やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
side沙希
「で、やっぱり受けちまったんだな。」
留美を泣き止ませた後、八幡達の所へ戻って事の顛末を報告した際に、八幡から少し呆れられたような一言を貰った。
「し、仕方ないでしょ・・・?」
あんな顔で助けてって言われたら、助けなくちゃって思うじゃないか・・・!!
少し上目づかいで八幡を見ると、彼は呆れた表情を少し赤くしてそっぽを向く。
「分かってるよ・・・!この問題があるから来たようなもんだしな・・・!」
て、照れてる・・・?
って事は、今の上目づかいがツボったって事・・・?
な、なんか嬉しいかも・・・。
「八幡・・・、それはちょっと強く言わないとダメだよ・・・。」
二人っきりの世界で勝手に盛り上がるあたし達に呆れて、彩加はジト目でタメ息を吐いていた。
そ、そんな目であたし達を見ないでっ・・・!
な、なんか恥ずかしいじゃないかっ・・・!!
『何故、人間は少しの差でさえ認められないんだ・・・?』
その空気を破るように、Xが重い口を開いた。
ウルトラマンである彼には、今目の前で起こっている、同族による醜い虐めを受け入れる事が出来ないのだろう。
「ウルトラマン同士で、そういうのは無かったのかい?」
ウルトラマンって、あたし達人間みたいに互いを虐げたりしないのだろうか?
でもまぁ、X見てると、そうは思えないけどね・・・。
『ウルトラマンは全宇宙の平和を護る存在だ、同族で諍いを起こしている暇など無い、それに、その小さな差でさえ、個性でしかないと受け入れる、差別は無かったな。』
「凄いな・・・、人間がそうなるのは、何時なんだろうね・・・。」
何時の間に来ていたか、大和も何処かしみじみと呟く。
嘗ては自分のエゴで多くを傷付けてしまった大和だからこそ分かるんだろうね。
「ま、今は何百年先の未来を考えても仕方あるまいよ、今はあの子を救う事を考えないとな。」
またしても何時の間にか先生が現れる。
いや、この人はこれが当たり前か。
「沙希ちゃんがあんな強く前に出るとは思いもしなかったが、悪くない傾向だ、思いっ切りやりたまえ。」
「はい!」
あたしのさっきのやり取りを見ていたのか、先生は不敵に笑ってみせる。
その心強さったらこの上ありゃしない。
この人がバックに着いていればなんだって出来る、そんな気さえしてくるんだから。
「その必要は無いわ、この件は奉仕部で受け持つわ、あなた達に手柄を独り占めさせるなんて冗談じゃないわ。」
そう思っていた時だった、やっぱり千葉村にいた雪ノ下が現れて横槍を入れてくる。
厄介な事この上ない、コイツ等出てきたら話が纏まらなくなる・・・。
「結局独占欲かい?あの子を助けようとは思わないのかい?」
別にあの子が、鶴見留美という少女が救われるなら、誰の手に委ねたって良い。
だけど、コイツはそうじゃない。
あたし達への復讐心と、ちっぽけな見栄で動いている、そこに留美と言う少女を助け様なんて気持ちは欠片も無いだろう。
そんな奴に、このヤマは渡しはしない。
あの子は何としてでも救ってみせる、苦しまなくて済むように!!
「邪魔だぞ雪ノ下、あいつを救う考えが有って言ってんのかよ?」
八幡も奴の考えを見抜いていたのか、少し睨みを効かせながらも問いかけた。
確かに、救う算段があるならやってみると良い。
それが正しいかどうかはさて置いてね?
まぁ、失敗する確率の方が高いだろうけどさ・・・。
「そ、それは・・・っ!」
それを言われて、雪ノ下は言葉を吐き出す事が出来ずに沈黙する。
なんて奴だ、結局は負けず嫌いが先行して、何にもできないくせに出しゃばって来たという訳か・・・。
迷惑なことこの上ないね・・・、せめて食いついて来るんなら案の一つぐらい出して欲しもんだ。
「なんだ、答えられんのか、そんな事で厄介事を吹っかけるのもいい加減にしてほしいもんだ。」
そんな奴に呆れたか、八幡は踵を返し、先生が待っている所へと戻ろうとする。
その判断は正しいね、これ以上絡まれたら堪ったもんじゃない。
「ま、待ちなさい・・・!そこまで言うなら、貴方達に策は・・・!?」
「知らないね、敵に塩を送る義理は無いよ。」
八幡も彩加も答える気はないらしく、あたしも彼等に倣ってさっさとこの場から退散した。
これ以上留まっていては留美を救う算段を本当に立てられなくなる。
だから、今はこんなやつの相手をするより、よっぽど大事な事に時間を使わせてもらおうじゃないか。
「お、おいおい比企谷君、川崎さん・・・!雪ノ下さんにあんな事言って大丈夫なのか・・・!?」
「あ、大和君。」
あたし達のやり取りを見ていた大和が血相を変えて尋ねてくる。
その表情には焦りが浮かんでいて、これから何かされるんじゃないかと言う恐怖が滲み出ていた。
まぁ、今のは学内トップの優等生で鉄の女の異名を誇る雪ノ下に喧嘩売っている様にしか見えないからね。
「気にすんな、あいつは頭ン中が絵本を読んで全てを分かった気になってるお嬢様なだけだから。」
「そ、それは知らないけどさ・・・、で、でも、あぁいう事って良くないと思うが・・・。」
良い奴だね、まぁ気持ちだけは分からなくもない。
波風立てないって言うのも生き方の一つだしね。
「前にも言ってたけど、本物以外要らないんだよ俺達は。」
「本物・・・、か・・・。」
そう、本物。
それ以外をあたし達は求めちゃいない。
あぁやって誰かの手柄を横取りしようと突っかかってくる事が正しい事とは思えない。
だから、そんな事をする奴とは、あたし達は本物の関係にはなれっこない。
だから、ソイツとは関わらないか、徹底的に突き放すかのどちらかにしかないじゃないか。
あたしはそう思う。
そうじゃなきゃ、今の友達を、大切な人に向き合えないしね・・・。
「それで、良いのかな・・・?」
大和が呟いた言葉は、少し頭に血が昇っていたあたし達に届く事は無く、風のざわめきと共に消えていくだけだった。
誰も追及する事も無く、すぐに違う話題へと切り替わって行った。
「で、結局どうするよ、やり方はあるには在るけど、実行方法が浮かばないんだよな・・・。」
そう、そこが一番のネックだ。
方法はあるけど、そこに到る過程と手段が思いつかない。
「あの関係をリセット、白紙に戻すって事だよね・・・?どうすれば良いんだろ・・・?」
「アイツ等の関係を崩すなら、やっぱり留美がアイツ等に何かするぐらいだろうけどね・・・。」
方法としては簡単だ、留美がアイツ等に対して何かアクションを起こす必要がある。
そのアクションが何かは、全く以て分からないけどね・・・。
「着眼点は良い、だが、まだまだ甘いな。」
八方塞に陥りかけていた時だった、これまで沈黙を守っていた織斑先生が口を開く。
まだまだ甘い、そう言われたらぐうの音も出ないね・・・。
「だが考えてみたまえ、あの少女が自分の力でこの状況を何とか出来る力を持っているなら、もうこんな状況からは逃れているよ。」
「それは・・・。」
言い方は悪いけど事実だ。
留美に力があれば、虐めなんかされやしないだろう。
それが出来ないなら、彼女から何かをするという考えは捨てたほうが良いかもしれない。
「しかし、力を持っている君達なら何とかできる、そう考えたのならやり通せ、ヒントぐらいならくれてやる。」
「ヒント・・・?」
どうにかする算段を持っているって言うの・・・?
あたし達が何とかしようとするのを、ギリギリまで待っていたって事・・・?
「例えば、こういう事かな・・・?」
あたし達から少し離れ、先生は大きく深呼吸し、身体を震わせる。
一体、何をしようって・・・?
そう思った矢先だった、先生の身体から突起の様なモノが生えてくる。
『ッ・・・!?』
まるで、怪獣へ変態する様な光景に、あたし達は変身アイテムを取り出して変身しようと身構え、大和を庇うように立つ。
先生はみるみる内に姿を変え、等身大の宇宙人の様な姿へと変わった。
『こういう事をすりゃいい、脅かせば虐めの上下関係を崩せるぜ。』
「いやいやいや・・・!?待って!?何時の間にライブしたんですか・・・!?」
『君達があの女の子を見付けた辺りかなぁ。』
なにそれ擬態?そんなの聞いてないですよ・・・!!
寧ろ声を上げなかった事を褒めてもらいたいぐらいだ・・・!!
『コイツは暗黒星人ババルウ星人、優れた擬態能力を持つ宇宙人だ、コイツにライブすれば、ウルトラマンだろうが人間だろうが、どんな奴にだって化けられる。』
そう言いながらもライブを解いた先生は、ババルウ星人のスパークドールズとダミースパークを渡してくる。
「まぁ、何が言いたいかって言うと、コイツ使ってガキどもを脅かせばいい、手段としちゃ結構良い感じだぜ。」
「そ、そうか・・・!そういう事か・・・!!」
先生の言おうとしている事に気付いたのか、八幡は先生の手からスパークドールズとダミースパークを受け取る。
それを見てあたしも分かった気がする。
つまり、これは・・・。
「この宇宙人に化けて、あの子たちの前に飛び出せばいいんですね?」
彩加さん、その言い方だと、ただの変質者じゃないですかね・・・。
まぁ、強ち間違っちゃいないけどさ・・・。
「ご名答、宇宙人に変身してれば正体はばれないだろう。」
なるほど、さっき先生がやったみたいに、目の前で突然人間から化け物に変わればそれだけでトラウマ物の絵面になるもんね。
関係崩すには良い起爆剤になる。
でも、ここでもう一つ問題が出てくる。
「それで・・・、誰が変身すればいいんですか・・・?」
脅かすに適役なのが、あたし達じゃないという事だ。
このキャンプに後から来たあたし達じゃ、小学生たちと真面に関わっている訳じゃ無いから距離が遠すぎて、こんな事をやろうとしたところで元から警戒されている分、効果は薄い。
では、どうすれば一番効果が発揮されるかを考えると、最初からここに来ているヤツが適任だ。
それを考慮して人選すると、どうしても葉山グループか奉仕部のメンツに依頼する必要がある。
葉山グループの一部は兎も角、奉仕部にこの力を明かしたら、今後の活動に制約が掛かるも同然だ。
出来る事なら、この二組には依頼したくはない。
とはいえ、先に進めないのも事実だからこそ、あたし達は二の足を踏む以外なかった。
「じゃあ、俺がやるよ、一応比企谷君達より先に来てるし、あの子等といても怪しまれやしないよ。」
それに名乗りを上げたのは、意外にも意外、大和だった。
「大和・・・?あんたは・・・。」
大和は以前、闇の力に呑まれて怪獣にされてしまった事が有る。
ここでもまた怪人化する事になれば、彼はまた、あの時の苦痛に苛まれる事になる。
そんな苦行を、彼にはさせてやりたくはないんだけど・・・。
「君達には借りがある、それに、操られて暴れるだけなんて惨め過ぎんだろ。」
「それは・・・。」
プライドが許さない、ってか・・・。
気持ちは分かるけど、それで良いのか・・・。
「やらせてくれよ、君達にしか出来ない事もあるように、俺にしか出来ない事なんだ。」
真っ直ぐにあたし達を見詰めるその瞳に、あたし達は何も言えなくなってしまう。
覚悟を踏みにじるなんて、出来やしないから・・・。
「分かった、お前に預ける、頑張ってくれ。」
「任せてくれよ、バックアップ、よろしくな。」
「任された。」
スパークドールズとダミースパークが大和に手渡され、二人はしっかり頷き合った。
そこには男同士の強い繋がりが窺う事ができ、八幡から大和への信頼を垣間見せていた。
ホント、信じると決めた奴にはトコトン甘いと言うか・・・。
まぁ、八幡のそんな所が大好きなんだけどね。
「それじゃ、俺は隼人君達に作戦を伝えて来るよ。」
察しの良いヤツ。
恐らく、葉山達には大筋だけ、つまりは小学生たちを脅して虐めを失くさせると言う事だけを話して、連れ出す算段でも付けさせるつもりだろうね。
それはリア充グループにしか出来ない事だし、上手くやってくれることを願おうじゃないか。
「頼んだぞ、俺達は留美に説明してくる、手段も纏めてな。」
そしてこっちは、留美にこれから起きる事に対して、留美が取るべき対応を指示してやれば良い。
何て適材適所、独りっきりじゃできない事も、集まればなんとかなるもんだね。
これも、一歩進めたって事で良いのかな。
「さて、行こうぜ、折角の夏なんだ、それらしいことやらかしてやろうぜ。」
「えっ・・・?」
そ、それって・・・、ま、まさか・・・!?
八幡の言葉に、あたしは背中に一筋の冷たい汗が流れるのが分かる。
「なるほど、そりゃいい、セシリア達にも連絡して近くに来させておくか。」
あの、先生・・・?何するつもりなんです・・・?
夏の定番と言ったら、あたしの苦手なあれしかないじゃないですか・・・!!
「さぁ、楽しい祭りの始まりだ、楽しもうじゃないか!」
「「はい!」」
先生の言葉に、八幡と彩加は笑顔で応じる。
肝試し、それに脅かす役として参加すると言う、ある意味でのイベントを楽しもうとしているんだろう。
お、脅かす側でもなんでも、あたしはどっちも苦手だって言うのにぃぃ・・・!!
イイ笑顔で留美が待っている方へと歩いて行く3人を追うべきかどうか悩むけど・・・。
「や、やってやろうじゃないか・・・!た、助けるって言ったもん・・・!!」
今、一番不安なのは留美なんだ・・・!
あたしが怖がってどうすんだい・・・!!
僅かに震える脚を引き摺るようにしながらも、あたしは3人の後を追った。
自分の役目を、今こそ果たすために・・・。
sideout
次回予告
目的達成の為に動く八幡達は、実行する大和を援護するべく暗躍する。
だが、闇はそれすらも無視し迫ってゆくのだった。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
比企谷八幡は大和を信じる
お楽しみに