やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
side沙希
十月も間もなく終わろうとしていたある日の事だった。
あたし達何時もの5人は、科特部の部室に集まっていた。
昼食を取った後は、特に何をするでもなく、授業が始まるまでだらだと過ごしていた。
「あ、そう言えばもうすぐ修学旅行だね。」
そんな時だった、彩加が唐突に修学旅行の話を持ちだしてくる。
「もうそんな時期?早いもんだね・・・。」
その言葉に、あたしも時期を思い出した。
ウチの学校は進学校なだけ在り、受験に3年の一年を費やす事となるため、時間的にまだ余裕のあるこの時期に修学旅行を済ませる事が慣例になっていた。
他所の学校の事はイマイチ分からないから、時期がどうこうっていうのは言及しても良いのか分からないけどね。
まぁそれは兎も角、行先はその年によってバラバラだけど、それでも思い出にはなるだろうね。
何せ、今回の修学旅行はボッチ行動なんてとる必要が無いんだ。
「確か、行先は京都だっけか、秋の嵐山、行ってみたかったんだよなぁ。」
八幡と行く嵐山とか、金閣とか清水寺とか、絶対に楽しいに決まってる。
それに、彩加も、あと誘わなくても大和も相模も付いて来てくれるだろうから、彼氏だけじゃなく、友達も一緒って事になる。
これって、あたしにとっちゃ結構重要な事なんだよね。
まぁ、それは行ってからの楽しみに仕様じゃないか。
出発当日くらいは、張り切ってお弁当は作るけど。
「この五人で班作るか、誰も文句言わなさそうだし。」
「そうだね、ふふっ、今から楽しみだね♪」
八幡と彩加は、あの事件以来少し沈んだ様子だったけど、今は少し立ち直ったか、笑顔が戻って来ている様な気がする。
勿論あたしも、なんとか立ち直ってきてはいるけど、その過程で何度折れかけた事か・・・。
まぁ、京華とハネジローみたいに、抵抗できない存在を護るために戦う、そう結論付けて無理やり前を向いているだけかもしれないけどね・・・。
だから、あたしはゆっくりでも進んで行きたい。
あんな悲劇を、もう繰り返させないために。
「あ、そう言えば・・・。」
そんな事を考えていた時だった、大和が思いだしたように呟いていた。
「どうしたの?」
彼の隣にいた相模が、小首を傾げながらも尋ねていた。
この二人も、実はもうデキてるんじゃないだろうかと勘繰ってしまうけど、そうなったらそうなったらで祝うし、そうじゃなかったらスルーするから、特に気にしたもんじゃないけど。
だって、人のそう言うのに突っ込んで行くのって、野暮ったいよね。
「いや、葉山君のグループ内での話なんだけどさ、此処じゃ関係ないし、気にしないでよ。」
「そう言われたら気になるだろ・・・、話せるものなら話せよ。」
八幡のいう事に、あたし達も同じく頷きながらも教えてくれと彼を見やる。
「ヒトの色恋沙汰に興味ない的な事言ってたよね・・・、まあいいけど・・・。」
色恋沙汰、って事はあのグループ内のメンバー同士のアレコレって事かな・・・?
まぁ、男女混成のグループならよく聞く話ではあるけどね。
「戸部っていう男、憶えてるかな?あの茶髪でチャラそうなヤツだけど・・・。」
「あぁ、アイツね。」
と言っても、見てくれだけ思い出しただけで、どんな感じだったかはホントに憶えてないけど。
「彼がさ、葉山君のグループメンバーの海老名って子に、修学旅行で告白するって息巻いてるんだよ。」
「へー、結構定番と言えば定番だよね、良いんじゃない?」
秋の京都で、もみじ見ながらって考えると、それなりに雅ってなもんだけど、あたし達が取り立ててどうこう言う問題じゃないね。
関わりの無い奴等のやる事なんだ、へぇそうなんだ、程度の関心が普通なんだろう。
それ以外の感情を持ち込むとすれば、それはただのお節介か、いやがらせのどちらかでしかないだろうしね。
「それはそうだけどさ、いや、まぁ、良いか・・・。」
何となく歯切れの悪い言葉に、あたし達は一様に小首を傾げるけど、大和はそこから先、その話題に言及しようとはしなかった。
よく分からないけど、まあ気にするほどの事では無いだろう。
そんな事を考えつつ、次の授業は何だったかと考え始めていた時だった。
唐突に部室のドアをノックする様な音が聞こえてくる。
一体誰が何の様で来たのか、皆目見当も付かないけど、今は特に用事もないと思い、入室を許可する。
「どうぞ、開いてるよ。」
「失礼、するよ・・・。」
その言葉と共に部室に入って来た人物に、あたし達は全員が面食らった様な表情をしてしまう。
何せ、ソイツがあたし達の所に自分から来るなんて、考えた事も無かったから・・・。
「葉山、君・・・。」
その人物は、あたし達にとってそれほど関わりがある訳でも無いが、決して良好な関係とは呼べない男、葉山隼人その人だった・・・。
sideout
noside
「何の用だ?」
隼人の訪室に、八幡は迷惑そうな、そして訳が分からないといった怪訝の表情を浮かべていた。
何故自分達の所に顔を見せたのか。
今迄のやり取りでの中で、隼人と上手くやって行ける要素を見付けられなかった八幡は、只々不思議そうにしているばかりだった。
彩加や大和も、理由が皆目見当も付かないため、無意味に訪れた訳ではないとは分かっていても、その真意まで読む事が出来なかった。
「怖い顔しないでくれよ・・・、少し、依頼したい事があってね・・・。」
八幡の表情にたじろぎながらも、彼は何処か取り繕った様な笑みを浮かべていた。
本音としては、あまり居たくない場所に来たと言う心地なのが透けて見える様でもあった。
「依頼なら奉仕部に行けよ、俺はもうアイツ等とは無関係なんだ、いい迷惑だぜ。」
それに気付いたか、それとも本気で迷惑しているのか、八幡は吐き捨てるように言い放った。
自分を罵倒するだけで、結局は何も出来なかった奉仕部の存在を毛嫌いしている様だった。
それに加え、科特部は特に依頼と言うモノを受け付けている訳ではないため、聞く耳持たん状態でもあったが・・・。
沙希も彩加も、そうしてくれと言わんばかりに顔を顰めるばかりだった。
八幡の態度は、事情を知らない第三者である南から見れば首を傾げるモノだったが、それなり以上の付き合いが在る大和は、仕方ないと言わんばかりにタメ息を吐き、事態の静観に努めていた。
八幡達とはさまざまな修羅場を共にしてきたが、それでも隼人とは同じグループにいた縁もある、どちらのストッパーとも成れる様にしたいのだろう。
「君という男は・・・。」
そんな八幡の態度に、隼人は誰にも聞こえない程度に呟く。
思い通りにならない苛立ちを抑えきれなくなってきているのだろうか・・・?
だが、次の瞬間にはそれも霧散し、またしても笑顔をその整った顔に貼り付けていた。
「知らないのかい?奉仕部は今ほとんど活動していない、どうしても科特部の方が目立っているからね。」
「ふぅん、それで、あたし達に依頼を押し付けようってかい?」
隼人の言葉をどうでも良い風に受け止めていたが、その先の思惑を読んだ沙希が釘を刺す。
どうせ、ロクな事にならないとでも思っているのだろう、その瞳には懐疑の念が浮かんでいた。
「おいおい、俺にそんなつもりはないよ、それに、友達の想いを叶えたいって言うのはいけない事かい?」
だが、隼人はそれを笑顔で否定しつつも畳み掛ける様に問う。
「何・・・?」
その言葉の真意を理解出来なかった八幡は、怪訝の表情を浮かべながらも首を傾げる。
一体何の意味があるのか、それを知りたかったのだろう。
「俺から話すよりも、聞いて貰った方が良いんじゃないか?」
そう言いつつ、隼人は自身の陰から一人の女子生徒を前に出した。
「海老名さん・・・?」
その女子生徒に見覚えのあった大和と南が驚いた様な表情になる。
彼女は海老名姫菜、八幡達と同じクラスに属する少女であり、クラスを違う意味で賑せている内の一人だった。
隼人のグループにいる彼女だが、行き過ぎた腐女子と言う以外、八幡と沙希は認識していなかったため、一体何用かと首を傾げた。
「はろはろー、ヒキタニ君に川崎さん、それから戸塚君も、今日はありがとね。」
そんな彼等の反応を気にすることなく、彼女はヒラヒラと手を振りながらも手近なパイプ椅子に腰掛ける。
「押しかけといて良く言うぜ、で、何の話だよ、くだらなかったら承知しねぇぞ。」
理由がなんであれ、その何とも思っていない様子に気を悪くしたか、八幡は憮然と問う。
だが、呼び止められた理由がくだらないもので、尚且つ自分達の不利益になる事が少しでもあれば、自衛として断る以上の事をするつもりでいる様だった。
程度の差はあれ、沙希や彩加もそれには同意するところであった。
「あはは・・・、そう言われると、ちょっと・・・。」
その重苦しい雰囲気を察してか、姫菜は苦笑しながらも発言を渋る。
自分の発言を受け入れてくれるか、それが不安になって来たのだろう。
「じゃあ帰ってくれ、報告書書かなきゃいけないんだよ。」
だが、そんな躊躇いや不安を鑑みてやれる程八幡達も暇がある訳でも無い。
もう間もなく昼休憩が終わり、授業が終われば先日の事件を纏めた記事を書かねばならない。
少なくとも、手短に終わらせたいと思って当然だった。
「分かった、手短に言うよ・・・。」
その圧し掛かる様なプレッシャーに耐えきれなかったか、それとも観念したか、姫菜はタメ息を一つ吐いて話し始めた。
「戸部っち、あぁ、私らのトコのグループの茶髪クンね、彼が修学旅行で私に告白するみたいなんだよね。」
「大和から聞いた、受けるなら受けるで、断るなら断るで終わる事だろ、俺達を巻き込む意味なんてないだろうに。」
姫菜の話に、八幡は大まかには予想していたのだろうか、自分達が関わる事では無いと一刀両断、取りつく島を与えなかった。
それを聞いていた大和も、そして南も、なんだかんだ言っても八幡達も同意見だった。
何せ、人の色恋沙汰に他人が口出ししても何も良い事はないと判っているのだから。
「そうだけど・・・、そうじゃないんだよ・・・、何て、言ったらいいのかな・・・?」
だが、姫菜はその言葉を否定しながらも、それでも反論できないと言わんばかりの様子だった。
言われた事は至極当然ではあるが、感情で納得できないとでも言うのだろうか・・・?
「ウチのグループ内の事だからさ、戸部っちが私に告白して私が断ったら、隼人君も優美子も絶対気を遣って空気悪くなるでしょ?それって、あんまり歓迎出来ないんだよね・・・。」
「そういうコト・・・、気持ちは分からなくはないかな・・・?」
しどろもどろながらも、自分の想像を宣う姫菜の言葉に理解を示したのは、今迄状況を静観していた南だった。
彼女も、少し前までは立場と言うモノに、何よりも敏感になっていた。
故に、グループが壊れる危険があると感じれば、どんな手を使っても良いとさえ思っただろう。
だからこそ、彼女は姫菜の想いが大まかに伝わって来て、理解する事が出来たのだろう。
「でも、それって卑怯だよ、ウチが言えた義理じゃないけど、やっぱりそう言うのって一人で挑まなきゃいけない事じゃないかな?」
「(耳が痛い・・・。)」
一人でやらねばならない事、それは男女関係に至るまでの事を言っていると気付き、八幡は別の意味で顔を顰めた。
何せ、彼も沙希と付き合うにあたって告白を行ったわけであるが、結局は誰かに背を押してもらった事も多分に在るため、強く言えないとでも思っているのだろうか。
だが、それでも他人の仲を引き裂くという行為は、虐めと言うモノが起こっている場合を除いて、行った事は無い。
だからこそ、そういう役目を押し付けて欲しくないのも事実だった。
「そっか・・・、そう、だよね・・・、もういいかな。」
南の指摘に、姫菜は期待外れと言わんばかりの表情を浮かべていた。
直接的な協力は得られずとも、何か入れ知恵を期待していたのだろうか、その眼には、役に立たないと言わんばかりな酷薄な色さえ浮かんでいた。
それに気付かない南では無かったが、それをあえて無視して、席を立つ姫菜と隼人を見ていた。
まるで、これからの出方を警戒している様な雰囲気を、表に出さない様にしている様だった。
そして、二人が退室していったのを認め、彼等は大きく息を吐いた。
虫の知らせとでも言うのか、彼等は嫌な予感が拭えなかったのだろう。
まるで、見えない真綿の糸が、自分達の首をゆっくりと締め上げていくように、それは密かに近付いている、そう感じられたのだから・・・。
sideout
次回予告
修学旅行に向け、慌ただしく動き出した総武高。
その陰で、彼等も動き出していた。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
戸塚彩加は見守っている
お楽しみに