やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
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一夏に呼び出された八幡達4人は、舞台袖の控え室代わりとなっている所にやって来ていた。
そこでは、楽器や楽譜、マイクを手に、自分達の出番を何処か緊張の面持ちで待つ有志の面々もいたが、彼等はこの件には関係ないのだろう、本命の事には一切気が向いていなかった。
そんな中を進み、遂に目的とする人物の下へ彼等は辿り着いた。
「先生、何かあったんですか?」
「おう、来てくれたか。」
喧騒から少し離れた場所にいた一夏に声を掛けると、彼もまた待っていたと言わんばかりに笑む。
その笑みに、八幡達もつられて笑むが、八幡と沙希、そして彩加の表情は、彼と共にいた人物達の姿に強張った。
その人物達とは、生徒会長の城廻めぐりと雪ノ下陽乃、そして、彼等が校内で最も敵視する人物である雪ノ下雪乃と平塚静だった。
そんな彼等をみた雪乃と静もまた表情を強張らせ、それを察しためぐりと大和は胃でも痛むのか腹部を抑え、何とも言えない表情をしていた。
無理も無い、今、この場で向かい合っているのは対立している部に属する者同士なのだ。
そんな抗争に、部外者が巻き込まれては堪った物では無いのだから。
「こら、喧嘩は後にしてくれ、今はそれどころじゃない。」
「くっ・・・、だが、その通り、だな・・・。」
その雰囲気が他の者に伝わる前に、一夏が一喝し、静も忌々しげに舌打ちしながらも、本題に入るべく咳払いをした。
只でさえ犬猿の仲であるこの二人が争わないと言う異常事態に、八幡達も何かヤバい事が起きたと瞬時に判断したのだろう、その居住まいを正す。
「え、えっと、委員長の相模さんと、連絡が着かないんだ・・・。」
「なんですって・・・?相模さんは確か・・・。」
会長であるめぐりが、気を取り直して話した内容に、彩加はその事の重大さに驚いていた。
「うん、閉会セレモニーで、地域賞の発表とかあるんだけど、その原稿を持ってるの、相模さんなんだ・・・。」
「ウソでしょ・・・?コピーとか、予備は無いんですか?」
肯定するめぐりの言葉に、沙希は有り得ないと言わんばかりに問いかける。
彼女の言う通り、閉会セレモニーで使用する程大事な書類ならば、予備や代替えを用意しておいて然るべしものだ。
それなのに、それを怠るとはどういう事か、そんな色が彼女からは見て取れた。
「ご、ゴメン・・・、まさか、こんな事になるなんて予想も出来なくて・・・。」
「事情は分かりました、それで、どうするんです?」
責められていると感じたのだろう、たじろぎながらも詫びるめぐりに、八幡はさっさとやるべき事を話せとばかりに促す。
こんな事で時間を喰っていれば、それこそ閉会セレモニーに間に合わなくなる。
それだけは、何としてでも回避しなければならない事だった。
「そうね・・・、貴方達には、相模さんを探し出して、此処に連れて来ることをお願いするわ、見つかるまでの時間稼ぎはこっちで何とか・・・。」
彼の言葉に、めぐりでは無く雪乃が案を提示してくる。
時間稼ぎはするから、代わりに南を探しだし、連れてきてほしいというモノだった。
八幡や沙希、それに一夏は文実に関わりが無く、この後に特に大きな事が控えている訳でも無い。
故に、捜索に充てる人材としては、非常に時間の融通が利く立場に居る事は確かだった。
だが・・・。
「「「断る。」」」
一夏と八幡、そして沙希は即答に近い形でその申し出を拒否、鋭い目付きを作った。
その迫力に、めぐりは小さく悲鳴をあげ、静と雪乃は気圧されてたじろいだ。
陽乃は何故断ったかを知りたいのか興味深げに、彩加と大和は内心、やはりこうなったかと諦め半分で、事の成り行きを静観していた。
「な、何故ですか・・・?」
その理由が分からなかったのだろう、雪乃は一夏を睨みながらも理由を問うた。
悔しいが、一夏の異常なまでの能力の高さは認める所だし、人探しもすぐに熟せると判断したからこそ、借りを作る事さえ厭わなかったのだ。
雪乃自身はそう考えているだろうが、残念ながら、彼等にはそうとは伝わらなかった様だ。
「誰がお前等の失態の尻拭いなんてするかよ。」
「あたし達に何の関係も無いじゃないか、アンタ達が探せばいいことじゃない?」
八幡と沙希は、一夏に代わり、その問いに真っ向から対峙する。
確かに、自分達にこの後の予定という予定は入っていないし、雪乃や静に貸しを作れると考えれば悪い話ではないだろう。
だが、それ以上に、面倒事を押し付けようとしている様な雰囲気が伝わって来ており、それが彼等の神経を逆撫でしていたのだ。
普通ならば、副委員長である雪乃や監督教師である静は、いの一番に相模を探しに動き、見付けだして叱責しなければならない義務がある。
それなのに、何故このような瀬戸際になるまで放置し、挙句運営に支障をきたす状況にしてしまったのだ。
これを責めずしてどうすると言うのだろうか。
しかも、その役目を他人に押し付け、自分達は平然と違う事をしようとしているのだ。
関係の無い人間からしてみれば、とばっちりも良いトコロだろう。
「まぁそういう事だ、俺達に頼むにしてはお門違いも甚だしい、それともなんだ、自分じゃいけない理由でもあるのか?」
「そ、それは・・・!私は委員長補佐として、平塚先生は監督として現場から離れる訳には・・・!」
「生徒会長がいるんだ、補佐の代役に不足はないだろ、平塚センセイにしても、他の教員に頼めば良い事だ。」
何故動けないのか問われ、なんとか絞り出す様に答える雪乃だが、一夏の単純明快な否定にすぐさま遮られる。
一夏のいう理屈は正しい。
何せ、代理なんて幾らでもいるのだ、文実内で手が空いている者を回せばいい、ただそれだけなのだから。
それを部外者に押し付けようとするなど、筋が通っていない事にも程があるのだ。
その言葉に唇を噛み、雪乃は激しい憎悪の瞳で彼を睨みつける。
「なるほど、そういう事か・・・、君も案外、俗物なんだな、安心したよ。」
その表情から何かを感じ取ったか、一夏は皮肉気に吐き捨てながらも鼻で笑っていた。
俗物という言葉にどのような意味が込められていたかは、今の彼にしか感じ取れない事だった。
「ま、時間稼ぎはこっちでやってやるから君達は委員長サマを探しに行け、20分かそこらは持たせてやるからよ。」
さっさと行けと言う様に、一夏は手を振って雪乃と静を追い払った。
そんな彼の態度に思う処は有れど、言い返す事の出来ない二人は唇を噛みながらも、南捜索へと向かって行った。
「さて、邪魔者はいなくなったな、城廻君、今演奏中の有志が最後か?」
「い、いえ!この次が最後です!」
先程までは敵を追いつめる様な雰囲気を漂わせていた男が、急に笑みを作って問いかけてくる事が不気味に思えたのだろう、めぐりは上擦った声で返答する。
彼女が指す場所には待機中の隼人や優美子達の一団がおり、トリを務める事となった事に緊張している様子が見て取れた。
「へぇ・・・、じゃあちょうど良いな、葉山君達には悪いが、ド派手に行くとしようか。」
都合の良い状況が揃っている事に安堵したか、一夏は浮かべている笑みを更に深くした。
それを見て、良からぬ事を企んでいる思ったのだろう、八幡達4人は呆れた様に苦笑し、めぐりやそれに気付いた周囲の者は、その得体の知れなさに恐怖に固唾を呑んだ。
「城廻君、プログラム変更させてくれ、時間稼ぎをさせてもらう、とはいえ、そう長くは持たないからな、彩加君と大和君は委員長サマの捜索に出てくれ、罵倒しようが気絶させようが、兎に角連れてこい。」
「ひっ・・・!?」
「「(会長・・・。)」」
教師とは思えない一夏の言い草に恐れたか、めぐりは短く悲鳴を上げてしまう。
そんな彼女に、彩加と大和は無理も無いと言わんばかりに同情の念を向けた。
いや、実際仕方ないのだ。
何も知らない彼女が、織斑一夏という異邦人の深淵の一端を覗いてしまえばどうなるか、考えるまでも無いのだから。
だが、ジーッとしていてもどうにもならない事は明白であったため、三人は其々の役目の為に走り出した。
「雪ノ下陽乃、総武高の教師として依頼したい、今すぐ観客席に行って盛り上げ役に徹してくれ、君の大好きな男がステージに立つぞ?」
「了解ですっ!」
ステージの不安要素を排除するつもりで放たれた言葉に反応し、陽乃はテレポートしたかと思われる様な速さで動き、客席へと通じる通路を走り去って行った。
これで、この場に残ったのは一夏と八幡、そして沙希だけだった。
「さて、アイツ等ももうすぐ到着だ、君達にも手伝ってもらう、40秒で支度しな。」
「「えぇ・・・。」」
まさか別の意味で巻き込まれるとは思いも寄らなかったのだろう、八幡と沙希は少々めんどくさいと言わんばかりな表情を作った。
だが、それ以上に何かを楽しみにしている様な色もうかがえる辺り、満更でもないのだろう。
何せ、尊敬する相手と並び立てるチャンスが、今、めぐって来ているのだから。
「行くぞ、此処からは、俺達のステージだ。」
「「はい!!」」
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「俺達の曲はこれで終わります、ありがとうございました。」
それから数分の後、隼人たちのバンド演奏が終わり、ステージ裏に帰って行く。
既に司会からのアナウンスで、これが有志最後だと聞かされていた観客たちは、彼等に惜しみない拍手を送り、止まない歓声を投げ掛けた。
それからしばらくして、閉会セレモニーまでの準備の間に休憩を挟もうと、生徒達が移動を始めようとしていた。
その時だった。
これまでの有志演奏で出て来た、どの音よりも重く響き渡る。
ギター、ベース、ドラム、そしてキーボード、その全てが調和した音色に、観客たちの意識は一斉にステージに向いた。
そこには、何時の間に姿を現したのか、ギターを構えるコートニーとリーカ、ベースを携えた玲奈、ドラムに向き合う宗吾、キーボードに指を這わせるセシリアの姿があった。
彼等の恰好は、レイスタで身に着けていたジーパンにTシャツ、エプロンの姿では無く、スーツの様でありながらも、何処か気高い軍服をイメージさせる服装になっていた。
因みに、その軍服は、彼等が数世紀前に属していた組織の物であり、超が付く程のヴィンテージものなのだが、この場にいる誰にも分からぬ事だった。
「あれは・・・、有志の人・・・?」
「喫茶店やってたよね・・・?なんで・・・?」
その客の内の何割かに、レイスタへ脚を運んだ者がいたのだろう、ステージ上の人物達に驚くように、ざわめきが広がって行く。
そこへ、更にボーカルとしてシャルロットが姿を現し、全員が配置に着いた処で、まるで誰かを迎えるように全員が頭を垂れた。
その芝居がかっていながらも、まるで異世界に迷い込んだかのような錯覚を覚えさせる光景に、観客たちのざわめきはやみ、次の展開に釘付けにななった。
異様な雰囲気の中、悠然と、覇王の如し気と純白のマントを纏い、フライングVを構える一夏がその姿を表す。
呆然とする観客の前で、一夏はピックを持つ右手を掲げ、一気に振り下ろす様にして掻き鳴らす様に演奏を始める。
豪快ながらも、一音一音の粒が立っており、聞く者全てに衝撃を与え得るものだっただろう。
ゆっくりと、しかし徐々に速度を上げ、弦に指を奔らせていく。
あまりに苛烈で、あまりに美しいその旋律に、観客たちの表情が熱を帯びていく。
一夏がひとしきりソロプレイを行い、呼吸を整える様に演奏を止めた所を見計らい、ドラムの宗吾がスティックでカウントを取る。
それに合わせ、メンバー全員が各々の楽器を構え、一斉にその音色を奏で始める。
一夏とコートニーのツインギターによる導入から始まり、雷のように響くベースとドラムの安定感、キーボードによる音の厚みが曲調に重みをもたせていく。
その音に負けない、シャルロットの力強くも澄んだ歌声が、ホール内の空気を切り裂き、観客たちの心を震わせた。
その曲の名は≪ULTRA STEEL≫、どんなに孤独でも、自分に負けるな、戦い続けろという意思が籠められた曲だった。
この世界に無い曲だったが、そのロック調のフレーズが観客たちを巻き込み、会場内の雰囲気を盛り上げていく。
久方振りの演奏になったが、アストレイの面々には余裕と高揚が窺えた。
弟子の前で良いトコロを見せておきたい、そういった思惑もあり、リーダーである一夏の思惑に乗ってやったのだろう。
それで良い、一夏はクライマックスに向かうギターソロの最中に、笑っていた。
若き光が何を行い、何を成すのか。
それを見守る事も、助ける事もまた、古き光の役目だと知っているから。
だが、今はこの瞬間を楽しむだけだ。
彼もまた、今は人間であり、仲間と音楽を嗜む者なのだから・・・。
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次回予告
苦しみから逃れることは、果たして正しい事なのだろうか。
誰もその答えを知らない、故に傷付くのだろうか・・・。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
相模南は慟哭する 後編