やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は惑わない 後編

side沙希

 

「よし、手筈通りに。」

 

「うん。」

 

逃げた海老名を追うため、あたしは彩加に目配せしてその道を走り出す。

 

この作戦を仕組んだのは他でもない、織斑先生だったけど、GOサインを出したのは八幡だった。

 

まさか、あたし達が直前まで依頼をどう対処するか悩んでいたのを逆手に取るとはね。

 

依頼を受けたふりをしつつ、それを裏切る形で海老名か葉山の自滅を誘う。

 

そうすれば、葉山達はあたし達が動くと錯覚するだろうし、違う行動を取った事で狼狽えるはずだろうと踏んでみたら、結果はご覧の通り、効果覿面だったね。

 

とは言え、これは序の口、ほんの撒き餌でしかないのも事実。

後は先生と八幡が巧くやってくれるだろうけど、バックアップは必要だ。

 

何せ、此処から先は人間相手じゃなくなるからね。

 

だから、その援護に向かうべく、今まさに走り出そうとした。

 

「待ってくれ!?一体どういうつもりだ!?」

 

その時だった、葉山のヤツがやっと我に返って、詰問する様な口調であたし達に詰め寄ってくる。

 

因みに、大和と相模は、事情を知らない材木座を遠ざける為に、近くにある甘味を出す店に行ってもらっている。

 

この二人がいると、どうしても面倒な事になる可能性もあるからね。

 

まぁそれはさて置き、ヤツの予想を裏切った事には変わりない、何せ、あたし達を生贄にしようとしてたんだからね。

 

「どうもこうも無いよ、戸部に頑張れって言っただけ、成功するなんて一言も言ってないけどね。」

 

ホント、何処をどう受け取ったら大丈夫と言う風に受け止めたんだろうね。

あたしが言ったのは、女はストレートに弱いってだけ、それがどんな形になるなんて、知ったこっちゃない。

 

尤も、どうなるか何て見え透いてたけどね。

 

「そうじゃない!依頼しただろう!?戸部の告白を止めてくれって・・・!!」

 

あたしの挑発が火に油を注ぐ形になったのか、葉山は何時もの笑顔を取り繕う事なく、ただ純粋な怒りが支配する表情を見せ、掴みかからんばかりの様子だった。

 

良いのかねぇ、今、この状況でそんな事口走ったりしてさ?

 

「は、隼人・・・?ど、どういう事だし・・・?」

 

完全に混乱している三浦が、何処か探る様な口調で、恐る恐る尋ねてくる。

 

その様子は、まるで見た事の無い葉山の一面を見せられた事と、海老名の反応の二つのショックが入り混じっている様にも思えた。

 

いや、実際そうなんだろうけどね・・・。

 

「ほら、説明してやりなよ、アンタ等が招いた事だよ?」

 

とは言え、それを一々気にしていられる程あたし達は暇ではないし、責任も無い。

 

だから、此処から先はグループ内でもめて貰おう。

 

まぁ、ごまかしなんて出来る筈もないけどね。

 

「隼人・・・!どういう事だし!?戸塚も!何か知ってたん!?」

 

葉山があたし達に詰め寄っていた間にも、三浦が困惑と憤りと怒りを湛えた瞳で詰め寄ってくる。

 

「教えろし!!どういう事なん!?」

 

「そ、それ、は・・・。」

 

彼女の追及は、如何に葉山と言えど躱し切れない部分もあるのだろう、ヒートアップする三浦を窘める事さえ出来ていなかった。

 

奉仕部の連中も、最初はあたし達を批難するつもりで寄って来ていたけど、逃げた海老名と、今の葉山の様子から、どちらに原因があったのか大体察した様だった。

 

まぁ、それでも言い掛かり付けてくるのなら、話してもらった事全部話してやって、傷口抉じ開けてやるつもりだったけどね。

 

「か、科特部に依頼してたんだ・・・!戸部の告白を止めてくれって・・・!姫菜は嫌がって・・・!」

 

「なにそれ・・・!?なんであーしらに言わなかったん!?」

 

逃道を断たれた葉山が苦し紛れにあたし達に責任転嫁しようとしてくる。

 

だけど、それは三浦の怒りに火を注ぐ結果にしかならず、確認と言わんばかりにあたし達にも詰め寄ってくる始末だった。

 

「関係の無いあたし達がそう言って、あんた達は信じたかい?」

 

とは言え、なんで言わなかったと聞かれれば、信用されないとだけ返しておく。

 

身内の良くない事を、あまり関わりの無い相手に告げ口されたところで信じないのは、人間誰しもある事だ。

 

それも、三浦ほど仲間想いかつ、陰口の様な汚いやり方を嫌う女ならなおの事。

 

そう言われては返す言葉もないのか、三浦は唇を噛み締めて押し黙り、あれだけ信頼していた筈の葉山に対しても怒りの表情を見せていた。

 

三浦がヤツの事をどう想っていたか何て大体察しは着くから、何も言わずに見守るとしよう。

 

最早誰もが何も言う事も無く、このグループの崩壊を予想している中で、戸部だけは周りの状況に置いて行かれた様に、ただ愕然としているだけだった。

 

無理もない、何せ、戸部は今回の件ではあたし達とは違うベクトルで被害を被ったに等しいからね。

 

同情はするけど、助けてやる義理は無い。

 

ま、どうしたいかだけは聞いといてやるか。

 

「戸部、見た通り、聞いた通りだけどどうすんの?」

 

言い方は悪いけど、脈アリかどうかなんて分かりはしない。

 

だけど、答えを聞かないまま、理由も聞かないままに終わりというのも良い事では無いに決まっている。

 

だったら、何が起ころうとそれを見届ける権利はあるはずだ。

 

だから、あたしは彼に決めて貰いたい。

 

このまま終わるか、決着を着けて終わらせるか。

終わりしかない今の状況で、良い方向に変わって欲しいとも思う。

 

壊すきっかけを与えた張本人のあたしが言うのも変な話だけど、戸部や三浦に罪はない。

 

だから、せめてこれぐらいの事はしてやらないとね。

 

「俺は・・・。」

 

その問いに、戸部は視線を足元で彷徨わせる。

 

悩むと良い。

今は答えを出せなくても、きっと後悔しない行動は起こせるはずだから。

 

あたしも、彩加も、八幡も皆、そうやって今こうして立っている。

 

だから、戸部もきっとそう成れる、そう信じたい。

 

「何がどうなってんのかわかんねーけど、まだ答え聞いてねーし、どういう訳かもわかんねーままなんは嫌だべ!」

 

長い逡巡の後に戸部は勢いよく顔を上げ、追いかける覚悟を見せた。

 

良い眼だ、覚悟を決めた男の目程、良いモノは無い。

 

それが出来たら大したもんだよ。

 

「なら行くよ、何があっても、後悔だけはすんじゃないよ!」

 

「分かったべ!」

 

走り出したあたしと彩加を追う様に、戸部の奴も駆け出した。

 

その先に待つ未来を受け止めるため、一歩前に進むため。

あたし達はその歩みをとめることはなかった・・・。

 

sideout

 

noside

 

「なんで・・・!なんでっ・・・!!」

 

林道から脇に逸れた森の中を走りながらも、姫菜は憤りを隠す事無く叫んでいた。

 

どうしてこうなった。

自分は只、今の居場所が壊れて欲しくないから足掻いただけなのに。

 

だから、校内で噂になっていた、雪ノ下雪乃を超える存在と目されていた科特部に目を付け、彼等に事を収めて貰おうとした。

 

彼等ならば、何処か純粋で、何処か歪なモノを持つ彼等ならば、きっと事情を分かってくれると信じていた。

 

だが、結果はどうだ。

彼等は姫菜の依頼を実行しないどころか、あろうことに戸部の告白の後押しまでしでかす始末。

 

何故裏切られる様な真似をされなければならないのだ。

 

その怒りに駆られた彼女は、我武者羅に沙希に当たった。

 

だが、それを見られてしまった。

自分から、いるべき場所を壊してしまったのだ。

 

しかし、それは仕向けられたこと。

自滅するように狙った科特部の連中が、彼女の暴発を狙ったのだと感じていた。

 

それは強ち間違いでは無かったが、今の彼女にはそんな事などどうでも良かったに違いない。

 

「憎い・・・!憎いッ・・・!!」

 

息を切らしながらも、手近な木にもたれ掛りながらも、拳を力任せに、怒りに任せて叩き付ける。

 

その所作は、科特部へ向けられる怒りの感情に支配されたような乱暴なモノだった。

 

仕返しをしてやりたい。

壊してやりたい。

 

そんな、乱雑かつ破壊衝動の様な、醜くも凄絶な感情が、彼女に芽生えていた。

 

『力を欲したな?』

 

そんな彼女の耳に、得体の知れない感触を持った声が届く。

 

姫菜がその声に反応し、顔を上げると、彼女のすぐ目と鼻の先に、黒いローブを被った女の姿があった。

 

「だ、誰・・・?」

 

唐突に現れたその者に、姫菜は警戒心を顕わに問うた。

 

無理もない、今の今まで周りには誰もおらず、しかも話を聞かれていたのだから尚の事だった。

 

『誰でも良いではないか、ただ、お前の怒りは正しいと思うぞ?』

 

その女は、姫菜の問いには答えず、まるで誘惑するかのように囁く。

 

お前の怒りは正しい、悪いのはすべてアイツ等、そう言わんばかりの囁きは、徐々に姫菜の警戒心を解いて行った。

 

『復讐したくはないか?お前を陥れた奴等に?そして取り戻したくはないか?己がいるべき場所を?』

 

「ッ・・・!!」

 

その女の言葉に、姫菜の興味は強く惹きつけられた。

 

自分を陥れた科特部を壊し、戻るべき場所を取り戻す。

これ以上ない復讐で、これ以上ないほど満たされる事では無いか。

 

そう考え付いた事で、彼女が抱える闇は更に深さを増し、その顔つきさえ変える程になった。

 

『良い目をする・・・、これを取るがいい・・・。』

 

その表情に薄く笑みながらも、女は闇に染まったダミースパークと、一体のスパークドールズを彼女の眼前に出現させた。

 

「これが・・・、私の、力・・・!」

 

その力を目にし、姫菜は一切躊躇することなく手に取り、まじまじと見つめていた。

 

これで、全てを覆せる。

そんな確信に、その表情は酷く歪んだ笑みを浮かべるだけだった。

 

「海老名さん!!」

 

そんな時だった、沙希と彩加と共に追い駆けて来た翔が、彼女の姿を見付けて声をあげた。

 

「戸部っち・・・。」

 

その姿を認めた姫菜の顔から表情が抜け落ち、何処か底冷えする様な昏い色だけが窺えた。

 

「え、海老名さん・・・?」

 

そんな彼女に違和感と怖れを感じたか、彼は僅かに上ずった声で尋ねた。

 

一体どうした、ただ純粋に心配する様な言葉ながらも、彼は迫る脅威をひしひしと感じているに違いなかった。

 

「そこの二人に教えるついでに、答えるね、私の気持ちを・・・!」

 

「まさか・・・!やめな!!」

 

姫菜が何をしようとしているか気付いたのだろう、沙希がビクトリーランサーを構え、止めようと駆け出す。

 

だが、時既に遅し。

彼女はダミースパークにスパークドールズを読み込ませ、闇に包まれて行く。

 

『ダークライブ!アントラー!』

 

「ウ・・・!あぁァァァァ!!」

 

悲鳴のような絶叫と共に、姫菜の姿は巨大化、蟻地獄の様な巨大な咢を持つ怪獣、アントラーへと姿を変えた。

 

「え、海老名さん・・・!そんな・・・!!」

 

目の前で思い人が怪獣になる光景を目の当たりにした翔は、愕然としながらもその場から動く事は出来なかった。

 

無理もない。

人間が怪獣となるなど想像もしていなかったし、答えを聞かされたようなモノなのだから。

 

全てを破壊する。

それは、自分との関係も終わらせると突き付けられたと感じたに違いなかった。

 

『ふっ・・・、お前達の周りには悪意が溜まっている、実に好都合だった。』

 

その様子を満足気に眺め、その女、ダークルギエルは薄く笑んだ後に踵を返し、木々の間へと歩き去ろうとした。

 

「ルギエル・・・!今日こそ・・・!」

 

沙希が飛び掛ろうとするが、アントラーの叫びと地面の揺れで思う様に動けず、彼女はその背を見送るしかなかった。

 

だが・・・。

 

「よし、作戦第2段階終了、か・・・!」

 

「戸部君!離れて・・・!!」

 

なんとか体勢を立て直しながらも叫ぶ沙希の言葉に、彩加は戸部を抱えて大ジャンプ、彼女から少し離れた場所に着地する。

 

それを見届け、沙希もまたビクトリーのスパークドールズを用い、変身プロセスに入る。

 

『ウルトライブ!ウルトラマンビクトリー!』

 

『ハァッ!!』

 

光の巨人、ウルトラマンビクトリーはアントラーの前に降り立ち、戦闘態勢に入る。

 

その光景を、翔はまだ、呆然と見やる事しか出来なかった。

 

心に空いた穴を、埋める術を見付けられないままに・・・。

 

sideout

 

noside

 

『ビクトリーは追ってこない、か・・・、実に好都合。』

 

沙希達の追跡を免れたルギエルは、自分の思い通りの展開に笑みながらも一人呟いていた。

 

人間とは何と愚かで、何と操り易い存在なのか。

何故、こんな矮小な存在を、光の戦士たちは想い、護っているのだ。

 

他者より上へ、他者よりも優れたモノを得る為に、喩え友人であっても利用し、使い潰すだけのくだらない存在に思い入れるなど馬鹿げているではないか。

 

それが、ルギエルが感じた偽りのない感情だった。

 

『だが、そんなつまらぬ人間も、駒として動いてくれるならば結構、我が宿願の為にも、役に立ってもらわねばな・・・。』

 

だが、利用価値があるのも事実。

ならば、その間は役に立ってもらおうではないか。

 

それが、マイナスエネルギーを生み続ける人間の、唯一の存在意義だと・・・。

 

「つまらない人間にやられるのが、悪の定め、ってのは知っているかな?ダークルギエル?」

 

その時だった。ルギエルの前にスーツを纏う一人の男が現れた。

 

『貴様・・・、ティガか・・・!』

 

その男は、アストレイメンバー最強の男、織斑一夏であった。

 

彼の出現に呼応するように、ルギエルの背後には八幡が陣取り、逃がさないと言わんばかりの雰囲気を醸し出していた。

 

「彼等には悪いが、お前を誘き出す餌になって貰った、実に都合の良いタイミングだったよ。」

 

『貴様・・・、ウルトラマンらしくないとは聞いていたが、此処までとは・・・。』

 

導くべき人間を導かず、あまつさえ餌として利用する一夏の行動に、ルギエルは鼻で笑う様に呟く。

 

闇の存在であるルギエルでさえ、彼の行動は度し難いものが有るらしい。

 

「そう言うのは、ゾフィー隊長に直訴してくれないか、俺達はもう光の国とは関係ない、ただ、敵を討つのみだ。」

 

その言葉に返しつつ、一夏は懐から一体のスパークドールズと、ライトスパークを取り出し、ルギエルに見せ付けるように掲げた。

 

『そ、それはっ・・・!!』

 

それを見たルギエルは驚愕の声をあげて後ずさる。

 

彼の手にある力の正体に気付き、戦慄しているのだろうか・・・。

 

「悪いが、お前にはこの場で倒されてもらう、この世界に住む、異星の友人たちのためにもな。」

 

その宣言と共に、彼はライブ状態へと入る。

 

『ウルトライブ!イーヴィルティガ!!』

 

彼の身体はその姿を変え、灰色の身体を持った邪な戦士、イーヴィルティガの姿へと変わって行く。

 

『貴様・・・!!』

 

『光と闇で悪を祓う、俺の名はイーヴィルティガ改め、ティガアナザー!』

 

怯えを見せたルギエルに、変身した一夏は自身の名を名乗る。

 

本来のティガでもイーヴィルティガでもない、第三のティガの名は、ティガアナザー。

 

光と闇を抱く戦士は、ゆっくりとルギエルへと向かって行く。

 

『ダークルギエル、これでエンドマークだ!!』

 

その先に待つのは、破壊と絶望があるのみだった・・・。

 

sideout

 




次回予告

熾烈を極める二つの戦場に挟まれる若人が抱く感情は、歴戦の勇者の下へと届き、新たな覚悟を抱かせた。
それが齎す未来とは・・・。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

戸部翔は飛翔する

お楽しみに

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