科学の都市の大天使   作:きるぐまー1号

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きるぐまー1号と申します。駄文書きです。よろしくお願いします。


Chap.1 翼を持った少年 Angel_Imitation
ep.1 9月1日-1


 ここは『学園都市』。

 

 総人口230万人のうちの8割を学生が占める、超巨大な教育機関であり、同時に学生を対象として『超能力』の研究が行われている最先端科学の研究機関でもある。

 

 東京、埼玉、神奈川の1都2県にわたる広範囲を開発して作られ、東京都の中央3分の1を占める広大な面積を持つ。

 

 技術の漏洩を防ぐため、外周部は厚く高い壁に囲まれ、交通遮断・衛星による監視が行われている。

 

 そんな、ある種の箱庭にも思える学園都市の中。

 

「あー、やっぱり日が出てくると暑いなー……」

 

 雲一つない美しい青空の下、太陽がギラギラと照り付け、まだまだ残暑が厳しく残る新学期の1日目。男子高校生としては平均的かやや小さめの体を制服の夏服に包んだ黒髪の少年がぼやきながら通学路を歩いていた。

 

 照り付ける日光がジリジリと彼の肌を焼き、たまらず汗が噴き出してくる。

 

 彼の名前は千乃(せの)勇斗(ゆうと)。学園都市第7学区にある、とある高校に通う高校1年生である。

 

(あーもー汗ばんできたなぁ……)

 

 と、心の中で1人この残暑を呪いながら歩いていると、後ろの方から走ってくる足音と勇斗を呼ぶ声が近づいてくるのに気が付いた。

 

「おーっす勇斗。おはよう」

 

「……おう。おはよう当麻」

 

 勇斗は後ろを振り返って、走ってきた少年――上条当麻の様子をまじまじと見つめた。

 

 上条当麻――――幻想殺し(イマジンブレイカ―)という正体不明の、学園都市の技術をもってしても解析不明の能力を持ち、もはやギャグとしか思えないほどの不幸体質を持つ少年であり、勇斗の親友であるフラグマイスターだ。

 

 夏休みの初め頃にインデックスという少女を巡る事件で記憶を失い、吸血鬼を求める錬金術師との戦いに巻き込まれたり、8月21日には学園都市最強のレベル5、一方通行(アクセラレータ)を倒し、1万人近い第3位御坂のクローン、妹達(シスターズ)を救い出したりと、このところハンパじゃ無い規模の(公的私的問わず)事件に(そしてその都度女の子と仲良くなったりもしている)巻き込まれ続けている……というか、首を突っ込み続けている度が過ぎた愛すべきお人好しである。もっとも、今は女の子と同棲しているとんだリア充野郎であるが。

 

「お前……またなんか事件に首突っ込んだだろ?」

 

 上条の特徴であるツンツン髪はいつもよりもボサボサで、目の周りにも濃い隈が浮かんでいた。

 

「……くっ、俺が自分から進んでやったように聞こえるのは気になるけど、今回ばかりは否定しきれない何かがある……! ……そーですよ! カミジョーさんはまた事件に巻き込まれたんですよ! お陰で夏休みの宿題未完だよ! コンチクショウ!」

 

 そう言って、夏休み中の武勇伝(ふこうばなし)を語り出す上条。その話に相槌を打ちながら、勇斗は学校へと向かった。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「うあー、……朝から茹で上がりそう」

 

「なんやなんやゆーやん、朝からだいぶグロッキーモードやな。大丈夫なん?」

 

 暑さにやられそうになりながら勇斗が教室に到着すると、先に登校していた青髪の大男、青髪ピアスが勇斗に声をかけてきた。

 

「……まーなんとか?」

 

「っだー……! 暑い……暑すぎる……」

 

 勇斗が応えたタイミングで、ちょうど上条も教室に入ってくる。

 

「な……、カミやん……だと……? カミやんが新学期初日に遅刻せずに学校に来られるなんて……これは一体何の予兆なんや……」

 

 その姿を認めた青髪が、大げさといっていいほどの驚愕の表情を浮かべる。声に出しはしなかったものの、残りのクラスメイトも似たり寄ったりの表情を浮かべていた。

 

「……朝からずいぶんなあいさつだな青髪ィ……」

 

 そんなやり取りをきっかけに、すぐに騒ぎ出す上条と青髪。その様子に苦笑して肩をすくめつつ、勇斗は自分の席へと向かった。

 

「あら、おはよう千乃」

 

 荷物を置いたところで、勇斗は隣席の少女に声を掛けられた。

 

「ああ、おはよ、吹寄」

 

 勇斗もそれに言葉を返す。隣席の少女――対カミジョー属性完全ガードをほこる鉄壁の女、吹寄制理は腕を組んで、夏休みの課題のテキストに向き合っていた。

 

「……ねえ、ぶしつけで悪いんだけど、お願いがあるのよ。聞いてくれない?」

 

「夏休みの課題関連なら多分ほぼどうにかなるんだぜ」

 

 その吹寄の様子から何となく事情を察した勇斗はそう言って、カバンから課題を――各授業科目ごとに存在するテキストを取り出した。

 

「じゃあ……、大脳生理学入門のテキスト見せてもらってもいい? ちょっとわかりにくい所があって……」

 

「心行くまでどーぞ。ただ、確実にあってる保証はないからそん時はあきらめてくれ」

 

 そのセリフに、手渡されたテキストを受け取りつつ、吹寄はため息をつきながら勇斗に呆れたような表情を向けた。

 

「……あんた、この学校の首席じゃない。それで解けないんじゃ誰も解けないわよ、そんな問題。誰も気にしないわ」

 

「まあ……確かに」

 

 ――――勇斗や上条が通うこの高校は、何も特徴が無いことが特徴である、を地で行く『普通』の高校だ。在籍する生徒のおよそ6割が無能力者(レベル0)であり、残りの生徒もほとんどが低能力者(レベル1)異能力者(レベル2)である。強能力者(レベル3)を超えるような能力者など片手で足りるくらいしかいない。その中で、大能力者(レベル4)である勇斗は、校内でトップの成績優秀者なのである。

 

「解答よりも、そこまでの過程が知りたいのよ」

 

 そう言って、吹寄はテキストと向き合い始めた。

 

 なるほどと納得して、集中し始めた吹寄に話しかけるのは申し訳なく、ヒートアップしている上条と青髪の間に割って入る元気もなく、手持無沙汰になった勇斗はふと、携帯に目をやった。

 

 ――――新着メール:18件 着信:8件

 

「うおっ!?」

 

 予想外に大量のメールと着信が入っていた。とりあえず電話をかけなおそうとして、ちょうどそのタイミングで、勇斗の携帯が鳴った。発信者は――177支部と表示されている。

 

「……もしもし?」

 

『あ、やっとつながりました!』

 

 電話口から聞こえてきた声は、普段から聞き慣れた、勇斗が所属する風紀委員(ジャッジメント)177支部の後輩、初春飾利の声だった。

 

『すいません先輩、今大丈夫ですか?』

 

 普段のおっとりした声とは違い、緊張感を含んだやや硬い声になっている。

 

「あ、うん。どうしたんだ?」

 

『メールにも書いてあると思うんですが、今日の朝……1時間ほど前に学園都市への侵入事案が起こりまして、現在「第一級警戒宣言(コードレッド)」が発令されてるんです』

 

「……何だって?」

 

 声のトーンを落とす。そのことに含まれる何かを感じたのだろう、怪訝そうな顔で吹寄が勇斗に視線を向けた。しかしそれに気づくことなく、勇斗は話を続けた。

 

「で、どういう状況なんだ?」

 

『詳しい話はまた後でしますが……、風紀委員には公欠と侵入者の捜索指示が出されてます。勇斗先輩も急いで来てください!』

 

「わかった!」

 

 通話を切って、勇斗は持ってきたテキストを全て机の上に置いた。

 

「どうしたの?」

 

「かくかくしかじかで公欠になった。でもまあせっかく来たんだし課題は置いていく。提出は任せた」

 

「……わかったわ。気をつけて行ってきなさい」

 

「うぃーす」

 

 そう言って、勇斗はカバンを掴んで教室を走って出て行った。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「あ、勇斗先輩。おはようございます」

 

「おはようございまし、勇斗先輩」

 

 大慌てで支部に入った勇斗を出迎えたのは、初春飾利と白井黒子の中学1年生コンビだった。

 

 肩にかかるくらいの黒のショートヘアに、大量の花飾りをあしらった髪飾りを付けた初春。長い、手入れの行き届いた茶髪を、ツインテールに結っている白井。絶妙な力関係と強い信頼関係が互いをつないでいる、177支部の誇る名コンビである。

 

「遅れて申し訳ない。気づかずに学校行ってた」

 

「いえ、大丈夫です。それで詳しい現状なのですが――――」

 

 そして、早速初春は本題に入った。

 

 今朝の7時前のことだ。学園都市の外部からの侵入事案があったという。勇斗は侵入者の写真を見せてもらった。そこに映っていたのは、金髪で、褐色の肌をゴシックロリータで包んだ外国人の女だった。この女が真正面から学園都市の門の1つを襲撃したのだという。死者こそ出なかったものの、重傷者3人を含む多数の負傷者を出し、その女はそのまま学園都市の内部に侵入してきていたのだった。

 

「――――というわけで、現在風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)が総動員されて、この人物の捜索が行われています」

 

「なるほどね……。結構大事になってたんだな」

 

「そうなんですの。おかげでこの炎天下の中歩き回らないといけませんの。はあ……女性のくせに、乙女の大敵ですわ」

 

「……女の子も大変なんだな」

 

「全くですわよ!」

 

「ですよねえ……」

 

「初春……? あなた、監視カメラ網の検索とか何とかでずーっとここにいるはずでしたわよね?」

 

 ジロリ、と白井は初春を睨み付けた。

 

「いやー……、固法先輩にそういう指示を出されちゃったものですから。仕方ないですよー」

 

 はははーと微妙な微笑みを浮かべつつ、初春は答える。

 

「でも私は私でパソコンの画面の前に釘付けですからね。適材適所ってことで、いいじゃないですか。うん!」

 

「……なんだか釈然としませんが、まあ確かにそうですわね。それでは私も、私の仕事をしましょうか」

 

 不承不承、といった表情を浮かべて、そしてそれから白井は勇斗の方を向いて口を開いた。

 

「参りましょうか、勇斗先輩。今回の索敵は二人一組が義務付けられていますの。……炎天下のデートと参りましょう」

 

 


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