やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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戸部翔は歩んでいる

noside

 

『無事か、三人とも・・・?』

 

最強最速の赤い巨人、マックスに変身した宗吾は、弟子と新入りに声を掛ける。

 

気配だけでゼットンとアントラーを制しつつ、三人を庇う様に立った。

 

『そ、宗吾さん・・・?ど、どうして・・・?』

 

まさか京都の地に来ているとは思いもしなかったのだろう、沙希の言葉からは困惑だけが感じ取れた。

 

一体何の目的で来ているのか、その理由に見当も付かなかったのだろう。

 

『彩加君の新装備の最終チェックと、古い友人に会いに来ただけさ、介入するつもりは無かったが、あそこの御嬢さんが危なかったもんでね。』

 

沙希の言葉に返しつつ、彼は視線を足元にいる優美子に向ける。

 

その仕草からは、彼女が危なかったから、それを護るためだけに変身して攻撃を防いでいる事が窺えた。

 

尤も、ただそれだけの為では無い事ぐらい、沙希も彩加も承知の上だった。

 

『立て、君はまだ何も出来ていないだろ?』

 

膝を着くゼノンに手を差し伸べる。

 

まだ何も始まってないだろうと、まだ終わってないだろうと・・・。

 

覚悟を見せたのなら、最後までそれをやり通せと、彼なりの激励がそこにはあった。

 

『あ、当たり前だべ・・・!俺、やりますぜ・・・!!』

 

その力強さに痺れた翔は差し出された手を取って立ち上がり、ゼットンとアントラーと向かい合い、構えを取った。

 

逃げないと言う強い意志が、その姿勢からは滲み出ている様だった。

 

『良い構えだ、俺も手伝うとしようじゃないか。』

 

その意気やよしと、彼もまた構えを取り、特にゼットンに向けて闘気を飛ばした。

 

その行為は、注意を自分自身に惹きつける、それを目的としている様だった。

 

宗吾の闘志を受け、ゼットンは唸り声にも似た奇怪な音をあげつつも突進、マックスに向かって行く。

 

それを受けて、マックスも駆け出し、取っ組み合いの格闘戦へと移る。

 

ゼットンのパワー押しスタイルに対し、マックスは身軽さとパワーを並立させたスタイルで攻めたてていく。

 

取っ組み合うだけでなく、ゼロ距離からのサソリ蹴りを叩き込み、ゼットンがよろめいた瞬間にサマーソルトキックを用いて離脱、着地して体勢を瞬時に整えた後に急接近、全体重を乗せたエルボーを叩き込んで吹っ飛ばした。

 

その一連の動作には一部の隙も無く、洗練され抜いた技が光っていた。

まさに、最強最速、その言葉が似合う程の戦ぶりだった。

 

『お、俺だって負けてないべ・・・!海老名さん・・・!俺の声が聞こえる・・・!?』

 

その凄まじい勢いを呆然と見ていた翔だったが、今やるべき事を思い出し、構えを取り直してアントラーに向かって行く。

 

攻撃では無く、ただ動きを止めるためにも見えるその動きは、しっかりと咢を抑えて競り合っていた。

 

姫菜がただ操られているだけだと、目的を見失っていると感じている彼だからこそ出来た行動なのかもしれない。

 

『と、戸部君・・・!!』

 

宗吾の登場に硬直していたXが復帰し、アントラーの動きを止めようと、動きづらいサイバーゴモラアーマーをいったん解除し、背後からアントラーを羽交い絞めにしていた。

 

これ以上進撃させて、罪を背負わせない。

彩加はそう思って動きを止める事に専念しているのだろう。

 

『彩加・・・!戸部っ・・・!』

 

まだ体力が戻り切っていない沙希は苦悶の声をあげる事しか出来なかった。

 

無理もない、たった一人で、怪獣の中でも上位に位置する怪獣を二体纏めて相手取ったのだ、まだまだルーキーの域を脱していない彼女に、勝てと言うのは酷だった。

 

もっとも、ゼットンとアントラーを同時に相手取り、その上で勝てと言う無茶振りを出来る相手は、現時点でアストレイの7人を置いて他にいないとさえ断言できるほどだったが・・・。

 

それはさて置き、沙希は残された体力を、渾身の一撃に賭ける為に、今は戦闘に参加できていない様だった。

 

だが、そんな彼女を置き去りにして、戦闘はどんどん進んで行く。

 

マックスの蹴りに圧されたゼットンが、間合いを取る様に後退し、両腕を水平に広げた。

 

『あれは・・・、まさか・・!?』

 

その行動を即座に察知した宗吾は、頭部のマクシウムソードを素早く投げ、ゼットンの首を切り裂かんとした。

 

だが、一瞬遅かったらしく、ゼットンの姿はその場から掻き消えた。

 

その次の瞬間、ゼットンはアントラーを抑えようとしていたXの背後に瞬間移動していた。

 

『彩加!危ないっ・・・!!』

 

それに気付いた沙希が声をあげるが、既に遅い。

 

ゼットンはチャージした火炎球を発射、それは狙い違わずに無防備なXの背中に直撃した。

 

『うわぁぁっ・・・!!』

 

『戸塚君・・・!!』

 

『アイツ・・・!テレポート出来るのか・・・!!』

 

まさかの攻撃に、彩加は悲鳴を上げて倒れ込み、翔は彼を案ずるように声をあげるが、手を貸す事は出来そうになかった。

 

それを、離れた場所で見ていた沙希が歯がみするように唸った。

 

自分が知らなかっただけとはいえ、完全にウルトラマンと同じ動きが出来る怪獣と、これまでやり合った事が無かったが所以の驚愕が大きかったのだろう。

 

『くそっ・・・!忘れてたぜ・・・!!』

 

彩加のカバーに入るため、マックスはマクシウムソードをウルトラ念力で操り、ゼットンの背後に突き立てんと動かす。

 

だが、ゼットンはそれを後ろに目でも着いているかのように、ゼットンシャッターを展開する事で防ぐ。

 

しかし、マクシウムソード自体が途轍もない破壊力を以て向かって来ていたからか、拮抗するように火花を散らしていた。

 

『彩加君!押し込め!!』

 

『ッ・・・!はいっ!!』

 

その一進一退を押し破るべく、宗吾は彩加にやれと命じた。

 

何をするべきか、それを瞬時に理解した彩加は、右腕に光を纏わせてマクシウムソードを押し込む様に殴りつけた。

 

『『ウルトラノック戦法だッ!!』』

 

師との合体技、ウルトラノック戦法が炸裂し、ゼットンシャッターを破壊して本体にも切り傷を与える事に成功した。

 

『よしっ・・・!このまま決めるぞ、彩加っ!!』

 

『うん!!』

 

よろめきながら後退するゼットンに、トドメを刺さんとXが動き、必殺の光線技に移行する。

 

だが・・・。

 

『うわっ・・・!?』

 

『戸部っ・・・!彩加、危ないっ!!』

 

アントラーを抑えきれなかった翔が振り回される様にして放り投げられ、彩加の方に吹きとばされる。

 

なんとか沙希が危機を報せんと叫ぶが、時既に遅し。

 

『『ウワァァっ・・・!?』』

 

ザナディウム光線を放とうとしていたXにゼノンが圧し掛かる様な形となり、共倒れとなってゼットンを倒す光線は不発に終わった。

 

そんな彼等に追い打ちを掛けんと、ゼットンが腕を突き出して迫ってくる。

 

その狙いはXであり、首に意識が集中している辺り、首の骨を圧し折るか、絞殺さんとしているかのようだった。

 

『させるかッ!!』

 

弟子の危機に、マックスは高く飛び上がりつつ、急降下の勢いを着けた蹴りをゼットンの頭部に叩き込み、距離を開かせた。

 

『これで決めるッ!!』

 

充分な距離が開いた時、彼は左腕を天高く掲げ、光を収束させていく。

 

それは、必殺光線、マクシウムカノンの予備動作だった。

 

光が収束し、放たれようとしたその時だった。

 

ゼノンから逃れたアントラーの咢から虹色に歪む波動が発せられ、その光を打ち消した。

 

『しまった・・・!!』

 

アントラーに備わる磁場を発せさせる特殊な性質が、収束しつつあった光を打ち消したという事を悟った宗吾は、自身の不手際に舌打ちしていた。

 

アントラーと戦うのはかなり久し振りだったが、らしくもない事に戦士としての自分を恥じていた様だった。

 

その一瞬の隙を見逃さず、ゼットンはマックスの目の前までテレポートし、首元に水平切りを叩き込もうとする。

 

だが、それでやられるほど宗吾は甘くはない、瞬時に反応して受け止め、そのパワーでゼットンを釘付けにする。

 

一進一退だが、僅かに推され始めているのも事実だった。

 

『さ、させねぇべ・・・!!俺もやるっ!!』

 

それをさせんと、ゼノンは奮い立ち、全力で疾走しつつ飛び蹴りをゼットンの頭部に叩き込む。

 

勢いが乗せらられた攻撃に堪え切れず、ゼットンは大きく体勢を崩し、数歩後ずさった。

 

その隙を見逃さんと、ゼノンは大きく腕を広げ、光エネルギーを収束させていく。

 

光線技のラグを防がんと、Xはアントラーの咢を掴み、妨害させんとしていた。

 

『ゼノニウムカノンッ!!』

 

L字に組まれた腕から、必殺の光線、ゼノニウムカノンが放たれ、ゼットンに一直線に迫って行く。

 

だが、ゼットンシャッターはゼットンの意思と関係なく、破損など関係なく展開できるのだろう、一瞬で展開された障壁に、光線はいとも容易く防がれてしまう。

 

『このッ・・・!負けるかぁぁっ!!』

 

しかし、翔はそこで諦めず、突き破らんと力を籠め、光線の勢いを増していく。

 

だが、それは自身の体力を削る事と同義であり、ゼノンのカラータイマーが点滅し、その速度を急激には止めていく。

 

光線が放てないまでに消耗した時、ゼットンシャッターには罅が入っていたが、破る事は叶わなかった。

 

『くっそぉぉ・・・!お、俺は、こんな所でっ・・・!!』

 

膝を着いたゼノンに、シャッターを解除したゼットンが迫って行く。

 

これでトドメだ、そう言わんばかりの勢いだった。

 

だが、翔の意思はまだ折れてはいなかった。

必ず勝つ、その瞳はまだ、闘志に燃えていた。

 

『良い眼だ、その心意気、俺が請け負おう。』

 

ゼノンの攻撃を見守っていた宗吾が、マクシウムソードを飛ばしてゼットンを牽制しつつ、上空に光を放って何かを呼び寄せた。

 

その何かは二つ飛来し、一つはマックスに、もう一つはゼノンの腕に装着された。

 

それは、宗吾が嘗てゼノンに託された強化アイテム、マックスギャラクシーだった。

 

『行くぞ、アイツのシャッターを破壊する!!』

 

『はいっ・・・!!』

 

マックスに支えられて立ち上がったゼノンは、右腕に装着されたマックスギャラクシー改め、ゼノンギャラクシーをしっかりと確かめてゼットンに向き直る。

 

これで決める、その意思が瞳からは伝わって来た。

 

そうはさせないと、ゼットンは火球を連続して放つが、そのどれもがマックスとゼノンが発する光の剣に切り裂かれ、往なされていた。

 

最早こうなれば逃げる事は出来ない。

マックスとゼノンは必殺の体勢に入り、ギャラクシーが装着された右腕を同時に突き出した。

 

『『ギャラクシーカノンッ!!』』

 

迸る二条の強烈な光の奔流がゼットンが点火した障壁にぶち当たり、一瞬の拮抗の後にそれを破壊し、ゼットンの本体へと直撃した。

 

ゼットンは何とか抗おうともがいたが、それも一瞬の事で、光の奔流が納まった直後、背中から地に倒れ伏し、盛大な爆発と共に散って行った。

 

その爆発に、アントラーは味方がやられた事に驚いて意識を逸らしてしまう。

 

その一瞬は、彼等にとっては大きすぎる隙でもあった。

 

『今っ!!』

 

その隙を見逃さず、沙希はこの一瞬に賭ける為に温存していた体力を出し切る。

 

ナイトティンバーを2回ポンプアクションし、両手でしっかりと保持しつつアントラーに飛び掛った。

 

『ナイトビクトリウムブレイクッ!!』

 

アントラーの懐に飛び込み、強烈な浄化の光を纏った斬撃を叩き込む。

 

その強烈な光に、アントラーに纏わりついていた闇が晴れ、その動きが徐々に鈍って行く。

 

『彩加っ!!』

 

『『ピュリファイウェーブ!!』』

 

アントラーが完全に倒れる寸前に、彩加はスパークドールズと人間を切り離す技、ピュリファイウェーブを使用、姫菜を切り離す事に成功した。

 

『トドメを刺せ、ウルトラマンゼノンッ!!』

 

『はいっ!!』

 

その瞬間、マックスの声が響き、ゼノンは必殺の光を迸らせる。

 

途轍もなく強力な光の剣、その名は・・・。

 

『ギャラクシーソードッ!!』

 

全てを切り裂く光の剣、ギャラクシーソードが振るわれ、アントラーの身体を真っ二つに切り裂いた。

 

その強烈な威力に、アントラーは耐え切る事が出来ずに爆散した。

 

それは、彼の想いが闇に打ち勝った事を表す物であった。

 

『か、勝った・・・!勝ったんだ・・・!!』

 

三度にわたる強烈な光線技の連続に、肉体が限界を迎えたのだろう、ゼノンは膝を着き、光の粒子となって消えていった。

 

戦っていた時間としてはさほどでもなかったが、彼はウルトラマンとして戦うのはこれが初めてであるのだ。

それを考慮すれば、出来過ぎとも言える結果であった。

 

『あぁ、おめでとう。』

 

それを見届け、マックスは宙の彼方へと飛び去って行った。

 

この後に待ち構えている事に、翔と姫菜が着けるべき決着の場に、自分の出る幕は無い。

だから、後はお前達がケリを着けろ、そう言わんばかりの様子だった。

 

その心意気を受け取り、彩加と沙希もまた変身を解き、翔と姫菜の下へ向かった。

 

この事件の幕を、本当の意味でも降ろすために。

自分達のケジメを、ここで着けるためにも・・・。

 

sideout




次回予告

一つの決着が着くたびに、運命とは新たなる試練を揃える。
それは、彼等に何を問うと言うのか・・・。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

戸部翔は受け入れた

お楽しみに

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