科学の都市の大天使   作:きるぐまー1号

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紙芝居キャスト

王 様:霞ちゃん妖精(礼号作戦ver.)
その他:コスプレした妖精さん
天使長:ペルソナ「ミカエル」


ep.64 10月1日-3

「昔々あるところに、――――具体的に言えば1500年代のイングランドに、ヘンリー8世という王様がいたのさ」

 

 女王の朗々としたよく通る声で紙芝居が始まった。真っ白い画用紙の真ん中、可愛らしい絵柄で2頭身にデフォルメされ、王冠をかぶり髭を生やしたキャラクターが剣を――――リメエアが『カーテナ』と呼んだ独特なシルエットの剣を掲げているイラストが描かれている。

 

「このヘンリー8世、色々あって当時のローマ教皇と対立するようになってな。当時のローマ正教からイギリス清教を分離独立させ、『国王がイギリス清教の唯一最高のトップであり、ローマ教皇やローマ正教からの干渉を認めない』というルールを作り上げることになったのさ」

 

 エリザードは笑って、手元の紙を1枚抜き取る。2枚目、修道服を身に纏うキャラクターが怒った表情を浮かべているのに背を向けて、『8』という数字の描かれたマント着用のちょび髭王様キャラが剣を掲げ、これまたデフォルメキャラ化した騎士や修道士たちを率いている。

 

「……この剣、カーテナは、その当時には既に王権象徴物品(レガリア)の1つとして位置づけられていてな。そこで、ヘンリー8世はこう考えることにしたんだ。『カーテナで象徴される王権を持つ人物は、ローマ教皇の話を聞かなくてもいい』、イコール、『イギリスの国王はローマ教皇よりも神に近い存在である』、と。……さて問題だ少年。より具体的には、ヘンリー8世は『イギリスの国王』を『誰』と見做したんだと思う?」

 

「教皇よりも神に近いもの……要するに、『人間』よりも神様に近い存在、……ってことなら、天使ですか?」

 

「……それでファイナルアンサーか? それならまだ50点だぞ?」

 

 ニヤニヤと笑うエリザード。50点――――ということは、半分当たっているということだ。つまりは、

 

「天使っていう方向性はあってるんですね」

 

 勇斗の確認に、エリザードは頷く。

 

「……んー、なら、…………天使長、とかですか?」

 

「ご明察。そういうことだ」

 

 賞賛の笑みを口元に浮かべ、エリザードは紙を抜き取る。3枚目、先ほどまでと同様にデフォルメされたちょび髭王様キャラが剣を掲げるその背後に、背から翼を生やし右手に剣を携えた、やたらとリアルな筋骨隆々半裸マッチョが描かれていた。背景には燃え盛る炎。物凄く暑苦しい感じの絵である。

 

「ヘンリー8世が国王の立ち位置として定めたのは『天使長』……すなわち大天使『神の如き者(ミカエル)』。あらゆる天使の中で一番偉く、最強とされる存在だな。なにせ教皇、地上における十字教世界のトップの人間と対立したわけだ。他国からの、具体的に言えばローマ正教圏からの干渉を決して認めないという強い意志を示すために、わざわざ天使長なんて言う大層なものを持ち出してきたってわけだな」

 

 エリザードは、テーブルの上に置いていたカーテナに一度ちらりと視線を向けて、

 

「そしてヘンリー8世は、国王の下で国を守る騎士たちを『天使軍』に対応させ、国王と騎士たちに天使長の力――――莫大な量の『神の如き者(ミカエル)』の天使の力(テレズマ)を与える術式(システム)を完成させた。それ以来、このカーテナは単なる王権象徴物品(レガリア)から、強力無比な霊装へと姿を変えたのさ」

 

 紙を抜き取る。4枚目。王様と騎士数人が、デフォルメされたキャラクター顔のまま、筋骨隆々ガタイのいいボディー(等身大)を駆使し、肉体美を見せつけていた。――――顔がデフォルメされたかわいい感じのままな分、違和感というかシュールな感じが半端ない。

 

「……なんというか、魔術ってすごいんですね」

 

 そんな絵をぼんやりと眺めて、勇斗は言う。

 

「そんな風に『何々を何々と見做す』とかって定義するだけでそんな途轍もないシステムを作れるとか、……ちょっと想像が追いつかないっす」

 

「まあ、こいつの場合はそこまで単純なモノでもないんだ」

 

 そこでエリザードは、さらに紙を抜き取る。5枚目。用紙の中央に縦1本線が引かれ、左側には王様、騎士、修道服姿の3体のキャラクターが、右側にはイギリス周辺の地図――――イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4つの地域の区分けが分かるように書き込まれた地図が、それぞれ描かれていた。

 

「個人で精製した魔力を用いて行使される魔術程度なら、少年の言う通り、文化や神話といった何某か『ベースとなる法則』に基づいて個人レベルで術式を組み上げれば、それで十全に発動する。しかしこのカーテナによって制御される術式(システム)は、莫大な量の天使長の力を利用するものだ。そうするためには、それ相応に『デカい』ベースとなる法則を用意してやる必要がある」

 

 エリザードは騎士団長(ナイトリーダー)に、そしてローラに視線をやって、

 

「カーテナを成立させている法則は、イギリス独自の十字教様式である『イギリス清教』という名の『特殊な十字教ルール』だ。当時のヘンリー8世はこの特殊ルールを、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの『四文化』と、王室派、騎士派、清教派の『三派閥』によって成立させようとした。……カーテナと、そのベースとなる法則そのもの(イギリス清教)に、国家単位のスケールで魔術的意味を付加しようとしたのさ」

 

「……、『四文化』と、『三派閥』」

 

 エリザードの言葉を復唱し、勇斗は少し思考に沈む。四文化と三派閥。国家単位のスケール。4と、3。十字教ルール。

 

「…………あー。もしかして、『大地』とか『天界』とかっていうアレの事ですか?」

 

「流石、物知りだな」

 

 満足げに頷くエリザード。

 

「十字教において、『4』という数字は『全体』や『地上の世界』、『大地』なんてものを表す。そしてまた、『3』という数字は『三位一体』の思想や『天界』なんてものを表す。つまり、『大地全体』を表す『4』つの文化……イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの四国家により構成される領域内において、王室派、騎士派、清教派からなる『3』つの派閥が、『三位一体』となって『天界の力』を司るための術式(システム)がカーテナである、……ということにしたわけさ。……まあ、『三位一体』とはいえ、王室派は天使長、騎士派は天使軍、清教派はその対応関係を成立させるためのイギリス清教そのもの、ってことになるから、清教派自身はカーテナによる恩恵を受けることはないんだがな」

 

「なるほど……」

 

 そして、女王は軽く首を鳴らして、

 

「さて、次がラストだな」

 

 紙を抜き取る。ラスト1枚、描かれていたのは、

 

「……2本?」

 

 全く同じ形の2本のカーテナだ。画像をコピペしただけにも思える。

 

「そう。実はこのカーテナ、」

 

 とんとん、と女王はテーブルの上のカーテナを指先で軽く叩く。

 

「歴史的には『カーテナ=セカンド』でな。要するに2本目。『オリジナル』のものじゃあない」

 

「? じゃあ1本目は……」

 

「ヘンリー8世の時代からおよそ100年後、清教徒革命の折に失われてしまったと伝えられている。1本目、言わば『カーテナ=オリジナル』が失われてしまったことで、この『カーテナ=セカンド』が作られたわけだ。後の英国君主たちが血眼になって探しても見つからなかったし、もう『オリジナル』はこの世界には存在していないんだろう、というのが現在の見解だ」

 

 もちろん見つかれば考古学的価値だけで途轍もないことになるがな、と一言付け足して、

 

「……そんな訳で、歴史のお勉強は店じまい。ご清聴ありがとうございました」

 

 女王がぺこりと一礼。慌てて勇斗も一礼を返す。王女たちや騎士団長(ナイトリーダー)、ローラに神裂も一礼を返していた。

 

「……ちなみに、さっきも言った通りカーテナが王と騎士に与えるのは『神の如き者(ミカエル)』の天使の力(テレズマ)だ」

 

 紙芝居を片づけながら、エリザードは少し悪い笑みを浮かべて言う。

 

「少年の力は『光を掲げる者(ルシフェル)』だから、言ってしまえば『神の如き者(ミカエル)』は天敵ってことになる。少年が()()()()()()()()()カーテナを使えば対処できる、っていう保証があるっていうのも、君をこの国に受け入れた理由の1つでもある。そこのところをよく理解して、願わくば互いに有益になるよう生活してもらえると、この国の元首としても助かるよ」

 

「……肝に銘じておきます」

 

 対する勇斗は引き攣った笑い。何かをやらかしたり、こいつはヤバいと思われるようなことをしてしまえば、カーテナでバッサリいかれてしまうということだ。内心冷や汗ものだ。これは気をつけなくては……。

 

「有益になるように、とは言いますが……、これからどうやってお過ごしになるのですか?」

 

 震える勇斗に対し、優しい声色で声を掛けたのはヴィリアンだ。

 

「……えーっと、」

 

 勇斗はちらりと神裂に、そしてローラに、それぞれ目をやって、

 

「まあ、天草式――『必要悪の教会(ネセサリウス)』にお世話になるわけですし、できる範囲で手伝いでもできればなあとは思ってましたけど……」

 

 少し心配そうな表情の神裂と、パアッと顔を明るくするローラの顔を視界の端っこにとらえながら、勇斗はヴィリアンと、そして脅しをぶっこんできたエリザードに向かって、そう伝えた。

 

「ほう、関心関心」

 

「『必要悪の教会(ネセサリウス)』のお手伝い。となれば、イギリス国民の血税を財源に給料が支払われることになるんだけど、最低限それに見合うだけの働きは期待してもいいのかしら?」

 

 満足げに頷くエリザードと神裂同様心配そうな表情のヴィリアン。その2人から言葉を引き継いでそう問うたのは第一王女のリメエアだ。

 

「まあ……、多分?」

 

「ほとぼりが冷めたりし頃合いになりては無事五体満足に学園都市に送り返すことが『移籍』の条件たりけるから、その条件が守られし程度には働きてもらう予定よ」

 

 リメエアからの問い掛けにローラへ目配りをすれば、漫画的表現として音符が撒き散らされていそうなウキウキな感じで彼女はそう答えてくれた。

 

「……らしいので、望むところです」

 

 というわけなので、勇斗も笑ってグッとファイティングポーズ。『敵対組織の皆殺し』とか、『悪い魔術師を焼いてこい』とか、『ちょっとアイツ暗殺してきて』とか、そんな物騒なお願いをされない限りは勇斗としても『お手伝い』は望むところだ。自分の力の出自を辿り、新たに目覚めたこの天使の力(テレズマ)の扱い方を学ぶためには、その力が属する『世界』に飛び込むしかないのだから。

 

 ――――学園都市で、絹旗の病室の前で、土御門と話したこと。『魔術』と『科学』に分かたれたこの世界で、そのどちらにもまたがる力を持ったこと。持ってしまったこと。『魔術』も『科学』も関係ない『自分自身の力』へと昇華させるために、できることなら進んでやる心意気である。

 

 ――――と、そんな感じに意気込む勇斗に向けて、思いがけない人物から思いがけない言葉が放たれた。

 

「……ではそのための鍛錬の一環として、手合わせはどうかね?」

 

「…………え?」

 

 振り返る。騎士団長(ナイトリーダー)だ。これまた楽しそうに口元を歪めて、楽しそうに勇斗をじっと見つめている。

 

「個人的にも、聖人級の力を体験できるのはいい機会になるのでな」

 

「ちょ……、本気で言っているんですか?」

 

 焦った様子で騎士団長(ナイトリーダー)を問いただすのは神裂だ。

 

「確かにこの少年は聖人級の力を持ってはいますが、だからと言って『騎士派』のトップとして日頃から戦い慣れているあなたと戦うのは――――」

 

「マジっすか! いいんですか?」

 

「――――うぇっ!?」

 

 それは勇斗を心配しての言葉だったのだろう。しかし当の勇斗がノリノリで返事をしてしまうものだから、神裂は変な声を上げる羽目になってしまう。

 

「でも騎士団長(ナイトリーダー)相手にお役に立てるかはわかんないですけど……。あ、じゃあこれから定期的に手合わせするんで、その代わりにたまにでいいので稽古をつけてもらうっていうのは……」

 

「ちょ、ええ!?」

 

「ふむ……」

 

 さらに焦る神裂を尻目に、満足げに考え込む騎士団長(ナイトリーダー)

 

「……よかろう。その取引、呑ませてもらう」

 

「ありがとうございます! じゃあそんな感じでお願いします!」

 

「ちょっと待ちなさい本気で言っているんですか!?」

 

「そーだぞ。騎士団長(ナイトリーダー)は、強い」

 

 両肩を掴んで首をガックンガックン揺さ振ってくる神裂と、『強い』の所を妙に強調してくる第二王女キャーリサ。

 

「遊びだったり、軽い気持ちでやったりすれば、痛い目に合うのは少年だぞ」

 

「……これから先何があるかわからないんで」

 

 一度深呼吸。そしてやる気――――戦意の込められた目で、勇斗は目の前の神裂を、そしてキャーリサを見た。

 

「少しでも早く天使の力(テレズマ)の扱いを身に着けたいんで、こういう機会は無駄にしたくはないんです」

 

「――――ほー。なるほどね」

 

 キャーリサと、おまけにその後ろの方でリメエアが、口元に笑みを浮かべて頷く。

 

「あの……騎士団長(ナイトリーダー)は本当に強くて、今まで負けたっていう話すらほとんど聞かないレベルで……」

 

「『騎士派』の訓練は容赦がないという噂です。学園都市からの『客人(ゲスト)』だからといって、手心を加えてもらえるかはわかりませんよ!」

 

「まあ、こういう特訓はボコられて強くなるのが相場ですし……」

 

 ヴィリアンと神裂に遠い目を向けて、

 

「まあ多少のケガならすぐに治せるんで、なるようになると思います」

 

「……当人がいいと言っているんだ。お前たち少しは落ち着け」

 

 横合いからヴィリアンと、特に神裂に対して、待ったをかけたのはエリザードだ。

 

「やっちまいな。ただし城は壊さんでくれよ。そんなことになればこいつでバッサリいかなきゃならんからな」

 

「ぜ……善処します」

 

 快活な笑顔でそうくぎを刺すエリザードに対し、勇斗は再び引き攣った笑みを浮かべるのだった。

 

 

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