やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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戸塚彩加は立ち上がる 後編

noside

 

「一度、話をしっかり聞いておきたいと思ってね、時間はいっぱいあるから良いよね?」

 

宿泊先の旅館の庭先で、戸塚彩加は目の前の相手、同じクラスの女子生徒である海老名姫菜と睨み合っていた。

 

まさに一触即発と言った様な雰囲気であり、彼等の間に漂う空気は険悪そのものであった。

 

ポーカーゲームで負けた彩加は、罰ゲームと称して買い出しに出た訳だが、その途中で姫菜と出会ってこのような状況に至るという訳だった。

 

「何を聞きたいって言うの?まさか、あの依頼に何か言いたいのかな?」

 

彩加の言葉を聞き、姫菜は白を切る様にして逆に尋ね返した。

 

だが、依頼と言うものが何を意味するのかなど、彼等にとっては共通認識であるため、そこをあえて語る事は無かった。

 

「白を切るつもりならそれでもいいよ、僕が知りたいのは、告白を断る理由だけだよ、それでだけで良い。」

 

しかし、彩加はそれに付き合うつもりは毛頭ない。

手早く話せと言わんばかりに、本題を切り出していた。

 

「別にさ、普通に告白を断る位なら、僕達を生贄にする必要なんて無いんだよ、だって、結局はそういうモノだし。」

 

彼の言う通り、告白は断った所で所詮その程度でしかない。

以前、部室で言った通り、どうなろうと対応は変わらないのだ。

 

何せ、本物のグループならば、気を遣いこそすれど、瓦解する事は無いからだ。

 

だと言うのに、それを関わりの無い、他の人間に押し付け、断るという手段ではなく、回避させてほしいと言われているのだ。

気にならない方が不自然と言うモノだ。

 

「ホント、オブラートじゃないね、戸塚君らしくもない。」

 

その指摘に、姫菜は顔を僅かに顰めながらも呟いた。

 

そこを突いて来るなど思わなかったのだろう、一瞬で返せる解を持っていなかったのだろう事が窺えた。

 

「らしくない、か・・・、君がどれだけ僕の事を知ってるの?」

 

らしくない、そういう決めつける言葉が嫌いな彩加は、少しだけ嫌悪感を露わにしながらも呟いた。

 

だが、そこに固執しても仕方ない、何せ、問題はソコじゃないのだから。

 

「まぁいいや、僕が思うに、君は戸部君とグループを体よく使って、自分を紛れさせたいだけじゃないかな?」

 

彩加の推測は、姫菜がグループそのものでは無く、トップカーストグループに自分がいる事を望んでいると言う事だった。

 

グループは、学校と言う集団の中で孤立しない為に作り上げる存在であり、更に突き詰めれば迫害というモノからも身を護る術でもあるのだ。

 

グループ内の告白により、振られた側に人が慰めに着くのはある意味で必然。

そして、流れた先でまた新たなグループが形成され、元のグループは機能しなくなり、意味を為さなくなるのだ。

 

そして、それが瓦解すれば、彼女は依り代を失う事となる。

 

そうなれば、特にBL趣味と言う異性は言うまでも無く、同性にすら受け入られる数が限られている性質を持つ彼女は、本当の意味でマイノリティのレッテルを貼られ、周囲から弾かれ、迫害の対象にもなるだろう。

 

それを望まないからこそ、彼女は今いる場所を護りたいがため、他人を利用している様なものだろう。

 

何せ、他人がそれを阻止すれば、阻止された戸部の怒りは姫菜では無く、阻止したその人物に向くのだから。

 

そうなれば、彼女は一切の咎を負う事なく、これまでと同じ様に過ごす事が出来る。

そう、誰かを利用し、傷付けたと言う意識さえ持たないまま、変わらない様に・・・。。

 

「それって、すごくズルい事だよね?依頼された側からすれば、理不尽な事この上ないよ。」

 

一通りの推測を行った彩加は、タメ息を吐いたと同時に、少々怒りを湛えた瞳を彼女に向ける。

 

それで利用されそうになっているのが、彼と彼の友人たちなのだから、怒るのも無理は無かった。

 

「はぁ・・・、やっぱりバレちゃうよね・・・。」

 

そこは隠すつもりはないのか、姫菜はタメ息を吐いて苦笑する。

 

自分がどれだけ都合の良い事をしようとしているのか、それ自体は理解しているのだろう。

 

「でもさ、私達の事情も聴いてくれないかな?」

 

「聞いたじゃないか、それでも納得できないから断ったってだけだよ。」

 

まだ言いたい事があると言わんばかりの姫菜に、彩加は言い訳は聞きたくないと言わんばかりに踵を返した。

 

最早聞く事も語る事も無い、そう言わんばかりの様子だった。

 

「戻るよ、大好きな友達待たせてるんだ、呼び止めちゃってゴメンね、海老名さんも早く戻ったらどうかな?」

 

肩越しで嫌味を交えた言葉を掛けつつ、彩加は姫菜を残してさっさと中庭を後にした。

 

部屋を後にしてからそれなりに時間が経っているため、きっと彼は、急いで帰らねばという想いで急いていたのだろう。

 

だからだろう、背後にいた姫菜が恨めしそうな、忌々しい様な、何とも形容しがたい表情を浮かべ、彼を睨みつけていた事に気付かないでいた。

 

彼女が抱える闇が、その深さを増している事にも・・・。

 

sideout

 

noside

 

『彩加・・・、幾らなんでもあの言い方が無いだろう・・・。』

 

中庭からの帰り道、エクスデバイザーの中からXが咎めるような声を上げた。

 

如何にこちらに非はないとはいえ、幾らなんでも辛辣に過ぎると言いたいのだろう。

 

「仕方ないでしょ、向こうがこっちに理不尽を強いてるんだ、相手にする必要なんて無いよ。」

 

『しかし、もっとしっかり聞いてあげても良いんじゃないか・・・?』

 

彩加は相手にする必要は無いと断じ、一切取り合う気はないらしい。

 

そこに、話し合うと言う選択肢を持たない危うさを感じ取ったXは、せめて聞くぐらいはと声を掛け続ける。

 

分かり合わない未来に、辿り着かない様にと・・・。

 

「そうじゃないよ、X。」

 

平行線になりつつある話に苛立ったか、彩加は口調も荒く返しながらも、人目に付かない階段脇のスペースに入り込んだ。

 

自分の置かれている立場と想い、それを伝えねば話が進まないと考えての事だった。

 

「僕達は別に、依頼されるのが嫌なんじゃない、ただ、利用されるのが嫌なだけだよ。」

 

『彩加・・・?』

 

腰からエクスデバイザーを取り、しっかりと向き合う形となる。

 

「考えてみてよ、君達ウルトラマンの世界で言うなら、自分達の世界を護るために、君達を利用している様なものだよ、しかも、世界と言うよりはただ自分達の敵を倒す為だけにね。」

 

外敵から身を護るためには、使えるモノは全て使う。

それは確かに正しい事だし、彩加もそれを是として使う事はある。

 

だとしてもだ、それを自分自身にまで向けられると堪った物ではないと言うのが本音だ。

 

しかも、それが向けられる悪意を逸らすための生贄だとすれば尚の事だった。

 

『それは・・・、合ってはいるが、そこまでではないだろ・・・?』

 

それを理解しているXだったが、まだ納得はしていないと言わんばかりの様子だった。

 

「そこまで、だよ・・・、ねぇX、侵略で一番タチの悪いモノって、何か分かる?」

 

『え・・・?それは、レイビーク星人コルネイユが行った様な、破壊じゃないのか・・・?』

 

唐突な質問に戸惑いながらも、Xは自分の考えを口に出した。

 

侵略とは相手を害し、その尊厳を奪っていく事と認識しているのだろう。

それは間違いではない。

 

寧ろ、侵略とはそちらを指す事の方が多いのだから。

 

だが・・・。

 

「そうだね、でも、心を侵略されたら、その人はどうなっちゃうんだろうね?」

 

『それ、は・・・、そう言う事か・・・。』

 

彩加の言わんとするところが分かったのだろう、Xは納得した様に呟いた。

 

心への侵略、人間に当てはめてみれば、精神的な虐めや応力とでも言うだろうか。

 

それは身体への暴力よりも深く突き刺さり、受けた者を永遠に苦しませる鎖となるのだ。

 

ウルトラマンの立場から言えば、それは何よりも受け入れがたいモノであるし、見過ごしてはならない所だった。

 

「勿論、そうならない為の予防線は張るよ、だけど、そう言うのって色々と面倒だから、ね?」

 

『そうだったな・・・、すまない、軽率だったな・・・。』

 

色々と思う処は有れど、彩加に確かに在った芯と言うモノに改めて触れ、Xは自身の論を下げた。

 

納得した部分もあるが、それでも止めなければいけないと思えば止める。

だから、今は見守る事にしたようだ。

 

「気を遣わせてゴメンね、それじゃあ戻ろっか。」

 

エクスデバイザーを戻し、彼は自室への道を戻って行く。

 

階段の上で、それを見ていた人物が居た事に気付く事はなかった・・・。

 

sideout

 

noside

 

「なるほど・・・、そう言う事・・・。」

 

その人物は、階段を降りつつも呟いていた。

 

そこに彼が来たのは偶然だったが、その会話を聞いたのは、その人物にとっては正に僥倖に近い者であったかもしれない。

 

「まさか、彼がウルトラマンだったなんて・・・。」

 

最初は我が耳を疑ったモノだが、それも束の間。

 

その者の表情は、良い手札を得たと言わんばかりの、歪に歪んだ笑みだった。

 

その者が、彩加達に抱く感情は、ハッキリ言って良い物とは言えるものではない。

 

自分の思い通りにならない、自分の予想していた結末を覆し、周りに被害を齎す存在。

それは、その者にとって歓迎できたものではなかったのだ。

 

だが、彼等は何かを隠しており、更に一夏と言う最強の後ろ盾さえある。

故に、彼等を崩す事はその者にも不可能に近かった。

 

だが、この切り札を手に入れた今、そんな事など最早恐れるに足りないものとなったのだ。

 

それを使い、今度こそ自分の思う様に事を勧めるつもりだった。

 

その者は歪な笑みを浮かべながらもその場から離れていく。

 

歪んだ想いを実現するために、その計画を練るために・・・。

 

そしてその歪んだ想いは、彩加達やアストレイズ、そして、其の者自身も巻き込む災厄となるなど、誰も想像する事が出来なかった・・・。

 

sideout

 




次回予告

嵐山に訪れた八幡達を待つのは、何者かの策略か、それとも闇の波動か。
それは、彼等に新たな選択を迫るのか。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

比企谷八幡は惑わない

お楽しみに

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