やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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戸塚彩加は闇を知る

noside

 

どれだけ走っただろうか。

家を飛び出した小町は、気付けば公園の前にいた。

 

何の変哲も無い、ただ何処にでもありそうな公園だが、彼女にとってはそうではなかった。

 

そこは嘗て、小町が一度家出をした際に、迎えを待っていた場所であった。

 

自宅からは自転車でも15分は掛かる距離にあるため、それこそすぐ来れる様な場所では無い。

だからこそ、家出という名目で来るには最適な場所かもしれないのだが・・・。

 

何かを思い立ったか無意識か、それとも引き寄せられたか、小町は公園内に足を踏み入れ、置かれていたブランコに腰掛ける。

 

「お兄ちゃん・・・。」

 

彼女は俯きながらも、小さく兄を呼ぶ。

 

嘗て、小町が家出したと分かった八幡は、息を切らし、必死になって彼女を迎えに来た。

 

だから、今回もきっと迎えに来てくれる、そう信じたかった。

 

だが、思い返されるのは4年前の八幡が浮かべた表情では無く、つい先程の、怒りに満ちた瞳と表情だった。

 

「どうして・・・?どうして、そんな顔するの・・・?」

 

自分の知っている兄、八幡は小町に対して怒りと言うモノを向けたことが無い。

 

喩えどれだけなじろうともこき使おうとも、嫌そうにしながらも従っていた。

故に、小町は兄にならば気兼ねなく甘えられるようになったし、傍に居られた。

 

人との壁を作り、捻くれていたとしても根は優しい兄の事が、小町は好きだったのだ。

 

だが、今の兄はまるで別人だった。

休日になれば自室に引き籠って出て来ず、誰とも関わろうとしなかった事が嘘のように外出する様になり、何処か明るくなったようにも見た。

 

だが、それだけならば、ただの心境の変化で片付けられたし、トラウマを克服できたと喜ぶべき事だ。

 

しかし、残酷な事に、それだけでは無かったのだ。

 

八幡は自分を蔑ろにし、あまつさえこれまで向けた事の無い怒りも向けてくる。

 

それは小町が望んでいた変化では無かった。

 

自分が知っていた兄は、少なくとも他人に対して攻撃的では無かった。

自分が何をされようとも、人を傷付ける様な人間では無かった。

 

喩え捻くれていても、優しい兄が好きだった小町にとって、その変化は受け入れられなかったのだ。

 

「あの人だ・・・、あの人のせいで、お兄ちゃんは・・・!」

 

何故変わってしまったのか、何が兄を変えてしまったのか。

疑問が怒りへと変わって行く昏い思考の中で、小町は兄を悪い方向へと変えた男の存在に行きつく。

 

その男は、織斑一夏と言う教師だ。

 

彼が八幡に近付いた本当の目的は分からない、だが、小町の女としての勘が、良くないモノを感じさせてならなかった。

 

彼と関わって以来、八幡はよく笑う様になったし、何処か饒舌になったようにも取れる。

だが、攻撃的な態度もまた、加速度的に顕現していたのだ。

 

つまり、八幡は一夏の影響を強く受け、小町の望まぬ方へと進んで行ったとも取れるのだ。

 

「ゆるさない・・・!絶対に許さない・・・!!」

 

彼を排さなければならない。

理由も無く、ただ沸々とそんな想いが湧きあがる。

 

それが正しいかどうかなど関係ない、自分を見てくれた兄を取り戻すための、唯一の方法だとしか思えなかった。

 

『その願い、叶えてやろうか・・・?』

 

「えっ・・・?」

 

唐突に放たれた声に、小町は弾かれた様に顔を上げる。

 

顔を上げた目線の先には、黒いローブの様なものを被った女が居た。

顔も隠れているせいで人相までは窺えなかったが、その雰囲気は良くない何かが感じ取れた。

 

『さぁ、受け取るがいい、この力を使い、望みを果たせ。』

 

その女は、闇に包まれた短刀、ダークスパークに1体のスパークドールズを読み込ませ、闇に包んだスパークドールズを渡そうとする。

 

「貴女は・・・?」

 

何をさせようと言うのだと、小町は訝しむように尋ねる。

 

だが、そこには不審に思うよりも先に、兄を取り戻せるかもしれないと言う期待の方が勝っていた。

 

『恐れる事は無い、お前はお前の気持ちを優先させると良い、それが人間として正しい感情だ。』

 

その女は小町に顔を寄せ、やってみせろと言わんばかりに歪んだ笑みを浮かべる。

 

まるで唆す様に、その声は小町のひび割れた心にスッと染み渡る。

 

「ッ・・・!」

 

それが自分の意に沿っている事に気付いた小町は、躊躇いながらもそれを取ろうとした。

 

その時だった。

 

「それを取っちゃダメだ!!」

 

後を追っていた彩加と大志がそれを制止する。

 

その行為の本当の意味を知っているから、闇に落す為の行為だと気付いていたから。

 

「大志君・・・!それとっ・・・!!」

 

だが、今の小町にとって、大志と彩加の存在もまた、一夏同様目障りでしかなかった。

 

自分から兄を取り上げた元凶ともとらえているのだ。

 

「また・・・!小町からお兄ちゃんを取るつもりなんだッ・・・!!」

 

「なに言ってるんスか・・・!?それとこれとは違うッス!!」

 

小町が怒りの表情を見せた事に戸惑いながらも、大志は必死に止めようとする。

 

このままではマズイことになる、直感がそう告げていた。

 

「誰にも邪魔はさせない・・・!お兄ちゃんは小町だけのお兄ちゃんなんだからぁっ!!」

 

「小町ちゃん!!ダメだッ!!」

 

彩加が止めに掛かるがもう遅い。

 

小町は闇に塗れたスパークドールズを胸に抱き込む。

 

「アァァァァァァァァァッ!!」

 

その直後、小町の絶叫と共にスパークドールズを包んでいた闇が彼女を呑み込み、その姿を変貌させていく。

 

「小町ちゃん!!」

 

「比企谷さん!!」

 

その姿はやがて青い巨人へと変わるが、その体色も穢れて行き、遂には闇の様な黒と、赤い血の様なラインが走った姿となる。

 

その姿こそ、闇に支配されたウルトラマンアグルの姿、アグルダークだった。

 

『フハハハッ!!こうも簡単に墜ちてくれるとは思いもしなかったな!人間、なんとも操り易いモノだ。』

 

それを見ていた黒フードの女は哄笑し、愉悦に口元を歪めていた。

 

計算通り、いや、それ以上に事が上手く運んでいる事が堪らなく愉快なのだろう。

 

「貴女は一体・・・!彼女に何をしたッ!?」

 

その女が元凶であると気付いたのだろう、彩加は怒声をあげる。

 

直感で感じ取ったのだろう、その女の正体が只者出ない事に。

 

『ウルトラマンX、それにウルトラマンヒカリ・・・。』

 

「「ッ・・・!?」」

 

自分達が変身するウルトラマンの名を、何故その女が知っているのかという不信感に、彩加と大志は身構える。

 

得体の知れない感覚が、彼等のウルトラマンとしての本能に危機を報せ、彼等に闘気を出させるまでに至った。

 

その闘気を受けて、寧ろ気を良くしたか、女はフードに隠れ切らなかった唇を三日月形に歪める。

 

『我が名は、ダークルギエル、闇と時の支配者なり。』

 

『ダーク、ルギエル・・・?聞いた事の無い名だ・・・。』

 

その女が名乗った名に覚えが無かったか、Xは訝しむように呟いていた。

 

ウルトラマンとて、一度も戦った事の無い敵や、仲間からの情報に無い存在は知らずとも当然だった。

 

『光の勇者の力、どれほどのモノか見せて貰おう、我の復活の為にも、な・・・。』

 

その言葉を残し、その女は闇に溶けるように消えていった。

 

「待てっ・・・!逃げられたっ・・・!」

 

「彩加さん、今はあっちを何とかしないと・・・!!」

 

追いすがろうとする彩加に対し、大志はそれどころじゃないと言わんばかりに制止する。

 

その先には、ハンドスラッシュの光線を放ちながらも、悠然と街を蹂躙する黒の巨人の姿があった。

 

あの女の事も気になる所だが、今はそれよりもやる事が有る。

 

あの黒い巨人を止め、もう一度少女を兄と向き合わせてやる事、それが自分達がすべき事だと。

 

「行くよ、X!大志君!!」

 

「はいっ!」

 

『勿論だ!ユナイト!!』

 

彩加の掛け声に応じ、大志とXは臨戦態勢に入る。

 

「エックスーーーッ!!」

 

「ヒカリーーーッ!!」

 

今は自分達の目の前にある脅威を鎮め、開放しなければならないと・・・。

 

sideout

 

side八幡

 

「小町ーッ!何処にいるんだーッ!?」

 

あれから数十分、小町が行きそうな場所をしらみつぶしに当たりながらも、俺は息を切らして街を走る。

 

少し前までの俺なら、シスコン根性丸出しで小町の思考トレースも楽に出来たモンだが、今はすっかりそれも衰えてしまったみたいだ、どこに行ったか皆目見当も付かない。

 

だが、それでも見付けてやらなければ。

俺が接し方を間違えたせいで、小町は傷付いたんだ。

 

それは、俺の間違いのせいだ。

 

「八幡!どうだった!?」

 

家から一番近い公園に差し掛かった時、俺と同じく小町を探してくれている沙希と合流する。

 

自分にも責任の何十分の1はあると感じているのだろうか、少し表情は硬い。

 

「全然だめだ、何処行っちまったんだ・・・!!」

 

手掛かりは無し、昔と同じ様にはいかないか・・・!

 

全く見当たらない事に焦りを感じながらも、俺は拳を握り締める。

 

「くそっ・・・!俺のせいで・・・!」

 

俺がちゃんと向き合ってなかったせいで、小町に押し付けじみた事をしたから、小町を傷付けてしまった。

 

謝らねぇと、これまでの事を精算しないと、向き合えない気がした。

 

だから、一刻も早く見つけ出す、それが今の俺に出来る唯一の事だった。

 

「落ち着きな、八幡だけが悪いって訳じゃ無いよ、先生もあたしも彩加も、八幡といることばっかり考えて、他の事蔑ろにしちゃってたしさ。」

 

沙希が慰めるように言ってくれるけど、俺の焦りはまだ晴れない。

だって、沙希や先生が悪い訳じゃ無い、俺が悪いんだから。

 

焦りで目を背けてしまった俺の顔に、沙希の手が伸び、頬に触れて視線を合わせるようにしてくる。

 

「独りで抱え込むんじゃないよ、アンタも小町も、結局似てるんだし、話し合えばきっと分かるから。」

 

まるで子供に言い聞かせる様なやり方だけど、不思議と嫌な感じは無かった。

 

ただ、スッと俺の心に滲みこんでくる。

 

一人では出来ないこと、こんな焦った状態で、小町の心に向き合ってやれるのか。

改めてそう突き付けられている様にも感じ取れた。

 

「すまない・・・、らしくなかった、よな・・・。」

 

「それだけ心配してるんでしょ?良い事だよ。」

 

謝る俺の頭を、沙希は慰めるように優しく撫でてくれる。

状況が状況なだけに不謹慎だとは思うが、それを嬉しく思う自分がいるのを、俺は否定したくなかった。

 

なにせ、これも俺が手に入れた本物に変わりは無いのだから。

 

そう思った時だった。

 

心臓を鷲掴みにされたような嫌な感覚が俺達の肌を撫ぜた。

 

「「ッ・・・!!」」

 

ヤプールとは異なった、純粋な闇の波動に、周囲を警戒するように見渡した。

 

一体何が来るのか。

これまでよりも強い闇の気配は、彼等に恐怖と警戒を抱かせるには十分すぎた。

 

「何だ・・・?何が来る・・・!?」

 

「よりによって、こんな時に・・・!!」

 

なんと間の悪い事か、よりによって小町が外に出てるって時に・・・!!

 

歯がみする俺達を嘲笑うように、それは姿を現した。

 

だが・・・。

 

「そんな・・・!?」

 

「あれは・・・!?」

 

ソイツは、怪獣では無かった。

黒い身体に血のように走る赤いライン。

 

色を度外視してみれば、その姿は・・・。

 

「「ウルトラマン・・・!?」」

 

俺達の見た事の無いウルトラマンは、まるで散歩でもするように街を悠然と歩く。

 

だが、それだけでは済まなかった。

奴はハンドスラッシュの光線を放ち、次々と関係の無い建物を壊していく。

 

それはまるで、さながら怪獣と何ら変わりない様だった。

 

「やめろ・・・!ウルトラマンの力を、そんな事に使うんじゃねぇ!!」

 

そんな事の為に、この力はあるんじゃない!

護るべきモノを護るために、ウルトラマンは俺達に寄り添ってくれているんだ!!

 

その思いが通じたか、進撃するその巨人の前に、彩加のXと大志のヒカリが現れ、組み付くようにしてその動きを止める。

 

だが、何かがおかしい。

Xもヒカリも、何処か躊躇するかのように黒い巨人の攻撃を避けるか、払うかしていてまともに攻撃をしようとはしていなかった。

 

「何をやってるんだ・・・、彩加、大志・・・?」

 

2人の意図が掴めずにやきもきさせられる俺達の前で、黒い巨人は血のように赤い光の剣を発振してXとヒカリに斬りかかる。

 

ヒカリはナイトブレスからナイトブレードを発振して何とか渡り合うが、剣の技を持たないXは徐々に押され始め、遂には袈裟斬りのように大きく胸部に直撃を喰らわされていた。

 

「「彩加っ!!」」

 

こうしちゃいられねぇ、彩加と大志に何があったかは知らないけど、友達がやられそうになっているのをみすみす見過ごせるかッ!!

 

「八幡君!沙希ちゃん!!」

 

俺達が変身アイテムをそれぞれ取り出した時だった、一台の白い車から降りてきた先生が俺達の所にやって来た。

 

何時ものバイクではなく、俺達を送ってくれた後の車で来たと言う事は、俺達を送った後、店に戻るまでの間にアイツを見て、俺達に警告を飛ばすために来てくれたんだろう。

 

「アイツはウルトラマンアグル、闇に支配されているが光の巨人だ、格闘戦の能力はかなり高い、特にあの剣には気を付けろ。」

 

アグル、強そうな名前だこって・・・。

ヒカリの巨人も、闇に取り込まれたらあんな風になっちまうのか・・・。

 

だったら、早く倒して開放してやらねぇとな。

 

「こっちでセシリアを呼んでおく、浄化しきれないと判断したら加勢させるからな。」

 

「「分かりました!!」」

 

油断するなと言わんばかりの先生の言葉に返しつつ、俺達は変身プロセスに入る。

 

アストレイの皆さんの力を借りずに、コイツを倒せたなら、俺はまた強くなったって事だ。

 

小町ともう一度向き合うためにも、この脅威を打ち払う!!

 

「ギンガーーーー!!」

 

「ビクトリーーー!!」

 

それが、ウルトラマンとしての、俺の役目だッ!!

 

sideout




次回予告

闇に閉ざされた心には、光の輝きさえ届かない。
抉じ開ける事は叶わないそれを、彩加は如何するのか。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

戸塚彩加は虹の輝きを掴む 前編

お楽しみに

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