やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
side八幡
ケルビムを倒して早数日、合宿の最終日となる日がやって来てしまった。
あの後、奉仕部や葉山グループの連中がいるコテージで一泊した後、当初の予定通り戻って来たわけだ。
因みに、沙希は奉仕部の2人と三浦、そして海老名とかいう生徒と同じ寝所になったらしく、寝る間際まで雪ノ下と睨み合っていたそうな。
俺の方は戸部とかいうチャラ男が喧しくて眠れなかった事と、葉山が妙な事を言ってきた事以外なかったからよかったが、敵が多い方に行った沙希が不憫でならんよ。
尤も、4人とも上手くはぐらかしといたお陰で、何とか本題には触れられずに済んだから良しとしようじゃないか。
それはさて置き・・・。
この一週間、今まで以上に訓練を詰め込む形になったが、それでもこれ以上ないほどに充実していたし、何より、自分のスキルアップが目に見えて分かってもいた。
それぞれが不得手としていたモノが、他の3人のそれと見劣りしなくなり、それぞれが得意としていたモノは更に伸びていた。
例を挙げるとするなら、格闘技のバリエーションが少なかった俺と大志は繋ぎの技を覚え、光線技のキレも格段に増した。
沙希は格闘戦のセンスを活かし、マーシャルアーツなどの動きを汲んだ連撃を覚え、少なかった光線技も、キングジョーのスパークドールズを使いこなせるまでになった。
彩加もまた、強化フォームが無い中でも食らいつけるほどの速さを得て、課題だった耐久力の問題も解消されつつある状況にまでなった。
だが、俺達が得た成果はそれだけじゃなかった。
ウルトラ念力を発脛のように作用させる術、そして、サイコキネシスのように対象に働きかける術を学んだ。
その中でも最も大きい成果が、それぞれの光線を重ねて威力を増大させる合体光線だ。
これもまた、バラバラに打った時よりも何倍も強力な威力を発揮するが、それ以上に仲間との呼吸を合わせる事が何よりも重要になってくる。
これまで人と繋がれなかった俺達からしてみれば、これ以上ないほど大きい成果であり、成長の証じゃないだろうか?
信じるきっかけが無きゃ出来なかった事なのだから、感慨も一入ってなもんだ。
それはさて置き・・・。
俺達は今、合宿の閉会式的な事をしているんだろうか、アストレイの7人と向き合う様にして立っていた。
「4人とも、1週間の間ご苦労さん、合宿はこれで終わりだ。」
「よく耐えてくれた、こっちも教え甲斐があったと言う物だよ。」
先生の〆の言葉に続けて、コートニーさんも満足げに頷きながらも呟いていた。
その表情からは、俺達への期待が如実に表れていて、俺もむず痒くも、誰かに期待されている事で高揚していた。
「ホント、よく耐えられたよね。」
リーカさんの言葉に、俺達はこの一週間の訓練を思い出して青ざめる。
1日目は実力を測るための軽い(?)手合せだったが、二日目からは内容が大きく異なっていった。
2日目はセシリアさんとシャルロットさんが乗った2台のジープによる突進を避け続け、機を狙って受け止める訓練。
3日目は宗吾さんと玲奈さんが投げ付ける丸太を手刀や蹴りで全て弾き落とし、二人の内のどちらかに一発拳を当てる訓練。
4日目はコートニーさんとリーカさんとの光線技の訓練。
5日目と6日目はウルトラ念力の訓練と、実戦向けの体捌きの訓練。
今日は早朝から昼食までの6時間、ずっとメタフィールド内での戦闘総仕上げで〆だった。
後半は兎も角、前半の3日間は常軌を逸していた。
なんだよジープを受け止めろって、嫌がらせかなんかか。
ぶつかる寸前まで速度上げて突っ込んでくるのは鬼の所業としか言えんだろ。
でもまぁ、突進系の攻撃使ってくる敵に対する予防策と考えられるし、受け止めてからの反撃も出来ると考えたら納得できる、のか・・・?
丸太にしても、暖炉にくべる様の小さいやつじゃなくて、某コ〇ンドーが担いでる様なデカい奴だ。
直撃したらウルトラマンと融合している俺達でさえタダじゃ済まない速度で飛んでくるもんだから、最初の2時間は4人とも悲鳴を上げながら逃げ回ってたっけ・・・。
あれ、なんで涙なんか出て来るんだろ・・・、充実していた筈なのに・・・。
「俺達が教えられる範囲はほぼ全て君達に教えた。」
「後は、自分達で工夫してやり易いようにやってみなさいな、その方が伸びも違ってくるから。」
宗吾さんと玲奈さんの言葉に、俺は現実逃避擬きから現実に引き戻される。
玲奈さんの言葉の意味は推して測るべしだろう。
自分に合う戦い方は人に教えられるもんじゃない、自分達の経験の積み重ねで得ていくモノだと、彼女はそう伝えたいのだろう。
「特に八幡君と沙希ちゃん、二人のウルトラマンに秘められてる力はまだまだ計り知れない、その力を呼び覚ませば、どんな敵にも負ける事なんて無いよ。」
「彩加さんとXさん、そして大志さんも、己が中にある力を信じ、これからも戦って行ってくださいな。」
シャルロットさんとセシリアさんの、背を押す様な言葉に、俺達は強く頷く。
今は教えを乞い、護り導いて貰っている立場であったとしても、何時かはこの偉大な人達の隣に立ち、本当の仲間として、俺達4人が迎えられる事を現実にするためにも。
「「「「はい!」」」」
だから、俺達は揃って頷き、決意を籠めて返す。
きっと、何時の日か、必ずそれが実現できると確信して・・・。
sideout
noside
「送っていただいて、ありがとうございます。」
それから数時間後、八幡達4人は一夏が運転する車で八幡宅まで送られた。
既に日は暮れ、時刻は夕食時になっているが、何故沙希達も八幡宅の前にいるのかと言うと、八幡が沙希達を誘い、自分の家で夕食を作らないかと誘ったのが始まりだった。
既にそれなり以上の関係を築いているからこそ、八幡も誰も招いた事の無い自宅に招き、食事を共にすると言う提案をしたのだ。
無論、彩加はそれを断らなかったし、沙希と大志もまた、それを快く受け入れていた。
「あぁ、新学期までもう1週間だ、夏休みに悔いを残すんじゃないぞ、じゃあな。」
青少年たちの青春に自分の出る幕は無い、それを悟っている一夏は教師とは思えない背の押し方をして颯爽と去って行く。
彼も、4人の仲が更に深まり、掛け替えの無い物になればいいと、個人的に考えているのだ。
そこに教師だからという立場を持ち込む程、彼は無粋では無かった。
「・・・、あの人、ホントに教師かよ・・・、女一人を男の家に連れ込もうとしてるのに・・・。」
「ふふっ、まぁ、良いんじゃない?潜入してるだけって言ってたし?」
その気遣いを分かっていながらも、立場的にどうなんだと苦笑する八幡も、まあいいじゃないかと言わんばかりに笑う沙希も、今の状況に何処か高揚している事が窺えた。
まだ互いの想いを伝えていないとはいえ、好き合う者相手の家に来ること、招く事になれば、青春真っ只中な二人にとっては記憶に深く刻まれるであろう事には間違いなかった。
「お兄さん、姉ちゃんを家に招くってもしかして?」
「そういう事だよね、八幡♪」
2人の想いに気付いている彩加と大志もまた、からかいを向けるもその口調は柔らかかった。
彼等も、八幡と沙希には結ばれて欲しいという想いを向けており、故に、一番近くでその光景を見ていたいのだろう。
「おうよ、食材も余ったの貰ってきたし、早く入って作ろうぜ。」
そのからかいにも動じる事無く、八幡は笑みを浮かべ、沙希を連れて自宅へと入った。
「うん、楽しみにしてるよ。」
その想いに触れて、沙希も表情を綻ばせて後に続いた。
二人の間には確かに在る想いと、絆が見え隠れしていた。
「たでーまー、1週間ぶりー。」
八幡がドアを開け、3人を中へと招いた。
「お兄ちゃん・・・!お、お帰り・・・!」
「「「御邪魔します。」」」
だが、そのタイミングが悪かった、1週間ぶりに戻った兄を迎えようとした小町と、その3人がかち合ってしまった。
「た、大志君・・・?それから、誰・・・?」
「あ、比企谷さん、どうもッス。」
大志とは面識があっても、沙希と彩加とは初対面であるために困惑する小町とは対照的に、大志は何処か当然の事かと言わんばかりにしれっと挨拶を返していた。
余裕の無い者とそうでない者、その差が如実に表れていた。
「おう小町、今帰った、ついでにキッチン使うわ。」
それに気付かない八幡は、小町の驚愕を無視してさっさとキッチンを目指し、さっさと行ってしまう。
気にする事でもないとでも言う様に、その声色は平淡且つ、何時もと変わりないものだったのだ。
「ちょ、ちょっと待って・・・!?なんで大志君がここに!?て言うか、あとの2人は何!?」
だが、小町にとっては。八幡が自宅に誰かを連れて来るなど想像もしなかった事態である。
故に、彼女は血相を変えて八幡に詰め寄った。
一体何があったのか、自分の知らない所で何をしてきたのか。
変わってしまった兄への、必死の問いが口を突いて出る。
「何って、俺の親友たちだよ、沙希と彩加は俺をしっかり見てくれるし、大志ともしっかり話してみたらスゲェ良いヤツでな、今日は四人で飯食おうって話になったんだ。」
その問いに対して、八幡は熱の籠った声で語ると同時に、何処か煩わしそうな表情も見せる。
いや、事実煩わしく感じているのかもしれない。
何せ、突っかかってくるだけでその理由もサッパリわからない、故に八幡もまた苛立ちを募らせていたのだ。
「いきなり連れてきて驚いただろうけど、説明なんてなくても良いだろ、見りゃ分かる事だしな。」
「ッ・・・!!」
分かってくれるだろうと言う、ある種の押しつけのようにも取れる八幡の言葉に、小町は目を見開いて驚いた。
家族に対する無遠慮故に、壁を感じさせない様で、その実はそうでない八幡の言葉に、小町は怒りを覚えた。
勝手な事を言ってくれるな、これまで自分の事を散々蔑ろにしておいて、今度は自分よりも何処の誰かも知らない様な者を優先するなどあってたまるか。
故に、小町はその平手で八幡の頬を打つ。
「ッ・・・!何しやがる・・・!!」
その行為の理由に見当がつかない八幡はカッとなり、凄まじい形相で小町を睨みつける。
その表情は、家族である小町でさえ見た事が無く、ただただ、純化された怒りだけが現れていた。
その怒りの理由は他でもない、小町の殴打以外になかった。
これまで、小町に何を強請られようとも脅されようとも、決して小町に対して怒りを見せなかった八幡が、まるで射殺す様な視線を自分に向けてくる。
たったそれだけの事でも、小町にとっては大きなショックであったに違いない。
八幡は、既に小町の知る兄でなくなっていると・・・。
「知らないッ・・・!知らないもんッ・・・!!」
その事実に、置いて行かれてしまった恐怖感に耐え切れなくなった彼女は、目元に涙をためて外へと駆け出した。
「あっ!?」
「ちょ、あんた・・・!?」
自分達を押しのけるように出て行った小町を引き留めようと手を伸ばす。
だが・・・。
「ほっとけ!ちょっとしたら戻ってくるだろ。」
叩かれた頬をなぞりながらも、八幡は吐き捨てるように制止する。
その表情には訳が分からないと言わんばかりの困惑と苛立ちを浮かべ、さっさとキッチンへと引っ込んで行く。
その顔に、妹を心配する表情は一切なかった。
「お兄さん、気持ちは分かるッスけど・・・、夜に女の子一人は危ないッスよ。」
「そうだよ、僕と大志君で探してくるから、ここで待っててよ!」
小町の言動、行動に思う処は有れど、同じく兄弟を持つ者としての察する部分があったか、大志が探さなければと言わんばかりに小町の後を追う。
一人ではマズイと思ったか、彩加もまた彼等を追い掛けて走る。
年上として、彼等を放っては置けないのだろう。
「彩加・・・、大志まで・・・。」
「ホント、あの二人も大概お人よしだよね。」
荷物を置き、玄関から飛び出して行く友の姿を見た八幡は、どうしてそこまでしてやるんだと言わんばかりに呟いていた。
自分の妹が勝手に飛び出して行っただけなのに、どうしてそこまでする意味があるのかと。
そんな彼の困惑に気付きながらも、沙希は苦笑しながら八幡に近付く。
慰める訳ではなく、少しだけ叱る意味も籠めて・・・。
「多分さ、あの子は寂しかったんだと思うよ、今まで一番近くにいたはずの自分が、今じゃ蚊帳の外で、大好きなお兄ちゃんはこんなどっかの女連れてくるまで変わっちゃったんだし?」
「沙希・・・?」
その声色は優しくも諭す色があり、八幡は彼女をハッとした表情で見た。
沙希の目は優しくも真っ直ぐ八幡を見据えており、自分で状況を見詰めてみろと暗に語っていた。
「八幡は前に言ってたよね、家に誰かがいない事は寂しいって、でも、あたし達といるようになって、あの子はまた家で独りぼっちじゃない?」
「ッ・・・!」
その問い掛けに、八幡は頭を叩かれたような衝撃を受けた。
自分がこれまで、小町を孤独にさせないようにしてきた事を、分かり合える友、信頼できる師、そして惹かれあった相手に割いてしまったが故に疎かにしてしまったと気付いたのだ。
合宿に行く前も、寂しさからくる小町の言葉に、他の者達との関係と自身の力の強化を優先させるあまり、ついつい拒絶を示してしまったのだ。
「八幡だけが悪いって訳じゃ無いよ、ただ、タイミングが悪かっただけ、だから、あの子の事、追い駆けてあげな。」
だが、拒絶されるだけが関係では無い。
今の自分達のように、一度すれ違っても、もう一度分かり合える。
だから、八幡と小町にも、もう一度向かい合って話して欲しいのだ。
弟妹を持つ姉の身として、家族を何よりも大切に思う者として。
そして何より、比企谷八幡を想う、一人の女として。
「分かったよ、沙希・・・、ゴメン、それと、ありがとな・・・。」
「ん、ならさっさと行くよ、あたしも手伝うからさ。」
気恥ずかしそうに笑う八幡の背を押し、沙希は早く行くよと言わんばかりに彼の手を取る。
それに応じ、八幡もまた手を握り、玄関の外に足を向けた。
嘗てと同じ様に。
自分を見てくれていた、掛け替えの無い妹と、今一度分かり合う為に・・・。
sideout
次回予告
絶望に打ちひしがれる小町の前に、その魔の手は迫る。
彩加は彼女を救えるだろうか。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
戸塚彩加は闇を知る
お楽しみに