やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
noside
京都での修学旅行の初日の夜となった頃、八幡達はその日の宿である旅館に到着していた。
その日一日を市内の観光に費やした彼等のメモリーは充実しており、その表情も笑顔に満ちていた。
とは言え、京都の街もそれなりに広く、一日で全てを回る事は出来なかったが、それでも行く先々にあるものは、彼等の興味を惹いて止まなかった。
つい一か月前に起きた事はいまだに引っ掛かっている部分もあるが、それを忘れないと戒めながらも、今と言う時を精一杯楽しんでいたのだろう。
しかし、それは今は関係の無い事だった。
彼等が宿泊する事になった旅館は、敷地の広さもそこそこあり、更には京都の夜景を一望できる立地にあるというモノだった。
観光客も多く訪れると言う評判もあるらしく、食事もそれなりに豪勢だった。
「ほぇ~、やっぱりモノホンの旅館てスゲェなぁ~。」
だからというべきか、八幡は感心したと言わんばかりに割り振られた部屋で寛いでいた。
既に食事は済ませており、後はシャワーを浴びて寝るだけだった。
「そうだねぇ、ま、ゆっくり羽伸ばすにはいいんじゃない?」
そんな八幡の言葉に、ベッドに寝転びながらも相槌と共に返した。
話半分に聞いている様で、手元にはエクスデバイザーでは無く携帯電話を弄りながらの返事で、誰かとメールしているらしい。
「小町とメール中か?」
「まぁ写真とか送ってほしいって頼まれてたし、一応ね。」
「そんだけじゃないくせに。」
軽いやり取りの中で、自身の親友と妹がただならぬ仲になりつつある事を悟った八幡は、苦笑しながらもカバンの中をまさぐった。
出てくるのは参考書だけでは無く、ウノやトランプ、小さいチェス盤など様々であり、今から遊ぶ気満々と言わんばかりの雰囲気だった。
その時だった、彼等の部屋の戸をノックする音が聞こえた。
「どうぞ~。」
誰が尋ねて来たかなど考えるまでも無かった。
彼が扉を開けると、そこには沙希と大和、そして相模と材木座の姿があった。
「いらっしゃい、待ってたぜ。」
「お邪魔するよ、彩加と相部屋なんだ。」
そんな彼等を快く出迎え、部屋に招き入れた。
「あ、沙希ちゃん!皆もいらっしゃい!」
彼女達の姿を認め、彩加は携帯を置いてベッドから降りる。
折角尋ねて来てくれたのだ、自分も出迎えねばならないと考えているのだろう。
「大和殿と相部屋で良かったで御座る、知らぬ相手と一緒だと切腹するところであったぞ!」
「ははは・・・、楽しくていいけどね。」
騒がしい材木座に苦笑しながらも、大和は何処か嫌な表情は浮かべていなかった。
部屋の方で自作小説で盛り上がっていたのか、少しだけ興奮の残渣が見て取れるようだった。
「そっか、良かったじゃないか。」
そんな彼等に、八幡は少しだけ微笑みながらもトランプをシャッフルし、全員に配って行く。
その手際は見事であり、一瞬で六等分に配り分けていた。
「凄いね、誰に習ったの?」
「コートニーさんに教わったんだ、アストレイの人達って、テーブルゲームの仕方が凄くて凄くて。」
南の質問に、八幡は教えてもらった経緯を話し始める。
合宿中、八幡は夜の退屈しのぎに様々なテーブルゲームのイロハを仕込まれていたらしい。
そのお陰と言うべきだろうか、これまでまともな友という者がおらず、その手のゲームには疎かった彼が、今ではこうして場を仕切れる様になっているのだ。
八幡からしてみれば、副次的なものとはいえど、感謝感激モノだったに違いない。
尤も、アストレイメンバーが嗜むのは基本、賭け事が主であるため、その流れに乗ってしまっているのもまた必然だった。
「夜は長いんだ、まずはポーカーからな、賭けなしで。」
とは言え、仲間内でそれをする訳にもいかないと弁えられる辺り、まだ常識はあったようだ。
「いいね、楽しもうじゃないか。」
そんな彼の様子に、沙希もまた笑みを浮かべて配られたカードを見やる。
今この瞬間を生きる為に、仲間と笑っている為に。
彼等の夜は、こうして更けていく・・・。
sideout
noside
八幡達がカードゲームに興じている頃。
市街地から外れた場所にある、移動式屋台のラーメン屋の席に、その二人の陰はあった。
屋台という何処か懐かしい印象を受けるモノだったが、暖簾に書かれた文字は和風な字体だったが、何故か≪ブラックスター≫という、ラーメンとは結び付けがたい色で表現された名が記されていた。
屋台の広さもそれほど広いわけでは無く、男二人が肩をくっ付けなければならない程だったが、今の二人にはそんな事など気にならなかった。
何せ、そんな些末な事など気にならない程に、この二人の付き合いは長いのだから。
「なんでこっちに来たかは聞かないでおいてやるが、店は大丈夫なんだろうな?」
「心配ないさ、セシリアが代わってくれてるし、酒を仕入れて帰ったら文句は言われないさ。」
猪口に注がれた熱燗を煽りながらも、スーツ姿の男性、織斑一夏はタメ息を吐きつつ、隣に座ってジョッキに注がれたビールを飲んでいる腹心に尋ねる。
修学旅行の引率について来ている彼だったが、抜け出す事自体は難しくなかったのだろう、旅館から数Km離れている場所を待ち合わせ場所にされている事自体に文句はなさそうだった。
その答えと言わんばかりに、ロングコートに身を包んだ男性、神谷宗吾は笑いながらも返したが、見返りはいるなと算段を着ける様でもあった。
ギブアンドテイクが鉄則なこの渡世、アストレイとは言えそこはキッチリしているのだろう。
それはさて置き・・・。
「それに、俺が作った彩加君の強化カード、あれが正常に作動するかも確認していない、アフターケアってヤツさ。」
「作ったんなら俺に教えとけ、バックアップは俺だけで良い筈だ。」
宗吾の目的は、彩加に渡したパワーアップアイテムの動作確認の様で、介入するつもりはないらしい。
一夏はそれを知らされていなかったが、その役目は宗吾でなくとも、彼でも熟せるため、少々文句を言いたそうだったが、過ぎた事は仕方ないと割り切り、熱燗を一気に飲み干した。
言いたい事は多々あれど、弟子の為とあれば、最高の友のメンツを保てるのであればと、自分の中で妥協した様だった。
「へいお待ち、ブラックラーメン2丁。」
そんな彼等の前に、板前スタイルの強面の店主が丼ぶりを差し出してくる。
麺自体は細麺だが、スープの色は黒く濁っており、乗せられているメンマなども少し趣が異なっていた。
「おっ、ブラックラーメンも久し振りだな、この地球で食えるとは思ってもみなかった。」
シケた話は終いと言わんばかりに、宗吾は割り箸を綺麗に割り、手を合わせてラーメンに在り付いた。
口ぶりから察するに、このラーメンは地球の物では無く、異星人が作り出したモノであるらしい。
「100年前は喫茶店だったのに、次はラーメン屋か、指令って奴は忙しいもんだな。」
一夏もそのラーメンの正体を知っているのだろう、少しだけ懐かしむ様な表情を浮かべながらもレンゲを手に取り、黒く濁ったスープを掬って啜る。
「良い味だ、流石だよマスター、いや、ブラック指令?」
「その呼び方はお止しなさい、とうの昔に捨て去った名、最後の相棒が居なくなって久しいのですから。」
からかう様な一夏の言葉に、店主である男性は勘弁してくれと言わんばかりの表情でタメ息を吐いた。
ブラック指令、その名を知るのは、この世界ではアストレイ位のモノだが、嘗ては別宇宙にて悪名を馳せた円盤生物で構成されたブラックスターを率いた存在だった。
だが、あるウルトラマンの手により、ほとんどの円盤生物が倒された後、別次元の地球へ移り、そこで喫茶店を営んでいた事もあった。
だが、その最後の相棒と共に降り立った地球で、その相棒も死に、今では一人で放浪の旅を続けている。
「そうかい、で、なんでこの世界にいるんだ?」
そんな彼の事情に興味はないのだろう、この世界にいる理由だけを尋ねていた。
「たまたまですよ、あの夜より前に降り立っていたのです、貴方方の御力にはなれませんよ。」
その質問に、店主ことブラック指令は答えた。
大流星群の夜の前に降り立っていたと言う事は、ダークルギエルとは無関係にこの地球に流れ着いたという訳だった。
「そうか、いや、それならいい。」
大方目星は着けていたのだろう、一夏は話を切り上げ、ラーメンを啜る事に集中する。
宗吾は耳だけ傾けて、だけども興味無さ気にラーメンを啜る事だけに意識を向けていた。
一夏がいる時は彼に全部丸投げ、それで良いと思っているのだろう。
それからしばらくして。
一夏と宗吾はラーメンを食べきり、出された酒を呷っていた。
「ごちそうさん、今度は弟子を連れて喰いに来るよ。」
もうここに用はないと言わんばかりに、一夏は代金を置いて席を立とうとした。
味は最高に良いため。八幡達に紹介してやろうとでも思っているのだろう、その表情は何処か柔らかかった。
「いやはや・・・、風の噂で聞き及んでいましたが、貴殿方が弟子を取られるとは・・・、一体どんな風の吹き回しですかい?」
話には聞いていたが、まさか本当だとは思いもしなかったのだろう、彼は驚きに目を丸くするばかりだった。
彼もまた、アストレイの過去を知っている者として抱いた、率直な感想だったに違いない。
「色々あるんだよ、俺達にもな。」
「光の国と喧嘩別れしたのは知っていますが、まさか人間と融合したウルトラマンの面倒を見ているとは・・・。」
その問いに答えるでもなく、一夏は再び席に着き、サービスのように出された熱燗をもう一口呷った。
「俺達には着けるべき落とし前ってもんがある、だからこの世界で戦おうとする者を手助けをして、着けるべきケリを着けさせる、俺達が彼女の下で戦っていた頃からの矜持だ、何百年、何千年、何万年経とうとも、変わらんさ。」
人間だった頃から何も変わらない、その想いを抱えていながらも、昔とは大きくかわってしまっている今の自分に苦笑しつつ、彼は一人呟いた。
掲げた理想と受けた仕打ち、その両方のジレンマに苦しんでいた時期と、決定的な裏切りがあったからこそ、彼等は非常に厳しいスタンスを取らざるを得なくなっている、そう言っている様にも見えた。
「ま、他のウルトラマンみたいに、何時も人間の味方な訳ではないけどな。」
「それが原因で・・・、初めて聞きましたよ・・・。」
皮肉る様な宗吾の言葉に、何が原因でウルトラマンと仲たがいした理由を初めて知った彼は、何処か苦笑するように呟いた。
まさか、他の宇宙人の間で噂されていた、ウルトラマンの人間への肩入れが気に入らなかったと推測できる言葉を聞かされるとは思わなかったのだろう、彼は苦笑する事しか出来なかった。
だが、彼自身、それに何も言う気にはなれなかった。
人間の良いトコロも悪いトコロも知る、ブラック指令だからこそ抱ける感想だったに違いない。
「アンタも知ってるだろ、光の勢力と闇の勢力の抗争の事は、無意味極まりない。」
「狭間の存在には辛いトコですな・・・、まぁ、今の私には、尋ねてきたお客さんに真心込めたラーメンを作る事しか出来ませんけどね。」
「お互い世知辛いな、まぁ、客としてくる分にはドライで良い。」
光と闇の争いが何を意味するかは分からなかったが、それでも一夏達やブラック指令にとっては歓迎すべき事では無いと言う事に代わりは無かった。
「あぁ、そうそう、一年ほど前に東の方で見つけたモノです、他の星の者に見付かる前に改修しておきましたが、私は戦いなんてもう御免です。」
唐突に何かを思い出したように、、何処からともなく1体のスパークドールズを取りだした。
その姿は、ウルトラマンの姿をしていたが、何処か禍々しい雰囲気を持った、灰色の体色を持ったスパークドールズだった。
「おいおい・・・、コイツは・・・。」
宗吾は驚愕に目を見開き、視線を一夏達との間で彷徨わせた。
何を言えば良いか、何と形容すればいいか、その言葉が見付からなかった。
「持って行ってくださいよ、私からのプレゼントです。」
その言葉と屋台を残し、彼は旋風のように消えていった。
遺されたのは、重苦しいまでの沈黙、ただそれだけだった。
「一夏・・・、それをどうする・・・、お前の力とは対、だが・・・。」
「・・・、戦える力があるのなら、使わせてもらうだけさ、俺の意思で。」
宗吾の問いに、彼は行動を以て答えていた。
すぐさまそれを手に取り、スーツの懐に仕舞っていた。
「戦うさ、この世界を覆う悪意と、俺達に向けられる悪意とも、全て。」
今まで以上の覚悟を胸に、彼は踵を返し、弟子たちの下へと帰って行った。
激化する戦いに備える、戦士としての覇気を漂わせたまま・・・。
sideout
noside
「やぁ、来ると思ってたよん。」
「奇遇だね、僕もだよ。」
その頃、旅館の中庭では、二人の男女が睨み合う様な形で向き合っていた。
その雰囲気に、修学旅行特有の甘酸っぱさや男女の匂いなどは無く、ただ腹の内を探り合う様に張り詰めた雰囲気が伝わってくるばかりだった。
「一度、聞いておこうと思ったんだよね、君の腹の内をさ?」
その少年、戸塚彩加は黒い笑みを浮かべながらも目の前の相手に問いかけた。
まるで、真意を尋ねる為に敢えてキツイ口調を採っているかのような雰囲気を纏っていた。
それに気付き、目の前の少女は薄く笑みながらも眼鏡を直す様にクイッと上げていた。
これから話す事となる事に対し、気を入れる為に・・・。
「ねぇ、海老名さん?」
彩加の問いに、姫菜は、浮かべている笑みを更に深くするだけだった。
誰も知らない所で、この因縁は深まって行くのであった・・・。
sideout
次回予告
姫菜と対峙する彩加が求める答えと、姫菜が求める未来。
その答えが一致しようと、未来が合致する訳ではない。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
戸塚彩加は立ち上がる 後編
お楽しみに