やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

98 / 160
神谷宗吾は立ち上がる

noside

 

変身した彩加と翔は、Xとゼノンの二体のウルトラマンとなり地に降りたった。

 

ゼットンとアントラーと言う強大な力を持つ怪獣に対し、劣勢に陥るビクトリーは既にグロッキーな状態であり、中々立ち上がる事さえ出来なかった。

 

『沙希ちゃん!』

 

『今助けるべ!!』

 

彩加は親友である沙希を助けるため、すぐさま駆け出し、ゼットン目掛けて飛び蹴りを食らわせ、ビクトリーから気を逸らさせる事に成功した。

 

翔も遅れて駆け出し、アントラーに体当たりして怯ませることで、アントラーの目標を自分自身に帰る事に成功した。

 

その隙に、ビクトリーは何とか転がる事で脱出し、膝を着きながらも肩で息をしていた。

 

無理もない。

これまで以上に強力な怪獣二体に囲まれ、いたぶられていたのだ。

寧ろ、この程度の損耗で済んだ事を褒める程だった。

 

『彩加・・・!それと、まさか・・・!?』

 

自分を助けたもう一人のウルトラマンに見覚えは無かったが、それでも知らない人間ではないと察したのだろう、その声には驚きが入り混じっていた。

 

その最中にも、Xはゼットンのパワーに押され、ゼノンはそもそもの戦闘の下地が出来ていないために弾かれ、ビクトリーの下に退いた。

 

『イッテェぇ・・・!これが、戦いってヤツだべか!?』

 

『やっぱり・・・、戸部だったんだね・・・。』

 

痛みに呻く声と仕草から、沙希はそのウルトラマンに変身した者の正体を見破った。

 

まさかという想いよりも、やはり来たかという感情が先じて表に出ていた。

 

『へへ・・・、見てるだけってのは嫌なんだべ!俺も戦う!!』

 

沙希の言葉が照れくさいか、彼は少し笑いながらも決意を話し、再び立ち上がってゼットンに向かって行く。

 

今度は我武者羅な戦法では無く、蹴りを主体としたアクロバティックな動きの連続で攻勢を仕掛けていく。

 

サッカー部らしくその身のこなしはしなやかで、蹴りの一撃もそれなりに強烈である事が伝わって来た。

 

だが、ゼットンの防御力がそれを凌いで更に余裕があるのだろう、全く怯む事無く、払い除けるように振るわれた腕だけで、ゼノンは大きく弾き飛ばされてしまう。

 

『戸部君!!』

 

すかさず彩加がフォローに入るが、勢いを殺し切れずによろめき、共倒れとなる。

 

大きな隙を見せた二体のウルトラマンに、今度こそ仕留めると言わんばかりのアントラーが迫り来る。

 

その巨大な咢で挟み切らんとしているのだろうか、迫るそれは嫌な音を立てていた。

 

『や、やらせない・・・!!』

 

なんとか持ち直した体力を振り絞り、沙希はビクトリウムバーンを放ち、アントラーを足止めしようとする。

 

だが、強固な外骨格はそれを物ともせず、進撃の速度は衰える事は無かった。

 

迫り来る咢を、Xは何とか受け止めてゼノンを庇うが、それでも余裕は無く、押し込まれようとしていた。

 

『この力・・・!どれだけ深い闇が・・・!?』

 

その力、元のアントラーの強さを知る訳ではないが、それでも深い闇の波動を感じながらも、沙希は肩で息をしつつ呻いた。

 

ライブしている者の強さや心持によって、怪獣やウルトラマンはその力を大きく変える。

 

それが正の感情であれ、負の感情であれ、強ければ強いほど力は比例して高まって行く。

 

故に、ライブしている人間である姫菜が抱える闇は、これまでの誰よりも深く、強いモノだったために、アントラーがそれに呼応しているのだった。

 

『でも、助けるべ・・・!俺が、そうしたいんだ・・・!!』

 

だが、そんな事など翔には関係なかった。

好きな相手の事を救うため、その身を賭してでも戦う、止める。

 

その想いが迸り、アントラーの腹を蹴り、Xと引き離す。

 

逃げない、真っ直ぐ向き合うと、彼の姿勢からはそれが見て取れた。

 

『その想い・・・、僕が手助けするよ・・・!X!!』

 

『望むところだ!!アレを使うぞ!!』

 

その想いを受け、彩加達も札を切った。

 

宗吾から渡されたカードの一枚を取り出し、躊躇う事なくそれをエクスデバイザーに読み込ませた。

 

『≪サイバーゴモラ、ロードします≫』

 

電子音声と共に、Xの身体に新たに装甲が施されて行く。

 

胴部を覆う鎧と、巨大なクローが付いた籠手の様な装備が特徴的なそれは、古代獣ゴモラを思い起こさせるフォルムをしていた。

 

『≪サイバーゴモラアーマー、アクティブ!!≫』

 

その鎧はサイバーゴモラアーマー。

パワーと防御力に秀でた姿であり、そのクローから繰り出される一撃は強力無比だった。

 

『感触は?』

 

『少し重いが、行ける!!』

 

身体に装着されたアーマーの着心地を確かめながらも、Xは向かってくるゼットンとアントラーを相手取る。

 

向かってくるゼットンを跳ね除け、アントラーの大顎を防ぎ、一気に押し返した。

 

『なんというパワー・・・!行けるぞ・・・!』

 

そのパワーに感激し、一気に状況をひっくり返すつもりなのだろう、、Xは一気に距離を詰めていく。

 

負けない。

隣にいる者の想いを遂げさせるため、この戦いにケリを着ける。

 

その一つの想いを胸に、彼は走った・・・。

 

sideout

 

noside

 

「サイバーゴモラアーマー・・・、巧く機能している様で何よりだな・・・。」

 

Xがアーマーを身に着けた状態で行う戦闘の様子を、少し離れた場所から見ていた宗吾は、自身の作品が巧く動作しているのを見て満足げに頷いていた。

 

弟子が巧く使ってくれる事を期待して作ったが、互換性が無ければ意味がない。

そう思い、実際に動いているのを見る為に赴いた訳だったが、その甲斐があったと言うべきだっただろう。

 

今も、アントラーをクローで跳ね除けたXが、超振動エネルギーを相手にぶつける技、≪ゴモラ振動波≫をゼットンに放とうと動く。

 

だが、ゼットンも簡単にやられてくれる筈も無く、全身を覆うバリア、ゼットンシャッターを展開し、それを防がんとしていた。

 

力と力のぶつかり合いに、強烈なソニックブームが周囲を襲うが、宗吾はその中を悠然と立ち、戦いの様子に意識を集中させていた。

 

シャッターは破れなかったものの、Xはゼットンを押し返す事には成功し、立て続けに攻撃を繰り出さんとしていた。

 

「流石は彩加君、もう使いこなしたみたいだな。」

 

防がれても体勢を崩さないタフネスは、宗吾が教えたトレーニングを実践し続けていた彩加だからこそ成し得たモノだと、感心した様だった。

 

だが、彼の関心はまた別の方角へと向けられる事となる。

 

「一夏の奴・・・、何処まで力出すつもりだよ・・・、闇の力まで解放しやがって・・・。」

 

彩加達とは別の方角で戦っている、彼の大親友である一夏が力を解放しているのに気づき、彼は顔を顰めていた。

 

その理由は他でもない。

一夏が紛い物の力を、その傷付いた身体で使っていると言う事だ。

 

一夏はまだ本調子には程遠く、戦う事すら避けるべき状況にあるのだ。

永年共にいた宗吾としては、あまり歓迎したくない事に違いなかった。

 

「まぁ、ダークルギエルがここで斃れてくれるならそれで良い、か・・・?」

 

だが、それ以上に一夏が強く、力を持っている事は承知しているため、必ず勝てと心の内で念押しつつ、弟子の戦いに意識を戻した。

 

自分達の最優先事項を常に念頭に置き、そこからぶれない姿勢は流石と呼ばざるを得なかった。

 

そんな宗吾の耳と第6感が、何かを捉えた。

 

「ん・・・?」

 

ゆっくりながらも、誰か、人間が近付いてくる様な気配を感じ、彼はその方向へ意識を向ける。

 

すると、暫くして一人の、日本人らしくない金髪を揺蕩わせた少女が林道から姿を現した。

 

「戸部ーっ!姫菜っ!何処にいるし!?」

 

その少女、三浦優美子は、同じグループのメンバーである翔と姫菜を探してここに現れた様だ。

 

かなり長い時間探しているのだろう、肩で息をしながらも叫び続けていた。

 

「何をしている、此処は危険だぞ。」

 

彼女を、一夏の務める所の生徒だと当たりを着けた彼は、此処から逃げるように勧める。

 

如何に人間嫌いとは言え、命の尊さを誰よりも知る宗吾だったからこそ出た言葉だった。

 

「わ、分かってるし・・・!ってか、アンタは・・・!?」

 

「織斑一夏の知り合いだ、アイツに頼まれて来てみたが、酷い有様だな。」

 

そんな彼に警戒の色を見せた優美子に、宗吾は自分の仲間である一夏の名を口に出す。

 

素性がある程度分かった事で信用しても良いと思ったのだろうか、彼女は僅かに険を弱め、彼の言葉に耳を傾けた。

 

「こんな所で何をしている?」

 

「か、関係ないっしょ・・・!?織斑先生の知り合いだか何だか知らないけど・・・!」

 

「関係ある。」

 

彼の問いに、優美子は何でもないと突っ撥ねようとするが、宗吾の二の句を告げさせない圧力に言葉を詰まらせる。

 

変な片意地を張るのは結構。

だが、状況を考えろと言わんばかりの姿勢だった。

 

「と、友達がこっちの方に行っちゃって・・・、あーし、何にも知らなくて・・・!」

 

要領を得ない言葉だったが、その言葉から大まかな事を推察した宗吾は、こっちに来たと言う人物二人に当たりを着けた。

 

一人は今、アントラーにライブしている少女、もう一人は彼が選んだ光を継ぐ者、ウルトラマンゼノンに変身する少年だったのだと。

 

そういえば、一夏から八幡達が歪な男女関係のイザコザに巻き込まれていると聞いたなと思い出し、それを彼女達に結びつけたのだろう。

 

「事情は分からんが、早く逃げろ、友達の事が心配なのは分かるが、今は自分の事を考えろ。」

 

だが、それでも今は友人の事を考えていられる場合ではない。

 

何せ、目の前では怪獣が暴れており、それと戦うウルトラマンまでいる。

 

人間など、足元を歩く蟻と同じく踏み潰されてしまうのがオチだ。

宗吾とて、それはひょくも承知だし、自分は最終手段として変身があるが、彼女は違う。

 

一度死ねば、そこまでなのだ。

 

「で、でも・・・!戸部も、姫菜も見付かってない・・・!!早く見つけないと・・・!」

 

「落ち着け、君が死んだら見付けられる奴も見付からんだろう、早く逃げろ。」

 

優美子は一瞬だけ固い表情を浮かべるが、次の瞬間には友を案ずるような表情を浮かべ、探そうと再び動こうとしていた。

 

それを見た宗吾は首肯しながらも落ち着くよう促し、怪獣達から遠ざけようと背を押そうとする。

 

命を粗末にするなと。

 

だが・・・。

 

「逃げないし・・・!あーしの友達見捨てて逃げられない!!」

 

優美子はその手を払い、真っ直ぐ宗吾を見返した。

 

自分の身内で起きた揉め事ならば自分達で解決する。

その為に、行ってしまった翔と姫菜を連れ戻して理由を聞く、それが今の彼女にとっての一番だった。

 

喩え、怪獣が現れ、ウルトラマンと戦っている足元に来ようと、それは変わる事など無かった。

 

「そうか・・・。」

 

その想いに、仲間を、家族を、そして友を何よりも大切に想う宗吾は、なるほどなと小さく呟き、頷いていた。

 

どうしてこうも、自分達が見切りを着けた、或いは着けつつあった種族の中にも、真っ直ぐな想いを抱く者がいるのだろうか。

 

その想いに応えてやりたくなるあたり、自分もまだまだ甘いと自嘲したくもなる気分だったに違いない。

 

「分かった、俺も手伝おう、彼等も恐らく、この近くから逃げようとしている筈だ。」

 

「あ、ありがとうございます・・・!」

 

逃がすついでに探せばいい。

落としどころを見付けて、宗吾は優美子と共に走りだす。

 

その時だった。

 

Xに向けて放たれたゼットンの火球数発の内、Xに当たらずに逸れた一つが優美子達の方へと向かってくる。

 

「えっ・・・?」

 

あまりに唐突な死へのカウントダウンに、彼女はただ茫然と、自分を焼き尽くさんと迫る火球を見るしかなかった。

 

「ッ・・・!!」

 

だが、彼女の傍には超人が居た。

 

宗吾は彼女を庇う様に前に立ち、マックススパークを掲げ、左腕に装着する、

 

火球との距離がゼロに近付き、彼女達は光に包まれた・・・。

 

sideout

 

noside

 

『あ、あれは・・・?』

 

ゼットンの火球を何とか凌いだXは、彼等の後方で輝いた光に振り向いた。

 

温かく、そして力強いその光は、まるで誰かを庇うかのように大地に立つそれは、徐々に輪郭を露わにして言った。

 

『まさか・・・!』

 

その姿に、彩加は驚愕の声をあげ、沙希は息を呑む。

 

近くに来ていたのは知っていた。

だが、まさか介入してくるとは思ってもみなかった。

 

彼等の反応は、それを端的に表している様だった。

 

光が晴れ、そこに居たのは、最強最速の異名を持つ、赤い光の巨人の姿・・・。

 

『『宗吾さん・・・!!』』

 

アストレイズ、影の急先鋒、神谷宗吾が変身する、ウルトラマンマックスだった・・・。

 

sideout




次回予告

想いとは、如何様にして届くモノなのか。
それでも彼は立ち向かう、それを妨げるモノへ・・・。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

戸部翔は歩んでいる

お楽しみに

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。