やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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川崎沙希は眠れない 後編

noside

 

翌朝早くから、八幡と沙希は眠っている大志たちや村人たちを置いて山に入り、双眼鏡でバオーンの様子を窺っていた。

 

昨日、小町の技で眠らされた状態で地面に大の字になっていたが、眠りが徐々に浅くなってきているのだろう、体動が少しづつ大きくなっていく様子が見て取れた。

 

「マズイな・・・、もうすぐ起きるぞ・・・。」

 

「そうだね・・・、まだ朝も早いし、皆寝ちゃってるよね。」

 

ここで目覚められては堪ったもんじゃない、そう言わんばかりの色が窺えた。

 

それも当然だろう。

山間部の奥まった場所に在る村とはいえ、人もそれなりに住んでいる場所だ、そんな所で癇癪を起されては堪った物ではない。

 

バオーン自身はただただ遊んでほしくて、それが受け入れられなくて拗ねているだけだろうが、その足元にいる人間は、あまりにも小さく、脆弱に過ぎる存在だ。

 

無論、八幡や沙希、アストレイなどの、異物を撮りこんでいる人間などの例外も存在するにはするが、それも全人類から見れば、何百万分の一以下の割合でしかないことも事実だ。

 

そうなれば、八幡が取る答えは自ずと決まってくる。

だが、師である一夏達は、せめて地球からの追放で済ませろと暗に言ってくるのだ、いったいどうしろと言うのが本音だった。

 

「まぁ、先生達もウルトラマンなんだろうさ、怪獣たちも護るって決めてるんだろ?」

 

「それもそうか、ハネジローみたいに良い怪獣だっているしね。」

 

しかし、それ以上詮索しても、所詮は推測でしかない上、なんだかんだ言いながらも弱者を助けている一夏達を、自分達の家族と同等に信じている八幡と沙希は、特に気にも留めていなかった。

 

バオーンがまだ村人+αしか眠らせていないため、そこまで迷惑を掛けていない事も承知している彼等は、素直に彼等の頼みを聞く、そう決めた様だ。

 

だが、彼等は気付いていなかったのだ。

一夏達、アストレイが、腹に抱える本音を、その原因を・・・。

 

そう結論付けた時だった。

突如、バオーンが大きく欠伸をしながら動き始める。

 

「ッ!!動いた!!」

 

「あたしが行く!!」

 

身体の赤いギンガでは刺激するだけだと判断し、沙希はビクトリーナイトへ変身、傷付ける事を恐れてナイトティンバーは地面に刺し、使わない体勢を決め込む。

 

『バオーン!あたしが相手だ、相撲なら付き合ってやる!!』

 

沙希はバオーンに大きくアピールし、自分の方へと向かって来いと言わんばかりに挑発する。

 

挑発は沙希がある意味で得意とする戦法の一つだったし、パワーもそれなりにある事から、バオーンと真正面からぶつかる事を選んだのだろう。

 

だが・・・。

 

バオーンは眠そうな目のまま彼女を一瞥し、タメ息を吐いてそっぽを向いてしまう。

 

因みに、一夏達は話していなかったが、バオーンは赤色に特別反応するだけで、他の色や生物には何の反応も示さないのだ。

 

それを、遥か昔の話だったために忘れていた一夏達に責任の一端はあるだろうが、沙希は興味なしと見做された事に静かなショックを受けている様だった。

 

『あ、青じゃダメなの・・・!?』

 

「(なんかくだらないコトでショック受けてるよな、アレ・・・。』

 

ビクトリーがショックに硬直しているのを見て、くだらない事で動揺するなよと八幡は思わずにはいられなかった。

 

だが、自分が出て行くとややこしくなる事が確定しているため、気を引くための最後の手段として待機しておくことにしたようだ。

 

『くっ・・・!こうなったら気絶させてでも宙の彼方に放り投げてやる!!』

 

やろうとしていた事を改めて口に出すと、結構物騒だよなぁという事を暢気に考えていた八幡の目の前で、青いビクトリーは、スマートとは形容しがたい荒々しさを以て、バオーンに飛び掛った。

 

流石にビクトリュウムスラッシュなどの光線系の技は使ってはいなかったが、それでも強烈な張り手モドキがバオーンの胴に突き刺さる。

 

バオーンは大きくよろめきながらも、何すんだと言わんばかりに身体を揺さぶり、ビクトリーに体当たりを食らわせる。

 

その動きは、言ってしまえばやけくそな動きだったが、それでもパワーは十分、ビクトリーは大きく吹き飛ばされてしまう。

 

「うぉっ!?ビクトリーが吹っ飛ばされた!なんつーパワーだ・・・、ギンガじゃないと抑えられんぞ・・・。」

 

ビクトリーも、確かにパワーのあるウルトラマンだとは言えるが、元々はテクニックで相手を押し込んで行くタイプなのだ、タフネスという点ならば、ギンガの方が勝っていると言うのが現実だった。

 

故に、ギンガと比較してそこまでの耐久力が無いビクトリーは、地面に叩き付けられるように落ち、その衝撃は離れていた八幡をも襲った。

 

だが、八幡はそれを目を細めるだけで、微動だにせず事の成り行きを見守っていた。

 

『くっそ・・・!あたしに構えーッ!!』

 

ジャンピングタックルのように飛び掛りながら、村の方へ行くのを止めようとした。

 

だが、バオーンには興味も無い事で、脅威でも無い事なのだろう、鬱陶しそうに身体を振るってビクトリーを振るい落とした。

 

だが、それでも足を止め、空へと担ぎ出そうと、ビクトリーは必死に抗った。

 

しかし、ジリ貧である事には変わりないのも現実だ、八幡はしょうがないと言わんばかりに肩を竦め、懐からギンガスパークと、一つのスパークドールズを取り出し、読み込ませる。

 

「沙希には怒られそうだけど、こういう使い方なら良いか!」

 

『ウルトライブ!!レッドキング!!』

 

後で文句を言われたらその時に謝っておこう、そんな適当な事を考えながらも、八幡は光に包まれて行くそれを頭上に掲げた。

 

その瞬間に、彼の身体は光に包まれて巨大化し、嘗て彼が倒した怪獣、レッドキングに姿を変えた。

 

『赤く無くてもレッドキング!!相撲なら受けて立つぜ!』

 

『は、八幡・・・!?』

 

まさか怪獣にライブして飛び出してくるとは思いもしなかったのだろう、沙希は後ずさる様にして驚いていた。

 

それに取り合わず、八幡は明らかに動きづらそうなレッドキングの足腰で、器用にバランスを取りつつ四股を踏む。

 

それに気付いたか、バオーンは眠そうだった目をこれでもかと言わんばかりに見開き、パッと表情を輝かせた。

 

まるで、本当の意味で遊んでくれる相手を見付けた様に・・・。

 

『よっしゃ来ぉぉい!!』

 

向かってくるバオーンと回しを取り合う様にぶつかり、どっちがどっちを押し倒そうかと言わんばかりに取っ組み合っていた。

 

元々パワー系の怪獣であるレッドキングは、バオーンの強烈な押しにも全く退く事無く、寧ろバオーンを土俵際に追い詰めんばかりに一歩一歩、バオーンを押していた。

 

劣勢になって焦ったか、それとも負けて堪るかと負けん気を見せたか、バオーンは押し返そうと抗っていた。

 

だが、それでも地力の差が出ているのだろう、レッドキングはその抵抗を徒労と化すかのように、バオーンを一度担ぎ上げ、投げ倒した。

 

『よっしゃ!俺の勝ちぃ!!』

 

『勝って良かったの・・・?』

 

ガッツポーズを決める八幡に、沙希はそう言えば最初の目的って何だっけと言わんばかりに呟いていた。

 

そして、一夏が嘗て大人げないコトして、大混乱に陥ったという話を思い出した。

 

『やっべ・・・!で、でも今の内だ!!』

 

勝つにしても悔恨の残らないやり方を選んだつもりだったのだろうが、完全に裏目に出ていた事に気付き、八幡は少々慌てながらもレッドキングとのライブを解除、ウルトラマンギンガとして改めて地に降り立った。

 

負けて悔しかったか、いじけていたバオーンは、ギンガの赤いボディを見て、再び目を見開く。

 

また遊んでくれると思ったのか、青い身体のビクトリーナイトには一切目もくれず、ギンガに迫って行く。

 

だが、ギンガは飛び上がる事でそれを避け、バオーンが捕まえられそうな距離ギリギリに滞空する。

 

相撲の次は鬼ごっこに興味が移ったか、バオーンはぴょんぴょん飛び跳ね、なんとか追い付こうと、僅かな滞空中に必死にバタ足をして浮かび上がろうとしていた。

 

傍から見てもなんとも微笑ましい光景だったが、八幡と沙希の狙いは別にあった。

 

『ッ!今っ!!』

 

その一瞬の滞空は、彼等が狙っていた無防備になる瞬間でもあった。

 

ビクトリーが迷うことなく飛び、バオーンをしたから支える形で飛行、そのまま大気圏外へ、地球の外へ還すために宙の果てへ飛んで行った。

 

『これで、一件落着だな、しっかし、なんつー迷惑な怪獣だったよ。』

 

その姿が見えなくなるまで見送った八幡は、タメ息を吐きながらも変身を解き、誰にも見つからない様にこっそり一夏達が待つ、村の集会場へと戻った。

 

あれだけ大暴れしたら、流石に耳の遠い老人も起きたのか、皆、バオーンが飛んで行った宙を

 

そこで、八幡が見たのは・・・。

 

「気ぃつけてなぁ~!」

 

「達者でのぉ~!」

 

「また来いよぉ~!」

 

村人たちが、何とも暢気に手を振って見送っていた。

 

「へぁっ!?」

 

思わず声を上げてしまうほど、その行動が信じられなかったのだろう。

 

今の今まで、村の近くでドンチャンやらかしていたヤツを、また来いと言えるその神経が分からなかったのだろう。

 

小町や大志も、なんとも言えない様な表情でそんな村人たちに混ざっていたが、一夏達の表情は、ただただ何も無くて良かったと言わんばかりの様子だった。

 

「ホント、仕方ないやつだったよ、お疲れさん。」

 

駈け寄ってくる八幡に、一夏は苦笑しながらもおかえりと出迎える。

 

その表情にはまるで、バオーンが無事で良かったと言わんばかりの色が見て取れた。

 

「どもっす、でも、本当に良かったんですか?」

 

そんな一夏に一礼しながらも、八幡はバオーンへの対処の是非を改めて問う。

 

殺さなくても良いとは思うし、暴れないヤツを無暗にスパークドールズにしてしまうのも正しいとは思えない。

だからこそ、八幡は改めて問いたくなったのだ、戦いの中での、対峙した相手への対処の在り方を・・・。

 

「良いさ、アイツは何も壊してないし、誰も傷付けていない、無暗に殺める必要もない。」

 

「はぁ・・・。」

 

つまり、実害が出るまで放置しておけと言わんばかりな言葉に、八幡は表情を僅かに顰めた。

 

何せ、彼が聞きたかったのは良いやつと悪いやつの見極め方なのだ、一夏ならば、それを知っていると思っていたのだから・・・。

 

「怪獣にも良いヤツ悪い奴はいる、人間もまた然り、それを見分ける方法なんて、結局行動からの推測しかない。」

 

そんな感情を感じ取ったか、一夏は僅かに表情を難しい物にした。

 

彼もまた、それを見極めるには、セカンドコンタクトが必要である事を物語っていた。

 

「だから、その行動の真意を読む事を忘れるな、それを受け入れるか排除するかどうかは君次第だが、決めた事には責任を持て、俺が言えるのはそれだけだ。」

 

「はい・・・。」

 

結局、答えらしい答えは得られなかった。

だが、八幡にはそれでも良かった。

 

人から与えられる答えと、自分自身が見つける答え、それを併せて一つの答えとする。

 

それが、今の自分が見つけるべき答えへの道標だと、彼は知っていたから・・・。

 

sideout




次回予告

アストレイに訪れる珍客に、アストレイズは何時もと異なった態度を見せる。
だが、その来訪は、八幡達に新たなる選択を突き付ける序章となった。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている。

比企谷八幡は迫られる

お楽しみに

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