やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
side八幡
「そいじゃ、一週間ぐらい帰らないから、良い子で留守番してろよー。」
合宿初日、俺は集合場所であるアストレイに向かうべく、見送りに出て来たであろう小町に声を掛ける。
一週間マジで戻れないのは確定してるが、もう夏の課題は全部終わらせてあるし、特にやっておくべき事も無い。
ま、そんな事より強くなんねぇと、また護れないからな。
「また、何処かに行っちゃうの・・・?」
「あ・・・?」
心機一転、強くなると言う想いを昂ぶらせて家を出ようとした時、後ろから小町が何処か面白くなさそうに声を掛けてくる。
ったく、水差されたみたいで、なんか嫌になるな・・・。
「何が言いたい?一週間開けるって言ったって、合宿なんだから当たり前だろ。」
「そうじゃない・・・、そうじゃないよ・・・!」
だったら一体何だっていうんだ・・・。
ハッキリしない小町の態度に僅かに苛立ちながらも、俺は小町と向き合う。
何時もは何処か計算高い、あざとい笑顔を浮かべているその表情は曇り、憤りにも近い何かが見て取れた。
「また、あの織斑って先生と一緒に行くんでしょ?」
「そりゃ顧問だしな、沙希や彩加も一緒だ、こんなに良い事はねぇぜ。」
沙希と彩加と一週間ずっと一緒って言うのは、何と言うか友達と一緒にずっといる様な、初めての感覚だ。
それに加えて、両親以外で初めて信頼できる大人達とも共に居られて、尚且つ強さの秘訣を間近で学べるんだ。
こんな良い一週間を、一分一秒たりとも無駄には出来ない、したくない。
なのに・・・。
「で、それが何だって言うんだ、問題ないだろ、親父や御袋にも許可貰ってるしな。」
なのに何で、小町は俺を止めたがる?
俺がしたいことを止めて来なかった小町が、俺が独り立ち出来るように立ち回っていた筈の小町が、何故?
「そうじゃない・・・!!なんであんな人と一緒にいるのって聞いてるの!」
あんな人、だと・・・?
いま、コイツは何て言った・・・?
命削ってまで、俺を導いてくれた人を、あんな人と呼んだのか・・・?
「何だと・・・?」
だが、所詮相手は身内、怒った所で何にも良い事は何一つ無い。
だから、俺は平静を努めて聞き返す。
殺気が出ないように、悟られぬ様に努めて。
「だってそうじゃない・・・!あの人と関わって、お兄ちゃん変わっちゃったじゃない!前は、もっと一緒にいてくれたのに!!」
嫉妬、ってわけか・・・?
ちょっと前の俺なら飛び跳ねんばかりに喜んでいたんだろうけど、今の俺はやっぱり変わっちまったみたいだ。
なんせ、嬉しさよりも鬱陶しさが先立ってるのが分かる。
「仕方ないだろ、合宿なんだ、俺にだってやらなきゃいけない事ぐらいあんだよ。」
「じゃあそのやらなきゃいけない事って何なの!?今までの、死んだ様な生活は何なの!?」
ちっ・・・、古い事を掘り返してくるもんだ。
確かに、あの生活も捨てがたいものがあるし、誰とも関わらなくていいってのは本当に楽だ。
だけど、幾ら楽でも、俺はもうその道じゃ物足りなくなっている。
ウルトラマンの力を手に入れた事も理由の一つにはある。
でも、それよりも俺の事をあるがままに、真っ直ぐに見てくれる人達の存在があったからこそ、俺はここまで変われたんだ。
だから、俺は進む以外に無いんだ、たとえ、周りから変わり過ぎたと揶揄されても。
「別に、あの生活が間違いだとは思っちゃいねぇよ、人と関わらないって楽だしな。」
「だったら・・・!」
「でも、もう物足りないんだよ、沙希や彩加、大志に先生達、俺を見てくれる人がこんなにいるんだ、変わらなきゃ嘘になるだろ。」
あの日のように、湿気た面するのはもうやめた。
たとえどう思われようとも、信じる道を歩いて行くんだ。
「だから、俺は周りが何て言おうとあの人たちを信じる、たとえ、その相手が小町、お前であってもだ。」
「ッ・・・!」
牽制の意味を籠めて、俺は小町を睨む。
邪魔をするなと、もう踏み入って来るなという想いをこめて・・・。
「じゃあな、暫く帰らねぇからな。」
へたり込む小町を無視して、俺はさっさと家を出て、待ち合わせの場所へと赴く。
新たなる力を手に入れる為に、そして、新しい何かを知るために・・・。
sideout
noside
「よし、到着したぞ、全員降車。」
それから数時間後、二台の車に分乗したウルトラマン一行は郊外のキャンプ場、千葉村の奥地までやって来ていた。
そこはキャンプ場の中でも外縁部に位置し、主要施設からも遠く離れているため、人も滅多に踏み込まない場所だった。
故に、彼等のように身を隠して動かねばならない立場にいる者にとっては非常に都合の良い場所でもあった。
因みに、アストレイは1週間の臨時休業しているため、メンバー全員がここに揃うと言う異常事態を引き起こしているのであった。
「それじゃあ、早速稽古を始めよう、今日は宗吾とコートニーが相手だ。」
「四人纏めて掛かって来ても良いぞ、君達の実力も計りたいからな。」
「まぁ、サシでも構わないがな。」
一夏の言葉を受け、宗吾がとコートニーがそれぞれ変身アイテム、マックススパークとエボルトラスターを掲げながらも前に出る。
どうやら、八幡達を纏めて相手にするつもりなのか、彼の表情には余裕があった。
「沙希、二対二で行くか?」
「あたしもそう思ってたとこだよ。」
だが、その提案を蹴り、フェアな状態での戦いを望んだ八幡と沙希はギンガスパークNEOとビクトリーランサーを取り出し、ギンガとビクトリーに変身する。
一人の戦士として、圧倒的な存在に挑みたいと本能的に感じたからか、それとも別の何かがそうさせるのかは分からなかったが・・・。
「いいだろう、行くぞ、宗吾。」
「OK、気合入れてやらないとな!」
その彼等の闘志を受けて、コートニーと宗吾は心地良く微笑みながらも変身プロセスに入る。
「ネクサス。」
エボルトラスターを引き抜いたコートニーの身体が光に包まれ、その姿を銀色のウルトラマン、ネクサスへと変える。
「マックス。」
太陽光を吸収したマックススパークを左腕に装着した宗吾の身体に金色に輝くプロテクターが装着され、そこを起点に彼の身体をウルトラマンとしての姿へと変えていく。
その姿こそ、最強最速の赤い巨人、ウルトラマンマックス。
『まずは、周りの被害を抑えないとな。』
言うや否や、ネクサスは左腕をエナジーコアに当て、その姿を変える。
「ジュネッスブルーか、って事は、いきなり本気だな。」
それを見ていた一夏は何処か感心した様に呟いていた。
いや、考えずとも分かる事だった。
アストレイのメンバーは八幡達、新しいウルトラマンへ大きな期待を寄せている。
ならば、自分達の力を伝えるためにも、手を抜く事などしないのが道理であった。
『ハァァッ・・・!デヤッ!!』
光を纏わせた拳を天に向けて突き上げると、上空で光が弾けるように広がってゆき、彼等をドーム状に覆う。
その光が晴れた時、周囲の景色は一転していた。
『こ、此処は・・・!?』
荒野のように赤茶けた大地が広がり、周囲には彼ら以外何も見受ける事が出来なかった。
まるで、異空間にでも迷い込んだような錯覚を憶えさせるほどに、元いた森林とかけ離れていたのだから。
『メタフィールド展開完了、さぁ、何時でもかかって来い!』
困惑する八幡達を集中させる為か、コートニーは何時でも飛び掛れると言わんばかりに構えを取り、それに応じて宗吾もまた構えた。
『『ッ・・・!!』』
目の前にいる、二体のウルトラマンから発せられる圧倒的な存在感に戦慄する八幡と沙希だが、それを押し殺して構えを取る。
この程度で挫けて堪るかと、恐れてなるモノかと、二人の目は覚悟に燃えていた。
『良い眼だ、行くぞ!!』
赤と青のウルトラマンが、ギンガとビクトリー目掛けて走り出す。
それに負けじと、ギンガとビクトリーもまた、迎え撃つべく駆け出した。
今、彼等の夏休みの総決算が行われようとしていた・・・。
sideout
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同じ頃、八幡達がいる場所の反対側、キャンプ場の中央付近に位置する場所にて・・・。
そこでは、千葉市内の小学生有志と、総武高校の有志による合同のキャンプが行われていた。
小学生のキャンプに、内申点目当ての高校生が引率代わりに付いて行く、ある意味恒例的な行事となっている催しでもあった。
総武高校側の引率は奉仕部の顧問である平塚静が行っており、奉仕部のメンバーは参加を義務付けられていた為にここに来ていた。
他には、葉山グループのメンバー全員も参加しているが、静が望んだ男の参加は無かった。
「・・・。」
その事を腹立たしく思っているのか、彼女は喫煙可能な場所を探しだし、何本目になるか分からない煙草を取り出して煙を吹かしていた。
いや、事実気に入らないのだ。
比企谷八幡と言う男を先に見出したのは、紛れもない自分自身だと言う自負があった。
歪ながらも、他とは違うモノを見通せた目で、彼女が案じている少女を救う事が出来たかもしれなかった、総武の抱える、歪な問題を解決してくれるかもしれなかった。
それが、彼女の望む奉仕部の在り方だった。
だが、それも今となっては叶わぬ事となってしまった。
比企谷八幡は、あの男のせいで変わってしまった。
怒りを表に出し、周りとぶつかろうとも自分の信念のみを貫き通し、それで付き合える人間を選んでいる。
誰も救おうとせず、ただ、自分の想いだけを貫くだけの愚物となった。
それが、彼のみの力で出した答えならば諦めがついた。
だが、彼女から見てみれば、そうは思えなかったのだ。
「織斑、一夏・・・!奴のせいで・・・!!」
全てはあの男、織斑一夏が現れてからすべての歯車が狂い始めた。
あの男の働きかけのせいで、比企谷八幡は変わってしまった。
奉仕部に顔を出さなくなっただけでは無く、関わりを持つ事で互いを変えていくべきであった雪ノ下雪乃との関係も悪化するばかりだった。
これでは、雪乃も誰も救われない。
そのことが彼女を無性に苛立たせていた。
同時に、一夏を排すれば八幡を元に戻す事も出来るかもしれないとも感じていた。
故に、彼女は彼の失脚を狙ってもいた。
だが、彼女は未だに織斑一夏の実体を掴む事は出来ていなかった。
まるで見えているにも関わらず、そこに存在していない様な、霞を追いかけている様な感触に、彼女もまた苛立っているのだ。
しかし、彼女は諦めていなかった。
何時か、あの男を失脚させてみせると固く誓うのであった・・・。
その時だった。
「うぉー!?あれなんだべー!?」
キャンプに参加していた総武高生の一人、戸部が何かを見付けた様に声を張り上げた。
その視線の先を見ると、数K先の森林地帯で光が弾け、ドーム状に広がって行く様が見て取れた。
「なん、だ・・・!?」
驚愕する彼女の目の前で、その光の球体は、瞬きをするうちに消え失せていた。
「なんだ・・・?幻・・・?」
自分の目が信じられないと言わんばかりに目をこするが、やはりそこには何も存在しなかった。
だが、その光を見たのは彼女や戸部だけでは無かった。
「あれは・・・。」
「なんだ・・・?」
「・・・。」
葉山グループの他のメンバーも、目の前で起きた摩訶不思議な光に戸惑いを隠せないのか、呆然としたようにその先を見る事しか出来なかった。
「俺、少し見てくる・・・!!」
「大和!?」
そんな中、大和がその光が見えた方向へ続く道へと走り出した。
彼の蛮行を止めるべく、葉山や戸部が追いかけるが・・・。
「怪獣だったら危ないだろ!皆で行くより俺独りが安全だ!」
グループのメンバーを制し、彼は独りで走って行ってしまう。
幸いにして、小学生たちとは今だ合流していなかったため、彼を見ていたのは同じグループのメンバーだけだった。
故に、どうとでも言い訳を付けて、その方向へ小学生たちを行かせないようにする事も簡単だった。
そこまで考えて大和が動いたかは不明だったが、自分だけで行動する口実を見事に作り出していたのだった。
「・・・。」
その様子に何かを感じたか、静は煙草の火を消し、誰にも気付かれぬようにその後を付けていった。
それが、彼女の意思か、それとも別のモノかも分からぬままに・・・。
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次回予告
光に救われた少年は、その光と共に在るべく動き出す。
喩え、それが今いる場所との考えと反していても・・・。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
比企谷八幡は人の光に触れる
お楽しみに