やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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川崎沙希は想いに気づく

noside

 

『おぉっ・・・!!』

 

ネオスに変身した一夏は、ネオス自慢の素早い身のこなしで動き回り、ファイブキングコルネイユを翻弄する。

 

ウルトラマンネオス。

元は光の国、勇士司令部所属のウルトラマンであり、非常に高い戦闘能力を誇っている戦士である。

 

パワーは並だが、彼の真骨頂はその機敏さにあり、連撃を叩き込み、相手に反撃の隙を与えぬ戦法を得意としている。

 

『チィッ・・・!!ネオスの速さは、ファイブキングには相性が悪いなァ・・・!?だが、その力をお前がどこまで使えるかぁ!?』

 

だが、コルネイユの言う通り、今の一夏にとって、ネオスの力は所詮借り物でしかなく、彼が本来持っていた力とは僅かながら異なる部分もある。

 

それを一夏が気にしないと言えばウソになる。

 

速さとパワーのバランスが取れたウルトラマンだった一夏にとって、ネオスは相性抜群とはお世辞にも言えなかった。

 

『知ったこっちゃねぇな・・・!お前を倒すまで、俺は止まらねぇさ!!』

 

それが如何した事かと言わんばかりに、彼はスピーディーな攻撃でファイブキングに向かって行く。

 

確かに、ネオスとはお世辞にも相性はいいと言えない。

だが、今はそんな泣き言を言っている場合では無い。

 

『(俺があの二人を傷付けていたのなら、あの二人が戦わなくて済む様に、俺が戦えば良い・・・!それが、俺の責任だ・・・!!)』

 

死力を尽くして、この悪魔からこの世界を護り、自分の力不足で傷付けてしまった二人の教え子を、その心を救う事が、今の彼がするべき事だった。

 

だが、そんな事はコルネイユには全く関係の無い事だった。

ネオスの攻撃をレイキュバスシザースで往なしつつ、ガンQアイズでネオスの胴を攻撃する。

 

しかし、ネオスはそれを躱して後退、牽制技であるハンドスラッシュの連射を撃ち掛ける。

 

『カーッカッカッカ・・・!!ネオスとなっても、貴様は貴様のままだなぁ!!織斑一夏ァァ!!』

 

だが、それは織り込み済みだったようだ、超コッヴレッグより無数の光球を発射、ハンドスラッシュの連射を全て相殺した。

 

どうやら、一夏との戦い方は既に憶えているのだろう、その対応策に抜かりは無かった。

 

『それが如何したッ・・・!俺があの時のままだと思うなよッ・・・!!』

 

しかし、それは一夏も織り込み済みだ、突っ込みながらも腕をX字に組んで放つネオスの必殺光線、マグニウム光線を放つ。

 

その威力は凄まじく、戦いに巻き込まれて崩れかけていたビルが衝撃を受けて倒壊する。

 

『なにぃっ・・・!?』

 

それはファイブキングコルネイユの胴に突き刺さり、大きく吹き飛ばす、かに思えた。

 

『って、そんなわきゃねぇだろーがぁぁ!!』

 

ガンQアイズがその進路に割り込み、光線の全てを吸収してしまった。

 

『返すぜぇぇぇ!!』

 

『ッ・・・!!』

 

ガンQアイズより放たれた光条は真っ直ぐ突き進み、防御しようと構えるネオスに直撃するかと思われた。

 

『Xバリアウォール!!』

 

ファイブキングとネオスの間に割り込む様に現れたXが、バリアを展開してその光線を防ぐ。

 

『なにぃッ・・・!?え、Xゥゥゥッ・・・!?』

 

突然の乱入に取り乱すコルネイユの事を無視し、彩加は一夏の隣に並び立つ。

 

『彩加君・・・!X・・・!何故・・・!?』

 

一夏は彩加が現れた事に驚愕し、肩を掴んで問い質した。

 

出て来るなとは言ってはいない、だが、出て来れる状況ではないと思っていたのだ。

 

だからこそ、自分の仲間達に救援を求めろと言い置いてきたのだ、それを無視して、どうして出て来たのか、彼にはそれが理解出来なかった。

 

『僕に出来る事をしろ、でしたよね?八幡と沙希ちゃんを信じて戦う、それが僕のやるべき事ですよ!』

 

『ッ・・・!!』

 

だが、彩加はそんな彼に毅然と返した。

 

やるべき事は戦う事、そう迷いなく言い放ったのだ。

 

その真っ直ぐな言葉に、一夏は何も言えなくなった。

 

『分かった・・・!!だが、無理だけはするなよ・・・!必ずシャル達が駆けつけてくれる、それまで粘るんだ!!』

 

『はい!!』

 

だが、戦えるなら拒む理由は何処にも無い。

一夏は彩加に激を飛ばし、彩加もそれに答えて頷いた。

 

今やるべき事は一つ。

目の前に立つ悪魔を討ち倒す事、それだけだった。

 

『『行くぞぉぉぉッ!!』』

 

sideout

 

noside

 

「彩加君から連絡があったよ!!」

 

その頃、アストレイの店内では、彩加から連絡を受けたシャルロットが集まっていたメンバーに、連絡の内容を伝えていた。

 

「八幡君と沙希ちゃんが、お互いの正体を知ってしまったのか・・・!」

 

「最悪ね・・・!アタシがもっと早く伝えておけば・・・!!」

 

それを聞いた宗吾と玲奈は顔を顰め、一夏同様に自分達の不手際を悔いていた。

 

打ち明けるタイミングは幾らでもあった。

だが、彼等の関係を壊したくないというある種の親切心が、それを阻害してしまったのだ、悔しくないと言えばウソになる。

 

「そんな事言ってる場合じゃないよ・・・!!今は、コルネイユを止めないと・・・!!」

 

「そうね・・・!私達がやらないと・・・!」

 

だが、そんなセンチメンタルに浸っていられる程状況は甘くは無いのも確かだった。

 

シャルロットとリーカは変身アイテムを手に、店の外へと飛び出そうとした。

 

今戦えるのは自分達だけ。

今にも消えそうな命の灯火を無視する事など出来なかった。

 

故に、ウルトラマンの力が戻った二人は自分達が出なければと、ある種の焦りを抱えていたのだ。

 

「待て、さっき外を確認してきたが、ネオスとXが黒いファイブキングを食い止めていた。」

 

「彩加さんと、恐らくは一夏様が戦っておられるのでしょう、まだ、手を出すには早すぎますわね。」

 

だが、それは外から戻ってきたコートニーとセシリアの言葉で遮られる。

 

今は行くべきではない、彼等はきっぱりと言い放ったのだ。

 

「彩加くんからの話だと、八幡君と沙希ちゃんは今、絶望の淵にいるだろう、この世界のためにも、彼等を見捨てておく訳にはいかないな。」

 

コートニーの言い分はこうだ。

これから先、自分達が手助けできる機会が少ない事を見越して、ここで八幡と沙希の再起を図らなければ戦っていけないと感じていた。

 

だからこそ、セシリアと話をし、今自分達がすべき事を見極めていたのだ

 

「私達がすべき事は、確かに敵を倒す事です、ですが、大人として、ウルトラマンとしてすべき事もあります、あの三人を導く事、それが今、私達の役割ではありませんか?」

 

コートニーの言葉を引き継いで話すセシリアの言葉に、メンバーの目の色が変わった。

 

らしくない、焦りに目が曇って大事な事を忘れていたと・・・。

 

「そうだよね・・・!忘れてたよ!!」

 

失念していたと言う様に叫ぶシャルロットに続く様に、メンバー達が頷く。

 

「一夏なら心配ない、アイツは何度だって立ち上がって来た、俺は一夏が信じる、八幡君に賭けてみる。」

 

コートニーは自分が信じる一夏が、今その身を賭してでも護ろうとする者を信じる事にしたようだ。

 

バイクのキーを手に取り、彼は店の外へ向かった。

 

その先には、彼等が移動手段として使われているバイクを取りに行こうとしたのだろう。

 

「気を付けてね!」

 

「あぁ、そっちも頼むぞ。」

 

見送るリーカに手を振り返して、コートニーは店から出て行った。

 

それを見た他のメンバーも互いに顔を見合わせ、頷き合った。

 

「さっ!アタシ等も行くわよ!」

 

『応!!』

 

玲奈の音頭に従い、メンバー達は自分達の出来る事を為すべく、その歩みを始めた。

 

昔から何も変わらない、その心に従って・・・。

 

sideout

 

side沙希

 

どうして・・・、どうしてなの・・・?

 

ふらふらと、あたしは逃げ惑う住民の列から離れた所を彷徨う様に歩いていた。

 

周りの人たちは、生き延びようと必死に、恐怖に引き攣った表情で必死に怪物から逃げている。

 

強大な力の前に、ちっぽけな力しか持たない人間は非力で無力、以前にもあたしは、目の前で大切な家族を失いかけたから、それは骨身にしみて分かっている。

 

だから、ウルトラマンの力を手に入れて、あたしは自分が護りたいと思った全てを護りたいと思った。

 

でも、その力は、護りたいと思っていた人達を傷付ける事しか出来なかった。

 

「どうしてなの・・・?比企谷・・・、戸塚・・・。」

 

どうして、どうしてあたしがあの二人を傷付けなくちゃいけなかったの・・・?

 

なんで、あの二人が・・・?

 

「また・・・、裏切られたって言うの・・・?」

 

あの二人なら裏切られないって言う期待を抱いたのが、そもそもの間違いだったって言うの・・・?

 

なら、あたしは、これから何を信じたらいいの・・・?

 

土砂降りの雨の中を、傘も差さないで歩いている様な、そんな心地のまま、あたしは脚を引き摺るように歩いて、何かから逃げようとしていた。

 

その何かは、さっぱり分からなかったけど・・・。

 

「あっ・・・!姉ちゃん!!何してんのさ!?」

 

訳も無く彷徨っていたあたしに、前から走って来た大志の声が届く。

 

「大志・・・?」

 

「なっ、なんて顔してんだよ・・・!?まさか、何処か怪我でも・・・!?」

 

よっぽど酷い顔でもしてたのかな・・・?

大志があたしの顔を覗き込んで、あたしの事を心配してくる。

 

なんて顔してるのさ・・・、あんたの方こそ危ないって言うのに・・・?

 

「大丈夫・・・、大丈夫だよ・・・、それより、早く逃げな・・・、ここも、すぐに危なくなって・・・。」

 

「どの面下げてそんな事言えるんだよ!!もしかして、お兄さんに何かあったの!?」

 

「えっ・・・?」

 

虚勢を張って大丈夫と言うあたしの言葉から何かを察したのか、大志はあたしの肩を掴んで揺さぶってくる。

 

「お兄さん、まさか怪我して動けないとか・・・!?助けに行かないと・・・!」

 

「ちょっ・・・!?なんで・・・!?」

 

焦りを滲ませる大志を宥めるべく、あたしは必死に弟の肩を掴んで止める。

 

どうしてそこまであいつに入れ込めるの・・・?

 

あいつは、あんたと京華を傷つけたって言うのに・・・!?

 

「だって、お兄さんは何の関わりもない俺達を助けてくれたじゃないか!そんな人を、見捨てるなんて出来ないだろ!?」

 

「っ・・・!」

 

その声は何時になく真剣で、それでいてまっすぐあたしを貫いていった。

 

そうだ、比企谷は、何の関わりもないあたしを助けてくれたじゃないか・・・。

確かにそれは事実だし、恩も受けた身なのはあたし自身がよく分かってる。

 

それを忘れた訳じゃない、だけど、だけどっ・・・!

 

「姉ちゃんがお兄さんの事をどう思ってるかなんて、今は関係ない!助けたいから行くんだ!!」

 

その眼は真っ直ぐで、どんな事が有ってもあいつを、比企谷八幡と言う男を信じている、そんな光があった。

 

「大志・・・、あいつの事、気に入っての?」

 

「気に入ってるなんてもんじゃないよ、あの人は尊敬できる人だって、俺はそう思ってる!」

 

そっか・・・、大志は、そう感じてるんだ・・・。

 

家族が信じたいって言ってる男を、あたしだって信じてみたいのは確かだね・・・。

 

「・・・、あいつ、比企谷なら大丈夫だよ、はぐれちゃったけど、きっと、大丈夫。」

 

だから、あたしは努めて穏やかに笑って、大志の不安を取り除こうとした。

 

だけど、まだ終わっちゃいない事だから、大丈夫だと言い切れないけどね。

 

「そっか!なら良かった・・・!じゃあ、早く逃げないと!!」

 

それが功を奏したか、大志は安心した様に笑って、早く逃げるべきだとあたしの手を引こうとする。

 

「いいよ、あたし、まだ逃げられないし。」

 

でも、あたしは大志の手を外し、前を向いて笑ってみせる。

 

そこではXと、多分織斑先生が変身したと思われる別のウルトラマンが、黒い怪獣と戦っていた。

 

友達と恩師が戦っているって言うのに、あたしが逃げる訳にはいかないんだ。

 

「あたしには、あたしにしか出来ない事がある、大丈夫だよ、ちゃんと帰ってくるからさ。」

 

だから、あたしは笑ってみせる。

どんな絶望でも、どんな土砂降りでも、きっと上がって晴れる時が来ると信じて。

 

「分かった、でも気を付けてよね?帰って来なかったら承知しないから!」

 

「あたしのセリフだよ!早く行きな!」

 

「うん!」

 

生意気言う大志の背中を叩いて走らせた。

 

その背中が見えなくなるまで見送って、あたしは人目に付かない路地裏に駆けこむ。

 

変身の瞬間なんて、幾ら混乱してる中でも目に付くからね、用心するに越した事はないよ。

 

「答え、見付けられたかしら?」

 

「れ、玲奈さん・・・!」

 

あたしの目の前には、笑みを湛えた玲奈さんが待ち構えていた。

 

やばっ・・・!そう言えば、アストレイの皆さんはギンガを、比企谷の味方をしてるんだった・・・!

 

今迄ギンガと対立していたあたしは、敵ってことに・・・?

 

「貴女を助けるつもりで来たけど、必要ないみたいね、貴女は今、戦う意味を見出したから。

 

「えっ・・・?」

 

その言葉に拍子抜けして、あたしの口からは間の抜けた声が漏れた。

 

だけど、そんな事を今は気にしていられない。

 

それに、あたしは戦わなければいけない理由を、大切な家族に教えて貰ったんだ。

それを隠す必要なんて何処にも無いから。

 

「何度裏切られても、自分の信じる人の為に戦えるのがウルトラマンであり、人である証なの、貴女にはまだ、信じたい人がいるんでしょ?それが見つけられたなら、きっと迷わない筈だから!」

 

「っ・・・!」

 

その言葉には、あたしの背中を押してくれるような暖かさと、力強さが込められていた。

 

そのまっすぐな想いが、あたしの胸にもうひとつの火を灯してくれた。

 

誰かの、大切な人たちのために戦う。

それが、あたしが信じてた道を灯してくれたんだ!

 

「行きなさい!ウルトラマンビクトリー!行って川崎沙希の想いを見せつけてやんなさい!!」

 

「はいっ!!」

 

玲奈さんの、先輩ウルトラマンの想いを受け取って、あたしはもう一度前向く。

 

『ウルトライブ!!ウルトラマンビクトリー!!』

 

「ビクトリィィィ!!」

 

もう一度、三人で笑うために、もう一度、二人と目を合わせるためにも!!

 

sideout




次回予告

何が正しかったのか、何が間違っていたのか、その答えに終わりは見えない中で、八幡は一夏を知る者から過去を知らされた。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

比企谷八幡は光の意味を知る 前編

お楽しみに

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