やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
色々たて込んで更新が遅れていますね・・・。
それはさて置き、今回もお楽しみくださいませ!
side八幡
時は流れて日が暮れていく中、俺達はひっそりと準備を進めていた。
何の準備かは、最早語るに及ばないだろうから、その辺の説明は割愛させて頂くとさせてもらおう。
夕食は、材料を持って来てくれた大志とヒエロニムス夫妻と合流してから調理をし、取り敢えずの腹ごしらえをしていた。
こういう飯盒炊飯は小学校の野外活動以来だったし、信頼し合っている仲間達と共同して何かをする事は、この上なく新鮮なものが有った。
まぁ、そんな感傷は、今は置いておこうか。
「小学生の子たちが動き始めたみたいだね、そろそろかな?」
彩加がキャンプの外れを指差すと、少し離れた場所で小学生たちを連れて肝試しに向かおうとしている様子が見て取れた。
どうやら、大和が仕組んだ陽動は成功したみたいだ。
後は、俺達が小学生たちを怖がらせる様にフォローしつつ、大和が上手いタイミングで化けるかが作戦の成否に繋がってくる。
段取りとしては、肝試しコースの途中、葉山グループの一団が待ち構えている所に来た時を狙って大和が動き、小学生の前で怪人化して恐怖のどん底に叩き落とす。
そこで作戦の大まかな内容、勿論スパークドールズ関連はぼかしてあるが、を伝えてある留美が強烈なカメラフラッシュを焚き、怪人の注意を惹きつけた直後に逃げろ、と叫んで先導するように走る。
そうすれば恐怖心からその声に弾かれて他の小学生も一緒に逃げて事なきを得る。
自分達が虐げていた筈の奴に救われた事への感謝と苛立ちに戸惑う奴等に、後は留美がもう関わらないでくれと一言言えばミッションコンプリートだ。
一番の重荷を背負ってしまう大和に関しても、本物の大和は別の場所でボロボロになって倒れていたと言う体で俺達が抱えて連れ戻り、怪人が化けて人を襲おうとしていたと言う事にすれば追及は無くなるに等しい。
我ながら嫌な手を思いつくもんだ、納得してくれている連中がいるとは言っても、他の奴等から見たら眉をひそめたくなる様なやり方だろう。
ぶっちゃけ、最低と蔑まれる
だが、この行いで一人でも救われるヤツがいるなら、それはそれで正義のための行為だろう。
相手が下劣な事をやっているクチなら尚更だ。
まぁ、それはさて置いて、俺達も動くとしよう。
大志はアストレイの皆さんと一緒にキャンプ地に残って、肝試しに参加しない奴等の御守をするそうだ。
ホント、面倒見のいい奴だこって。
「よし、見つからないように動こう、盛り上げ役も俺達の役目だし・・・、沙希?」
動こうとした矢先、俺の隣にいる筈の先の姿が無かった。
振り向いてみると、沙希が俺達に背を向けて蹲っていた。
さっきまで大丈夫だったと思うんだが、一体どうしたんだ・・・?
「どうしたんだ、沙希?」
努めて優しい声色で、俺は沙希の肩に手を置いて彼女の顔を覗き込む。
「な、なんでもないよ・・・!そ、そろそろ行くんだね・・・?」
とびっきりの美人の顔には、何処か恐怖や怯えの色が見て取れる。
それはまるで、見えない何かに怯える子供の様な・・・。
というか、そんな震えた声で言われても、なぁ・・・。
「沙希、もしかして、お前・・・。」
その先を問おうとした時だった、沙希の背後の茂みがガサガサと大きな音を立てた。
「~~~ッッッ!!」
声にならない可愛らしい悲鳴を上げて、沙希は俺に飛び掛るように抱き着いてくる。
「さ、さささ、沙希さん・・・!?」
う、うぉぉぉぉぉ・・・!?
む、胸が・・・!普段から目のやり場に困るほど魅力的な沙希の巨乳が、抱き着かれているせいで俺の胸に押し付けられているぅぅ・・・!!
なんて至福・・・!いや、なんて拷問っ・・・!
2人きりの時ならいざ知らず、彩加もいる野外ってのは些か進み過ぎだって・・・!!
「ご、ごめん・・・!で、でも、やっぱりムリぃぃっ・・・!!」
「や、やっぱりって・・・、お前、まさか・・・?」
さっきから薄々は分かっていたが・・・、沙希は恐らく・・・。
「お前、ホラー系ダメなのか・・・?」
「うぅぅ・・・、そうなんだよぉ・・・。」
やっぱり、か・・・。
でもまぁ、沙希の可愛い面が見れて満足ですけどね・・・!!
「す、すまん・・・、もう少し考えればよかった・・・。」
沙希がそういうの苦手だって分かってたら、もう少しマシな方法で解決できるよう努力したんだが・・・。
せめて震えが止まるように、俺はヘタレそうになる心を制して、精一杯の優しさを籠めて沙希の背中をさする。
「は、八幡・・・?」
「大丈夫だ、俺が付いてる、沙希に危険が迫っても、俺が必ず護るから。」
だけど、ここでこうしているのも時間がもったいない。
この可愛くも美しい表情は俺が独り占めしときたい、もとい、留美の為に速く動かねば。
だから、沙希が怖いなら、俺は恐れずに進む。
恐れて慎重になる奴、怖がらずに大胆になる奴、そしてそいつらの手綱を握る奴、今ここにいる三人は最強にバランスが取れているじゃないか。
「そうだよ、沙希ちゃんが留美ちゃんを護りたいと思ったから、僕達は此処に居るんだ。」
彩加もまた、沙希の肩に手を置き、力強く笑んでみせた。
俺達三人で最強だと、何でもできると・・・。
それに気付いたか、沙希の震えが徐々に収まって行く。
そして、少し朱くなった顔で俺達を見た。
「もう、大丈夫、二人がいてくれるなら、怖くないよ。」
その言葉通り、沙希の表情に恐怖は窺えなかった。
独りじゃない、それが進む勇気になったのなら、それはそれで良い事だ。
「行こうじゃないか、あたし達の仕事、果たすためにね。」
「おう、科特部、出動だ!」
「うん!」
『この芝居がかった様なやり方、必要だったのか・・・?』
うるせぇX、気合入れんのに理由の一つもねぇよ。
まぁいい、俺達は俺達のやるべき事をやる、ただそれだけだ。
三人で頷き合いつつ、俺達は葉山グループ一行の死角になる場所を選び、尾行を開始した。
sideout
noside
八幡と沙希が彩加の前で抱き合っていた頃、今回の件のカギとなる大和は・・・。
「そろそろ、かな・・・?」
隼人や戸部、優美子から離れた樹の陰で、託されたダミースパークとババルウ星人のスパークドールズを取り出し、変身を行う。
『ウルトライブ!ババルウ星人!』
ダミースパークに読み込ませると、彼の身体を光が包み、その姿をババルウ星人へと変える。
『よっし、これで、俺の姿に化けるッと・・・。』
一夏に教えられた手順通り、擬態能力を使って元の自分の姿に戻る。
素直な戻り方をしたためか、盛られる事も無く、いつも通りの彼自身の姿となっていた。
「これで完璧っと・・・、戻るか。」
自分の顔を触って確かめつつ、彼は隼人たちの下へと戻る。
「大和、遅いし!」
「何処行ってたんだよー、もうすぐ小学生たち来ちゃうべー?」
「悪い、ちょっと気分が悪くなって、遠くの山見てたんだ。」
「何処の民間療法だよ・・・。」
そんな彼を見付けた優美子と戸部はどこに行ってたと言わんばかりに声をあげた。
彼女達は既に、大和から肝試しにおける、八幡伝授のいじめ撲滅法を伝えられている。
煉獄の女王と呼ばれる優美子ほどの、裏表の無い女がいじめという陰湿な行為を見て見ぬフリするなど出来なかった。
故に、彼女は戸部や隼人を巻き込んで、あまり関わりの無い八幡達、科特部の思惑に乗る事に決めたのだ。
因みに、大和が伝えたのは、自分達が直接脅すと言う手段であった。
この千葉村に来て以来、小学生の女子たちは馴染みやすい隼人たちに馴染み、まるで友達と話す様にタメ口で接するようになっていた。
詰まる所、礼儀を教えるために、優しさを一切出さずに脅し、留美が動くまで睨みを効かせ続けると言う物だった。
無論、本命の事については何も伝えていない。
念を押された事もあるが、それでも話して良い物とは思えなかったからだ。
「っと、そろそろ来るな、皆、手筈はいいな?」
遠くから小学生の女子の姦しい声が聞こえてくる事に気付き、隼人は表情を引き締める。
「(来たか・・・、タイミングを見計らって、やってやる・・・!)」
聞かれたら問題になる事間違いない事を考えつつ、大和は表情を引き締めた。
「あ、お兄さん達だー!」
「きゃはは!超普通のカッコしてる~!」
「もっとやる気出してよ~!」
距離が近いためか、少女たちはまるで馬鹿にするように笑った。
これから、何が起こるかも知らずに・・・。
「高校生なのに頭わるーい!きゃははっ!」
悪意はない、ただ純粋すぎるが故にその言葉は何の臆面も無く紡がれた。
だが、それは命取りでしかなかった・・・。
「あ?何タメ口キイてんだよ、お前?」
「チョーシこいてんじゃないよ?」
最初に動いたのは、戸部と優美子だった。
チャラ男と形容できる戸部と、美人ながらもキツめの容姿に加え、髪を金髪に染めている優美子が凄めばどうなるか、それは語るに及ばなかった。
「えっ・・・?」
つい数秒前まではしゃいでいた少女たちは、、その表情から笑みが消え、手に持っていた懐中電灯が落ち、足元を照らした。
昼間の優しい表情は何処にも無い。
ただ、脅す様な冷たい感情が見て取れた。
「つーか何?さっき超バカにしてる奴いたよね?あれ誰が言ったん?」
凍てつくように冷たく、威圧感に満ちており、今にも殴らんばかりの迫力があった。
「ごめん、なさい・・・。」
漸く、本来の関係を思い出したのか、絞り出すように謝罪の言葉を口にした。
謝れば済む、学校内では常識の事柄だった。
だが、それは所詮、仮初であっても友人と言う関係があればこそ成り立つものでしかなかった。
「あ?嘗めてんのか?おい?」
心底機嫌が悪いと言わんばかりの表情で、身を屈めて小学生たちの視線と同じ高さまで顔を持ってくる。
下手に見下ろされるよりも、目線を合わせられる方が恐怖もより大きかった。
「やっちゃえやっちゃえ、礼儀を教えるのもあーしらの役目ってか?」
それを更に唆す様に、優美子はもっと遣れと言わんばかりに言葉を紡ぐ。
脅かすためとはいえ、それは本心でもあった。
一時的とはいえど、上下関係は確かに存在する。
それを無視して馴れ馴れしくしてくる少女たちの姿に疑問を持っていたのも事実だのだ。
「どうします葉山さーん?コイツ等やっちゃって良いッスか~?」
この無礼者どもをどうするか、そう言わんばかりに、戸部は背後に控えていた隼人に問いかけた。
暗がりになっていたところから、灯りが照らせる場所に出て来た隼人の表情には、昼間と変わらない笑みが浮かんでおり、それを見た少女たちは、この場を諌めてくれるのではないかと淡い期待を抱き、その表情を明るくした。
だが・・・。
「そうだな、此処にいるうち半分は見逃してやる、残りの半分はここに残れ、誰が残るかは自分達で決めろ。」
その笑みもすぐに消え失せ、ただただ冷たい表情だけがあった。
最早助けは得られない。
それを悟った少女たちの表情には、絶望だけが見て取れた。
「ごめんなさい・・・。」
なんとかこの場を乗り切るためにも、少女たちは平謝りを続けた。
謝り続ければ何とかなる、甘い幻想でしかなくても、今の彼女達にはそうする以外の方法は無かった。
「謝ってほしいんじゃない、残れと言ったんだ、早くしろよ。」
その様子に呆れたか、それとも本当に急かしているのか、隼人は声色を更に険しくして脅しを掛けた。
「つ、鶴見・・・、あ、あんた残りなさいよ・・・。」
「そ、そうだよ、残りなよ・・・。」
「・・・。」
そこで矢面に立つのは、結局ハブられていて、尚且つ犠牲にするのに何のためらいも無い留美が犠牲になるのは必然だった。
留美もまた、そんな事分かり切っていると言わんばかりに、無言で隼人や優美子が囲う中心に入って行く。
「これでひとり、か・・・、なら後2人でちょうど半分だ、後30秒で2人決めろ、さもなければ、全員だな。」
追撃と言わんばかりに、隼人はタイムリミットを言い渡す。
まるで、断罪までのカウントダウンのように、ゆっくりと、それでいて重みを伴って・・・。
「あ、あんたが残りなさいよ・・・!」
「なんでよ!最初にバカにしたのアンタでしょ・・・!?」
誰が残るか、誰が悪いか。
それは、ある意味で避けられぬ光景だったのかもしれない。
誰もが皆、本来ならば見返りも無く他人の為に我が身を差し出す事などしない。
それこそ、我が身に変えても護りたいと思える家族や友人、自分が大切と思える本物だけなのだ。
しかし、今の彼女達の関係が本物かと問われれば、それは否と答えるしかないだろう。
結局は他人を虐げる事でしか団結できない関係しかない集団など、脆弱に過ぎる存在だった。
「で、でも・・・。」
「浅はかだな・・・。」
だが、所詮その程度で崩れきるとは思えない。
故に、大和は個々で手札を切った。
努めて平淡で、感情を感じさせない声で少女たちを見下ろした。
彼が見て来た怪人のように、感情を感じさせない目を、少女たちに向ける。
「や、大和・・・?」
「この程度で、人間が恐怖などするものか・・・、もっと・・・、もっと巨大な恐怖が必要だ・・・。」
唐突に大和の態度や雰囲気が変わった事に驚いたのだろう、隼人が震える声で彼に声を掛ける。
如何してしまったのかと、一体何が起きていると・・・。
「ど、どうしたし・・・?」
「そ、そんなセリフ、指示されてないべ・・・?」
予定外の言葉に取り乱したのは、優美子と戸部だった。
脅せと言われ、その台本通り実行していた。
「俺は誰からも指示されない、何故ならば、俺がそれを下すのだ、大いなる恐怖と、絶望と共に・・・!」
恐怖を煽るために、彼は月に向かって右手をかざす。
月光を浴び、それでババルウ星人の姿になる、その手はずだった。
その瞬間、月の周囲の空間がひび割れ、その空間より何かが落ちてくる。
『ッ・・・!!』
その場にいたすべての者が、その異形の登場に息を呑む。
意思を感じさせない白く濁った眼、全身に生える角や牙、そして巨大な爪。
そのどれもが、敵を倒す為だけに在るかのように存在する、まさに怪物と呼べるもの・・・。
それは巨大な爪を備える凶悪な怪獣、ケルビムだった。
「か、怪獣・・・!!」
「そ、そんな・・・!こんな所にまで・・・!?」
まさか千葉県外でも怪獣が現れるとは思っても見なかったのだろう、隼人や優美子、小学生たちの表情には恐怖に彩られた。
夜の暗闇に鬱蒼と生い茂る木々、それらすべての条件が逃道を封殺しているのだ。
逃げろと言われても、何処に逃げれば良いかも判らないだろう。
「(うぉぉぉい・・・!?怪獣出て来るなんて聞いてないぜ・・・!?いや、それどころか、俺が呼んだと思われてるよね・・・!?)」
だが、ケルビムの登場に一番驚いたのは他でもない、大和自身だった。
計画の主犯とはいえ、まさか怪獣が現れるとは思いもしなかったのだ。
脅すつもりで自身が怪人化する事は当初から予定には入っていた。
しかしながら、このように自分が怪獣を呼び寄せた様な構図になるなど、予想さえ出来なかった。
正直言って、どう対応すればいいのか見当も付かなかった。
「えぇい・・・!南無三っ・・・!!」
だが、このまま呆けている場合ではないと、彼は大きく頭を振ってケルビムの姿を見据える。
ここで逃げては八幡達に顔向けできないばかりか、大役を引き受けた自分の面目が立たない。
信じてくれた人の為に、彼は大きな賭けに出た。
自分がどこまでできるか分からない、それでも、自分の後ろにいる者達が逃げる時間稼ぎ位ならばと・・・。
「シュワッ・・・!!」
決然たる意志を籠めて腕を胸の前でクロスさせた直後、右腕を天高く掲げた。
その刹那、彼の身体を眩いばかりの光が包み込み、その身体を大きく変貌させていく。
あまりの輝きに、隼人たちは直視できずに目を瞑った。
その光が晴れ、直視できるようになった時、彼等の目の前には・・・。
「あれは・・・。」
「光の、巨人・・・?」
千葉市に現れる怪獣たちを倒し、町や人々を護る英雄、ウルトラマンギンガの姿がそこにあった・・・。
sideout
次回予告
偽物でも輝けるならば、誰かを護れるならば。
恩人のウルトラマンの姿を借り、彼は一人立ち向かった。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
比企谷八幡は大和に教わる。
お楽しみに