科学の都市の大天使   作:きるぐまー1号

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これで第2章、残骸編も終わりです。次回から大覇星祭に入ります。


ep.16 9月15日

 残骸(レムナント)を巡って巻き起こったとある事件の翌朝、勇斗はとある病院のとある病室にやってきていた。……早い話が冥土帰し(ヘブンキャンセラー)なんて異名を頂戴している凄腕医師がいるある意味『いつもの』病院だ。かといって、いつものごとく彼の友人である某ツンツン頭が『ふりだし』に戻ったわけでは無い。事件に首を突っ込んでおきながら、珍しく(宝くじに当たるよりも珍しいのではないかと思える程)今回は何の怪我も負っていない。上条もまた、今回は見舞う側だ。

 

 勇斗と、上条と、そしてインデックスの3人は、昨晩の騒ぎで重傷を負った、あるいは症状がぶり返してしまった、白井と御坂妹のお見舞いに来ていた。そして今、3人は病室から少し離れた談話スペースにいる。

 

「きのうはほんとにおどろいたんだよ。夜遅くにいきなりみことの妹がうちに来て、そしたらいきなり私たちの命をもう一度助けてください、なんて言うんだよ。そしたらとうま一言二言話を聞いただけですぐに飛び出して行っちゃって。……後から聞いた話じゃ、みこととゆうとの後輩の女の子をかっこよく助けた所まで(・・)は良かったんだけど、なんかやたらときざったらしいセリフを吐いておきながら、その後はほとんど役に立たなかったんだって」

 

「……うわー、マジかよお前……」

 

「もうやめてっ!カミジョーさんのライフはもうゼロなのっ!」

 

「とうま、改めて言ってあげるね。この役立たず」

 

「やめたげてよぅ!」

 

「おい当麻。病院で騒ぐなよ」

 

「チクショウ」

 

 そんなこんなでお見舞いもせずにワイワイやっているのにはそれ相応の理由がある。ノックもせずに上条が白井の病室のドアを開けた所、着替え中だったというある意味お約束のラッキースケベを発揮し、戦略的撤退(ビリビリビンタ付き)。気を取り直し、御坂妹の病室に向かったところ、培養器の中に素っ裸で御坂妹が浮かんでいるという限りなく予想外なラッキースケベが発動し、戦略的撤退(後頭部への噛みつき付き)。こういった諸々の理由(全ての元凶 = 上条)のおかげで、とりあえず白井の準備が済むまで待機という事になったのだった。

 

 と、そんな感じで騒いでいる3人の前に来客があった。勇斗にとって見覚えのある顔が2人。前を歩く柵川中コンビ。ないのが3人。常盤台中の制服を着ている。計5人。その全てが女の子だ。前を歩く2人が彼らの様子に気づいたようで、手を振って小走りで近づいてくる。――――それに気づいたインデックスの目が、スッと細まった。

 

「――――とうま? まさか今回だけであんなたくさんの女の子たちを手籠めにしたの?」

 

「ちげーよ!全員見覚え無いよ!あれだろ、勇斗の知り合いかなんかだろ!」

 

「――――ゆうともそんな人だったなんて……」

 

「俺も先頭の2人以外知らねーよ。しかもその2人もただの風紀委員(ジャッジメント)の後輩だよ!……おう初春、佐天。おはよう」

 

 とりあえずツッコミどころにツッコんでから、勇斗はその見覚えのある2人――初春と佐天に声をかけた。正確には佐天は(まだ?)風紀委員(ジャッジメント)ではないのだが。細かい所を気にしている余裕は無い。

 

「おはようございます、勇斗先輩」

 

「おはようございまーっす、勇斗さん!」

 

 初春は丁寧に、佐天は元気よく、それに応えた。病院には似つかわしくないその大声をたしなめつつ、勇斗は問う。

 

「なんだ、お前らもこの時間にお見舞いに来たのか」

 

「はい。できるだけ急いで来た方が白井さんも喜ぶかなーって思いまして」

 

「とか言って佐天さん。『学校を合法的にズル休み出来るから朝に行こう!』とかなんとか言ってませんでしたっけ?」

 

「そ、それを言うなぁぁ!」

 

 本当のことをあっさりばらされ、佐天はとりあえず初春のスカートをめくり上げる。――――何という事でしょう。上条の近くにいると空間全体がラッキースケベが発生しやすいように因果律的に歪められてしまうのでしょうか――――そんな感じの事を考えつつ、勇斗はポーカーフェイスで顔をそむけた。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 ややあって、とりあえず場に一通りの収拾がついたところで互いに自己紹介を済ませた勇斗達。通路に様子見に出てきた御坂から「もう少しだけ待ってて」との言葉をいただいたので、雑談タイムとなった。

 

「実はわたくし、以前勇斗さんに助けていただいたことがありまして……」

 

 会話が一段落したところで、そう話し始めたのは黒髪三つ編み少女、泡浮万彬だった。常盤台中の1年生。白井のクラスメイトで水泳部所属らしい。あまり男性と話す機会がなく緊張しているのだろう、恥ずかしそうな表情を浮かべながら、彼女は言う。

 

「たまたま1人で帰っていた時に道に迷いまして、その時に所謂不良の方達に絡まれてしまったんです」

 

「あー泡浮さんかわいいからねー」

 

「それに常盤台中学のお嬢様ですからね。仕方ないと思います」

 

 そんな佐天と初春の褒め言葉に曖昧な、困ったような笑顔を浮かべている。

 

「それで、その時に颯爽と駆けつけて、助けていただいたのが勇斗さんだったのです。遅くなってしまいましたけど、その節はどうもありがとうございました」

 

「あー……、そんなこともあったなあ」

 

「……実はやっぱりゆうともとうまと同じような人間だったのかな?」

 

 ボソッとしたインデックスの呟きをさわやかな笑顔で無視する勇斗。事件に首を突っ込むたびに新しいフラグを1本以上立てて、あるいはそれ以前のフラグを更に強固なものにしてしまう、そんなフラグメーカー的な性質など自分はあいにく持ちあわせてなどいないのだ。これだけは断言できる。――――そう考えている勇斗だったが、はてさてその実態は如何に。

 

 とりあえず、ここで黙ったままでいると何となく何かに引きずり込まれてドツボにはまってしまいそうなそんな得体のしれない漠然としたよくわからない予感に襲われたので、無難なことを言ってやり過ごすことを選択する。

 

「……次も駆けつけられる保証はないから、ちゃんと気をつけなよ?」

 

「はい。最近では婚后さんと湾内さんとご一緒させていただいてますので。多分大丈夫だと思います」

 

「ご安心なさって泡浮さん。もし不埒な輩が来たとしてもこのわたくしが成敗してさしあげますわ!」

 

 パシン!と扇子片手に大見得を切った(見栄を張ったわけでは無いと思うが)のは、さらっさらの黒髪をストレートに降ろした少女、婚后光子だ。名前やどんな人間であるかは勇斗も白井から聞いていた。常盤台中学への2学期からの転校生で御坂の同級生。物体に空気の噴射点を作り、その物体を飛ばすことのできる大能力者(レベル4)の『空力使い(エアロハンド)』。噴射点を束ねれば巨大な電波塔さえ成層圏(高度約10キロ)まで吹っ飛ばすことのできる凄まじい出力を誇る、らしい。ついた異名は『トンデモ発射場ガール』とのこと。せめてもっとマシな名前は無かったのかと思った勇斗だったが、白井曰くどうやら本人は満更でもないらしい。ちなみに気流を操ることができるという特性から、空を飛ぶ勇斗に対して『こうかはばつぐん』な能力者でもある。誰に言うつもりもないし、そしてそんなことになるとも思えないのだが、一応勇斗としては敵に回さないようにしようと考えている能力者の1人である。

 

 閑話休題。

 

 そしてその横。大げさに「おー!」とかなんとか言っている佐天や初春と違って、控えめに、そして何故かちょっと頬を染めながら、小さく拍手しているウェーブがかった栗毛の少女は湾内絹保。泡浮と同じく1年生、白井のクラスメイト、水泳部。……どうもこの少女が婚后を見るときの目つきがちょっとアレな感じがあるのだが……勇斗は深く突っ込まないことにした。女子校特有の頼りになる女子への尊敬だろう、と判断する。決して百合みたいだとか、そんなことは勇斗は一切考えていない。

 

 そんな彼女はさっきからインデックスと何やら意気投合したらしく(留学生だと適当に誤魔化しておいた)、何やら楽しげにしゃべっていた。漏れ聞こえてくる会話から推測するに、恐らくスイーツの話をしているのだろう。じゅるり、なんて音が聞こえてきたのも一度や二度ではない。願わくば親友のツンツン頭のためにも、インデックスに少しは淑女の何たるかを教え込んでほしいとは思っているが、果たして。

 

 そして上条はというと、初春と佐天の2人に質問攻めにされていた。勇斗がさっき、「ちなみに白井がよく言ってる『類人猿』ってこいつの事な」と言ったのが原因だが、傍から見て十分かわいいといえる美少女2人に囲まれて満更でもなさそうだ。

 

 そんな様子を、ぐるっと見回して。勇斗はベンチから立ち上がった。

 

「ちょっと席外すよ。もし御坂が来たら先に見舞いに行っててくれ。まだかかりそうだし、ちょっと別な奴の見舞いに行ってくる」

 

「あ、はーい。いってらっしゃーい」

 

 そんな佐天と、ちょっと話足りなさそうな表情の泡浮と、その他の美少女ズ(+上条)の見送りを受けて、勇斗はその場を離れた。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「ここか……」

 

 早朝ここに着いてすぐ、カエル顔の医者に教えられた病室の前に勇斗は立っていた。廊下の向こうからはわずかに佐天の声が響いてくる。そんな行儀の悪い懲りない後輩に苦笑しつつ、勇斗はコンコン、と扉を叩いた。

 

「はーい!ってミサカはミサカは元気よく応答してみたり!」

 

 勇斗を出迎えたのは、そんな特徴的な言葉遣いの幼い少女の声だった。

 

「いったいいったいどちらさまー?ってミサカはミサカは勢いよく扉を開け放ってみる!」

 

 その言葉通り、スライド式のドアが外れてそのまますっ飛んで行くんじゃないかというくらいの勢いでドアが開く。そこにいたのは、御坂美琴を幼女化させたような、そんな少女だった。いや、幼女時代の御坂はこんな感じだったのだろう。なぜならその少女は、御坂と遺伝子レベルで同質の存在なのだから。

 

「……えっと、わたしが直接お会いするのは初めてだね、ってミサカはミサカは自分の記憶と目の前の人物を比べてみる。初めまして、千乃勇斗さん、ってミサカはミサカは挨拶してみる」

 

「初めまして、……えっと打ち止め(ラストオーダー)でいいのかな?」

 

「はーい、大正解!ってミサカはミサカは答えてみたり!」

 

 そうやって立派なアホ毛をぴょこぴょこ揺らしながら楽しげに笑う幼女を見ていると、いくらロリコンでもペドフィリアでもない勇斗でも何かこう小動物を見るようでお持ち帰りしたくなったりならなかったりしそうになるので、頭を一撫でしてから視線を部屋の奥に向ける。

 

 白髪で、抜けるように白い肌で、赤い瞳の少年が、ハトが豆鉄砲を食ったような顔で勇斗を見つめていた。

 

「勇斗……なのか?」

 

「ああ。久しぶり(・・・・)だな、一方通行(アクセラレータ)

 

 そんな少年に、勇斗は笑顔でそう言った。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「何年ぶりだ?5年とか?」

 

 途中、自動販売機で買ってきた缶コーヒーを布団に放り投げて、勇斗は問いかける。

 

「そろそろ6年ってとこだァ。……流石勇斗、相変わらずコーヒーの好みが合うねェ」

 

「そりゃどーも」

 

 そう言って二ヤリとした笑みを浮かべあう2人。と、

 

「えっと?2人って実は知り合いだったの?ってミサカはミサカは尋ねてみたり」

 

「うーん、まあ……昔馴染みって感じだよな?」

 

「……まあなァ」

 

 コーヒーをすすりつつ(ちなみに打ち止め(ラストオーダー)にはヤシの実サイダーを餌付け済み)、懐かしそうに一方通行(アクセラレータ)は言う。

 

「……俺がまだ完全に(・・・)狂いきっちまう前に、ちょうどそン時所属してた研究所が同じだったンだよ。他の人間がペコペコ媚びへつらう中で、コイツだけ対等に話しかけてきたンだ。最初はなンなンだコイツとか思ってたンだが、妙にコーヒーの好みが合ってたンだよなァ」

 

「だったな。ちなみにこいつはそん時初めて一緒に飲んだ銘柄だぜ」

 

「ハッ、忘れてるわけねェだろォ」

 

 そしてもう一度懐かしそうな目をした後で、グイっと一息で缶を空けた。

 

「……で、結局何しに来たンだ? どうせただ昔話をしに来たわけじゃねェんだろ?」

 

「いや、それもあるさ。けどまあ、それに夏休み最終日に打ち止め(ラストオーダー)を庇って大怪我をしたって言うのも聞いたからお見舞いも兼ねてるし、昨日の一件じゃあ最後にケリつけてくれたみたいだからそのお礼も兼ねてるし、それにあの(・・)妹達(シスターズ)の1人と一緒に居るって聞いたからその様子見も兼ねてるし」

 

「用件が多すぎて覚えきれないかもってミサカはミサカは口を挟んでみたり」

 

「オマエは黙っとけよ」

 

「えー、せっかくのお客さんだし一緒にお話に混ざりたい―ってミサカはミサカはぶーたれてみる」

 

「うぜェ」

 

「ひどっ!?ってミサカはミサカは」

 

「だからそのうっとォしィ口癖どォにかなんねェのかよ!」

 

 そんな感じで言い合う2人の様子を、勇斗は微笑ましそうに見つめる。妹達(シスターズ)の1人と一緒に居ると聞いて最初はどうなっていることやらと複雑な気持ちだった勇斗だったが、この分なら心配はいらないだろう。

 

「……ま、楽しそうで何よりだ。また来るよ。お大事に」

 

「あ、はーい。また会えるのを楽しみにしてるよ、ってミサカはミサカは爽やかな笑顔と共に元気に手を振ってみたり!」

 

「……オィ、毎回毎回頭をガスガス殴ってンのはワザとなンだな、アァ!? ……またなァ勇斗。次来る頃にはもっとマシな状態で出迎えられるようにしておくからよ」

 

「ああ、じゃあまたな」

 

 そう言って手を振って、勇斗はその病室を後にする。予想していたよりずっと気持ちは軽かった。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「あ、勇斗さん!? 一体どこに行ってたんです!? いや、そんなことはどうでもいいんです!早く白井さんを止めてください!」

 

 戻った勇斗を出迎えたのはちょっとどころでなく余裕がなくなった初春だった。

 

「……? いったいな「おねえさまおねえさまおねえさま!!!! ぐふふふふへへへへへ!!!!」……にって、ああ、うん、大体わかった」

 

「多分それで大体あってます」

 

 頷く初春の後ろ、白井の病室の方からドッタンバッタン愉快な騒音といろんな叫び声が響いてくる。

 

「何で昨日の今日でもうそんなに活力に溢れてんのよ黒子!――――いや溢れてない!? 気力だけでベッドから這い出ようとすんなアンタ本当に死ぬわよ!!」

 

「やめるんだ白井!! 冗談抜きでお前ほんとに死ぬぞ!!」

 

「白井さん!! どうか落ち着いてください!!」

 

 切羽詰まったような御坂と上条と、そしてお嬢様にあるまじき大声で叫ぶ泡浮の声が響いてくる。どうやら本当にマズイらしい。

 

 あまりの出来事に軽く頭痛を浮かべながら、しかしそれとは裏腹に口元に笑みを浮かべて。勇斗は初春と共に白井の病室に飛び込んでいった。

 

 

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