やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
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その日、連休中日に当たるその日に、アストレイ一行と八幡達は、千葉県南部の田舎町を訪れていた。
そこは都市部から離れた農耕地帯であり、怪獣被害も千葉県下では少なく、穏やかな空気が流れる場所であった。
何時ぞやの合宿の時のように、数台の車に分乗して目的地を訪れたと言う訳だが、彼等が抱くその目的は、前回とは些か異なっていた。
名目上は校外学習で、怪獣があまり現れていない地域に住む者達の意見を調べるというモノだったが、実のところ、ただ、空気の良い場所でバーベキューを行い、のどかな田園風景や山を眺めながら食事を楽しむと言う側面が強かった。
今回の一件の発案は、珍しく一夏からの物であり、八幡達は兎も角、アストレイのメンバーでさえ目を丸くしていた事は記憶に新しい。
まぁ早い話が、のどかな風景でも見ながら美味い肉と野菜を焼いて食おうというものであり、ただ久し振りに人がいない田舎に行きたいという、一夏の魂胆が透けて見える様であった。
とはいえ、アストレイのメンバーもそれには強く同意するところであったから、反対する理由も無かったのだが・・・。
それはさておき・・・。
目的地にたどり着いたメンバーは、アストレイ7人と、八幡、沙希、大志に小町だった。
彩加はテニス部の試合で、大和と南はそれぞれ用事でという理由で、今回は参加していなかった。
尤も、大和と南の辞退理由には、おおよその予想は出来たが、誰もあえて追及することなく事に臨んでいた。
山や田畑、流れる小川のせせらぎが聞こえる、都会の喧騒を離れたのどかな風景の中で、八幡達一行はアメリカン風に用意された長い串に刺さった肉やコーン等の野菜が焼けるのを待っていた。
「すげー・・・、なんていうか、すげー・・・。」
その様子に、一夏の指示で火加減を見ながら、串を回して焼き具合を均等にするよう調節しながらも、八幡はまさかこんなことが起きるなど思ってもみなかったために、語彙力が減少したかただ茫然と呟く。
まさかこんなアメリカンなバーベキューを実際にするとは思いもしなかったのだろう、ただただ呆然とするばかりであった。
「ホントだね・・・、こんな豪快なの初めて見た・・・。」
そんな八幡の傍でタレを調合していた沙希が、同意するように呟いていた。
家で焼き肉やそれに近しい事をする事は有っても、こんな野外でバーベキューを、それも本格的な串焼きをした事など無いし、そのスケールの大きさたるや、如何に料理慣れしている彼女でも想像さえ出来なかった様だ。
「何を呆けてる、これぐらいどこでもやるだろうに、そこ、焦げるぞ。」
そんな彼等に呆れたか、一夏はさっさと手を動かせと突っついた。
彼等の尺度からしてみれば、もっと豪快な事をしてきたし、人間であった時からバーベキュー程度ならばもっと派手にやっていたから、特段驚くべき事でもなかったのだ。
とはいえ、まだまだ若い八幡達にそれを理解しろというのも酷な話かと、一夏は小さく苦笑しながらも、自分の仕事に戻るべく、手際よく用意を進めていた。
下拵え事態は出発前に在る程度済ませて来ているため、実質焼くだけという手軽さに、あっという間に準備は整い、人数分のノンアルコールドリンクと、肉と野菜がバランスよく刺さった串が手渡される。
簡易式のキャンピングテーブルには、川崎家で使われる特製ダレと、宗吾とコートニーが用意したソースと共に、保温ジャーに入れられた白米が湯気を上げており、何時でも食ってくれと言わんばかりに煌めいて見えた。
成長期である八幡や大志は、一夏より飯食いに行くから腹空かせとけと言われていたため、相当な空腹状態なのだろう、早く食べたいと言わんばかりに瞳をぎらつかせていた。
そんな二人の様子に、男性陣はしたり顔で頷き、女性陣は年相応な男子の反応を好ましく思う様に、慈母の様な笑みを浮かべていた。
「それじゃあまぁ、秋の良い天気に感謝して頂こう!」
ノンアルコールビールが注がれたジョッキを掲げ、一夏が宣言すると同時に、一同はそれに応じるようにそれぞれのグラスを掲げて乾杯、各々に食い物に在り付いた。
「「うまぁ・・・!」」
全く同時に肉にかぶりついた八幡と大志は、あふれ出る肉汁と旨み、そしてしっかりとした肉厚に感激し、全く同じ感嘆を零していた。
兄弟かと言わんばかりのその様子に、沙希は面白い様な可愛い様な悔しい様な、途轍もなく複雑な表情を浮かべていた。
仕方あるまい、恋人も大事だが弟も大事に想っている彼女の事だ、その両名が自分より仲が良いと見えるのだから、少々妬いてしまうのも無理はない。
まぁ、そんな彼女の事などお構いなしに、仲良し義兄弟(仮)は『美味しいね~。』と笑いながらも肉を、コーンなどの野菜を頬張って行く。
因みに、今回用意された肉は、ビーフでもポークでもない、何処で手に入れたのかラム肉だったが、巧く臭みを抜いたため、獣臭さを気にすることなく食す事が出来た。
それはさて置き・・・。
コートニーも宗吾も久方ぶりの肉食に黙々と食し、玲奈とリーカはセシリアとシャルロットと共におにぎりを握りながらも、自身の旦那達の表情がおかしかったか、クスリと笑みを零していた。
そんな和やかな空気が暫し続いていた時だった。
それは、空から落ちてくる。
彼等の頭上に巨大な影が指し込み、全員が思わず頭を上げた。
そこには、赤い球体の様なものが彼等の頭上を通り過ぎて行き、一山超えた所に落下、土煙が盛大に上がり、それから一瞬遅れて衝撃による揺れが彼等を襲った。
「「わぁぁぁ!?に、肉がぁぁぁ!!」」
「「そっち・・・!?」」
隕石の様なものが落下した事よりも、揺れのせいで肉が地に落ち、台無しになる事に悲鳴を上げる八幡と大志に、ソコじゃないだろと沙希と小町はツッコミの声を上げていた。
そのどこか抜けた場面に苦笑しながらも、アストレイメンバーの目には、戦場に赴いた時の眼光が宿っており、既に臨戦態勢となっている事を如実に表していた。
一体何が来る、何が落ちて来た。
そう身構える彼等の前にそれは、現れなかった・・・。
『・・・、はっ・・・!?』
何故現れない、そんな疑問が彼等の頭を過ぎるが、何かが起こっている事だけは確かだった。
故に、八幡と大志は誰よりも真っ先に走り出す。
「「肉を台無しにするなぁぁ!!」」
「「だからそっちぃぃ!?」」
相変わらず食い物の怨みで走り出す男子に突っ込みながらも、沙希と小町も彼等を追って走り出した。
そんな4人を、アストレイの7人は兄弟姉妹の仲が良いのは良い事だと笑いながらも、兎に角状況を見定める為に走り出す。
私怨やそれを止めるため、戦士としての使命など、様々な想いが入り混じった一行は、山の向こうに落ちた者の正体を確かめるべく走る。
それが、どの様な結果になるなど、露程も知らないままに・・・。
sideout
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「・・・、妙だな・・・。」
赤い球の様な隕石が落ちた山の向こう側に向かう道中、一夏はあまりの不自然さに表情を顰めながらも呟いていた。
その山道は、舗装されていたとはいえ地元の住民しか通らない様な道なのだろう、所々剥がれや雑草が生えている箇所も見受けられ、車一台が漸く通れる坂道という様相だった。
そんな彼の言葉に、アストレイの面々もまた、度し難いと言わんばかりの表情を浮かべながらも
「どういう事、ですか・・・?」
その意味を理解出来なかったのか、八幡達若者はどういう事かを尋ねていた。
無理もない。
異変があると言う事は分かっていても、彼等はまだ、それが齎している事象を実際に見るまで分からない段階なのだ。
雰囲気や空気感だけで察するなどという高度な感覚は、それこそ相当の場数を踏まねば為せない芸当なのだから。
「いや、静かすぎるんだ、いくら田舎と言っても人はいる筈だ、隕石が落ちたらそれこそアリの巣を突いた様に外に出てくるだろう?」
「言われてみれば、確かに・・・。」
コートニーの言わんとする事を理解したのか、大志はなるほどとうなずく。
確かに、隕石の落下と言う事態は、それこそ大惨事につながりかねない事だ。
普通ならば、危険を回避しようと逃げ出したり、何が落ちて来たかを確かめようと外に出てくる者もいるだろう。
だが、今、そんな気配は全く感じ取れず、ただ、木々のざわめきや風の音だけが彼等に届くばかりで、人の気配さえ感じ取る事が出来なかった。
「少し、用心した方が良いかもしれないね・・・、暗殺宇宙人か、三面怪人か・・・、迷惑な事に変わりないか・・・。」
この状況を作り出せる候補を幾つか考えながらも、シャルロットは硬い表情を崩さないまま呟いた。
その敵が出てきたらどうするか、今一度、対処法を頭の中で練っているのだろう。
「だろうな、まぁいい、取り敢えず3班に分けてこの集落の辺を調べよう、全員、ウルトラサインの準備だけはしておけ、連絡は逐次行う、良いな?」
『了解!』
一夏の言葉に、全員が了解と返し、それぞれでチーム分けに入った。
1班は一夏、八幡、大志で、山の方へ。
2班はコートニー、リーカ、沙希、小町で村の中心へ。
3班はセシリア、シャルロット、宗吾、玲奈で、村の外れへと向かって行く。
班行動を取るだけあって、全員が緊張の面持ちで歩みを進めていたが、村の中へ脚を踏み入れた2班の面々の前に、唐突な変化は現れた。
「っ・・・!?人が・・・!?」
村の中心、民家が密集している場所に足を踏み入れた沙希達の前に、民家の玄関先で倒れている住民と思しき老人の姿が飛び込んでくる。
周囲に血の匂いはしなかったが、それでもよくない状況だと判断したのだろう、コートニーが真っ先に駆け寄り、老人を抱き起す。
「ご老体!しっかりしてくれ!!」
生きているのか、それとも最悪の事態か・・・。
緊迫した状況の中でも、昔取った何とやらで、コートニーは老人の首筋に指を当て、脈を取る。
意識を集中させること数瞬、コートニーの表情から険しさが消えていく。
「脈はあるし乱れも無い、表情も苦しんでる様子もないし、どうやら眠っているようだ・・・。」
「よ、よかったぁ・・・。」
彼の言葉に安堵したか、沙希や小町は緊張の面持ちから一変し、膝から崩れ落ちんばかりに安堵の表情を浮かべていた。
いきなり理不尽な結果が齎される事を恐れていたのだろう、それを察したリーカもまた、安堵のタメ息を吐いて辺りを見渡す。
「っ・・・!!」
そこで気付く。
周囲の民家の軒先で、何人もの住人が、先程の老人と同じ様に倒れ込み、穏やかな寝息を立てている事に。
そして、同時に察した様だ。
今、この状況を引き起こした、彼女達にとっても忘れ難い戦いにて見えた存在の事を。
「こ、コートニー・・・!!」
「み、皆まで言うな・・・!とにかく一夏達と連絡を・・・!!」
コートニーも察したのだろう、その表情からも先程までの安堵が消え、声も震えが混じっていた。
まさかの事態、彼等の表情にはそんな色が見て取れた。
そんなヒエロニムス夫妻の焦りを感じ取ったか、その理由を問おうと沙希が口を開こうとした、まさにその時だった。
『――――!!』
彼等の背後から、何かの鳴き声が響き渡る。
それが敵性かどうかを判断するよりも早く、4人の意識は強烈な睡魔によって微睡の底へ落ちていく。
そこにきて、沙希と小町は理解した。
その鳴き声の正体こそ、赤い隕石に潜んでいた怪獣だったと・・・。
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次回予告
のどかな村に襲来した怪獣の正体に、アストレイ達は頭を抱え、八幡達は困惑する。
今すぐ対処せねばならない時、彼等が採る選択とは?
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
川崎沙希は眠れない 中編
お楽しみに