。

 

ほんの少しの間違いから陥ってしまった、泥沼の敵対関係は、彼等の正体を知らぬが故に止まれないでいる。

 

だからこそ、外にいる彩加に制止を頼んだ。

 

彩加ならば、その優しさと強さで無意味な争いを止めてくれると感じていたから。

 

だが、その目論見も虚しく外れ、熱くなった彩加もギンガとビクトリーを攻撃していた。

 

これでは最早、誰にも止められないウルトラマン同士の抗争になってしまう。

 

その先に待つのは、光が底無しの闇に呑まれ、かき消される結末のみ。

そうなれば、一夏達の目的どころか、この世界が闇に沈んでしまうのだ。

 

それだけは、この世界の為にも、何よりも、八幡と沙希、そして彩加の為にも避けなければならない事態だった。

 

だが、一夏の声は、鳴り響く地響きにかき消されて消えていくばかりだった。

 

どれぐらいもどかしく、苦しい時間が続いた頃だっただろうか。

三体のウルトラマンのカラータイマーが赤く点滅し、残り時間が無い事を報せた。

 

もういい、もう十分だ・・・!

 

そう叫ぼうとした彼の言葉を遮る様に、突如として雷鳴が周囲に響き渡る。

 

「なに・・・!?」

 

その異様な光景に、彼は絶句した。

 

先程まで、美しい夕焼けが広がっていた空は暗雲に閉ざされていた。

 

無論、自然現象ではあるまい。

こんなにも一瞬で、天候が変わる事など有り得ないのだから。

 

それに気付いた三人のウルトラマンも、渦を巻く様にぽっかりと空に空いた巨大な穴を注視する。

 

まるで、異世界にでも繋がっていそうなそれは、この世のものと思えぬ不気味さと禍々しさを印象付けいた。

 

「あれは・・・、まさか・・・!?」

 

その様子に、彼は見覚えがあった。

 

嘗て、別の世界で戦っていた頃に一度だけ、コルネイユが同じ事をしていた記憶があったのだ。

 

そしてそれは、多くのウルトラマンが力を一つにせねば勝てぬほど、強烈な悪意を持っている事も、彼は知っていた。

 

「いかん・・・!三人とも逃げろ!!」

 

彼が警告を発するよりも早く、空に穿たれた穴より幾重もの光条が降り注ぎ、ウルトラマンたちを襲った。

 

『ウァっ・・・!?』

 

『ガっ・・・!?』

 

『あぁっ・・・!!』

 

あまりにも強烈な攻撃に、三体のウルトラマンは大きく吹き飛ばされ、地に倒れた。

 

「っ・・・!!」

 

その光景に、一夏は声にならない声で叫ぶ。

 

今の、心を一つにしていないどころか、協力できない彼等に勝ち目はない。

それが分かっているが故に、逃げろとしか言えないのだ。

 

『カーッカッカッカッ!!ウルトラマン如きが、今の俺様に勝てると思うなぁ!!』

 

そして、彼等を嘲笑う様に、地獄から舞い戻った悪魔はその姿を現わした。

 

頭部と胴体はファイヤーゴルザ、頭頂部から背中に広がる翼はメルバ、右腕はレイキュバス、左腕はガンQ、そして、下半身は超コッヴが変形合体した恐るべき怪獣、ファイブキングだった。

 

だが・・・。

 

「なん、だと・・・!?」

 

それは、彼が以前見たファイブキングと大きく異なっていた。

 

元々、ファイブキングは五体の怪獣が合体したため、各所にそれぞれの怪獣の持つ体色が入り、チグハグな印象を抱かせる風体をしてた。

 

だが、今、彼等の目の前に降り立ったそれは、まるでカラスの様に漆黒を全身に纏い、全てを呑み込む程の底無しの昏さを放っていた。

 

『俺様の最強の怪獣、ファイブキングコルネイユが相手をしてやるぜぇ!!』

 

ファイブキングコルネイユから不気味な声が響き、聞く者の肌を粟立たたせる。

 

『へっ・・・!上等だぜ・・・!!』

 

『邪魔すんじゃ、ないっ・・・!!』

 

『行くよ!!』

 

三人のウルトラマンは、身体に残された力を振り絞り、目の前に現れた脅威に立ち向かう。

 

『ウルトラマンメビウスの力よ!!』

 

『ウルトラマンダイナの力よ!!』

 

『ウルトラマンガイア、ロードします!』

 

先達より与えられた力を用い、彼等は構えを取る。

 

『メビュームシュートォ!!』

 

『ソルジェント光線!!』

 

『クァンタムストリーム!!』

 

三重の光線が迸り、黒い巨体に向かって行く。

それは、並の怪獣ならば跡形も無く消し飛ばせる程の威力を持っていた。

 

だが・・・。

 

『小賢しいわぁ!!』

 

ファイブキングは左腕に着いていた目玉を掲げ、光線を吸収してしまった。

 

『『『なっ・・・!?』』』

 

『アイツ、光線を吸収できるのか・・・!?』

 

驚愕に硬直する三人だったが、Xは冷静にそれを分析していた。

吸収できるという事は、その逆も然りと言う事にも、彼は合点が行っていた。

 

『コイツを、喰らえぇぇぇ!!』

 

エネルギーを増幅させた光線技を、コルネイユは三体のウルトラマンへ撃ち返した。

 

そのエネルギーの奔流は、ウルトラマン三体分の光線よりも更に強大なエネルギーを持ち、威力を余すところなくウルトラマンたちにぶつけた。

 

『うぁぁぁぁっ!!』

 

『あぁぁぁっ・・・!!』

 

『うわぁぁぁ・・・っ!!』

 

そのエネルギーの奔流に呑まれ、三体のウルトラマンは大きく吹き飛ばされ、変身を解かれながらも地に落ちた。

 

「八幡!沙希!!彩加ぁーーー!!」

 

その光景を目の当たりにした一夏は、身を乗り出しながらも教え子たちの名を叫んだ。

 

その声は、誰にも届く事無く消えていった。

闇に呑まれ、消えていく灯火の様に・・・。

 

sideout

 

noside

 

「あぁっ・・・!!」

 

「うっ・・・!!」

 

「っ・・・!!」

 

学校の校舎裏に運よく落ちた三人は、肉体に残るダメージに呻いていた。

 

殆どギンガやビクトリー、Xが肩代わりしてくれたとは言え、増幅された光線を受けて無事で入れる筈が無かった。

 

「くそっ・・・!コルネイユ・・・!!」

 

「あんな、強力な怪獣を持ってくるなんて・・・!!」

 

「どうやって戦えば・・・、・・・?」

 

痛みに呻きながらもなんとか立ち上がり、ファイブキングコルネイユを睨む三人だったが、一番最初に彩加が気付いてしまった。

 

「はち、まん・・・?沙希ちゃん・・・?

 

「「戸塚っ・・・!?え・・・?」」

 

恐る恐る話しかける彩加の言葉に弾かれた様に振り向いた八幡と沙希は、互いが隣に倒れていた事に気付いた。

 

「ま、さか・・・、川崎・・・?お前が・・・?」

 

「比企谷・・・、あんたが・・・?」

 

「そんな・・・、なんで・・・?」

 

三人は気付いてしまったのだ。

 

今ここに落ちて来たのは、ウルトラマンに変身していた者達だということ。

 

それはつまり、ここに居るのは、必然的にウルトラマンで在るという事になる。

 

「「「ウソだ・・・。」」」

 

目の前の光景が信じられないと言わんばかりに、三人は首を振っていた。

 

信じたくない、夢なら早く醒めてと言わんばかりに・・・。

 

「「「ウソだァァァァっ!!」」」

 

現実を受け入れられない三人の絶叫が、その周囲に木霊した。

 

これまで友だと想っていた者達が、敵だという現実を・・・。

 

sideout




次回予告

友だと想っていた者達の正体を知り、自暴自棄に陥る者、戦いから逃げる者、戦い続ける事で逃れようとする者、想いの形は違えど、苦しみは決して消えない。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

三人は間違いを知る

お楽しみに

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