やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
side八幡
弄りに弄られた初日が終わり、明けた翌日の最終日、一般開放の日と相成った。
今回は受験生でもある大志と小町を呼び寄せ、文化祭を回る約束をしていたため、俺と沙希、そして彩加と大和は校門前にて弟妹ズの到着を待った。
因みに、昨日はそのまま沙希と一緒に色々見て回って、後半は昼飯がてらレイスタで駄弁ってたなぁ。
その時に、妙に艶々したリーカさんと雪ノ下の姉ちゃんに引き摺られているコートニーさんが帰って来た時は、一体何があったと焦ったな・・・。
それはさて置き、昨日は実に幸せな一日でしたよ、えぇ。
何せ、沙希と二人っきりの昼食やら、膝枕なんてのも体験できたんだからな!
何も言わなくてもお分かりだろう、ホント、幸せすぎて明日死ぬんじゃないかと思いましたよ、えぇ。
「お兄さーん!」
「沙希さーん!彩加さーん!!」
そんな事を思い出しながら待つ事数分、小町と大志がこちらに走ってくる。
つか脚早っ、って、ウルトラマンと同化してりゃ当然か・・・。
「おう大志!待ってたぜ。」
「小町もよく来たね、今日は楽しんで行きなよ。」
それぞれ、歓迎するのが自分の弟妹じゃない所が面白いな。
まぁ、そんな事はどうでも良いとして・・・。
「あ、大和さん御久し振りです。」
「川崎さんの弟君か、千葉村以来だね。」
何時顔見知りに・・・、あぁ、俺と沙希が気絶してる間にコミュッたのね・・・。
ホント、コミュ力高い奴は羨ましいぜ、今となっちゃな・・・。
「そんな事より!早く見て回りましょうよ~!小町、ずっと楽しみにしてたんですっ!!」
「あはは、嬉しそうにしてくれるなら、僕も頑張った甲斐があったよ。」
小町の、興奮を抑えきれないと言う様な様子に、彩加は微笑みながらも胸を張った。
それだけ、成功までこぎ着けられたと言う達成感が強いのだろう。
まぁ、俺達も彩加に感謝しなければならない部分は多々あるから、その気持ちも分からなくはないな。
「それじゃ、時間も少ない事だし、行くとするか。」
取り敢えず、案内すべき所は昨日の内に下見しておいたし、目玉のプログラムの開催時間も調べておいた。
案内する事に困る事は無いだろう。
一先ず、案内するのはウチの部の展示で良いだろう。
ウルトラマンとしての戦闘経験に乏しい小町には、この展示を見る事も良い勉強にもなるだろうからな。
何せ、一度倒したとはいえ、戦っていない相手もいるのだ。
戦い方を図るにも、データは多いに越した事はないのだから。
俺の先導に従い、大志たちもまた後に続く。
中学とは違う、高校の文化祭と言うものを、今後の選択の為に、その目に焼き付ける為に・・・。
sideout
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「すっご・・・!」
校舎の一角にある教室にて、科特部の展示を見た小町は、その展示内容に感嘆の声を漏らしていた。
これまで千葉に現れた怪獣の全てと、姿を現したウルトラマンの写真と推定されたスペック、そして、コードネームが展示されていた。
それらは全て、アストレイメンバーが持ち回りで撮影した物であり、どれも一般には出回っていない様なアングルで撮られていた。
「凄いですね・・・、ヒカリの写真まで撮っているなんて・・・。」
驚いたのは大志も同じだった。
まさかここまで鮮明に、自分達の活動が記録されているとは思いもしなかったのだから。
「し、シルバゴンも・・・、あるんだ・・・。」
黒歴史を穿り返された心持になった大和は、少ししょんぼりした様に、後悔と羞恥をその顔に滲ませていた。
無理も無い、何せ、自分のせいで街が壊れてしまったなど、思い出したくも無いだろう。
だが、彼もそれで変われたのだ。
間違いを起こしても、止めてくれる人がいた、変われる切っ掛けをくれた人がいた、それを知れただけで、彼は十分だったに違いない。
「大和さんも、そうだったんですか・・・?」
「まさか、君も・・・?」
闇に囚われた過去がある事にシンパシーを覚えたか、小町と大和はしみじみとした様子で、何故か固い握手を交わした。
お互い、もう間違えない様にしよう。
そんな感情が見て取れるようでもあった。
「二人ともなにやってるんだい?」
そんな彼等の様子を理解出来なかった沙希は、自分が戦ったエレキングやネオジオモスなどの写真を手に取りながらも、少しおかしそうに突っ込んでいた。
友人と認めた男と、彼氏の妹がなにやら楽しそうにじゃれている様に見えれば、それはそれで可愛らしいとさえ思うだろう。
「いや、操られた者同士のシンパシーというか・・・。」
「もう負けないぞって言う戒めと言いますか・・・。」
「なるほど・・・。」
何気ない調子で聞かれたが、本人達には重い話題だった。
大和と小町はどんよりとした雰囲気を醸し出し、それをみた八幡達も、妙に納得したと言わんばかりに頷いた。
誰にだって間違いは起こり得る、だからこそ、それを戒めようとする大和と小町の姿が、たくましく見えたのだろう。
「まぁなんだ、喩えどんなに昏い闇に落ちようとも、俺達が何度でも助けるさ、絶対にな。」
その心を知り、次に同じ事になっても絶対に助ける、八幡は何の迷いも無くそう答えた。
仲間だけは必ず、何があっても護るし、どんな闇に呑み込まれようとしていても救い出す。
奇しくもそれは、彼の師である一夏が掲げる信念と、まるで同じものだった。
「比企谷君・・・!」
「カッコいいコト言っちゃって、そういうトコ、好きだけどさ。」
感激する大和が表情を輝かせ、熱を籠めて語る八幡にベタ惚れな沙希が頬を朱くしながらも呟く。
この二人は、何処までも彼を信じているが故の反応なのだろう。
「お兄さんは凄いけど、俺も負けてられ無いッスよ。」
「そうだよ、小町達も負けてないんだからね!」
「あはは、八幡のそう言うトコ、ホントに良いね。」
それに負けじと追い付こうとするのが大志や小町であり、それを近くで見守りたいのが彩加だった。
彩加とて、八幡に負ける気は更々無いが、それでも誰かの変化を見守りたい、そう言っている様にも思えた。
様々な困難を乗り越え、結ばれ、育まれた絆が、彼等の間には確かに存在している様に見えた。
「おう、それじゃ、次行くぞ、演劇でも見に行くか。」
「賛成!」
素面でそれを言ってしまった事がほんの少し気恥ずかしかったか、八幡は少しだけ顔を朱くして次の場所へと向かおうとする。
そんな彼を追い、小町達も後に続こうと教室から出ようとした。
その時だった。
「きゃっ・・・!?」
「うわわっ!?」
廊下をかなりの速さで走ってきた一人の女子学生と、小町がぶつかってしまい、不意打ちだった事もあって、小町は大きく後ろに倒れ込む。
しかし、彩加がすんでの所で支えに入り、小町の身体を優しく押し止めた。
「小町ちゃん、大丈夫だった?」
「は、はい・・・!あ、ありがとうございます・・・!」
その彩加の姿がカッコ良く見えたか、小町は顔を朱くし、彩加から顔を逸らしていた。
トキメキloveハートが炸裂してしまったのだろう、魅力的な異性にドギマギする年頃の少女らしい表情がそこにはあった。
だが、問題はそこでは無い。
「おいアンタ!廊下は走るんじゃねぇ!!」
妹にぶつかった女子生徒に、八幡は声を張り上げて注意した。
ただでさえ出入り口や曲がり角の多い校舎内で、しかも今は文化祭で人も多い。
そんな中で、全力疾走に近い速度で走れば何れどうなるか、考えるまでも無いことだった。
「ッ・・・!!」
その女は体勢を崩していたが、何とか踏ん張り、彼等に振り向きながらも鋭い目付きで睨みつけ、再び走って行ってしまう。
「今のは・・・、相模さん・・・?」
「あの表情は・・・。」
その女に見覚えのあった大和が呟き、彩加がその表情に見当がついた様に表情を硬くする。
南の顔に在ったのは焦り、怒り、そして、憎悪の闇。
それが何に対しての闇なのかは分からなかったが、良くない物なのだけは、彼でも分かった。
「なんだアイツ・・・、感じ悪いな・・・。」
詫びの一つも無い事に気を悪くしたか、八幡と沙希は顔を顰めた。
謝ってほしいとは思っていないが、礼儀、マナーとしての詫びは必要ではないか、そう言いたいのだろう。
「(八幡・・・、沙希ちゃん・・・、あれに気付いていないの・・・?)」
彼女の中にある闇に、気付いている様な素振りを見せない八幡と沙希に、彩加は少しの違和感を覚える。
あれほど育った闇を、鍛えてきた八幡と沙希が見落とす訳がない、だからこそ、わざと止めようとしていないのではないかとさえ勘ぐる程だった。
「(仲間は必ず護る、でも、それ以外は・・・?)」
先程、八幡は仲間はどんなことが有っても必ず救う、護ると宣言した。
それは、彩加から聞いても頼もしく、心強い事だとは感じていた。
だが、彩加は気付いてしまった。
八幡が、仲間以外について、全く言及していない事に。
つまり、それ以外の関係の無い人間の事など眼中にない、それは、救う対象では無いという事を、暗に語っている様であった。
「(それ以外は、全て敵・・・?)」
そこまで極端な思考は持っていないと信じたい、だが、どうも自信が湧かないあたり、怖がっている自分がいる事を自覚したのだ。
「彩加さん、どうかしたんですか?」
「もしかして、調子が悪いんですか?」
彩加の腕から離れた小町と、近くにいた大志が、彩加の顔を覗き込みながらも尋ねてくる。
まだ経験の浅い彼等には、闇に気付く事は出来ても、それが何処にあるかを察知する事も、八幡達が照らす強すぎる光に、疑問を感じる事さえ難しいのだ。
「う、ううん、何でもないよ、ちょっと驚いただけだよ。」
その二人に不安を感じさせてはいけない。
年長者として、彩加は努めて自然な笑みを取り繕い、制服の襟元を正して八幡達に付いて行く。
喩え、仲間以外に対する姿勢に問題があろうとも、容赦をしなくなったとしても、自分と八幡は友だ。
ならば、八幡が行き過ぎたならば、自分が止めてやれば良い。
そのためにも、自分は力を着けたのだから。
改めて覚悟を決め、彩加は進んで行く。
闇を祓い、光を齎すために、自分が戦うと・・・。
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その後、八幡一行は学内の出し物を気が向くままに見て回り、今、卒業生有志による管弦楽演奏の鑑賞を終えた。
「いやぁ、それにしても、雪ノ下の姉ちゃんは流石って感じだったな。」
「そうだね、指揮者には向いてるんだろうね、生まれ的に。」
八幡は陽乃の事に感心し、沙希も同意するように頷く。
敵である雪乃の姉ではあるし、文実を混乱させていた黒幕だったとしても、その実力の高さは素直に認める所だし、雪乃のように他人を貶す様な事をしない分、八幡は彼女の能力を好いている様に思われた。
尤も、人柄については、あまり関わりが無い事も含めて、どうでも良いとさえ感じている事も否めないのは事実だが。
「それじゃあ、俺と小町さんはそろそろ御暇しますね。」
「部外者は閉会式に参加できないみたいだし、塾もあるからね~。」
小町と大志は、閉会セレモニーに自分達が参加できない事を知っていたため、有志最後のバンド演奏前の休憩時間の間に抜け出すべく立ち上がる。
「うん、気を付けてね。」
「二人とも、またね~。」
そんな二人を見送ろうと、彩加と大和は手を振った。
友人の弟妹とはいえど、彼等にとっても特別な間柄なのだから。
「はい!来年からよろしくお願いします!先輩!」
そんな二人に、もう総武高に受かった気でいる小町は、とても良い笑顔で挨拶し、大志と共に講堂代わりになっている体育館から出て行った。
「んじゃまぁ、俺達もそろそろ行くわ、セレモニーでなくても良いだろうしな。」
「アストレイの皆さんトコに行って、店で打ち上げできないか相談しておくよ、二人も文実終ったら来てよ。」
特にやる事も無いし、打ち上げの算段を付けておこうと、八幡と沙希のバカップルも席を立ち、師匠の下へと向かおうとした。
その時・・・。
『(八幡君、沙希ちゃん、彩加君、俺だ、聞こえるか?)』
「(先生・・・!何かあったんですか?)」
ウルトラマンである3人に、彼等の師である一夏からのテレパシーが届く。
何時もなら自分が出向いてくる事が多い一夏が、わざわざテレパシーを使うなど、余程の緊急事態だと察知したのだろう、八幡達は表情を硬くする。
『(少し面倒な事になった、今すぐ、ステージ裏まで来てくれ、ワケを話す。)」
理由を話すのは後だと言わんばかりに、彼は一方的にテレパシーでの更新を切る。
その緊急事態に、3人は一様に表情を硬くしたのを見て、大和もまた、大きな事が起きているのではないかと表情を硬くして頷く。
自分もその渦中に行く、その覚悟が見て取れた。
「行こう、俺達の新しい仕事が待ってる。」
八幡が手を前にだし、頷く。
「分かってる。」
「科特部の仕事、だね!」
そこに沙希、彩加、そして大和が手を重ね、心を合わせた。
これからの仕事は一人では成せない事でも、必ずやり遂げられる。
だから、彼等は行く。
その想いを胸に、歩みを進める。
喩え、誰を傷付ける事になったとしても・・・。
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次回予告
何故人は間違えるのか、何故人は苦しむのか。
その答えを知らぬ者達は、それでも進むしかないのだろうか。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
相模南は慟哭する 中編
お楽しみに