修羅ガイル 作:ブルータス
青春とはある種の病気である。
主に青春とは友情やスポーツ、恋愛その他諸々を謳歌している奴にしか訪れない、一過性の麻疹みたいなものだ。
しかし、麻疹みたいものであるからこそ彼らは青春を送ろうとする。
大人になれば社会という荒波に呑まれ、上手くいかない仕事、腹の立つ上司や客、希薄になる友人関係に悩まされ、ストレスを抱え揚げ句精神的に追い込まれ自殺してしまう者達も少なくない。
そんな、恐ろしい問題を抱えている現代を生き残るべく、社会に出る前に青春を送ることで前準備をするのだ。
青春というのは、その個人にとって一種のステータスになり、それを送っていたという事実は自身を潤わせることだけではなく、近しい人間関係の友人を構築することで心の防壁を作るのだ。
あいつ友達居ないの? 寂しい奴とかいう糞みたいな風評被害を浴びずに済む。
あと、就職活動にも便利だ。
学校生活に於いて何に力を入れていたとか、友達は居たかとか、そういう高難度の質問にもスムーズに対応することが出来る。
変に嘘をついて、話しに矛盾が生じてしまうなどという事態には万が一にも起きない。
俺だったら間違いなく即刻お祈りメールだが。
しかし、そんな打算的に考えて青春を送っている奴など恐らくはいないだろう。
彼らは要は何も考えてなどいないのだ。
今この時、この瞬間。自分達が自分が、この青春を謳歌しているという事実を味わいたいに過ぎないのである。
________アホじゃなかろうか、いやアホだろ。
だって、無駄だろ? もっと打算的になれよ。所詮、一過性の麻疹だろ?時間経過による人間関係のリセットとか普通じゃん。
え、普通じゃない? アホなのはお前だって、ちょっ、マジ止めて。凄い傷付くから。
......自覚はしてるから。
まあ、兎に角、青春とは録なものではない。
こうやって、被害を被っている奴はたくさんいるのだ。
例えば、車に轢かれそうになった女の子と犬を助けるべく、庇って轢かれるという青春ポイントカンストしそうなことをやった大馬鹿者がここに居るわけで。
「あはっははははははは!!!! はーっ......はははは......!!」
「おい、止めろ。その煩い口を閉じろ。他の皆さんに迷惑だろ? というか、俺に迷惑だ。いい加減、殺すぞ」
目の前で馬鹿笑いをする新しい制服をバシッと着こなしている糞イケメンを睨み付けた。
何だよ、こんな馬鹿みたいに笑っても造形が崩れないとか。イケメンとかマジで砕けろ、鏡花水月。
あ、イケメンとイエメンに似てるよな。国章とかマジでイケメンだと俺は思う。
「......ははははっ。っく......し、しかも、直接礼を言われるわけでもなく、フラグが立つわけでもなく、持ってきた菓子折りも、小町ちゃんと俺に食われるとか......」
「おい。今、最後聞き逃せないこと言ったよな。まさか二人で食べたのか? そうだったら絶対に許さないからな。あと、小町ちゃんって呼ぶな。殺すぞ、マジで殺すぞ」
別段、菓子折りに関してはどうでもいい。
只、My Sweet Sister小町と菓子を喰らうなど断じて許さん。
何なら俺が小町を喰らうまである。うん、流石にキモいなとは思っている。
あと、フラグが立たないってもしかしして恋愛フラグのことを言っているのかこいつは。
この腐れイケメン、自分がモテてるからって調子に乗るなよ。
うん? てか、腐れイケメンってもしかして俺のことじゃないか。主に眼が。その理論だと俺モテるんじゃん。
小町の読んでる偏差値が25くらいの雑誌に、『今年のトレンドは腐眼系男子』とか書かれちゃってるのかよ。何だよ、腐眼系男子って。腐滅の魔眼みたいで超かっこいいじゃねーか。
俺は屑だって、あれ? 共通点バリバリじゃね?
アホっぽい妹がいるところとか。苦労人なところとか。
「おい、比企谷。眼が尋常じゃないくらいに濁ってるぞ? いや腐ってるぞ? あ、いつものことか......」
そんな俺を見たイケメン______葉山隼人は普通に心配そうな顔をしていたのだが、すぐに気まずそうな顔をして目線を反らした。
いや、止めてくれるかな。分かってるから、眼のことに関してはあまり言わないでくれるかな。てか、今回はお前のせいだから。新ジャンルを開拓させようとするから。少し自分に期待しちゃうでしょうが。
「......まあ、比企谷のシスコンぷりは相変わらずで、安心したよ。もし事故でまともになってたら、それこそもう一度事故に遭わせるか、俺が直接お前を殺しに掛からなきゃいけなくなるからな」
「......お前って、たまにマジで怖いわ。怪我してる相手にまた事故に遭わせるとか。鬼畜の所業だろ」
「お前はそんなんじゃ、
それに関しては、自分でも分かってはいるので悔しいが同意せざるを得ない。
不様にも程がある。葉山にこんなことを言われる自分が。
故に、退院したら少しはやる気を出さねばならないみたいだ。
全く以て遺憾ではあるが。
「......てか、さっさと帰れよ。もう
既に時計の針は、十二と六を指しており、窓の外を見れば夕陽が赤く燃えていた。
「おっと、そうだった。今日はこれを渡しに来たんだよ」
葉山はそういえばと、何かを思い出したのか、持っているスクールバッグの中から茶封筒を取り出した。
「ほら、入院中退屈だろ。本屋で買ってきたんだよ」
「へぇ、気が利いてて逆に怖いわ。まあ、ありがとさん」
捻くれ者にも程があるだろと、葉山は苦笑いしている。
仕方ないだろう、どうしてお前みたいな鬼畜に信頼を置けるのか。
「......これって」
「あぁ、参考書。お前が行きたがっている国公立のW大学の。確か文系だっただろ」
高かったんだから大事に使えよと、良い笑顔で言ってくる葉山。
病人に入院中まで勉強を強いるとかやっぱり鬼畜。まあ、暇だから結局勉強してしまうのではあるが。
「......おい、小町はちゃんと漫画とか置いてってくれだぞ」
これまた偏差値の低い少女漫画ではあったが。
何が頭に芋けんぴ付いてるぞ、だよ。俺なら濡れ煎餅を付ける。しょっぱくて凄い美味いから。濡れ煎餅が頭に付いてる女子とか凄い嫌だけど。ベトベトしてそうで。だからと言って芋けんぴ付いてるのどうかと思うが。
うん? 待てよ。それこそ正しく、
「比企谷、お前今凄い気持ち悪い顔してたぞ......」
「気持ち悪いは止めろ。せめてキモいにしろ」
マジでドン引きしている葉山は少し顔が青ざめてもいた。
え、八幡凄いショックなんですけど。
「それ、どっちも同じ意味だろ......」
「馬鹿野郎、大分違うわ。女が言う可愛いと男が言う可愛いくらい違うわ」
女が言う可愛いとは、可愛いって言ってる自分可愛いアピールだからな。
その点、男が言う可愛いはガチな場合が多い。
テレビで見た女子アナやアイドル、モデル。そこまでいかなくともクラスにいるアイドル的人気を誇る女子とかにもそう思っている。
男の可愛いという根本には割りと下心が隠れており、それがあるが故に確証があるのである。
「意味が分からないけど......取り敢えず、その顔は止めておけよ。補導されても知らないぞ」
「それは暗に俺の顔が、犯罪者、強いては犯罪者予備軍に見えるとでも言っているのか?」
もう止めて葉山、八幡のライフはとっくにゼロよ!
いや、分かってるんだよ。深く考え事をしている時の顔はヤバイって、マイナス方面に。
ちなみに小町に言われた。
ヤバイ、死にたくなってきた。
「......悪かった。だからそんな顔するな。通報しないといけなくなる」
マジでこいつは鬼畜野郎だな。
どう考えても楽しんでるだろ。退院したら絶対にやり返すわ。倍返しで。
てか、さっきから俺の眼が熱いのは、涙......?
「っと、もう一つあったんだ。はい、これ」
葉山はそんな俺を無視してバッグからもう一つ茶封筒を出して、渡してきた。
「......これは?」
「......
「すげー開けたくないんだが......」
あのスーパー完璧超人の悪魔から何か贈られるなど、ろくなことがない。
何か悪魔超人みたいで強そうだな。いや、実際滅茶苦茶強いんだけれども。
「......ほう」
出てきたのは、所謂エロ本という奴で、男子高校生なら割りとお世話になっているものではないだろうか。
まあ、最近はネットがあるからそっちを使う場合が多いのだが。
ちなみにMyエロ本がリビングのテーブルの上にあったときは本気で死ぬかと思った。どうやら、部屋の机に起きっぱにしていたのを偶々小町が見つけてしまったらしい。
そして、小町に正座を要求され、顔を真っ赤にして怒ってきた。
小町の説教とお袋の呆れ顔、親父の爆笑顔に囲まれた俺は取り敢えず親父の顔面にハイキックをぶちこんでおいた。
以後一週間程、小町は目を合わせてくれなかった為、俺は死にそうになったが。あ、親父はそのまま死んでおけ。
「......ふーん。姉ものか。確信犯だな」
いや、そんなの分かってるからと視線を配るものの、葉山は頑張れと他人事のように親指を立てこちらを見てきた。それはもう良い笑顔で。
脚が折れてなかったら、蹴りを顔面にかましていたところだった。
「......どことなく、似ている気がするのは気のせいか?」
「気のせいじゃないだろうね。ほら、大分胸も大きいし」
確かにデカい。
どうやら、黒子の位置も同じっぽいな。
確かに本人ではない別人というのは分かるのだが、ここまで似ているものを見つけるのは普通に凄い気がする。一体どんな気持ちで自分に似ている女優さんのエロ本を買ったのだろうか。俺、気になります!
「比企谷、スマホ鳴ってるぞ」
スマホのバイブレーションが震え、テーブルから落ちそうになっているのを見た。
「うわ、本当だ。......小町か?」
何で吃驚してるんだよと、苦笑しながら言う葉山。
仕方ないだろう、俺のスマホには家族と葉山(遺憾ながら)と________あ"。
「おめでとう、比企谷。早速ラブコールじゃないか。いやぁ、羨ましいなぁ」
全く羨ましくなさそうな、そんな表情で葉山は肩を叩いてくる。止めろ、触るな、気持ち悪い。
異性からのボディタッチは勘違いの素だが、同性のボディタッチなんて不快感の塊でしかないんだが。
逆に勘違いされるだろ、その手の人に。
「......出るかぁ」
「ああ、そうしとけ」
深い溜め息を吐きながら、俺はスマホをスライドした。
「......もしも」
『ひゃっはろー! 八幡君!』
あぁ、電話を切りたい。今すぐに切りたい。
てか、言い切ってないよね俺。せめて、もしもしくらいちゃんと言わせてくれよ。
話そうとして遮られるとか俺にとって普通のことなんだから、せめて電話くらい良くないですかねぇ。
人生って厳しいなぁ!
「......何なんすか。今、あんたの家の車に轢かれて脚バッキバッキなんですよねー。マジでグラップラーなんすけど」
『うーん......それに関しては本当ごめんね。お姉さんを八幡君の好きにしていいよ?』
甘ったるいその声色はMAXコーヒーを連想させた。超美味いよねMAXコーヒー。家に箱で置いてるもん。
電話での会話もあるのか、耳許で囁かれてるみたいでゾクゾクした。
俺からしてみたら耳許は弱点特攻だぞ?八幡顔特攻でもあったりする。
まあ、嘘なんだが。
「......俺って、恥じらいが大事だと思ってるんですよね」
『でも、私八幡君にしか、こういうことしたくないよ?』
こういう貴方だけとかいう特別扱いは止めて欲しい。破壊力抜群だから。男はそういうのに弱いんだから。絶対に勘違いしちゃうでしょうが。
そして、そのまま告白して振られちゃうまである。
「結構ですよ。俺、彼女居ますし________」
『________誰? その女』
今度は別の意味でゾクゾクとしてしまう。
絶対零度、アブソリュートゼロ。エターナルフォースブリザード、お前は死ぬ的な。
てか、この人どっからそんな声出してんの? 喉から? 腹から?
完全に大紅蓮地獄の底からだったんだけど。
「ちょっと、冗談ですって。お茶目や八幡ジョークですよ」
「だよねー。八幡君に彼女なんて居るわけないよねー。良かったー。______ずに済んで......」
ちょっと、居るわけないよねとか酷くないですか。
俺だって一回だけ彼女が居たときがあるんですよ。結構可愛い子だったんですよ。結局、別れたけども!
てか、ボソッと何を言ったんだろうか、この人は。怖くてそんなこと聞けないが。
「取り敢えず、そんな気ないですから。陽乃さん」
『もぉ、つれないなぁ。八幡君は』
そう言って、彼女______雪ノ下陽乃さんは電話の向こう側でプンプンと言っている。
あざといんだよ。
あと、後にそんなあざと可愛い後輩が出てきそうな気がしてならない。俺の勘が告げている。
こんなこと考えるって、俺末期症状じゃないか。早く病院に行かなきゃって、ここ病院だったー。やだもー。
「で、何すか? 葉山にエロ本なんて持ってこさせて。超嬉しいんですけど」
『それなら良かった~。頑張って選んだんだよ。私に似てるの探すの大変だったんだから大事に使ってね?』
ええ、大事にしますとも。
小町にはバレないように妹ものの中に紛れ込ませておかないとな。
......いや、ガチでキモいな、俺。超死にたい。
仕方ないだろ! 小町のことになると、自分が抑えられなくなるんだよ......!
「エロ本は良いんですよ。別に。本題ですよ本題。Why did you have to call?」
『何で英語? まあ、いいや。ねえねえ、八幡君。実はね_______』
始まったのは、大したことのない近況トーク。
周りにいる人間達が使えないだとか、鬱陶しいだとか、そういう話題だ。
愚痴なんて聞き慣れているので別に構わないんだが。でも、俺病人なんですけどね。
まあ、
退院するまでのこの細やかな
彼らが青春を謳歌するように。
まだそういう描写は少ないですね......