やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
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「雨が、降るかも知れませんわね・・・。」
秋も更けてゆき、そろそろ冬の気配が顔を覗かせ始めたある日、アストレイの店内で、セシリアは物憂げな表情で流れゆく店外の風景を眺めていた。
何か、拭いきれない予感と言うのだろうか、それとも虫の知らせと言うべきだろうか、彼女の胸中に何とも形容しがたい感覚が渦巻いていた
今日一日、という訳でも無い。
何故か、雨の気配が近付くにつれ、徐々に大きくなり、次第に意識が逸れる事になっていた。
無論、プロとして接客や業務に支障を出すほど、セシリア自身の精神力は脆くはないが、それでも気になると言えばウソになっていた。
そんな自分自身を自嘲するようにタメ息を吐きながらも、彼女はシフト表に目をやりつつ、手元の片づけを始めた。
今日のシフトは、喫茶店を店主であるセシリアが受け持ち、夜のショットバーの営業をコートニー達が受け持つ事となっていた。
既に夕刻が近付いていたためか、既に店内の客入りはまばらであり、主な客層である主婦や老人たちも、雨が降る前に家路に就こうと、ぼちぼち話を切り上げていく様子が見て取れた。
そうして、暫くしていく内に客の姿は店内に見られなくなり、セシリアも、そろそろ切り上げ時かとサイフォン機の清掃に入ろうとしていた。
外は暗雲が立ち込め、徐々に雨脚も強くなりそうな様相を呈していた。
そんな時だった、ふいに店のドアが開き、黒いコートの様なものを頭から羽織った男が一人入ってくる。
「あら、いらっしゃいませ、でもごめんなさい、喫茶店のラストオーダーはついさっき終わってしまいまして・・・。」
店主として迎え入れたが、ラストオーダーも終わり、残り10分もしない内に店仕舞いの時間なのだ、来てもらって悪いが、御引き取り願うのが当然の対応だった。
「・・・、貴女は、コスモス・・・?」
「ッ・・・!?」
その男が口にした言葉に、セシリアは表情を変える。
昔の知り合いか、それとも名を挙げる為に自分の首を狙ってきた無法者か。
どちらにしても、店の中での騒ぎは避けたいと思わざるを得なかった。
「どちら様ですの?お生憎様、力は戻っていましてよ?」
敵かも知れないと、セシリアはコスモプラックを突き付けるように見せ、正体を明かす様告げた。
「私をお忘れですか・・・?」
その男は、やり合うつもりはないと言わんばかりに手を挙げ、被っていたフードを払いのけた。
一瞬、意味が分からずに怪訝の表情を浮かべたセシリアだったが、その顔を見た瞬間に、美麗な顔に驚愕の色が差し込んだ。
「貴方は、まさか・・・!?」
「惑星コンコルド以来、ですね・・・。」
重苦しい雰囲気の中、二人の表情は緊迫した物になって行った。
それに呼応したか、店の外は、降り始めた雨が徐々に強くなっていく。
それは、彼女達アストレイの過去に根差した再会であり、そして、彼女達とその弟子に、新たなる選択を迫る事にとなるのであった・・・。
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「雨、降って来たな・・・。」
その頃、学校からの帰路に就いていた八幡は、傘を差しながらもゆっくりと家を目指して歩いていた。
この日、科特部は一夏の不在のため休みとなり、沙希は京華の迎えの為に早々に帰宅、彩加はテニス部のミーティングで、一緒に帰る事は叶わず、彼は今、久しぶりの一人の帰りだった。
「両隣が、寒い・・・。」
隣に誰かがいる事に慣れてしまった、それを心地いと思っている自分がいる事に、随分変わったもんだと思う八幡だったが、それでもあの心地い空間が恋しくなるのは当然の帰結だった。
せめて、話が分かる奴が来てくれないかなぁとか考えているのだろう事が、その寂しげな表情からは窺う事が出来た。
「何言ってんの、比企谷君・・・。」
「疲れてるの・・・?」
それをバッチリ聞かれていたのだろう、後ろにいた大和と南が、何言ってんのと言わんばかりの表情で追い付いてきた。
どうやら、二人で帰っていた所に、八幡がフラフラと一人で帰っていた為に声を掛けたのだろう。
「いや、うん・・・、何でもない・・・。」
聞かれていた事が気恥ずかしかったのか、八幡は耳まで赤くなって目を逸らした。
そんな彼の反応がおかしかったか、大和と南は顔を見合わせて笑い合った。
そこには、何も言わずとも分かり合っていると言わんばかりの、確かな信頼感が窺えた。
「と、兎に角、途中まで一緒なら帰ろうぜ、この際大和たちなら歓迎だ。」
そんな二人に、八幡は照れ隠しのつもりかそっぽを向いて、一緒に帰ろうと言う。
素っ気ないように見えて、それが照れ隠しだと知っている大和と南はくすりと笑った。
「あはは、ありがと。」
「ホント、素直じゃないね。」
「う、うるせぇ。」
そんな二人の反応に声を上げ、八幡は先に歩いて行こうと歩みを速めた。
素直じゃない、そう思いながらも、大和と南も少し駆け足気味で彼を追いかけた。
青春、まさにそう形容できる光景を、八幡は無意識の内に表現できるように変わっていた。
そんな雰囲気で家路に就く彼等だったが、その時間は唐突に遮られる事となった。
「ん・・・?」
何かに気付いたのだろう、八幡は鋭い表情を作って雨空を睨む。
「比企谷君、どうしたの?」
まだウルトラマンの事を詳しく知らない南が、緊張の面持ちで八幡に問いかける。
「セシリアさんのウルトラサイン・・・、今から店に来い・・・、俺達全員に向けられてる、だと・・・?」
「セシリアさんって、アストレイから来てるのか?なら、早く行きなよ。」
事情があると察した大和は、こんな所で油売ってないで早く行けと促す。
アストレイからの呼び出しは何時も、えげつない程に重大な事が有ると八幡から聞かされていたため、そのよっぽどの事態が起こったと恐怖したのだろう。
「悪い、事情を知ってるお前等も連れて来いって言われてるんだ、瞬間移動で連れて行くから掴まれ。」
「「良いの!?」」
八幡の言葉に、大和と南は二つの意味で突っ込んだ。
ウルトラマン間での重要事項に、生の人間が入って行って良いのか、そして、ウルトラマンの能力をそんな移動の為だけに使って良いのかと。
だが、急ぎの要件なのは分かっているのだろう、二人はそれ以上何も言わずに八幡の肩に掴まる。
「行くぞ!」
八幡は、周囲に通行人や通りかかる車が無い事を確認し、意識を集中させて瞬間移動を行う。
人間の姿で使うのは初めてだったがうまくいったのだろう、三人の姿が一瞬ブレて、まるで最初からそこにいなかったかのように掻き消えた。
だが、彼等は気付いていなかった。
これから向かう先に待っているものが、彼等に選択を迫る事になると言う事を・・・。
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「テレポートはあまり使うなと言った筈だがな?」
瞬間移動でアストレイの店内に着いた八幡達を出迎えたのは、師の一人であるコートニーの苦笑交じりの非難だった。
人目についてはいけない事と、ウルトラマンの力を濫りに使ってはならないと達していたため、瞬間移動で現れた八幡に一言言っておこうと言うつもりなのだろう。
「すみません、緊急の要件だと慌てました!」
「図太いなぁ、まるで一夏だ。」
悪びれた様子も無く緊急要件だと思ったと言い切った八幡に、宗吾はリーダーである一夏の行動に似ていると苦笑を禁じ得なかった。
八幡は一夏の影響を一番強く受けているため、根っこは兎も角、生き方や考え方が似通って来ている傾向があった。
アストレイのメンバーからしてみれば、取り立てて突っ込む事でもないが、一夏が二人いる様で何処となく疲れるのだろう。
「遅くなった、要件は何だ。」
そんな彼等の前に、一夏も瞬間移動で現れる。
ウルトラマンの力を失っているとはいえ、残存能力だけでも、変身や光線以外の事なら出来るのだろう。
「「・・・・。」」
そんな一夏を、宗吾とコートニーは何とも言えない表情で見ていた。
頭の中で考えた途端に目の前に現れる、性質の悪い冗談か何かかと思いたくもなる。
だが、そんな事など言っても無意味だとも知っている。
何せ、付き合いの長さだけならば、人が生まれて死ぬまでの間の何十倍と共にしているのだから。
「ティガ・・・、話には聞いていたが、貴方までいてくれるとは・・・。」
そんな彼を見た、アストレイメンバーではない客人が、驚いた様に口を開く。
まるで、いてくれて助かったと、そう言わんばかりに・・・。
その客人は、黒いフードを脱ぎ、何処か穏やかな面構えをした青年だった。
「お前は・・・、まさか・・・?」
その客人を見た一夏の表情が変わった。
まるで、嘗て出会い、二度と会う事など無いと思っていた存在に会った、そんな驚愕に満ちた表情だった。
「先生・・・?」
「「「「遅くなりました!」」」」
そんな師の様子を怪訝に思ったか、八幡がその先を問おうとした。
その時、店のドアを開けて、沙希達新人4人が息を切らしながらも駆け込んでくる。
どうやら、ウルトラサインを見て、律儀に言いつけを守ってここまで走って来たのだろう。
そんな彼等の様子に、大和と南は内心『ごめんなさい』と思わずにいられなかったそうだ。
それはさて置き・・・。
「貴方達が、この世界に生まれたウルトラマンと言う事ですか・・・、、お初に御目にかかりますね。」
「あ、貴方は・・・?」
その優しい声色に、八幡はその青年の正体を探る様に話しかけた。
その反応は正しい。
パッと見で、20代半ばの男が、一夏達の嘗ての知り合いとなると、その正体が人間でない事など想像に難くないのだから。
「私は、メイツ星人ムエルトと申します、アストレイの皆さんにお世話になった、しがない牢人です。」
そんな彼等の困惑に応える様に、青年は名乗りつつも、その正体を明かす。
青白い肌に、大きく、白目の無い黒目だけの瞳、皺だらけの皮膚を持った姿だった。
「「「う、宇宙人・・・?」」」
その姿に、小町と南、大志は少しだけ驚いた様に後ずさる。
無理もない、何せ、彼女達二人はこのメンツの中では珍しく、宇宙人とこれまで遭遇した事の無い顔ぶれだった。
「彼は昔、別の宇宙にある惑星で旅をしていた時に出会った友達だ、まさかこの世界に流れ着いているとはおもわなかったな。」
そんな彼等に、ムエルトが敵では無く、友人だと伝える。
只怯えるだけでなく、言葉に耳を傾けてほしい、そう願っているのだろう。
「比企谷八幡、俺達の弟子だ、この世界に生まれたウルトラマン、ギンガとして戦ってくれている。」
「ど、どもっす・・・。」
いきなりの紹介に面食らったか、八幡はおっかなびっくりながらもムエルトに頭を下げる。
初対面相手にとる態度としては、まずまずといったところだろうか・・・。
「弟子を取る様になるなんて・・・、ウルトラマン嫌いで、地球人嫌いの貴方方が、随分変わりましたね・・・。」
「えっ・・・?」
まさか一夏達がウルトラマンとしての弟子を取るとは思ってもみなかったのだろう、ムエルトの表情からは只々驚愕だけが見て取れた。
だが、その驚愕の理由が分からない八幡達は、驚愕の表情で一夏達を見た。
ウルトラマン嫌いとは、人間嫌いとはどういう意味か、その意味を教えて欲しかったのだろう。
「俺達の事はどうでも良い、それより、なんで今になって俺達を尋ねてきた、その理由を教えてくれ。」
聞かれたくない事を聞かれる前にと言わんばかりに、宗吾は一夏達が口を開くよりも早く、ムエルトが彼等を訪れた理由を問うた。
その理由を聞かねば、行動のしようもない。
そう考えての事だろうか・・・。
「そう、ですね・・・、では、さっそく・・・。」
追及しないでくれという事が暗に伝わったのだろう、ムエルトは表情を硬くし、タメ息を一つ吐く。
まるで、何か覚悟を決めるかのような、重苦しい雰囲気が伝わってくる。
「ティガ、ダイナ、ガイア、コスモス、ネクサス、マックス、メビウス、そして新しいウルトラマンの皆さん、お願いがあります。」
彼は全員を一度ずつまっすぐ見据えて頭を下げる。
一体どんな依頼かと、固唾を呑む彼等は、続くムエルトの言葉に、皆言葉を失った。
何せその依頼とは・・・。
「私を、スパークドールズへ封印してもらいたい。」
スパークドールズへの回帰、それは無の時間への回帰に他ならなかったのだから・・・。
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次回予告
唐突な依頼に頭を悩ませる八幡達に、ムエルトの意思が伝えられる。
だが、その意思と反する、無自覚な悪意は、確かに生まれようとしていた。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
比企谷八幡は迫られる 其の二
お楽しみに