やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
noside
『相模さん!聞こえる!?』
バリアドームの中で、彩加はゴルドラスの猛攻を凌ぎながらも、闇に囚われている南に向けて叫ぶ。
頭部の角が光る時に発生するスパークと、長い尾による薙ぎ払いを何とか躱しながら戦ってはいるが、その答えが返ってくる事は無かった。
その代わりに返ってくるのは、咆哮と攻撃の雨霰だった。
頭部から放たれるスパークの様な破壊光線も、長い尾による払い攻撃も非常に強力であった。
しかし、それ以上に厄介に感じているのは、ゴルドラスを護る様に、亜空間バリアの様なものが発生しており、それがXの攻撃を逸らし、体勢を崩させていた。
『彩加!まずは闇を祓うぞ!パワーアップを!』
『分かってる!だけど、それどころじゃない・・・!!』
説得が届かないと判断したXが、まず纏わりつく闇を祓う事を進言するが、戦っている彩加にはそんな余裕は全くなかった。
ゴルドラスに纏わりつく闇に強化された亜空間バリアに攻撃は遮られ、距離を取ろうにも執拗に追い駆け、スパークによる遠距離攻撃を仕掛けられてしまえば、変身による一瞬の隙でさえ、命取りになってしまうのだ。
故に、ろくな攻撃さえ出来ず、防戦一方になった彩加のXに、そんな事などお構いなしと言わんばかりにゴルドラスは向かって行く。
そして、頭部から放たれたスパークを飛び上がる事で回避したXに、振り上げた尾による打撃が炸裂し、Xを大きく吹き飛ばした。
『ぐぁぁっ・・・!!』
全身を揺さぶるダメージに呻きながらも、彩加は地面に叩き付けられる。
ダメージのせいで受け身さえ取れずに叩き付けられ、二重苦によって起き上がれずにいた。
そんなXに追い打ちを掛けるように、ゴルドラスは頭部の角より破壊光線を放ち、更にXを痛めつけた。
『あぁっ・・・!!』
あまりに強烈な攻撃に立ち上がることさえ出来ず、のた打ち回っていた。
鍛えられた彩加でさえ圧倒するその力は、与えらえた闇と、南の心に巣食っていた闇の深さと強大さを物語っていた。
そんな彼に興味を失ったか、ゴルドラスは大きく吠えると角を光らせ、固有の能力である時空干渉能力を用いてXバリアドームに干渉を始めた。
その能力で、被害を抑えている空間を破壊し、元の世界に出て行こうとしているのだ。
『ま、待って・・・!そんな事をしたら、君は戻れなくなる・・・!!』
これ以上罪を重ねるなと、これ以上苦しみを抱えるべきではないと・・・。
しかし、その言葉が闇に閉ざされた南に届く筈も無い、次第にバリアドームを形成していたエネルギーが破壊され、空間に亀裂が入って行く。
それはもう間もなく、怪獣一匹が楽に通れる広さになろうとしていた。
その時だった。
『よっしゃぁぁぁ!!』
その亀裂から二つの青い流星が流れ入り、ゴルドラスの前に立ち塞がる。
『やった!何とか入れた!!』
その内の一つ、、蒼いウルトラマン、アグルは良かったと言わんばかりに飛び跳ね、ゴルドラスを牽制するようにアグルセイバーを展開、斬りかかった。
『小町さん、その姿ではしゃぐとキツイッスよ、落ち着こう。』
もう一つの光、ウルトラマンヒカリはそんなアグルに苦笑しながらも、Xに駆け寄ってその身体を抱え起こす。
『大志君・・・、それに、小町ちゃんも・・・!』
仲間の到着に、彩加は歓喜の声を上げた。
一人では出来ない事も、仲間とならば成し遂げられる。
それを教えてくれた友のように、弟妹のように想っていた者達が駆けつけてくれたのだから尚更だった。
『大和さんから連絡を貰って飛んできました!』
『彩加さんが作った壁、固すぎてアイツが壊してくれなかったら突入出来なかったんスよ、やっぱ彩加さん凄いッスね!』
大和から連絡が有った事を告げる小町と、純粋に彩加の事を尊敬する大志の、それぞれの反応を心地良く思いながらも、彼は表情を引き締めた。
まだ終わっていない。
何せ、目の前には闇に囚われた少女がいる、そして、自分はそれを祓える力を持っている。
ならば、それを救うのは自分の役目だ。
それが、人間の姿の時に適用されていなくても、今、ウルトラマンの姿になっている間だけは、救えるものなら救いたいと願った。
喩え、師である一夏に何と言われようとも、それで良いと、彼は感じていた。
『時間、稼いでくれるかな?』
『了解ッス!早くエクシードになって下さいね!』
彩加の頼みを快諾し、大志はナイトブレードを展開、小町のアグルと共にゴルドラスを攻め立てる。
しかし、角から発せられる亜空間バリアによってその悉くが逸らされ、クリーンヒットするものはなかった。
だが、それでも気を逸らす事には成功し、その隙を突き、彩加はXを虹色の巨人へと進化させた。
『彩加、行こう!!』
『うん!今度こそ!!』
頭部よりエクスラッガーを展開し、アグルとヒカリに加勢、3体同時に攻撃を仕掛ける。
だが、強力な亜空間バリアは健在で、一向に刃を推し進める事は出来ず、遂には弾き返されてしまった。
『なんて厄介な・・・!でも、必ず、突破できる方法はある・・・!!』
『そうです!!彩加さんと小町と、大志君なら出来ます!!』
纏めて掛かっても劣勢な事に苦笑しながらも、それでも負ける気がしない彩加は地を踏みしめて立ち、小町もそんな彩加と並び立つ。
負けない、負けたくない。
そんな想いが彼等からは感じ取る事が出来た。
『俺の攻撃に合わせて!!』
そんな二人に先じ、大志のナイトが飛び出し、必殺の光線を放つ体勢に入った。
『ホットロードシュート!!』
突き出した両の拳から光線が放たれ、一直線にゴルドラスへと突き進む。
『ちょっ・・・!?大志君・・・!?』
あまりに唐突だったため、小町は反応するも、大志よりもワンテンポ遅れてリキデイターを放つ。
ナイトが放ったホットロードシュートは、ゴルドラスが角を光らせて発生させた亜空間バリアによってかき消された。
だが、遅れて放たれたリキデイターの光弾は、亜空間バリアなど無かったかのように、ゴルドラスの胴に突き刺さり、盛大に火花を散らした。
『えっ・・・!?嘘、当たった・・・!?』
『で、でも、なんで・・・!?』
まさか直撃するとは思わなかったのだろう、小町と大志は戸惑いの声を上げた。
連続で攻撃されると思わなかったのか、それとも別の理由があったからか、二人の理解は全く追い付かなかった。
『そうか!分かったぞ!!』
しかし、その様子を観察していたXが、何かに気付いた様に声を上げた。
『あの怪獣は角が光った後に攻撃と防御を行っているが、それが終わった後、ほんの僅かな時間、攻撃も防御も出来ない空白があるようだ。』
『じゃあ、そのタイミングを突けば・・・!』
Xの推測に、彩加は勝機を見出したのだろう、エクスラッガーを頭部に戻しながらも両隣に立つ大志と小町を見る。
『大志君、小町ちゃん!!』
『『はいっ!!』』
彩加が何を言おうとしていたのかを直感で察し、大志と小町は全く同時に動きだし、ゴルドラスに向けて走りながらも光の剣を展開する。
そして、彩加も次の技のプロセスに入るため、頭の前に構えたエクスラッガーのパネルに指を一回スライドさせた。
『『エクスラッガーショット!!』』
純粋な破壊光線である虹色の光が迸り、駆けるアグルとヒカリの間を割ってゴルドラスに突き進む。
その光線も、ゴルドラスが角を光らせて発生させた亜空間バリアに阻まれ、霧のように消えていくだけだった。
だが、今の彼は一人では無い。
共に助け合える仲間が、傍にいるのだ。
『アグルセイバー!!』
『ナイトブレード!!』
『『ダブルスラッシュッ!!』』
攻撃も防御も何も出来ない一瞬を狙い、アグルとヒカリが展開する光の剣が、狂いなくゴルドラスの角を叩き斬った。
彩加の攻撃は、この瞬間を生み出すためのデコイでしかなく、弟分妹分に賭けた一撃でもあった。
『彩加!!』
『行くよ!!』
最早攻撃も防御も不可能と見た彩加は、再度エクスラッガーを展開しながらも走り出し、最強の浄化技の使用に踏み切る。
必ず救い出す、その想いを乗せて。
『『エクシード!エクスラッシュ!!』』
強烈な浄化の刃がゴルドラスに叩き込まれ、その身体を支配していた闇が炙り出され、完全に浄化されて行った。
そして、最早戦う意味は無いと言わんばかりに、ゴルドラスは動かなくなり、膝を付く。
『スパークドールズと切り離す!ピュリファイウェーブ!!』
ノーマル形態に戻ったXがカラータイマーに右手を当て、優しい光を纏わせた掌をゴルドラスに向けてて掲げる。
そこから光が溢れ出し、ゴルドラスを包んで、囚われていた南が切り離され、Xの掌へ収まった。
それは、この勝負に勝ち、南を闇から救い出せた証に他ならなかった。
『大志君、相模さんをお願い。』
『了解ッス!』
気絶している南を傷付けぬ様注意し、大志に彼女を預けた彩加は、再度光線技の発射体勢に入る。
『『ザナディウム光線!!』』
怪獣をスパークドールズへ還す光線、ザナディウム光線がX字に組まれた腕から放たれ、ゴルドラスに直撃、蒼い光の粒子と爆炎を巻き上げ、ゴルドラスの身体をスパークドールズに圧縮した。
これで、一応怪獣事件としての一件は幕を閉じた。
だが、これで終わりでは無いと、彩加はバリアドームを解除しながらもタメ息を吐いた。
これから、南をどうするか決めなくてはならない。
そう考えるだけで気が重くなった。
だが、それでも何が何でもやらなければならない。
彼は、そう依頼されているのだから。
それに、今の彼には、同じ境遇を辿り、自分が分からない痛みを持つ者が傍にいる。
彼等ならば、必ず分かり合うための道を示してくれると・・・。
そう確信しながらも、彼は変身を解き、校舎の屋上へと戻った。
これから、この事件に本当の決着を着けるためにも・・・。
sideout
noside
その頃、外で巨大対決が起こっているなど露にも思っていない講堂内は、異様な熱気に包まれていた。
学生のみならず、一部の教師まで、そのステージに立つ者達に魅せられてしまっていた。
無理もあるまい、目を見張る絶世の美男美女が、繊細かつ豪快に、ロックを演奏したのだ、多感な時期の学生たちも、刺激を忘れかけていた教師たち大人も、心を鷲掴みにされない訳がないのだから。
そこに立つ、一夏達アストレイのメンバーは、そんな観客たちの反応に気を良くしつつ、一曲目の≪ULTRA STEEL≫の演奏の後、二曲目の≪君だけを守りたい≫の演奏を終え、現在は三曲目に入るための準備を行っていた。
「そろそろ、か・・・?」
外の騒ぎが納まっていく感覚を感じ取ったか、一夏はマイクに拾われない程小さく呟き、メンバー達とアイコンタクトを交わした。
それは、次の曲からは一夏が外れ、代わりの者達が入れ替わる事を意味していた。
一夏はシャルロットに自身のフライングVを預け、観客たちに手を振りながらも煽り、颯爽と舞台から去って行った。
その行動だけで、ただでさえテンションの上がっている客には、更なる展開が待っていると興奮させるには十分なモノだった。
そして、次の瞬間にそれは起こった。
宗吾がカウントを取り、メンバー達が一斉にインスト曲の演奏を開始する。
曲名は≪Fainal Wars≫、戦う光の戦士の宿命を唄った曲であり、希望を抱いて前へ進めという強い想いが籠められた曲だった。
そして、その曲が流れる最中に、マイクを持った八幡と沙希が現れる。
彼等の姿は、アストレイズから譲り受けた軍服の様な恰好をしており、普段の4割増しで彼等を精悍に見せていた。
だが、八幡達に見覚えが無い者も多くいるのだろう、興奮の反面、戸惑いが入り混じった雰囲気になる。
無理もあるまい、学内屈指の知名度を誇った、一つ前に出ていた葉山グループや、圧倒的ヴィジュアルで場を呑み込んだアストレイの面々とは異なり、彼等はまだ、無名だったのだ。
だが、そんな事など、彼等には何の関係も無かった。
今はやるべき事をやるだけだ、その強い意志が、二人の瞳からは垣間見る事が出来た。
そんな二人が配置に着いた瞬間に、曲はエンディングを迎え、一旦すべての音が鳴り止む。
八幡と沙希が揃って手を掲げると、それを合図に四曲目の演奏が開始された。
≪Legend of Galaxy~銀河の覇者~≫
銀河の果てに光を求め、愛する者と共に飛び立つという想いを籠めた、八幡達にはこれ以上に無い曲。
二人は、互いを見つめ合いながらも、デュエットにて歌い上げる。
それに合わせて、メンバー達も自分達は添え物であるという事を知らしめるために、わざと派手なプレイは避け、目の前にいる弟子カップルを立てる。
それに気付いたのか、観客たちは先程の困惑などどこへやら、曲の勢いに呑まれ、ボルテージは一気にMAXとなった。
手を重ね、一気に歌い上げる二人の目には、迷いなど一切なく、この状況を楽しんでいるだけだった。
喩え時間稼ぎであろうと、今、やるべき事をやる。
それで良い。
それが今出来る、自分達の役目なのだから。
今は、師と最愛の相手と共に、この場を繋ぐだけだと、二人は微笑みながらも手を重ね、絆を歌い上げた。
今この瞬間を、噛み締めているかのように・・・。
sideout
次回予告
闇から救い出された南に、彩加達は彼女の心を救うべく語らいを持つ。
だが、それさえもうまくはいかないのか・・・。
次回、やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
相模南は立ち上がる
お楽しみに