やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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川崎大志は聖獣に導かれる

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夏休みが始まった数日の後、保育園が休みになった日の事だった。

 

川崎沙希の弟である川崎大志は、妹の京華を連れて自宅近くの公園へと足を運んでいた。

 

彼等兄弟の両親は共働きであり、休日も家を空ける事が少なくは無かった。

 

だが、そこは兄弟で協力し合い、何とか家を支えているのが川崎家であり、それを間近で見ている大志だからこそ、休日に友人と遊ぶよりも家族を優先するという選択肢が出るのだろう。

 

そんな大志は近くのベンチで腰を下ろしつつ、ボール遊びをしていた京華を微笑ましく見ていた。

 

その表情は兄のモノというよりも、娘を見守る父親の表情に近かったが、本人はそれを知る由も無かった。

 

「たーちゃ~ん!パ~ス!」

 

「はいはい、パ~ス。」

 

京華が投げたボールを片手で掴み、大志はそれを軽く投げ返した。

 

幼稚園児の少女と男子中学生の力の差は当然ながらあるが、そこは兄としての気遣いがあるのが大志と言う少年だった。

 

軽くバウンドさせる程度に抑え、なるべくフライやライナーだけは避けていた。

 

「上手い上手い、京華は凄いなぁ。」

 

「えへへ~♪」

 

褒められたことが嬉しいのか、京華はニパッと笑っていた。

 

その笑みは、姉である沙希の笑みを更に屈託の無く、あどけなくしたものであり、幼さゆえの笑みだった。

 

「いくよ~!それーっ!」

 

だが、それは幼さゆえの暴走も時に生み出すモノだ。

褒められて舞い上がったのか、京華は先程までより力を籠めて投じられたそのボールは、勢いよく飛び出し、座っていた大志の頭上を越えて茂みの中へと入ってしまった。

 

「こら京華!何やってんだよもう・・・!」

 

「てへへ・・・、ごめんなさーい!」

 

「ったく・・・。」

 

悪態をつきながらも、可愛い妹には強く言えない事に苦笑しながらも、大志は席を立ち、ボールが入った茂みへと近付き、手を伸ばしてボールが何処にあるかを探し始めた。

 

「この辺か・・・?んっ・・・?」

 

探った所で、何か違うモノを掴んだのだろう、大志は訝しみながらも手を引き抜いて握ったモノを見た。

 

その手に握られていたのは、何かを模った、蒼く光る人形だった。

 

「これは・・・、なんだ・・・?」

 

それが何か理解出来なかった大志は、首を傾げてまじまじとその人形を見た。

 

「怪獣・・・?でも、なんで・・・?」

 

その人形が模った何かに思い当たったのか、大志は何故と言わんばかりに呟く。

 

彼が握るそれは、ここ数か月で千葉に頻出するようになった巨大な獣、怪獣の姿に良く似ていた。

 

だが、彼がこれまで直接的、間接的に見ていた怪獣のどれとも違う姿だったからこそ、それをそう呼んでいいのか分からなかったのだ。

 

「たーちゃん?どしたの?」

 

大志が思考の海に潜りかけていたその時だった、中々帰って来ない彼を訝しんだか、京華が駆け寄ってくる。

 

「っ・・・!い、いや、何でもない!さ、続きをしようか!」

 

妹に見せる訳にはいかないと直感的に感じたか、大志は自分が持っていた玩具用の手提げカバンにその何かを隠す様に仕舞い込み、思ったより手近にあったボールを掴んで京華に投げ渡した。

 

「わ~!?いきなりはだめーっ!」

 

急に投げ返された事に驚きながらも、京華は上手い事キャッチし、広い所へ走って行った。

 

「はいはい、そろそろ晩御飯の時間だし、帰ろうか。」

 

まだ暗くなるような時間ではないが、それでも早くこの場を離れなければならないと、彼は直感で感じていた。

 

何がそうさせるかは分からない、だが、ここに留まり続けるのは得策ではないと、彼自身も納得していた。

 

「はーい!」

 

兄のいう事を素直に聞ける京華は、大志のカバンを持っていない方の手を握り、ゆっくりと家を目指した。

 

そんな彼等を、遠くから見詰める誰かがいる事にも気付かずに・・・。

 

sideout

 

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その夜、大志は一人で夜の住宅街を歩いていた。

 

既に彼の母親は家に帰り、弟妹達の面倒を見ているため、彼がこっそり家を抜けるのは容易かった。

 

しかし、その足取りは何処か焦りを思わせるように早足で、何処かを目指している様にも見えた。

 

彼の手には携帯が握られており、何処かへ連絡を取っている事が見て取れた。

 

そして、彼が辿り着いた場所は、数時間前まで妹と遊んでいた、アレを見付けた公園だった。

 

「待っていたよ、大志君。」

 

そこで彼を待っていたのは、大志の姉、川崎沙希の恩人の一人である男、織斑一夏だった。

 

彼はバイクに跨り、何時でも出せると言わんばかりにエンジンを吹かしていた。

どうやら、ここに長居するつもりはないのだろう。

 

「織斑先生・・・!こんな時間に申し訳ないッス・・・!」

 

「良いさ、君も俺にとっては大切な教え子の一人、に近いからな。」

 

到着早々に非礼を詫びる大志を諌めるように、彼は優しく笑みながらも大丈夫だと返した。

 

別段、彼も夏休み期間中であるために特に夜間に呼び出される事など苦にならなかった。

 

「で、その例のモノは、持って来ているか?」

 

「は、ハイ・・・!」

 

だが、本題に入るとその穏やかな笑みは影を潜め、何処か狙いを付けた獣のように鋭い目つきになった。

 

その迫力に押されつつも、彼は持って来ていた手提げカバンより、その蒼く輝く人形を取り出そうとした。

 

「そうか・・・、分かった、付いて来たまえ、君に真実を教えよう。」

 

しかし、一夏はそれを途中で制し、彼にヘルメットを手渡し、同行するように促した。

 

誰が聞いているかもわからぬこんな場所で、大志にこれからの歩み方を迫る程の重要な事柄を話す訳にもいかないのだから。

 

「は、はい・・・!」

 

それを察したのか、大志はヘルメットを被り、彼のバイクの後部に跨った。

 

大志がしっかりと掴まった事を認め、一夏はバイクを発進させ、アジトがある方向へと走り出した。

 

それは正に、逃れられぬ運命にぶつかって行くかのように、真っ直ぐな疾走だった・・・。

 

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「ただいま、今帰ったよ。」

 

その後、大志を連れてアジトであるアストレイに戻った一夏は、店内に客がいない事を確認した後、大志を店内に招き入れた。

 

その際、表のネオンを消し、プレートをOPENからCLOSEへと裏返していたのは、話を内々で済ませる為に、これ以上の来店客を防ぐための予防線であった。

 

「お帰り一夏、その少年は一体・・・?」

 

それをバーカウンターから見ていたコートニーは、流していた店内BGMを切りながらも、訝しむ様に尋ねた。

 

見た事の無い少年を、しかも八幡や沙希よりも更に幼い者を連れて来るなど思いもしなかったが故の、ある種の驚愕も混ざっていたのだろう。

 

「紹介しよう、彼の名は川崎大志、沙希ちゃんの弟だ。」

 

「なんだと・・・!?」

 

苦々しく、だがハッキリとした口調で告げられた内容に、コートニーは驚愕のあまり持っていたグラスを落としかけた。

 

まさか、ウルトラマンとして、人間として気に掛けている少女の実の弟が、ここの敷居を跨ぐなどとは、全く以て考えもしなかったのだろう。

 

その驚愕の視線を受けた大志は、僅かに縮み上がったか、背筋を猫背にしながらも一夏の後ろに隠れるように後ずさった。

 

「彼が今日、スパークドールズを見付けてしまった、だから、彼には真実を伝えておきたい、この世界に起こっている、異変の事も・・・。」

 

「分かった、ドリンクを出す。」

 

一夏の想いを受けたコートニーは、カウンター席を指し、着席を促した。

だが、それ以外のモノを取り出す様子も見受けられたため、ただ話をするだけでは無いのだろう。

 

「俺の隣にいれば良い、座ってくれたまえ。」

 

「は、はい・・・。」

 

一夏に促され、大志はおっかなびっくりながらも彼の隣に座った。

それは何処か、小動物の警戒している様子を連想させる様子であったために、一夏も苦笑を禁じ得なかった。

 

「この店は、俺の嫁さんが経営している店だ、口は堅いし、君のお姉さんもここでバイトしてるんだ。」

 

「そ、そうなんスか・・・!?」

 

「知らなかったのか?」

 

緊張を解くために語られた一夏の言葉に、大志は素っ頓狂な声を上げた。

 

確かに以前、沙希の夜勤が問題になっていた頃に、一夏から沙希が一夏の妻の店で働いている事は聞いていた。

 

だが、このような店で在ったと言う事は全く知らなかったのだ。

 

それをすっかり忘れていた大志の反応に呆れ、コートニーは苦笑しながらも目の前にコーラを2つ用意した。

 

「ま、気にするな、君も今からこの店の関係者だ、あれを見付けてしまった以上は、な・・・。」

 

「っ・・・。」

 

一夏が纏う雰囲気が変わった事に気付いたのか、大志は息を呑んだ。

 

これから始まる話は、自分の運命を大きく変える、それに気付いたのだから・・・。

 

sideout

 

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「そ、そんな事が、この世界に起こってるなんて・・・!」

 

ウルトラマンや怪獣の事、スパークドールズの事、アストレイメンバーの正体の事、そして、怪獣災害の原因となった大流星群の夜の事、それら全てを聞き終わった大志は、自分の想像をはるかに超えた事態に驚き、その身を震わせていた。

 

自分が想像もしなかった、概念だけは知っていてもそれが実在する事を知らなかった、パラレルワールドの存在、それが、何の因果かこの世界に集合し、途轍もないほどの厄災に見舞われてしまっているとい現実を、受け止めきれていないだけかもしれないが・・・。

 

無理も無い。

彼は一度、怪獣とウルトラマンの戦闘に巻き込まれ、軽くない怪我を負わされていたのだ。

 

今はほぼ完治しているとはいえ度、その恐怖は計り知れないものが有った。

 

「すまない、君に受け止めきれるわけ、無かったな・・・。」

 

その震えを見た一夏は、彼の背を慰めるように摩った。

無理も無い、それを受け止めるだけの覚悟も経験も無い、ただの少年に真実を語り、これから先の選択を迫らねばならないのだ、彼も憐憫にも似た感情を抱かざるを得なかったのだ。

 

だが、止まっていられる程余裕がある訳でも無い今の一夏達には、彼の立ち直りを待っている暇など無かった。

 

故に、話を続ける事にした。

 

「だが、止まっている暇なんて無いぞ、君にはこれの扱いを決めて欲しい。」

 

一夏は大志から預かっていた、蒼く輝くスパークドールズをテーブルの上に置き、滑らせるようにして大志の前に出した。

 

「その怪獣を見た事は無い、だが、君が何をしたいと思うなら、これを掴むと良い、俺達も手助けしよう。」

 

大志に選択を促しつつも、彼は控えていたコートニーに目配せし、テーブルの上に青い身体を持つウルトラマンのスパークドールズを用意させた。

 

その意味は、怪獣の力だけでなく、ウルトラマンとしての力も与える、そう暗に語っていた。

 

「君に与えられた選択肢は二つだ、今日ここで聞いた事全てを忘れ、貝のように口を閉ざして生活していく事、知らぬ存ぜぬは楽だ。」

 

選択肢の一つには、手元に来た力を捨て、普通の人間として生きていく事。

それは、何も知らなかった、自分は何もしていないと言う逃げであると同時に、真実を一切口に出さない、拷問の極致にも近いものが有った。

 

「もう一つは、力を使い、俺達と共に戦っていく事だ、ウルトラマンとして、怪獣を無理やり戦わせる悪と向き合っていく戦いだ。」

 

「お、俺が、光の巨人、ウルトラマンに・・・?」

 

もう一つの選択の意味を理解した途端、大志の表情に驚愕と怯え、そして、ある種の希望が混ざり合う様に浮かび上がった。

 

だが、同時に気付いてもいたのだ。

この選択は、力を持った者に課せられる責任、それに向き合う覚悟を問い、彼にこれからの生き方を問うていた。

 

故に、大志も今、この瞬間に覚悟を決める必要がある事を、肌で感じているのだ。

 

「君が決めると良い、どんな選択をしようと、俺は君の選択を認めるし後押しもする、大人として、君にだけ抱え込ませるような真似はしない。」

 

真っ直ぐで強い意志を籠めて、一夏は大志の目を真っ直ぐ見詰めた。

答えを出す事を恐れるなと、あの時、姉を救いたいと願った想いの強さを見せてみろと。

 

「俺は・・・、俺はっ・・・!」

 

自分にとっての恩人に期待されている、信じて貰っている。

それを受けて大志も、目の前に置かれた二体のスパークドールズを見詰めた。

 

この手の届く場所に、自分の運命を大きく変える力がある。

それを使う事が出来れば、誰かを、大切な家族を護れる。

 

大志が感じたその想いは、奇しくも姉である沙希が感じた想いと、全く同じだった。

 

護りたい相手も思いも同じなのは、家族愛に溢れる故の想いが共通しているからかもしれない。

 

「俺は、決めました・・・、これが俺の選択です・・・!」

 

大志は決意を籠め、その手を伸ばした。

その力から逃げない、それが、彼が出した選択だったのだ。

 

その手は、青い身体のウルトラマンを掴み、蒼く輝く怪獣のスパークドールズもまた、彼の左手に収まった。

 

「良い覚悟だ、君に託されたウルトラマンもまた、君の想いに応えてくれるだろう。」

 

その覚悟を見た一夏の目の前で、そのウルトラマンのスパークドールズは光輝き、大志の右腕にブレスの様な物へとその姿を変えた。

 

それは、大志がウルトラマンの意思に選ばれ、この世界の為に戦う事を託された証であった。

 

「その力の事は他言無用で頼むよ、ばれたら色々と厄介なんだ、君も解剖なんてされたかないだろ?」

 

「も、勿論っス!」

 

半ば脅しの様な一言ながらも、大志もその事は重々承知と言わんばかりに首を勢いよく縦に振った。

 

いや、脅しなどでは無い。

今の世界において、ウルトラマンの力以外に怪獣に対抗でき、抹殺出来る戦力が果たして存在しているだろうか?

 

銃弾を通さない強固な皮膚、鋼をも砕く爪や牙、そして、強烈な破壊光線。

その力は人智を超えた存在そのものであり、人間の力では為す術も無い。

 

その様に強大で、制御の利かない力を、ウルトラマンと言う存在はあっさりと仕留めてしまえる強さと強靭さを持っている。

 

それこそ、神にも等しい存在として。

 

だが、ウルトラマンも神では無い、その正体は人間の姿をしているのだから。

 

故に、捕まってしまえばモルモットとしてデータを録られるだけ録られた挙句、遺伝子研究の為に解剖などと言う結末が待っているのは想像に難くない。

 

それが想像できてしまったからこそ、大志もまた、リスクを改めて実感し、背筋を震わせていたのだろう。

 

「気を付けてくれたまえ、まぁ、そうならない様に君を鍛えるつもりでもいる、暇な時にここに来れば誰かしらいるだろうからな。」

 

「わ、分かりました・・・!よろしくお願いしまっス!」

 

一夏の忠告と、鍛えてやると言う言葉に、彼はまたしても深く頷き、これからの戦いに身を投じる為の準備を、アストレイメンバーと共に行う事に同意していた。

 

強くしてくれるなら断る理由も無い、そう判断したが故の選択だったのだろう。

 

「さぁ、夜ももう遅い、今日は送って行こう。」

 

「は、ハイ・・・!今日はありがとうございました!」

 

「気を付けてな、大志君、俺達も出来る限り協力させてもらう。」

 

一夏が席を立つと同時に、大志もまた帰宅の途に就くべく席を立った。

 

如何に口が堅いメンバーで固められているとはいえど、大志の様な中学生を夜のバーにそのままいさせるのは些か良くない。

 

「はい!」

 

見送るコートニーの言葉に応えつつ、彼は一夏に続いて店を出て行ったのであった。

 

その背中を見送り、コートニーは深い深いタメ息を吐いていた。

 

何故、あのような年端もいかぬ少年少女ばかりが選ばれてしまうのか、その理不尽さに憤っているのだろう。

 

だが、悔やんでも現実は変わらない。

故に、彼がやる事も自ずと決まっていたのだ。

 

先達として戦う。

ただそれだけだと・・・。

 

その日から数日後、街では、蒼い巨人のうわさが流れる様になったのであった・・・。

 

sideout

 




次回予告

これまでにない充実した夏休みを送る八幡達の前に魔王がその姿を現した。
だが、その様子は、ある男の登場に破られて・・・?

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

雪ノ下陽乃はその男と出会う

お楽しみに

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