科学の都市の大天使   作:きるぐまー1号

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遅くなりました!
バイトその他が立て込んでおりまして、以降も亀更新になるかと思います。
生暖かく見守っていただければ幸いでございます!


ep.4 9月1日-4

薄暗闇に包まれた地下通路。通路と通路が直交する部分の、少し広めにとられたスペースに、その女は立っていた。

「また会ったわね少年。とりあえずは、歓迎しましょうか」

 

 通路の天井まで達する程の大きさのゴーレムを背に従えて、持っているオイルパステルを弄びながら暗い笑みを浮かべている。その姿にうすら寒いものを感じつつ、勇斗は女に対峙した。

 

「……警備員(アンチスキル)はどうした。さっきまでは随分派手にドンパチやってたみたいじゃないか。よく逃げ切れたもんだな」

 

 女の第一声を無視して勇斗は言葉をぶつける。その勇斗の様子が本当に本当におかしいものであるかのように、女はゆっくりと口角を上げて、そしてこう言った。

 

「くふ。アンチスキルっていうのはあれかしら、あのぶくぶくした装備で武装して、私を見るや否やに銃で撃ってきた野蛮な連中かしら? ……うふふ、意外と衝撃吸収率の高い装備を支給されているのね。普通だったら五体がバラバラになってもおかしくないくらいなのにね。うふふ」

 

 その言葉に、ピタリ、と勇斗は一瞬動きを止めた。何が起こったのか、目の前の女が何をしたのか、容易に想像がついたからだ。舌打ちをして、勇斗は目の前の女を睨み付ける。駅前の広場で目の前の女を逃してしまったのは失敗だったのだ。あそこでどうにかしてでも止めておくべきだった。

 

「……何だシケたツラしやがって。安心しろよ、まだ誰も死んじゃいない。……こっから先どうなるかは知らねえけどな!」

 

 思考が表情に現れていたのだろう。そう叫んで、女は手に持ったオイルパステルを振るった。その動きに操られるようにゴーレムが動き、振り上げられた腕が地を思い切り殴りつける。轟音と共に強烈な振動が地下街に走り、その衝撃が勇斗の足にも襲い掛かった。思い切り叩かれたようなその振動で、勇斗の体がこらえ切れずに大きくよろめく。

 

「テメェも無様に転がって、這いつくばれよ!」

 

殺意が唐突に膨れ上がる。傾く視界のその片隅で、振動の影響など何一つ受けていないかのように平然と立っている女が再びオイルパステルを振るい、ゴーレムの腕が振り上げられるのが見えた。

 

「っ、くそがっ!!」

 

 言葉と共に勇斗の背中から翼が飛び出し、同時に彼の目の前の地面が炸裂した。目の前の女が何かをしたという訳では無い。勇斗が自らの能力で収束させたAIM拡散力場を地面に打ち出し、その反動を利用して後ろに飛んだのだ。一瞬前まで勇斗がいた場所に巨大な腕が叩き付けられ、再び地下街に衝撃が響き渡る。舌打ちをする女を視界に捉えつつ、宙返りして翼を操り、体制を整えて勇斗は壁に『着地』する。

 

「お返しだこの野郎!」

 

 再び能力でAIM拡散力場を操り、手繰り寄せ、収束して、女とゴーレム目がけて打ち放つ。不可視の力の渦が、巻き上がる砂ぼこりを巻き込んで女とゴーレムに殺到する。ゴーレムを破壊できればベスト。それが叶わなくとも、術者であるゴスロリ女の意識さえ奪ってしまえばその支配下にあるゴーレムだって使い物にならなくなるだろう。7月の末に戦ったあの炎の魔術師とその男が使ったあの魔術のように。

 

 しかし――――。

 

 ギィン!! という甲高い音をあげてAIM拡散力場が女とゴーレムに衝突する。明らかにおかしい。普通ならこんな甲高い金属質な音など響くはずがないのだ。その異常さを端的に示すかのように、最低限人体にある程度のダメージを与えるような調整を施したはずのAIM拡散力場の衝突が引き起こしたのは、ゴーレムをわずかにのけ反らせそして女の顔をしかめさせる程度の、たったそれだけの現象だった。

 

「なん……だ……?」

 

 想像をはるかに下回る結果に目を剥く勇斗。と、そこで目の前の女が引き裂くような笑みを浮かべつつ、嘲るような調子で言った。

 

「ああ、わりーわりー。お前の『それ』な、どうも天使の力(テレズマ)に似てるからよ。ま、厳密には違うんだろうが、一応対抗術式を組ませてもらった。……効果は抜群みたいじゃねーか? なあ?」

 

 笑いながら女は再びオイルパステルを振るう。その動きに合わせてゴーレムが腕を前に突きだし、突如その腕が膨張したかと思うと次の瞬間には爆発していた。幾百もの鋭利な切片が勇斗目がけて飛来する。

 

「っ、なめんなっ!!」

 

 叫んで、勇斗は手繰ったAIM拡散力場を今度は面状に固定して撃ち放った。擬似的な『壁』となったAIM拡散力場と石片が衝突し、轟音と共に粉々になった石片が辺りに撒き散らされる。

 

「おいおい、それしか能が無えのか能力者よ! ただの大砲ごっこじゃ埒が明かねえぞ!」

 

「……うるせー魔術師。少し黙ってろ」

 

 巻き上げられた埃や石片がバラバラと地面に落ち、晴れていく視界の向こう側、冷やかな笑いを浮かべたゴスロリ女を睨みつけながら、勇斗は言った。

 

「……『魔術師』ねえ。そんな他人行儀な呼ばれ方も嫌いじゃねえけど、冥土の土産に名乗っておいてやるよ能力者。私はイギリス清教、必要悪の教会(ネセサリウス)所属の魔術師、シェリー=クロムウェルよ」

 

 と、その女の、シェリー=クロムウェルの言葉に勇斗は驚愕した。

 

「……イギリス清教の必要悪の教会(ネセサリウス)? インデックスの同僚か?」

 

 イギリス清教、必要悪の教会(ネセサリウス)。それはインデックスや土御門、そしてステイル=マグヌスや神裂火織などの魔術師が所属する集団だ。彼らの言によれば、彼らは魔術組織でありながら学園都市と協力関係にある。その組織の一員が、協力関係にある学園都市を襲撃したというのか。

 

「ああ、確かに。禁書目録は私たち(ネセサリウス)の一員ね。あなた、そんなことまで知っているのね。今回の私の襲撃対象の1人でもあるんだけれど」

 

「……は?」

 

 まったくもって意味が分からなかった。シェリー=クロムウェルのその言葉は、勇斗の理解のはるか斜め上を行っている。

 

「お前……何のためにそんな……」

 

「ふん。言ってもわからないでしょうし、言うつもりもないわね。まあ1つだけ教えてあげるとすれば……」

 

 シェリー=クロムウェルはオイルパステルを手の中で弄びつつ、いっそ優雅とすら思えるような笑みを浮かべる。

 

「……科学と魔術の、戦争を起こすための火種がほしいのよ、ね、エリスッ!」

 

 その叫びと共に、再びオイルパステルを振りぬく。連動して動いたゴーレムの腕が、驚愕と困惑で初動の遅れた勇斗に迫る。

 

「そのためなら禁書目録だろうが幻想殺し(イマジンブレイカー)が虚数学区のカギだろうが、……別にお前だろうが、誰をぶっ殺そうが変わらねえんだよ!!」

 

 ドガッ!! という轟音が響き渡り、巨重の腕が勇斗を思い切り打ち据えた。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「……とりあえず1人目か。さて、あと何人殺してやろうか」

 

 再び静けさを取り戻した地下街で、シェリー=クロムウェルは静かに呟いた。ちょろちょろと目障りだったあの天使のような翼を持った能力者は葬った。アンチスキルとかいうあのぶくぶくした武装の集団ならいざ知らず、生身でゴーレム(エリス)の一撃をくらえば後に残るのはバラバラの肉片だけだ。しかもこのゴーレム(エリス)はその肉片すら自らの体に取り込む。もはやさっきまで目前に立っていた能力者は、肉片すら残さず消え去っているだろう。

 

「……とりあえず、次に狙うなら幻想殺し(イマジンブレイカー)虚数学区のカギ(カザキリヒョウカ)か。確かあっちにいたはずだな。行くぞエリス」

 

 次の標的を頭に思い浮かべ、シェリー=クロムウェルはゴーレム(エリス)に指示を出す。

 

 ――――しかし、目前で佇むゴーレム(エリス)はその言葉にも全くの反応を返さない。腕を伸ばしきったという不自然な格好で動きを止めている。

 

「……? どうしたエリス? なぜ動かない!?」

 

 シェリー=クロムウェルは叫ぶが、それでもゴーレム(エリス)は動かない。それどころか、ピシピシという細い音と共に腕にひびが入り、ボロボロと崩れていく。

 

「なんだ……? エリス! どうした!?」

 

「……よう、やっと見つけたぞ魔術師」

 

 先ほどまで相対していた能力者とはまた違う人間の声がした。その声は、ゴーレム(エリス)の腕の向こう側から聞こえてくる。

 

「よくもここまで好き勝手暴れてくれたな」

 

 ゴーレム(エリス)の体の崩壊が加速し、その向こう側、声の主の姿が明らかになってきた。その少年は右手のひらを開き、ゴーレム(エリス)の拳から天使の姿の能力者を庇うように立っている。

 

 ――――受け止めたというのか、ゴーレム(エリス)の巨大な拳の一撃を。素手で、その右手1本で。

 

「ここで止めさせてもらうぞ」

 

「……幻想殺し(イマジンブレイカー)!!」

 

 シェリー=クロムウェルの前に現れたのは、彼女の標的の1人、上条当麻だった。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「……大丈夫か勇斗」

 

「ああ。……まさしく間一髪だったけどな」

 

 背を向けて立つ上条の言葉に、深く息を吐いて勇斗は答えた。

 

「……これが、幻想殺し(イマジンブレイカー)。……ふうん、自分の目で見るまで信じられなかったけど、その力は伊達じゃないのね」

 

2人の前で、呆然自失としていたシェリー=クロムウェルが再び動き出した。凶悪な笑みを取り戻すと、未だ手に持っているオイルパステルを振るい、空中に怪しげな紋様を描き出していく。

 

「――――泥より出でし神の木偶人形は、泥に還り、再び泥より生まれ来る!」

 

 そんな声が地下通路に響き渡り、ひびが入り半ば崩れかけていたゴーレムが急速にその体を取り戻していく。

 

「ちょうどいい。『人工天使』も幻想殺し(イマジンブレイカー)も、ここでまとめてぶっ殺してやる」

 

 言って、シェリー=クロムウェルは思い切りオイルパステルを振り回した。その動きに連動してゴーレムが大きく地を踏みつける。再び強烈な震動が地下街に走り、勇斗と上条の体勢をかき乱した。そして第2撃。足に叩き付けられた強烈な衝撃が、2人の体を地面に転がした。

 

「良い様だ。そのまま這いつくばってろ負け犬ども」

 

 やはり揺れの影響を全く受けておらず、2人を見下すように立つシェリー=クロムウェルは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。一体どんな技術――――いや、異能の力か。この空間から切り離されてでもいるように、彼女だけは揺れのダメージから完全に逃れていた。

 

「――――我が名はイギリス清教、必要悪の教会(ネセサリウス)、シェリー=クロムウェル。お前らには、私の目的のための捨て駒になってもらう!」

 

優雅に、嘲笑を浮かべて。

 

シェリー=クロムウェルはオイルパステルをくるりと回す。

 

その動きに引かれ、ゴーレムが地を踏みしめて、その拳を振り上げる。その巨大な一撃に対抗する力を持っている上条は、しかし勇斗と共に地面に転がったままだ。

 

「2人まとめて、トマトみてぇに潰されな」

 

 のた打ち回る2人に、巨大な腕が振り下ろされる。

 

 


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