やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡はギンガを知る

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「な、なにこれぇ~!?」

 

「地震・・・!?こんないきなり・・・!?」

 

突如として起こった地震に、結衣と雪乃は慌てふためく。

まさか、地震が起こるなど想像もしなかったのだろう、その表情にはある種の絶望感が見て取れた。

 

だが、それは普通の地震では無かった。

 

「いや、違う・・・!」

 

「これは、まさか・・・!?」

 

それに気付いたのは、一夏と八幡だった。

二人は開けた場所を睨みながらも表情を強張らせた。

 

恐らくは気付いたのだろう、そこから出て来ようとしている何かに・・・。

 

そんな彼等の目の前に、地面を突き破って巨大な影が姿を現した。

 

嘗て地球を支配していた恐竜の様な姿の様な姿を持った黒い巨獣、ゴメスの姿がそこにはあった。

 

「あ、あれは・・・!?か、怪獣・・・!?」

 

まさか、またしても怪獣が現れるとは思っても見なかったのだろう、彩加は驚愕と絶望で倒れそうになっていた。

 

「三人とも落ち着け!すぐに避難しろ!奴はこっちに向かってくるかもしれん、死にたくなければ逃げろ!!」

 

一夏は愕然と立ち竦む三人を庇う様に前に立ち、退避を促した。

 

「怪我でもされちゃ敵わん、早く逃げたまえ。」

 

三人を急かしながらも、彼は八幡に近付いて耳打ちする。

 

「(アイツはゴメスという恐竜型怪獣だ、レッドキング以上のパワーと重量を持っている、接近戦では弾かれるかもしれん、気を付けろ。)」

 

「(はい、先生!)」

 

自分の身体で八幡を見えなくしつつ、一夏は彩加達を庇う様に背を押してコートから出した。

 

彼等の姿が見えなくなるのを認めた八幡は、四人が行った方向とは別方向に有る物陰に走り、そこで懐からギンガスパークを取り出す。

 

「また、力を貸してくれ・・・!俺は戦わなくちゃいけないんだ!」

 

彼はギンガスパークに向けて祈る、自分が戦う理由は無くても、見過ごせない無意識の脅威があるのだから。

 

「きてくれっ・・・!ギンガッ・・・!!」

 

その祷りが通じたか、ギンガスパークが開き、切っ先からギンガのスパークドールズが表れた。

 

八幡はそれを手に取り、右脚のライブサインをギンガスパークに読み込ませる。

 

『ウルトライブ!!ウルトラマンギンガ!!』

 

「ギンガーーー!!」

 

ギンガスパークを掲げると、彼の身体は光に包まれ巨大化、ウルトラマンギンガとしての姿となり、地に降り立った。

 

『ショオウラッ!!』

 

「あっ・・・!あれは・・・!?」

 

「あの時の、光の巨人・・・!?」

 

校舎の外へ逃げようとする彩加たちは、半月前に現れた銀色の巨人が再び現れた事に驚愕し、逃げる足を止めてしまっていた。

 

突如として市街地に現れた巨獣を圧倒的な力で打ち倒し、忽然と姿を消した巨人が再び姿を現したのだ、驚かない訳がない。

 

「ウルトラマンギンガ・・・!」

 

「先生?ご存じなんですか・・・?」

 

救世主が表れたと言う様に、しみじみと感慨深げにその名を呟く一夏に、雪乃は訝しむ様に尋ねた。

 

たかだか三度目の出現であり正式な名称も決まってはいないはずだ、それなのに何故名前を呟いたのか理解出来なかったのだろう。

 

「銀河の彼方から来た超人、だからウルトラマンギンガなのさ・・・、彼等は遠い宇宙から、俺達を護りに来てくれたんだ、だから、迷惑掛けないように逃げるぞ。」

 

だが、一夏も当然そんな事は知っている。

更に、アンノウンのまま放置していると、そのまま敵性因子として攻撃されるやもしれない。

 

故に、少しずつ印象操作をしていく事により、自然に味方と思い込ませる事が出来るのだ。

 

それに加え、もし同じ人間から攻撃を受けると、ギンガに変身している八幡は、自分が護っている人間に裏切られた結果になる、そんな苦しみを強いたくは無いのだ。

 

「ウルトラマン・・・。」

 

「速く走れ、死にたくないならな、生徒が死んだら責任取らされるこっちの身にもなってくれ。」

 

呆然とその姿を見詰める雪乃を急かし、一夏は嫌味を言いつつ三人を急かした。

 

そんな彼等を、いや、総武高校を護るように立ち塞がるギンガは構えを取り、ゴメスへと向かって走り出す。

 

『シェアッ!!』

 

土煙を上げながらも走り、ギンガはゴメスに殴り掛かる。

 

だが、ゴメスは大きく唸り声を上げながらも腕を突き出し、その殴打を受け止める。

 

それに負けじとギンガは左腕を突き出すが、それすらも掴み、押し倒そうと力を籠める。

 

『(なんつー力だ・・・!?ベムラーやレッドキングなんて比べモノにならねぇじゃねぇか・・・!!)』

 

押し込まれる腕を必死に抑えつつ、ギンガの中で八幡は歯噛みした。

ギンガのパワーは確かに強い、だがしかし、単純な腕力はそこまで強くは無いらしい。

 

『(しくじった・・・!パワー押しでは負けるっ・・!!)』

 

なんとか腕を引き離すが、既に押し込まれて半ば体制も崩れていた。

そこにゴメスの右脚の蹴りがギンガの腹に叩き込まれる。

 

『ぐあっ・・・!?』

 

重さにして数万トンの体重が乗った蹴りをくらい、ギンガは大きく後方へと吹っ飛び、総武高校を飛び越えてその近くにあった雑居ビルに落下、雑居ビルはギンガの重みに耐える事すら出来ずにあっさりと崩れ落ちる。

 

『ぐっ・・・!(やはり、格闘戦はダメか・・・!?)』

 

なんとか起き上がろうとする彼の目に、ゴメスが総武高校へ向けて進撃しようとする姿が飛び込んで来た。

 

恐らく、ギンガを狙って進撃しているだけなのだろうが、生憎、小さな人間には巻き添えを喰らうだけで一貫の終わりだ。

 

『や、やめろぉぉぉー!!』

 

今動かねば大勢の人間が自分の目の前で死ぬ事になる、彼の性格からしてそんな事を見過ごせないのだ。

 

助走をつける事すら惜しんで跳躍し、空中で一回転しながら右脚を突き出して顔面に蹴りを入れる。

 

ゴメスは仰け反りながらも後退するが、顔を蹴られた事が逆鱗に触れたのだろう、大きく吠えながらギンガへと迫る。

 

『お前の相手は俺だっ!手ぇ出してんじゃねぇぞ!!』

 

カウンター気味にハイキックを叩き込むが、ゴメスは怯まずにギンガを尻尾で大きく弾き飛ばした。

 

『うわぁぁっ・・・!?』

 

受け身を取る事すらままならず、地面へと叩き付けられたギンガは大きなダメージを受けたか、中々立ち上がれずにいた。

 

すると追撃のつもりなのか、ゴメスは背びれを光らせ、口から熱線を吐いてギンガを襲う。

 

『ぐぉぉぉっ・・・!あぁっ・・・!!』

 

その熱線が堪えたか、ギンガは後方へ大きく吹っ飛ばされた。

 

『ぐっ・・・!うぅぅ・・・!』

 

熱線の直撃した腹部を押さえつつも立ち上がるが、ギンガの胸にあったランプの様な物が突如として点滅する。

 

『(な、なんだ・・・!?なんかピコピコいってやがる・・・!?)』

 

普段は青い色を宿していたモノが、危険を知らせる様に赤く点滅する事に驚いているのだろう、八幡は戸惑った様にギンガスパークを見た。

 

それは、どういう訳かを尋ねる様にも見えた。

 

『(八幡・・・、八幡・・・。)』

 

『(ギンガ・・・!これはどういう事だ・・・!?)』

 

自分に語りかけてくるギンガの声に、八幡はこのランプの点滅のワケを尋ねた。

 

本能が告げているのだ、このままではマズイ、と・・・。

 

『(君とのライブの限界が近い・・・、このままでは、ライブが強制解除され、君は危険に晒される・・・。)』

 

『(タイムリミットって事か・・・!!デメリット聞いとくんだったな・・・!!)』

 

忠告を聞いた八幡は、敵の事を知る事ばかりに囚われていた己を恥じた。

デメリットがあればそれに備える事も出来た、なのに、それを考えもしなかった自分が情けないのだろう。

 

彼はニヒルに笑いながらも、腕に力を籠めて立ち上がろうとする。

 

『(逃げないのか・・・?)』

 

長時間の戦いを続ける事など出来ないのにも関わらず、なお立ち上がろうとする八幡に、ギンガは何処か試す様な声色で尋ねていた。

 

『(逃げて良い時と悪い時がある、俺は、今は逃げない!!)』

 

称賛が欲しい訳では無い、認められたいからでは無い。

ただ、やらねばならないという使命感と共に立ち上がり、彼は目の前のゴメスを睨む様に構える。

 

理由なんていらない、そうしたいだけだと・・・。

 

『(分かった、何も言うまい・・・、戦え、八幡・・・。)』

 

『(あぁ!!)行くぜ、ギンガセイバー!!』

 

その彼の想いに呼応し、ギンガの身体にあるクリスタルが輝き、右腕のクリスタルから光の剣が飛び出す。

 

『シェィアッ!!』

 

咆哮をあげて向かってくるゴメスに対し、光の剣を構えて走り出し、ゴメスの右フックを身を屈めて回避しつつ、すれ違いざまに腹部を斬り付ける。

 

かなりの斬れ味を持っていたからか、ゴメスは腹を押さえてのた打ち回る。

 

『これで決める!!』

 

ギンガセイバーを消し、右腕を天高く突き挙げる。

すると、クリスタルが赤く輝き、ギンガの周りに無数の火炎球が出現する。

 

『ギンガファイヤーボール!!』

 

ふらふらになりながらも立ち上がるゴメスの、ギンガセイバーで切り付けられた部分目掛けて、火炎球が殺到、その威力に耐え切れず、ゴメスは地に倒れ伏して盛大な爆発を引き起こした。

 

そして、スパークドールズとなったゴメスは、ギンガに引き寄せられるようにしてカラータイマーから中へ入り、八幡の手元に収まった。

 

『ぐぅっ・・・!限界かっ・・・!!』

 

体力も最早尽きかけていたからか、八幡は呼吸も荒く膝を地に着き、前のめりに倒れる様に変身を解除する。

 

「情けない・・・っ!イメージだと、もっと巧く動けてるのにっ・・・!」

 

校庭の隅の方に降り立ち、周囲に人の気配が無い事を認めると、彼は木にもたれて座り込む。

 

どうやら、限界が近付けば近付く程、彼の肉体に掛かる負荷も尋常ではないらしい。

 

「はは・・・、アリバイ、作らねぇといけないのに、身体が動かねぇ・・・。」

 

「だろうな、あれほどやられていては、ダメージが残るのも当たり前だ。」

 

乾いた笑い声に被せる様に、一夏が木の陰から姿を現し、八幡に肩を貸す様にして立ち上がらせる。

 

どうやら、彩加達を避難させた後、逃げ遅れた生徒がいないかを確認するという口実で八幡の下に訪れたのだろう。

 

「先生・・・、すみません、なんとか、倒せました・・・。」

 

「そんなボロボロになってまで戦えなんて言った覚えは無いぞ・・・、だけど、無事で良かった。」

 

一夏に支えられて漸く歩けるほどに体力が底を尽いたのだろう、八幡の顔色は優れなかった。

 

それを知って尚、一夏は彼が五体満足で帰って来てくれた事に安堵している様でもあった。

 

「保健室で寝ていろ、帰りは俺が起こしに来るから。」

 

「すみません・・・。」

 

「謝るな、お前は何も悪い事してねぇだろ、この学校一つ護ったんだ、胸を張れ。」

 

申し訳なさそうに顔を顰める八幡に、そんな事は無いと言わんばかりに言葉を紡ぐ一夏の表情には、何処か苦々しい想いが見て取れた。

 

だが、疲労困憊な八幡がそれに気付けるはずも無く、その想いが通じるのは、まだまだ先の事になるのであった・・。

 

sideout

 

noside

 

「ただいま。」

 

「あっ、お帰りなさい、一夏。」

 

その日の夜、八幡を送り届けた一夏は、事務作業を終わらせた後、アジトである店に帰って来た。

 

怪獣被害の事後処理の書類を作成していたからか、普段よりも帰宅が遅く、日付は既に日を跨ぎ掛けていた。

 

そんな彼を出迎えたのは、眼鏡を掛けた亜麻色の髪の女性であった。

 

「あぁ、今日はリーカだったのか・・・、遅くなってしまったよ、何時もの頼む。」

 

「はーい、ご飯は如何する?カレーならすぐに出せるけど?」

 

彼女の名はリーカ・S・ヒエロニムス、一夏の友人であり、この店の人間の一人でもある人物だ。

 

リーカはテキパキとグラスを用意し、一夏が好んで飲むウォッカをロックで作り、彼の前に出した。

 

長い付き合いなのだろう、そこには強い信頼関係が窺えた。

 

「頼む・・・、あぁ、書類作成って面倒だよな・・・、怪獣関連も書かなきゃ誤魔化し切れないし・・・。」

 

「潜入も大変なんだね・・・、それで、そのウルトラマンの男の子、どんな感じなの?」

 

ウンザリした様子の一夏の言葉に苦笑しつつ、彼女は自身が今だ出会った事の無い、この世界のウルトラマンに着いて尋ねていた。

 

どういう人物かは詳しくは知らない、だからこそ、一番近くで見ている一夏ならばとでも思っているのだろう。

 

「一言で言えば、捻くれた御人好しだ、口では素っ気ないクセに、見て見ぬフリ出来ないバカ正直な奴だよ。」

 

「あー・・・、一夏みたいな子ね、大体分かったよ。」

 

「おい、どういう意味だそれは。」

 

納得したという様な彼女の表情に、一夏は自分が引き合いに出された事に納得がいかなかったのか、少々苛立ちを籠めた声を上げた。

 

「だって、一夏も私達の事を見て見ぬフリしなかったじゃない、それに、普段は捻くれてるし。」

 

「リーカに言われると結構傷付くな・・・、俺なんかしたっけ・・・?」

 

メンバー七人の中でも癒しを担当するリーカから受ける言葉の刃の切れ味は鋭く、心を抉り取って行く。

 

だが、彼にも自覚がある分、言い返せずに苦笑するしかないのが実情だった。

 

「まぁ、俺にはまだ、捻くれても貧乏くじ引いても、傍に誰かがいてくれるから良いさ、彼にはその誰かがいないんだ、正直、俺じゃその役には成れそうにも無い。」

 

「つまり、孤独ってこと・・・?」

 

自分自身が不甲斐無いという彼の言葉の真意を見抜いたリーカは、そんなまさかと言う様に表情を強張らせた。

 

そう、彼女も知っているのだ。

強すぎる力を持った人間が、孤独に陥ってしまえばどうなってしまうかを・・・・。

 

故に、今八幡がいる状況は非常に危うく、そこまで目立った負の面は無いが、いずれはと考えるだけ恐ろしい。

 

「本人は気にしてない風を装ってるけどな、あの目は、心の奥底を読ませない目だからな・・・、本当の想いが見えないんだ。」

 

そして、その孤独を晴らせるのは、目上では無く、対等であり、真っ直ぐぶつかってくれるような人間だけだと知っているが故に、一夏は手を拱いているのだ。

 

「休憩上がりました・・・。」

 

二人がどうするべきかと頭を悩ませていた時だった、スタッフ控室から一人の女が姿を現した。

 

青みがかった長い髪を後ろでポニーテールで纏めたリーカよりも少し背の高く、ハスキーがかった声が特徴だった。

 

「あっ・・・。」

 

「よぉ、沙希ちゃん、遅くまでご苦労さん、カレーもらえるかな?」

 

「はい、すぐに持ってきます。」

 

彼女は一夏を見た一瞬だけ表情を強張らせたが、当の本人が気にもしていない事に安堵したのだろう、一瞬で持ち直して厨房へと入った。

 

「さて・・・、問題山積だな、こっちもどうにかしてやらねぇと・・・。」

 

その女が厨房に引っ込むのを見た一夏は、深々とタメ息を吐いてグラスに入ったウォッカを一気に呷った。

 

そんな友人の様子を見ていたリーカも苦笑しながらも、テキパキと二杯目の準備を始める。

 

こうして、彼等の夜は更けていくのであった・・・。

 

sideout




次回予告

家族を想い、家族の事を憂うは彼の心を揺さぶるのか。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている。

比企谷八幡はその少年と出会う。

お楽しみに

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